買収とは、ある企業が他社から事業の一部や会社を丸ごと買うM&Aの手法の1つです。買収を行うことで、新規事業の立ち上げや既存事業の強化が迅速に進み、時間や資源の節約にもつながります。
買収と間違えやすいM&Aとの違いや、そのメリットや注意点についてもわかりやすく解説します。
企業買収とは?意味を分かりやすく解説
買収とは、他社の事業の一部や会社を丸ごと買うM&Aの手法の1つです。
一部の事業のみを買収する場合は「事業買収」と呼ばれ、会社ごと買収する場合は「企業買収」と呼ばれます。買収の目的は多岐にわたりますが、新規事業を立ち上げる場合や既存事業の拡大を狙って実施する場合が多くみられます。
既に実績がある事業を買うことで、時間や資源(人・資材・ノウハウなど)の節約にもつながり、多角化やリスク軽減にもつながることが特徴です。
買収の目的
買収を検討する際には、どのような理由や目的があるのでしょうか。
買収しようとする買い手側の理由や目的を知ることで、売り手側もより有利に交渉を進める準備が可能です。ここでは買収の目的として考えられる、以下の4つについて詳しく説明します。
経営資源の獲得
買収の一番の目的である経営資源の獲得とは、時間を買うと言い換えることもできます。
社内で新たに新規事業を立ち上げ、人を雇用し、広告を出し、シェアを広げていくことはお金も人的リソースも時間もかかります。しかし、他社ですでに運営している事業を買うことで、機械や設備・人材・ノウハウ・許認可など経営資源を一度に取得でき、圧倒的な時間の節約が可能です。
これらの経営資源は、事業拡大や新規事業の立ち上げには必要不可欠なものである一方で、事業を軌道に乗せるまでには時間がかかります。
そのため買収では、買い手側が事業拡大する際の時間短縮が主な目的です。
多角化によるリスクヘッジ
経営の多角化を検討する際に、本業とは関係のない分野の事業を立ち上げる場合には、買収を用います。多角化を行うことで、1つの事業の収益が低下しても別の事業の収益を獲得し、リスクを減らすことができます。
社内にノウハウのない分野に参入を検討する場合は、買収という手法を用いてすでに確立されている事業を買うことで、失敗を避けられるのもポイントです。
組織再編の効率化
組織再編とは、グループ企業間での事業の統合や一部の会社を子会社化することで、競争力の強化やグループ管理の効率化を図ることです。
また、コスト削減・技術の継承・事業拡大を目指す場合もあります。この場合の買収方法としては株式交換や株式移転、会社分割などの手法が用いられます。
法人税の節税
会社を買収することで、その会社の繰越欠損金(赤字)も引き継ぐことが可能です。繰越欠損金は所得と含めて計算できるため、利益分が減り法人税の節税になります。
しかし、全ての場合において節税効果が得られるのではなく、法人税法の一定の要件に該当すると繰越欠損金を使えないように制限される場合があります。
合併やM&A、子会社化との違い
企業買収・合併・M&A・子会社化など、ある会社が他の会社と一緒になる方法は様々です。ここでは、企業買収と合併、M&A、子会社では何が異なるのかについて解説していきます。
合併との違い
買収(Acquisition)と合併(Merger)は、両者とも企業が他の企業と一緒になる方法を指します。しかし、そのプロセスと結果には重要な違いがあります。
買収は、一つの企業が別の企業を完全に所有することで、その経営権を取得します。買収は通常、一方の企業(買収企業)が他方の企業(被買収企業)の株式を購入して行われ、被買収企業は買収企業の一部となります。買収後も、両者の企業が独立して存在し続けることもありますが、一方が他方に吸収されることもあるでしょう。
一方、合併は、二つ以上の企業が一つの新たな企業を形成するために組み合わさることを指します。合併は通常、それぞれの企業が等しく参加し、新しい組織の形成に対して一定のコントロールを持つことです。合併により、元の企業は法的には存在しなくなり、新たに形成された企業がその資産、債務、業務を引き継ぎます。
M&Aとの違い
M&A(Mergers & Acquisitions)は、「合併(Mergers)」と「買収( Acquisitions)」の頭文字を取った言葉であり、企業が統合されたり、取得されたりするプロセスを総称するものです。つまり、M&Aは買収を含むより広範な概念であり、企業が他の企業と合併したり、他の企業を買収したりする行為全体を指します。
一方で、「買収」はM&Aの一部で、ある企業が他の企業の経営権を取得する行為を特に指します。買収は、通常、ある企業(買収者)が他の企業(被買収者)の株式の過半数またはそれ以上を購入し、経営権を取得することにより行われます。
したがって、買収はM&Aの一部であり、M&Aという概念自体は、買収だけでなく合併をも含むより広範な活動を指します。
子会社化との違い
子会社化とは、一つの企業が他の企業の経営権(株式)を取得し、その経営に影響を及ぼすことができる状態を作り出すプロセスを言います。これは通常、企業が他方の会社の株式の過半数以上を保有することで達成されます。子会社化に成功すると、株主総会において財務・営業・事業方針について決定する権限を有することになります。
買収は会社を取得する方法であるのに対して、子会社化するということは株式を買う以外に増資をしたり、株式分割を行ったりすることも含みます。
企業買収は敵対的買収と友好的買収に分けられる
企業を買収する行為は、大きく敵対的買収と友好的買収に分けられます。以下では、それぞれの行為について詳しく解説していきます。
敵対的買収
敵対的買収(Hostile takeover)とは、一つの企業が、他の企業の経営陣の意向に反してその企業の株式の過半数または支配的な割合となる程度の株式を買い上げ、経営権を奪おうとする行為のことを言います。広義には、買収対象となる企業の経営陣が反対しているにもかかわらず行われる買収は、すべて敵対的買収と呼ばれます。
敵対的買収の具体的な方法としては主に以下のようなものがあります。
● 公開買付け(Tender Offer)
公開買付けは、株主に直接提案を行って、市場価格以上の価格で株式を買い上げることで、支配的な株式を取得しようとする手法です。公開買付けを行う企業は通常、その対象となる企業の株主に対して、一定の期間内に特定の価格で株式を売るよう提案します。
● プロキシファイト(Proxy Fight)
プロキシファイトとは、株主の投票権を利用して経営陣を交代させ、経営権を奪う手法です。株主総会での決議を通じて経営陣の構成を変え、自分たちが望む方針を推進します。
● クリープ・アップ(Creeping Tender Offer)
クリープアップとは、買収企業が公開市場で少しずつ株式を買い集め、20%などの重要な株式所有割合に到達した時点で公開買付けを宣言する手法です。一度に大量に株式を買うのではなく、時間をかけて少しずつ買い集めることで、価格の上昇を抑えることができます。
それぞれの敵対的買収手法は、適用する状況や目的によって異なるのが普通です。それぞれに対しては買収防衛策が存在し、これらを通じて経営陣は企業の自立性を保つための戦略を立てられます。
友好的買収
友好的買収(Friendly takeover)とは、ある企業が他の企業を買収する際に、買収対象となる企業の経営陣が買収を承認し、積極的に協力する形で行われる買収のことを言います。敵対的買収が対象企業の経営陣の反対を押し切って行われるのに対して、友好的買収は両者の合意の上で行われます。
友好的買収では、買収を行う企業(買収者)と対象となる企業(被買収者)の間で、買収の条項や条件について交渉が行われます。交渉の結果、買収価格や経営陣の扱い、企業の将来の方針などについて合意が得られれば、その後正式な買収が行われます。
友好的買収は、被買収企業の経営陣や株主にとって、企業価値の最大化や経営方針の継続性を保つことが可能であるため、一般的には好ましい形の買収とされています。
また、買収者にとっても、経営の安定性を保つことができる点や、企業文化の衝突を避けることができる点など、友好的買収には様々な利点があります。
企業を買収することのメリット
企業を買収することには、買い手企業にとって以下のようにさまざまなメリットがあります。買収では、売り手企業の経営資源を活かして、競争力や生産体制を強化したり、シナジー効果を期待できたりするのです。
ここでは、企業を買収する5つのメリットについて解説します。
資産・ノウハウ・販路の獲得により短期間で競争力を強化できる
買収によって、売り手企業の資産・ノウハウ・販路といったさまざまな経営資源を獲得できます。ある程度形になっている経営資源を手に入れられるため、自社でゼロから事業を進めるよりも、短期間で競争力を強化できるのです。
自社になかった人材や技術、ノウハウを迅速に手に入れられ、市場規模の拡大や国際競争力の強化につながるのは大きなメリットと言えます。
コスト削減につながる
買収によって事業を拡大させることで、大量発注により原材料を安く購入可能です。また、優秀な人材が確保できれば、生産体制の強化によるコスト削減も期待できます。このように、買収によってコスト削減につながる可能性があるのです。
買収による生産体制の強化は、多様化する消費者ニーズに迅速な対応をするためにも役立ちます。
シナジー効果が実現する
買収によって、自社が今まで取り組んでいなかった事業を手に入れることで、経営の多角化やシナジー効果を実現できます。
買収によって多角化し、売上の柱となる事業が複数あれば、主要事業が立ち行かなくなった場合のリスクヘッジにつながるでしょう。多角化により、売上シナジーやコストシナジーなど、買収によってプラスアルファの利益が生まれる可能性もあります。
既存事業をスケールアップさせる
買収を行うことで既存事業をスケールアップすることが可能です。既存事業と関連性のある企業を買収することで、市場シェアを迅速に増やすことができます。これにより、企業はその業界での地位を強化し、競争力を向上させられます。
さらに、買収により、生産や販売などの規模を大きくすることができ、それにより製品単位あたりのコストを下げることが可能です。これは規模の経済と呼ばれ、企業の利益性を向上させる重要な要素です。
加えて、買収を通じて、既存事業に対する新しい技術や専門知識を迅速に取得することができます。これにより、製品やサービスの質を向上させたり、新たな市場に進出したりすることが可能です。買収を行えば、製品ラインの拡張、生産能力の増強、販売網の強化などによるシナジー効果を期待ができます。
これらの効果は、企業全体としての効率性や競争力を高め、結果的には利益の向上につながります。
新規参入できる
自社が参入していない分野の企業を買収対象とすれば、新しい事業分野への迅速な参入が実現できます。企業が新たな市場への参入を考えるとき、自社で新規事業を立ち上げることも一つの選択肢です。しかし、それには時間とリソースが大量に必要となります。
新規事業をゼロから立ち上げると、製品開発、市場調査、営業チャネルの構築、ブランド認知の向上など、多大な時間と労力が必要です。一方、既にその市場で活動している企業を買収することで、これらのプロセスを大幅に短縮することが可能となります。
また、買収によって、すでに確立されたブランドと既存の顧客ベースを引き継ぐことができます。これにより、新規参入市場での認知度を高め、事業の成長を加速することが可能です。
加えて、買収を行えば、新規参入市場に関する深い知識を持った経験豊富な人材を獲得できます。これにより、市場の理解を深め、事業の展開をスムーズに進めることが可能です。
以上のように、迅速な新規参入のための買収は、時間とコストを節約し、新市場での成功を確実にするための効果的な手段となります。
企業を買収することのデメリット
一方、買収には以下のようなデメリットがあります。
買収に失敗してしまうリスクもあるため、注意が必要です。良い面ばかりではなく悪い面にも目を向け、想定されるリスクや対応策を慎重に検討したうえで、買収を実行しましょう。
ここでは、企業を買収する3つのデメリットについて解説します。
簿外債務や偶発債務を引き継ぐ恐れがある
会社全てを買収する際には簿外債務に気を付けましょう。簿外債務は、貸借対照表にはない債務のことを指し、具体的には未払い賃金(残業代など)・賞与・退職金などがあげられます。
また、今後債務となるリスクがある「偶発債務」と呼ばれる債務もあり、具体的には訴訟により損害賠償を支払うリスクなどです。
簿外債務や偶発債務から発生する金額が多ければ多いほど、事業がスムーズに進まず買収の効果が薄れてしまう場合も考えられます。そうならないためにも買収前のデューデリジェンスを徹底的に行い、どの程度のリスクがあるのか理解した上で買収に臨みましょう。
PMIの負担が大きい
PMIとは「Post Merger Integration」の略で、買収が成立した後に、売り手側と買い手側の経営を統合する作業のことです。
新管理体制・経理・財務・人員配置・経営ビジョン実現のための計画・ITシステム統合など、あらゆる項目を買い手側の方針に合わせるため時間と手間がかかります。
しかし、リスクの最小化と成果の最大化を目指すためには必要な作業であるため、必ず行いましょう。
従業員の離職を引き起こす危険性がある
買収は、従業員にとっては労働環境が大きく変わる出来事です。経営方針が突然変更になったり、企業風土が変わったりすると、それに反発した従業員が離職してしまうリスクもあります。
経営陣が納得していても、現場の従業員が買収を受け入れるとは限りません。優秀な人材が流出してしまう可能性もあるため、買収後の動きが重要です。
買収後に従業員から不満を抱かれないようにするためには、買収の背景や今後の経営方針など、従業員に納得してもらえるように丁寧に説明する必要があります。
企業買収における費用の目安
ここでは、企業買収における費用の目安について解説します。企業を買収する際は、買収価格のほか、仲介会社に支払う仲介手数料、デューデリジェンスにかかる費用が必要です。
買収価格は、買収の規模や、売り手企業が保有している価値によって異なります。また、仲介手数料の費用体系は会社によって異なるため、相談時に必ず確認しましょう。
企業買収の相場価格
企業買収の相場価格は、買収の規模や目に見えない価値などによって異なります。
小規模な会社や個人事業の会社を買収するスモールM&Aの場合、相場は数百万円〜1億円です。中小企業を買収する場合は数千万円〜100億円、大企業同士のM&Aの場合は10億円以上が相場となります。事業買収の際は、さらに価格が低くなるケースが多いです。
買収価格は、貸借対照表には現れない目に見えない価値によっても異なります。以下のようなポイントは、企業の買収価値を左右するため理解しておきましょう。
企業買収にかかる費用の種類
企業買収には、主に以下のような費用がかかります。
仲介手数料は、M&A仲介会社(専門家)に依頼して買収を進める際に必要な費用です。報酬体系は費用によって異なり、はじめの契約締結時に着手金を支払う必要がある企業や、買収が成立した際のみ報酬を支払う完全成功報酬型を採用している企業もあります。
デューデリジェンス費用とは、デューデリジェンスの際に専門家に支払う費用です。デューデリジェンスでは、法務・税務・財務・人事など、さまざまな内容を細かくチェックします。調査内容によっては、多額の費用が発生する可能性もあるため、デューデリジェンス費用を考慮することが欠かせません。
費用がかかるからといってデューデリジェンスを怠ると、買収後に簿外債務が見つかったり、思わぬトラブルにつながったりするリスクがあります。デューデリジェンスは必ず実施しましょう。
買収費用の計算方法
買収価格を決めるためには、売り手企業の価値を評価する必要があります。企業価値を算定する方法は、主に以下の3つです。
時価純資産法は、売り手企業の資産を時価で評価し、そこから負債の時価総額を差し引いた金額、つまり時価純資産を用いる方法です。資産には、有形資産だけでなく無形資産も含まれます。中小企業のM&Aでよく用いられる評価方法です。
類似会社比較法は、買収先企業と規模が似ていて業種が同じ上場企業を選定し、その企業の株価をもとに企業価値を算定する方法です。客観性のある評価は行えますが、類似企業を見つけられない場合は使用できません。
DCF(Discount Cash Flow)法は、売り手企業の事業計画をもとに将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値評価額を算定する方法です。将来の収益力をふまえて評価できるというメリットがあります。
企業を買収する際の手続きの流れ
買収は主に以下の8つのプロセスに沿って進められます。
【買収のプロセス】
①買収目的の明確化
②M&A仲介会社との契約。プラットフォームへの登録
③買収相手の選定
④トップ面談・条件面の交渉
⑤基本合意書の締結
⑥デューデリジェンスの実施
⑦最終的な契約の締結
⑧最終契約書の作成・クロージング
ここでは、M&A仲介会社のプラットフォームやアドバイザーを活用して企業を買収する際の手続きの流れをご紹介します。
①買収の目的の明確化
M&Aにおける買収は目的達成の手段でしかなく、何のために買収を実行するのか明確にしておく必要があります。目的や戦略を明確化しておくことで、どういった企業を買収したいのか具体的に狙いが絞りやすくなるメリットもあります。
買収に失敗し費やした時間や労力を無駄にしないためにも、M&Aの目的と戦略を明確にし良い結果に結びつけましょう。
②M&A仲介会社との契約、プラットフォームへの登録
実際に買収を実行するにあたり、会計・税務・法務などの専門的な知識が必要となります。
買い手側の経営陣や従業員だけでは、通常業務をこなしながらの買収を実行することは困難です。また数ある会社の中から、自社の求める買収先を見つけることも容易ではありません。
そこで、一般的にはM&Aのプラットフォームに登録、もしくはM&Aアドバイザーと契約を結び、専門家と共に買収先の選定・交渉・契約の締結へと進んでいきます。
しかし、M&Aのプラットフォームやアドバイザーごとに得意分野や専門領域が異なるため、選ぶ際には注意しましょう。売り手や買い手側の手数料・買収に必要な期間・サポート体制が整っているかも、注意したいポイントです。
③買収相手の選定
M&Aの目的や戦略が明確化し、M&Aのプラットフォームやアドバイザーとの登録や契約が完了したら、次は具体的にどういった会社を買収するかの対象の選定に入ります。
買収先の選定には、「①買い手側が積極的に選定する」「②売り手側やプラットフォーム側から持ち込まれる案件」によって選定の仕方が異なります。
買い手側が積極的に選定する場合は、対象業種・エリア・規模・買収予想額など、対象となる会社のロングリストを作成します。その後、事業規模や買い手側の求める条件をもとに選定を進めていき、5〜8社程度に候補をまとめたショートリスト作成をすすめていきましょう。
ショートリストの中から、買収が成功する可能性や得られるシナジー効果(相乗効果)を考慮して、優先順位をつけ選定を進めます。売り手側やプラットフォーム側から持ち込まれる案件の場合は、ノンネームシートを確認する作業から始めます。
ノンネームシートとは、会社の業種・事業規模・売却の理由が会社名を特定できない範囲で書かれた資料です。この中から興味を惹かれた会社があれば、その後に開示される情報を漏洩させないと約束する「秘密保持契約」を結びます。
その後に売却会社の情報が詳細に記載された資料であるIM(インフォメーション・メモランダム)が開示され、その情報をもとに次のステップに進むかどうか決定します。
④トップ面談・条件面の交渉
買収先の候補が見つかったら、売り手側会社との話し合いの前に簡易バリュエーションを実施します。
バリュエーションとは、事業の収益性や資産または負債の価値など、対象企業本来の企業価値を算出することです。買い手側の簡易バリュエーション実施後、売り手側と買い手側のトップ面談が開始されます。
このトップ面談では、買収の条件交渉ではなく、お互いの企業の経営理念や業務内容などの共有を目的として実施されます。トップ面談が終わると、簡易バリュエーションをもとにした価格交渉など具体的な交渉に入ります。
売り手側は、想定している売却金額・従業員の処遇・買収スキームなどを提案し、買い手側は価格交渉や今後のスケジュールなどについて話し合います。この際に売り手側と買い手側は利害が対立する場合が多く、どちらかの意見が一方的に通ることは多くありません。
そのため、交渉の前にはどこまで妥協できるのか、譲れない点はどこなのかをアドバイザーなどと話し合っておくことをおすすめします。
M&Aのプラットフォームやアドバイザーを利用すると、面談の設定・直接話しづらい条件の事前打診・煩雑な作業・条件のすり合わせを進めてくれるため、スムーズな条件交渉につながります。
⑤基本合意書の締結
条件交渉の中でおおむね合意が得られた場合は、基本的な合意内容を文書にまとめて双方が捺印します。この基本合意書には、買収のスケジュール・守秘義務・独占交渉権・法的拘束力が明記されます。
買い手側にとって重要なポイントは「独占交渉権」で、売り手側が他の買い手側と交渉を進めることを禁止する権利です。この独占交渉権を得ることで、他のより良い条件を提示する企業から交渉の邪魔が入るリスクを減らせます。
基本合意書の作成は必ず必要ではありませんが、買収をスムーズに進めるためには作成することをおすすめします。
⑥デューデリジェンスの実施
基本合意書を締結した後は、売り手企業に対してデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは、今まで入手した情報との乖離・隠れたリスクの把握・対策の立案・シナジー効果の想定を分析するために売り手側の詳細調査をすることです。
デューデリジェンスが必要な分野は、財務・法務・ビジネス・税務・ITなど幅広く、専門分野も必要なためファイナンシャルアドバイザリー(FAS)会社に依頼します。
デューデリジェンスを実施することにより、後から多額の簿外債務の発覚や偶発債務の発見などリスクを回避可能です。
⑦最終的な契約の締結
デューデリジェンスの結果判明した事実やリスクを元に、基本合意書で合意した条件を再度検討し、正式に買収価格やその他の条件について決定します。
売り手側と買い手側の双方が条件面で合意し、最終契約書(株式譲渡契約なども含む)を締結します。この最終契約書には、買収価格・表明保証・解除条項などが明記されます。
⑧最終契約書の作成・クロージング
最終契約書の段階では決済関係の手続きについては一緒に行われず、契約内容に書かれた代金の決済や各種資産の受け渡し、会社代表印の引き渡しを終えてクロージングとなります。
またクロージングで行われる作業については、スキームによっても異なるため注意が必要です。
企業買収の手法
買収の手法には、株式を取得する「株式譲渡」「株式交換・株式移転」「第三者割当増資」と、事業を取得する「事業譲渡」「会社分割」があります。それぞれの手法によりメリットやデメリットなどもあるため、自分の買収目的に応じて最適な手法を用いてください。
ここでは、企業買収の5つの手法について、それぞれの特徴や注意したいポイントを解説します。
企業の「株式」を買収する手法
企業の「株式」を買収する方法は、以下の3つに分かれます。
株式を買収することで、経営権を取得できます。また、経営再建が必要な売り手企業については、第三者割当増資を実施して、売り手企業が資金を調達するケースも見られます。
ここでは、株式を買収する3つの方法について解説します。
a.株式譲渡
株式譲渡とは売り手側が持つ株式を売却し、買い手側が株式を買い取ることで経営権を取得することです。株主総会での承認や債権者保護が不要で、比較的簡単な手続きで行えます。一般的に株主が変わる以外に、大きな変化はなく会社の事業や法人格も存続し続けるのが特徴です。
しかし会社全部を引き継ぐため、簿外債務や偶発債務などのリスクや、買い手側にとって不要な事業も引き継ぐ場合もあります。
このようなリスクを回避するためにも、買収前のデューデリジェンス(詳細調査)の実施が欠かせません。
b.株式交換・株式移転
株式交換とは、全ての発行済み株式を他の会社に取得させ、完全子会社化する手法です。株式交換においては、子会社にする予定の株式を取得する対価として買い手側企業の株式を「交換」します。
また、株式移転は子会社になる予定の会社の全ての株式を、新しく作った会社に取得させ子会社化させる手法です。どちらの方法を用いても資金を必要としないメリットがありますが、株主総会による特別決議が必要というデメリットもあります。
しかし、買収後も売り手側の法人格は存続するため、事業運営はスムーズに進められます。
c.第三者割当増資
第三者割当増資とは、ある特定の第三者に新しく発行する株式を有償で引き取ってもらう代わりに資金を調達する手法です。
一般的に経営再建を目指す企業の買収・資本提携・関連会社化を目的としたM&Aの手法に用いられます。すでに発行されている株式を取得するわけではないため、100%の株式は取得できません。
公開会社(株式の譲渡制限がない会社)が買収対象の場合には、第三者割当増資をするには取締役会の決議があれば実施できるため、株主からの同意を得ずに買収を進めることも可能です。
企業の「事業」を買収する手法
売り手企業全体ではなく、事業の一部や権利義務の一部を買収したい場合は、企業の「事業」を買収する方法を選びましょう。
事業を買収する手法としては、以下の2つがあります。
1.事業譲渡
事業譲渡は、売り手側の事業の一部または全部を譲渡する買収の手法です。
買収したい事業のみを引き継ぐことが可能なため、事業拡大したい分野や新規参入したい分野などを選択して買収や売却したい場合に行われます。各種契約や資産の移転手続きは個別に進める必要があるため、買収が完了するまでには手間と時間がかかります。
また、許認可・権利・義務については、事業譲渡が終わった後に再取得が必要となるため、長期的に計画を持って進めていかないと、引き継いだ事業がすぐに始められないため注意が必要です。事業譲渡では、売り手側には譲渡損益に対する法人税、買い手側には消費税が課税されます。
2.会社分割
会社分割とは、会社が持つ権利義務の一部または全てを、買い手側が包括的に引き継ぐ買収の手法です。
新しく新設する会社が引き継ぐ場合は新設分割、買い手側の会社が引き継ぐ場合は吸収分割と呼ばれます。よく似ている事業譲渡と会社分割の大きな違いは、権利義務や契約上の地位などを包括的に承継させるかどうかにあります。
買収防衛策
買収防衛策とは、企業が他の企業による敵対的な買収(テイクオーバー)から自身を守るための様々な戦略や手段のことを言います。
敵対的買収とは、企業の経営陣が反対しているにも関わらず、他の企業がその企業の株式を大量に買い集めることにより、経営権を奪おうとする行為のことです。
企業買収を成功させるための5つのポイント
買収が成功した場合は、売り手側や買い手側双方にメリットをもたらしてくれますが、結果的に失敗してしまうケースも少なくありません。
「お金・時間・労力」を無駄にしないためにも、以下の5つのポイントに注意しましょう。
『買収を成功させる5つのポイント』
1.デューデリジェンスを徹底する
2.シナジー効果を見込める会社や事業を買収する
3.規模が大きすぎる会社や事業の買収は極力避ける
4.買収後のPMIを怠らない
5,M&Aの専門家によるサポートを最大限活用する
1.デューデリジェンスを徹底する
買収の流れでも説明しましたが、買収には高値掴み・シナジー効果の過大評価・簿外債務引き継ぎなどのリスクが伴います。
このリスクを少しでも減らすために、買収前のデューデリジェンスを徹底しましょう。デューデリジェンスを実施した際に懸念事項が出てきた場合は、買収価格の調整やリスク解消策の検討や、買収の断念などの判断も必要です。
2.シナジー効果を見込める会社や事業を買収する
買収によって生まれるシナジー効果には、売上の増加・コスト削減・節税・金融コスト削減など、さまざまな効果が期待できます。
そのため、できる限りシナジー効果が見込める会社や事業を買収することで、買収資金を上回るメリットを獲得できるよう慎重に見極めましょう。
3.規模が大きすぎる会社や事業の買収は極力避ける
売り手側の企業規模が大きいほど買収金額が高額になり、買収後に事業がうまくいかない場合には多額の損失が発生する恐れもあります。
また「企業は生き物」とも言われており、売り手側にも買い手側にも別々の仕事のやり方や理念があります。
この2つを統合する場合は従業員同士の関係や人事制度など、売り手側の規模が大きければそれに比例して難易度も高くなります。買収の経験が多くない場合には、自社よりも小さい会社や事業の買収を検討しましょう。
4.買収後のPMIを怠らない
PMIの徹底により経営統合がスムーズに進み、買収後に期待されるシナジー効果を発揮させ、売上増加などのメリットが得られます。
また買収後は従業員間に摩擦が起きる場合もありますが、PMIを慎重に進めることで理解を得られ優秀な人材の離職を防ぐことができます。
5.M&Aの専門家によるサポートを最大限活用する
買収の検討を始める際には、デューデリジェンスやバリュエーションをはじめ、専門的な知識が必要な場面が多くあります。M&Aに興味を持っても何から始めて良いかわからない方は、一度BATONZ(バトンズ)にお気軽にご相談ください。
バトンズは、成約数・登録案件数No.1※のM&A・事業承継支援サービスです。M&Aが成約するまで利用料無料や圧倒的なスピードだけでなく、バトンズの専門スタッフによる安心・安全なサポート体制が整っている点も魅力です。
取り扱っている案件も全国規模に対応しており、業種や企業規模まで幅広く対応しています。
バトンズで買収が成功した事例
ここでは、バトンズがサポートし買収が成功した事例を紹介します。
バトンズでは売り手側も買い手側も両方が満足するマッチングや、M&Aが平均3ヵ月で成約を実現し、最短では1週間で成立した実績もあります。バトンズ専門のスタッフが成約まで無料でサポートしてくれるため、初めての方にも安心して利用できるのも魅力です。
連続買収で本業の規模を拡大した例
親族内承継でお父様から会社を引き継いだ不動産関連の広告事業の経営者が、新しい事業拡大への人材とノウハウ不足解消のためにM&Aを実施。
革製品のバックを扱う企業や、若い女性向けのECファッション企業への新規事業としてのM&Aを終え、本業である不動産広告拡大に向けてバトンズを利用してM&Aの相手を探し始めました。理想の相手を見つけることは難しいと思っていましたが、自社にはない強みを持ちシナジー効果も見込め、「仲間に加わってもらいたい」と強く思える魅力的な企業を紹介されました。お互いに魅力のあるM&Aを実施し、今後はPMIに力を入れ社内の統合作業をされていく予定です。
買収によって事業を多角化し相乗効果を生んだ例
保険会社で財務部門や外資系の資産運用会社に勤務経験がある方が、病気を患い手術で改善されたものの会社に迷惑はかけたくないと退職を決意。
その後のライフステージを考える中で、事業継承や小規模M&Aに興味を持ち自身で会社を設立し、譲り受けた英会話スクールを地域密着型独自ブランドとして展開しています。
さらにバトンズで案件を探し、クラス単位で授業をおこなっている学習塾のM&Aの検討を始めました。
パートナーとなる売り手側の気持ちを大切にし、共に事業を盛り上げていくために即時譲渡ではなく段階的に財務整理を実施しながら、お互いが無理なく引き継げるように専門家の力を借り成約につながりました。
英会話スクールや学習塾など、より良いサービスを地域に還元していくために事業間での相乗効果が見込めるM&Aを引き続き検討していく予定です。
まとめ
事業拡大や新規事業の立ち上げする際「買収」は、目標達成のための有用な手段です。
しかし買収には、煩雑な手続きや簿外債務の発覚などのリスクもあるため、買収前のデューデリジェンスの実施やPMIの徹底などが重要です。
バトンズは、成約するまで無料で利用できることや、専門スタッフのサポート体制が整っているためM&A成約までの圧倒的なスピード感が魅力です。売り手側も買い手側もどちらのサポート体制も整っているため、M&Aに興味のある方はお気軽にバトンズまでご相談ください。
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