
▼「オフバランス」(Off-balance)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。会社が保有する資産や負債はすべて貸借対照表(バランスシート)にリストアップされますが、何らかの理由でリストアップされず、「資産」と「負債」のバランスが取れないことがあります。これをオフバランスといいます。企業を買収する際には、オフバランスになっている負債がないか細心の注意を払う必要があるのです。
有名なところでは、あの東芝が米原子力大手ウェスチングハウスの買収で数千億円の損失を被りました
後から見つかると目も当てられない簿外負債
たとえば、引き継ぎ予定の会社が第三者から借金をしているにも関わらず、それがオフバランスになっていたとします。貸借対照表に借入金が計上されていないのはあくまで会社の問題です。正当な借入金であれば会社は借入金を返済しなければなりません。
このように本来は貸借対照表に計上されているべき負債がオフバランスになっているものを「簿外負債」と呼びます。もし、この借入金が最初から貸借対照表に計上されていれば、理論上会社を買い取るときの承継対価額も借入金の分だけ安くなります。
企業を引き継いだ後で簿外負債が発見された場合、本来の価額よりも割高に買ってしまったわけですから、買主が損害を被ることになります。だからこそ、簿外負債の有無については、引き継ぎの条件を検討する過程で慎重に調査しておく必要があります。
なお、借入金のように誰が見ても負債であることが明らかな項目がオフバランスになっているケースは珍しいです。注意を要するのは、見積りが必要な項目や期間に応じて発生している負債がオフバランスになっていないかどうかなのです。
簿外負債にはどのようなものがあるのか?
オフバランスになりやすく、金額的にも多額になりがちな簿外負債としては「退職給付債務」や「役員退職慰労引当金」が挙げられます。
退職給付債務は、将来、従業員が退職した際に支払われる退職一時金や年金のうち、企業が負担すべきものを指します。会計上は将来の支給金額を見積り、それを現在の価値に引き直した額などを負債として計上すべきことになります。
また、役員退職慰労引当金は将来の役員退職金の支給に備えて計上する負債です。従業員を対象とする退職給付債務より対象者は少ないものの、一人ひとりに対する支給額が大きいので多額となりやすいです。
退職給付債務も退職慰労引当金も、仮に会計上で費用および負債として計上しても、税務上は損金にならないため税金が安くなりません。そのため中小企業ではわざわざ計上するメリットが乏しく、簿外負債になりやすいという事情もあります。中には、退職金規程はないものの労使慣行として退職金を支給してきましたというケースもあり、この場合退職給付債務を計上しておく必要がありますので注意が必要です。
その他の簿外負債としては、数ヵ月先に控えているボーナスなどに対する賞与引当金、賃料や通信費などで既に期間が到来しているサービスに対する未払費用、得意先に対する債権が焦げ付いているため本来は認識すべき貸倒引当金、ポイントカードなどにより発生し得る費用などがあります。
簿外負債などのリスクを回避する方法は?
以上のような簿外負債に加え、必ずしも貸借対照表に計上すべきではないものの、将来、会社の負担となり得る「偶発債務」という項目も存在します。
たとえば訴訟の先行きによっては会社が負担するかもしれない「損害賠償義務」や、関係会社の融資に対して保証を行っている場合の「保証債務」などが含まれます。このような偶発債務も引き継いだ会社に存在するリスクといえます。簿外債務とあわせて見つけ出し、評価、検討をしておかなければなりません。
簿外負債や偶発債務のリスクを最小限に抑えるためには、専門家の力を借りたほうがよいでしょう。企業を引き継ぐ際には、公認会計士やファイナンシャルアドバイザーに、こうしたリスクの存在や投資価値を判断するための企業精査(デューデリジェンス)を依頼できます。相応のコストがかかりますが、大きな損失を避けるためと考えれば安いものです。最悪の場合、売主との訴訟問題に発展し売主との関係性を損ねたことで、せっかく引き継いだ従業員や取引先も離れいわゆる「空箱」になってしまう可能性もあるのです。
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