M&Aに興味をお持ちの方も、これから株式投資を始めようと考えられている方も、企業の財務諸表やその分析指標の用語の多さに苦労されているのではないでしょうか。
今回はその指標の中でも、ROAとROEという二つの指標について、それぞれの意味や違いを説明していきます。
ROAって何の指標?
ROAとは「総資産利益率」を意味する、企業の経営状態を把握するために重要な財務指標です。とくにM&Aを検討している場合には、ROAをはじめとする指標について正しく理解しておく必要があります。
ここでは主要な財務指標として広く活用されているROAの概要や計算方法、指標の見方などを解説します。
ROAとは
ROAは「Return on Assets」の略語で「総資産利益率」を意味します。「アールオーエー」と読むのが一般的です。
ROAの指標を見れば、資産全体に対してその企業がどれだけ利益を生み出しているかがわかります。企業の経営効率を示す指標として用いられており、ROAの数値の高さは利益の創出が効率的におこなわれている証となります。
ROAの計算式と分析方法
ROAの計算式は次のとおりです。
たとえば、以下のような会社があったとします。
総資産 100 |
負債(借入金など) 50 |
純資産 50 |
当期純利益を10とすると、ROAは
となります。
ROAは当期純利益と総資産の割合から算出されるため、単に利益や資産の大きさだけが決定要素となるわけではありません。実際に以下のような場合では、一見当期純利益と総資産が小さく見えるB社のほうがROAの数値が高くなります。
当期純利益 | 総資産 | ROA | |
---|---|---|---|
A社 | 3,000万円 | 6億円 | 5% |
B社 | 3800万円 | 1億円 | 8% |
企業の経営状態を分析する際には、ROAの数値からどれだけ効率的に利益を生み出せているかを必ずチェックするようにしましょう。
「経営者の手腕が良い」「従業員の働きぶりが見事」「材料などを無駄なく使えている」など、ROAが高くなる理由は様々です。M&Aを成功させるためには、ROAを活用して会社の経営状態を客観的に読み解くことが欠かせません。
ROAから分かること
ROAは総資産に対する利益の比率を表した指標であり、「どれだけの資産を使ってどれだけの利益を生み出したか」が分かります。
利益が増えればROAは高くなり、総資産が増えればROAは低くなります。少ない総資産で多くの利益を生む企業がROAの高い企業、つまり経営効率の良い企業と判断されます。
ROAを高くするためには、無駄な資産を極力減らしながら利益率を上げていく必要があり、投入する資産と生み出す利益のバランスをしっかりとコントロールしなければなりません。
このように、ROAは企業の成長戦略の基本指標といえるもので、この指標を経営目標に掲げている企業は、こういった経営課題をしっかりと認識している企業だと判断できます。
理想的なROAの目安は?
ROAの重要性が理解できたところで、M&Aを検討する際に知っておきたいROAの目安について把握しておきましょう。
もちろん、複数の企業を比較する場合は、ROAが高ければ高いほど効率的に利益を創出できている企業だと判断できます。しかし、比較対象なしで企業の経営状況を分析しなければならない状況では、ROAの目安を知っておくことが大切です。
ここからは、優良企業を見極めるROAの数値と注意点を解説します。
優良企業を見極める目安はROA5%以上
一般的に、ROAは5%以上の企業が優良とされ、投資家たちの一つの目安となっています。
しかし5%は企業全体の数値であり、業種別ではありません。ROAは、業種や環境によって若干の違いがあります。
例えば、工場のような大規模な設備投資が必要な業種では、総資産の額が大きくなるので、必然的にROAは低くなります。一方で、そのような設備投資が必要でない業種は、ROAが比較的高くなるため、他業種間でROAを比較し判断することは危険です。
M&Aを前提にしてROAで分析をする際には、同業種の数値と比較することをおすすめします。
ROAを改善する方法とコツ
ROAを上げるためには、以下の2つがあります。
具体的な方法として、以下などが考えられます。
【ROAを上げる具体的な方法】
• 当期純利益を増やすために経費を削減する
• 販売にかかる費用を削減する
• 金融機関からの借入金や、買掛金を返済する
• 不要な不動産を売却する
利益をそのままに不要な資産を減らせることができれば、ROAは上がります。高いROAを維持している会社の特徴としては、「高効率で利益を上げられていること」「不要な資産を保有していないこと」があげられます。
ROAが下がる理由を知る
効率よくどんどん収益を上げられていると上がるのがROAです。
では、ROAが下がるときはどんな時でしょうか?
それは、「費用ばかりがかかって利益が出ていないとき」や、「新事業を立ち上げるために金融機関から資金を借入れて資産が増えたとき」などが考えられます。また、「資金を投入して新技術を開発しているが、まだ利益には繋がっていないとき」などもあります。
「ROAが低い=収益が低い会社(M&Aで見込みがない会社)」とは限りません。たとえROAが低くても、内訳を確認し、その理由を見極めることが必要です。
ROAの分析は流動比率や当座比率と並行しておこなう
ROAが5%以上の会社は、優良企業の一つの基準とされます。しかし、現実の会社には高いROAを出していても、負債に追われる自転車操業の会社も少なくありません。経営が火の車のため、経費を限界まで削減し、高いROAをたたき出している可能性もあります。
そのため、「ROAが高い=優良企業」とは丸のみせず、流動比率や当座比率とともに分析しましょう。
流動比率とは、1年以内に現金化される資産(売掛金や受取手形、短期貸付金)と1年以内に支払い期限がやってくる負債(買掛金や支払手形、短期借入金など)を計算した数字です。
当座比率とは、当座資産と流動負債から企業の支払い能力を計算したものです。
ROAの高さと支払い能力は一致しません。必ず、他の指標も使い分析を行いましょう。
ROAを見る際に注意すべき2つのこと
ROAを見る際には、以下の2点に注意が必要です。
1)借金による先行投資で指標は悪化してしまう
ROAを見る際に注意すべきことは、事業を拡大し利益を増やすため、借金を使って先行投資を実施した企業のROAは、一時的に悪化してしまうということです。
運輸業や大手小売業、レジャー施設など、事業の拡大や刷新のために大きな設備投資が必要な業種の場合、先行投資をすると固定資産が急増します。自前のキャッシュを元手にできれば総資産は増えませんが、借金で資金を調達した分は総資産が増加します。
一方で、設備が順調に稼働し、利益を生み、借金を返済するまでにはどうしてもタイムラグが発生します。先行投資は一時的な総資産の増加と利益の減少の原因となるため、ROAは悪化してしまうのです。
とはいえ、先行投資は将来的にはROAの向上につながる施策ですので、こういった要因で一時的にROAが悪化している企業を、他社と比較して経営効率が悪い(あるいは過去と比較して経営効率が悪くなった)と判断することは正しい分析とは言えません。
貸借対照表の推移から建物や機械装置といった資産の増加額を確認し、多額の設備投資が見られる場合は、投資額を総資産から差し引いたROAを計算してみるなど、その影響度を調べておきましょう。
また、決算報告書には主な事業投資について記載されていることもありますので、投資内容も確認しておきましょう。
2)本業に関係なく上下することがある
ROAは、本業以外の要因で変動することがあります。保有している株や外貨の価値変動によって、本業の業績に関係なく資産価値が変動してしまうことがあるためです。
例えば、企業が保有している株式の株価が上昇した場合、含み益の増加は利益には反映されませんが、資産は増加します。企業が外貨資産を保有している場合も、為替が円安に動くと、円換算した際の資産が増えることになります。
どちらのケ-スでも、ROAの計算における分母が増えるため、ROAは下がります。
所有する不動産や証券の価格が上昇することによって生じる、会計帳簿には現れない利益。
こういった本業以外の要因による指標の変動が大きくなると、過去推移を正しく分析できなくなってしまうので、影響の度合いを把握しておきたいところです。
これを見抜くためには、貸借対照表の推移をチェックします。資本項目の「その他の包括利益」です。大幅に増減している場合は、その増減を総資産から差し引いてROAを計算することで、本業だけで見た経営効率の推移を把握できます。
ROEって何の指標?
ROAと似た指標にROEがあります。ROEもROAと同じく、主要な財務指標として活用されています。
ここでは、その計算方法や意味を説明します。
ROEとは
ROEは、「return on equity」の略称で「アールオーイー」と読みます。自己資本利益率を意味し、株式投資の際に重要視される指標の1つです。
株主から集めた資金(自己資本)をどれだけ効率よく使えているのかを表す指標です。そのため、株式投資の際により重視されます。企業の経営効率を表す指標の一つです。
一方で、株主からのお金の集まりやすさは、M&Aをする上でも重要です。ROEが高い株式銘柄は、投資家に買われやすいという特徴を理解すれば、M&Aの際にも活用できます。
具体的には、株主から集めた資金(自己資本)をどれだけ効率よく使えているのかを表すために用いられます。株主からのお金の集まりやすさを示すROEは、株式投資のみならずM&Aをする上でも重要です。
ROEが高い株式銘柄は、投資家に買われやすいという特徴を理解すれば、M&Aの際にも活用できるでしょう。
ROEの計算式と分析方法
ROEの計算式は次のとおりです。
当期純利益が10、自己資本が100の会社である場合ROEの値は
となります。
ROEの値を確認することで、株主たちが投資した資金で企業がどれだけ効率的に利益を生産できているかがわかります。ROEの値は、当期純利益と自己資本の割合によって変動します。
ROAの分析をする際にもご説明したとおり、当期純利益が高いだけでは経営状態の良し悪しに関して判断が下せない点には注意しましょう。
当期純利益 | 自己資本 | ROE | |
---|---|---|---|
A社 | 3,000万円 | 4億円 | 7.5% |
B社 | 100万円 | 1億円 | 10% |
ROEは当期純利益から計算する基本的な方法のほかにも、次の2つの計算式から求めることができます。
ROEから分かること
自己資本に対する利益の比率を表した指標であり、どれだけの自己資本を使ってどれだけの利益を生み出したか、が分かります。
当期純利益が増えればROEは高くなり、自己資本が増えればROEは低くなります。少ない自己資本で多くの当期純利益を生む企業がROEの高い企業、つまり経営効率の良い企業と判断されます。
自己資本は出資者、つまり株主からの出資を元手にしています。ROEは株主にとって、出したお金がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを表す重要な指標です。
この指標を経営目標に掲げている企業は、株主への還元を意識した経営をしているという点で、投資先として魅力のある企業だと判断できます。
理想的なROEの目安と改善方法
ROEは売上高利益率や総資産回転率、 財務レバレッジが関係する指標であるため、M&Aにおいて企業の評価をする際にも重要な参考材料となります。経済産業省の資料によると、2018年度国内上場企業のROEの平均値は9.4%です。
優良企業を見極める1つの判断基準としてROEを活用しましょう。
優良企業を見極める目安はROE8~10%以上
日本企業のROE平均値が9.4%であることからもわかるように、ROE10%を目標に掲げて企業活動をする場合が多いようです。ROEの値が8~10%以上であれば、優良企業と判断する1つの基準となるでしょう。
ただし、ROEは業界や取り扱う商材などによっても平均値に差がある点には注意しましょう。卸売業や情報通信業などでは平均が高い一方で、飲食サービス業では平均値が下がる傾向があります。
ROEを改善する方法
ROEを改善するには、以下の2つの方法があります。
効率的に利益を生み出せる仕組みを整えたり、不必要な資産・在庫の整理をしたりすることでROEの改善が期待できます。
ROEを見る際に注意すべき2つのこと
ROEを見る際には、以下の2点に注意が必要です。
1)借金を増やせばROEは高くなる
ROEを高くするためには、無理な借金をしてでも事業を拡大し、利益を増やすという方法があります。
借金を増やしても、自己資本は増えません。そして、自己資本を増やさずに利益を増やせばROEは高くなります。つまり、借金を元手にした資産を使って利益を増やすことができれば、ROEが高くなるのです。
これは事業拡大の戦略の一つなので、決して悪い手法ではありません。むしろ、ROE向上のための基本戦略でもあります。しかし、借金は自己資本と違い返済期限が決まっており、また支払利息の費用負担もあります。その借金が企業規模に見合うものかどうか、またその事業が確実に利益に結び付くのかどうか、といった判断は慎重にしなければなりません。
したがって、ROEだけを見るのではなく、貸借対照表の推移から、借金が増え続けていないかを確認することも大切です。借金の増加により自己資本比率が下がると、銀行からの融資条件も悪くなり資金繰りが厳しくなっていきます。
ROEが高くても、自己資本比率が下がり続けている企業は要注意と考えましょう。
2)本業に関係なく上下することがある
ROEも、本業以外の要因で大きく変動することがあります。これは、ROAと同様に保有する株式や外貨資産などの評価額の増減が、ROEの分母である自己資本に反映されてしまうからです。
こういった本業以外の要因による指標の変動が大きくなると、過去推移を正しく分析できなくなってしまうので、注意が必要です。
ROAと同じように貸借対照表の推移から資本項目の「その他の包括利益」を確認し、大幅に増減している場合はこれを自己資本から差し引いてROEを計算し、本業だけで見た経営効率の推移を把握しておきましょう。
ROAとROEの違い
ROAもROEも経営効率を表す指標です。ではその違いについて説明していきます。
ROAとROEの類似点
いずれも経営効率を表す指標で、どちらも分子を当期純利益としています。つまり、収益性を改善して当期純利益を増やせば指標の向上につながる、という点で似た指標といえます。
ROAとROEはどう違う?
ROAは分母が総資産、ROEは分母が自己資本という違いがありますが、これは何を意味しているでしょうか。
ROAは、企業の全ての資産がどれだけの利益につながったかという、企業戦略そのものを表す指標です。そのため、この指標は投資家だけではなく取引先や銀行といったあらゆる利害関係者が注目する指標です。
一方、ROEは自己資本がどれだけ利益に直結したかを表す指標ですので、自己資本の元手である株主(およびその予備軍である投資家)にとって特に関心の高い指標です。投資家は株式投資に限らず、さまざまな投資先の利回りの高さとリスクの大きさを見計らって投資するかどうかを決定します。ROEはそういった投資家の判断基準として重要視される指標となっています。
このように、ROAとROEは指標を見る人によって位置付けや重要度が異なる指標です。
ROAとROEの重要性
有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、投資先にROE15%以上を目安にしているそうです。
【ROAとROEの違い】
・ROA(純資産利益率) 総資産と純利益を比べる
⇨総資産からどれくらい効率よく利益が出ているかがわかる
・ROE(自己資本利益率) 株主の出資金と純利益を比べる
⇨出資金からどれくらい効率よく利益がでているかがわかる
2つの大きな違いは、負債を含めているか、いないかです。たとえ負債がたくさんあっても、それ以上に儲かっている会社はROAが高くなります。逆に、負債がゼロでも利益が少なく、効率が悪ければROAは低くなります。
それでは、実際に指標としてこの二つを使い分ける時はどのように見たら良いのでしょうか。ROAとROEの違いを踏まえて、どのように使い分けるのかを具体的に説明していきます。
優良企業の見極めには「ROA」と「ROE」の両方が必要
ROAとROE、どちらが重要かは「その企業のM&Aを検討している人」と「その企業への株式投資を検討している人」とで違ってきます。しかしながら、どちらかだけを見ておけば良いというものではありません。
企業のM&Aを検討している人にとって、その企業の総合的な経営効率を見るためにROAは最も重要な指標の一つです。それに加えて、株主重視という今の時代の流れの中で、株主の要請にしっかりと対応することはM&A後の重要な経営課題です。ROEは株主や投資家が重視する指標ですので、M&A後の投資家からの関心を高めるために、ROEを意識することも大切です。
一方、投資家はROEを重視して投資効率の高い企業を投資先として探すだけではなく、継続的に利益を生み続ける、強い経営基盤を持つ企業を探す必要があります。そういった意味で、企業の総合的な稼ぐ力を表すROAは、投資家にとっても企業の経営基盤を測る目安となる非常に有意義な指標です。
見る人の立場によって重要度は違いますが、どちらも見ておくべき指標と考えておきましょう。
ROAとROEを使い分けるポイント
いずれの指標も、主に以下のように使われています。
【ROAとROEの指標】
・同業他社と比較し、同業種におけるその企業の位置付けを理解する
・その企業の過去推移を比較し、改善(悪化)傾向とその理由を理解する
・業種別に比較し、業種による特徴や違いを理解する
一方で、ROEは株主の持ち分である自己資本からどれだけの収益を得たのかを測るため、株主にとって重要な指標です。それに対しROAは他人資本を含むすべての経営資源を使っての収益性を測れることから、M&Aなど経営者視点での指標として使われます。
ただし、ROEは資金の集まりやすさの指標になるため、ROEもM&Aにおいて重要な指標になります。
ROAとROEはどちらも重要な財務指標
ROAとROEは、どちらも企業の経営状態を判断するうえで欠かすことのできない数字です。まずはそれぞれの意味と違いを理解することが大切です。
高ければ収益性が高く良い会社、低ければ儲かっていない悪い会社と決めつけることはできません。高いことにも、低いことにも理由があります。
株式投資やM&Aを検討するにあたり、必要なのは正しい判断を下すことです。
そのためにも、ROAとROEに他の指標も組み合わせて検討しましょう。自分がどのような立場でその企業と関わろうとしているのか、それによってどちらの指標を重視すれば良いのかを整理して、しっかりと使い分けをすることが重要です。
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