M&Aの価格交渉で重要な簡易株価評価とは?譲渡額を調整するための必須プロセス
2020年11月12日
2020年11月12日
会社や事業を買収する場合に売り手の言い値で買ってしまうと、買い手にとってM&Aは失敗と言わざるを得ません。なぜなら、対象企業を取り巻く環境やM&A実施後に想定されるリスクを検討したうえで「適切な会社・事業の値段」を算出しなければ、買い手は「高値づかみ」をしてしまう可能性があるからです。
買い手側は戦略的に価格交渉を進めるためにも、対象となる適切な投資額を見極める必要があります。正しい簡易株価評価の算定方法について理解しておけば、売り手との希望譲渡額との調整を買い手有利に進めることができます。
今回は簡易株価評価の算定方法、および価格交渉を戦略的に進めるためのポイントについて解説します。その指標のひとつが簡易株価評価です。
簡易株価評価とは、M&Aの対象企業の本来の企業価値を算出し、売り手の譲渡希望額との調整を進めるためのプロセスです。「企業価値評価」や「バリュエーション」とも呼ばれ、希望譲渡額は妥当か、買収すべきか否かといったM&Aの意思決定の判断基準となります。
売り手の譲渡希望額が妥当かどうかを判断するために、まず貸借対照表で「実態純資産」を算定、損益計算書と販管費で「簡易株価評価」を算定します。
全体の流れは、以下のとおりです。
【実態純資産の算定】
1.決算書の確認
2.額の大きな科目のヒアリング
3.実態純資産の算定
【簡易株価評価の算定】
4.営業権(のれん)の試算
5.簡易株価評価額の算定
6.譲渡希望額との調整
各ステップについて詳しく見ていきましょう。
確認すべき決算書はまず「貸借対照表」、そして「損益計算書」と「販管費」です。
まずは対象企業の決算報告書の貸借対照表を確認します。その目的は、純資産に着目して実態純資産を把握することです。貸借対照表上の資産・負債は「簿価」と呼ばれ、必ずしも資産の含み損益や簿外債務等を正確に反映しているとは限りません。そこで、対象企業の簿価資産を時価で引き直し、資産・負債の差額を算出して実態純資産を把握する必要があるのです。
損益計算書の中で着目すべきは「当期純利益金額」、販管費(及び一般管理費)の中で着目すべきは「役員報酬」「減価償却費」です。これらの情報から、ステップ4の「営業権(のれん)の試算」を行います。
実態の純資産を把握するために、貸借対照表の資産の部で額の大きい科目、価値の変動の大きそうな科目に着目してヒアリングします。資産の部で額が大きい科目の代表的な例として、「売掛金」と「建物」のケースで見てきましょう。
【確認すべき事項】
・勘定科目明細の相手先
・法人税申告書別表11(1)
・前期比較(3期比較)
売掛金の勘定科目明細の相手先の中でも金額の大きい先から優先的に、回収不能なものや回収可能性の低いものがないかをヒアリングで確認します。さらに、法人税申告書別表11(1)と時系列比較により、回収不能となっている売掛金を洗い出します。
法人税申告書別表11(1)を確認して、貸倒引当金が個別に設定されている債権が合った場合は、これも全額控除します。時系列の比較として前期比較(3基比較)等により、金額に変動のないものは回収不能となっている可能性が高いです。
【確認すべき事項】
・不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
・減価償却額明細書
対象企業が建物を所有している場合、不動産登記簿謄本を入手して建物の所有権が確かに対象企業かどうかを確認します。さらに、減価償却額明細を入手して、「資産の実在性」と「償却の過不足」を検討します。適正に償却がなされていれば、償却の過不足はないと判断できます。
実態純資産が増えるパターン、減るパターンは以下のとおりです。
| 実態純資産が増える | 簿価資産を時価に引き直したときに資産価値が簿価よりも増えている場合、簿価の負債が減ることになるため、結果的に実態純資産は増える(例:資産に含み益がある) |
| 実態純資産が減る | 簿価資産を時価に引き直したときに資産価値が簿価よりも減ってしまった場合、簿価の負債が増えることになるため、結果的に実態純資産は減る(例:退職給付引当金の引当をしていない) |
たとえば、対象企業の簿価純資産が4,300万円、ステップ2のヒアリングで回収不能の売掛金が100万円、退職給付引当金が700万円あったとします。
売掛金と退職給付引当金を合算した時価修正額800万円が、簿価純資産から差し引かれる(簿価負債が増える)ため、対象企業の実態純資産は4,300万円-800万円=3,500万円となります。
小規模企業の営業権を試算する場合は、年買法(年倍法)が一般的です。
年買法とは、利益に年数(倍数)を乗じたものを営業権とする計算方法であり、「過去の修正後の利益水準がこれからも続く」という前提を置いています。利益に乗じる年数(倍数)は、直近の修正後当期純利益の1~2倍(1~2年)程度です。
さらに、営業権には負の営業権(負のれん)もあることを理解しておきましょう。
修正後の利益(正常収益力)が赤字の場合や、今後の見込み損益が赤字の場合には、純資産からその分がマイナス評価となるケースがあります。正常収益力を把握するための修正項目は以下のとおりです。
・対象企業の退任する役員の役員報酬を標準役員報酬※1に引き直す
・退任する役員に掛けている保険料は控除して考える※2
・退任する役員が多額の接待交際費を使っている場合も控除して考える※2
・減価償却費の過不足額
※1小規模企業では600万円程度と仮定するケースが多い
※2M&A後には生じないと想定される経費
たとえば、当期純利益が230万円の対象企業が帳簿上で黒字にするために、役員報酬を300万円/年に抑えていたとします。これを標準役員報酬600万円/年に引き直して、当期純利益250万円から300万円を差し引くと-70万円となり、対象企業の正常収益力が実質マイナスであったことがわかります。
簡易株価評価額は、実態純資産と負のれんの差額で算定します。先ほどの「負のれん」のケースで、今度は簡易株価評価額を算定してみましょう。
標準役員報酬の引き直しで-70万円の負のれんがあったことから、対象企業にはおおよそ100万円程度の負のれんがあると想定、実態純資産3,500万円と負のれん100万円の差額3,400万円が、対象企業の簡易株価評価となります。
つまり、対象企業の帳簿上の純資産(簿価純資産)は4,300万円であったのに対し、簡易株価評価としては3,400万円程度ということが言えるのです。
譲渡希望額は、「1.簡易株価評価(理論株価、第三者評価)の説明」と「2.買い手の提示株価(マーケット株価、市場株価)と調整」の2段階で行います。
まずは売り手に対して買い手の価格の考え方をしっかり伝え、理解を得る必要があります。
売り手はより高く会社を売りたいため、これまでの利益の蓄積(純資産などの積算価格)で譲渡希望額の妥当性を主張します。
対して買い手はより安く会社を買いたいため、これからの収益(将来収益)で簡易株価評価に基づく提示価格の妥当性を主張する必要があります。
買い手からの提示価格を踏まえ、売り手と調整を行います。交渉のポイントは、「1ヶ月のマッチング状況」と「株価は需要と供給」です。
M&Aアドバイザーは簡易株価評価より譲渡希望額が高い場合、希望額で売り案件登録をしてみて、1ヶ月マッチングの反応がない場合は、希望額を下げるよう助言します。
株価に正解はなく、あくまでM&Aは需要と供給で成り立つため、買い手からの譲受希望額を参考に下げていく必要があります。
簡易株価評価は、M&Aにおいて対象企業を適正な価格で買うためには欠かせない重要なプロセスです。判断基準が何も無いのに「高く売りたい」「安く売りたい」と主張したところで、交渉は堂々巡りに終わってしまいます。交渉を戦略的に、スムーズに進めるためにも、売り手とM&Aアドバイザーと協力して、事前に簡易株価評価を算出するようにしましょう。
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