
M&Aについて調べていると、PMIという用語をよく目にして気になった方も多いのではないでしょうか。実は、PMIがM&A成功の成否の鍵を握っているといっても過言ではありません。
この記事では、PMIの概念はもちろんのこと、具体的な成功事例や失敗事例を紹介します。今後M&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
PMIについて理解しよう
PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)を略した用語です。ここでは、PMIがどのようなものなのかを理解しておきましょう。
PMIとは
PMIを日本語に訳すと、「合併・統合後」という意味になります。ビジネスの場においては、「M&Aの後にその統合効果を最大化する過程」のことを示します。
ここでいう「統合」とは、経営分野に限ったことではなく業務や社内の意識も対象です。これらについては、後ほど詳しく解説します。
PMIの重要性
M&Aによって期待されるのは、売手企業と買手企業双方の相乗効果(シナジー効果)が生まれることです。しかし、プロセスによっては、M&Aを経ても上手くシナジー効果が表れない場合があります。そこで重要となるのが徹底したPMIの策定になります。
PMIの流れ
PMI自体は、M&A後に行われるものです。とはいえ、M&Aを失敗に終わらせないためにも、早い段階でPMIを考えておくことが大切です。
まずは、デューデリジェンスを参考にしてPMIを策定します。デューデリジェンスとは、M&Aを進める際に買収先として相応しい企業かどうかを調査することです。このデューデリジェンスによって対象企業が抱えるリスクや、期待できるシナジー効果をある程度把握することが可能となります。
続いて、M&A後の数ヶ月でPMIをどのように実行していくかを決めていきます。短期的な計画を相手側に提示することにより、たとえ従業員がM&Aに対して不安を抱えていたとしても、それを解消することができるはずです。
PMIは3つの統合に分けて考える
先述したとおり、統合の対象となるものは、主として経営、業務、社内意識の3つです。ここでは、それぞれのポイントについて解説していきます。
経営理念などの「経営統合」
経営統合とは、経営理念や戦略、人事評価制度や意思決定など、マネジメントフレームの統合を意味します。この分野においては、交渉時点の早い段階で双方の役員が直接面談し、どのような経営方針なのかを確認しておかなくてはなりません。この段階でギクシャクしてしまうと、のちに従業員をうまくまとめることができなくなるため、信頼関係を築き上げたうえでお互いに納得のいく統合を心がけてください。
役割分担などの「業務統合」
役割分担や人員配置などに関する部分を統合するのが業務統合です。両社が抱える部署をそのまま残しておくのであれば合併の意味がなく、むしろコスト増加や効率低下につながります。そこで、どの部門が重複しているかを整理したうえで、業務を遂行しやすい体制を整えることが必要です。
仕入先や販売先が重複している場合もあるので、取引先も整理しなくてはなりません。一方、M&Aによって別の会社になったと判断され、取引先側から取引を打ち切られる可能性もあります。そこで、たとえ対象企業の既存取引先であっても、信頼構築から始めることが大切です。
企業風土などの「意識統合」
企業風土や文化を統合するのが意識統合です。数年勤務している従業員であれば、意識せずとも企業風土が身についているので、最初は新しい体制に戸惑いを感じることも多いでしょう。
特に、自社に愛着を持つ従業員は新しい社風に馴染めなかったり、意識改革を図るのが困難だったり、反発があったりします。そこで重要なのは、役員が今後のビジョンを丁寧に伝えることです。手間や時間を必要としますが、個人面談などによって社員一人ひとりに丁寧に接して説明することが有効といえるでしょう。
従業員が新しい企業風土に慣れたとしても、両社の従業員の間に見えない壁ができてしまうことがあります。それを回避するためには、早い段階で研修などによって両社員が顔を合わせる機会を設けることも必要です。
どの分野についても、従来とどこが変わるのかをはっきりさせておかないと従業員を困惑させてしまうことになります。これまでどおりでいいものは何か、何が変わるのかなど具体例を挙げて社内に通達するようにしましょう。
PMIを成功させるコツ
ここからは、PMIを成功させるための3つのコツを紹介していきます。
リーダーシップを発揮する
2つの会社が1つになるとき、最初はどうしてもまとまりに欠けるはずです。そんなときこそ、経営者や役員がしっかりとしたリーダーシップを発揮しなくてはなりません。
曖昧に理想論を語るのではなく、トップが直接株主や従業員に対して「何をどう変えていくのか」、「そのために何が必要か」を言葉にして示すようにしてください。
人材確保や体制整備
効率良く業務を進めるためには、統合によってできた新たな部署に適材適所で人員を配置していかなくてはなりません。しかし、統合後は個々の能力を把握しきれず、判断に迷うことも多いでしょう。まずは新しい部署の長にはその業務に長けた人物を管理職として配置し、人事についての意見を聞くようにしましょう。
PMIマスタープランの作成
M&Aに限らず、何事も骨組みとなる計画がなければ方向性が定まらず、統合の効果を得ることなどできなくなってしまいます。統合後の業務開始日までには、PMIのマスタープランを必ず作成しておきましょう。
なお、マスタープランには戦略やマネジメント、人事体制や業務プロセスといったものを盛り込みます。
PMIの事例
では、実際のPMIはどのように運用されているのでしょうか。ここでは、成功事例と失敗事例を確認していきます。
成功事例
2014年、サントリーはウイスキーの製造販売で知られる米・ビーム社(現ビームサントリー)を買収しました。日本の会社とアメリカの会社、両社の企業風土や伝統とどのように向き合っていくかが大きな課題になったはずです。
サントリーは徹底した効率化を図るのではなく、ビーム社の2つの現地蒸留所を残すことで伝統を守る道を選びました。M&A直後、2015年12月期のサントリー社決算では、ビームサントリー社が前年同期比123%の売上を発表しています。
失敗事例
一方、PMIに失敗したことでM&Aが上手くいかないこともあります。そのひとつが米大手スーパー、ウォルマートによる西友の買収です。
買収以降、西友は低価格で売れ筋商品を揃える戦略を展開しましたが、成功には繋がりませんでした。その後、2020年にウォルマートは西友の持株比率を下げることを発表しています。
このように、今まで良好な関係を築き上げてきた取引先であっても、PMI次第では取引が中止に至り、消費者離れも進んでしまうのです。そのほかにも、組織全体のモチベーションが低下してしまうことや、新たな方針に反発した社員が退職してしまうことも、PMIが上手くいかなかったことによる失敗のひとつといえます。
PMIがM&A後の会社の将来を左右する
M&Aでしっかりとシナジー効果を発揮するには、いかに計画性のあるPMIを策定し、上手く運用していくかが重要です。実際、M&A後のPMIが上手くいかなかったことで、今までの大切な顧客が離れてしまう可能性もあります。
M&Aを検討している経営者は、まずはしっかりと対象とする企業の特徴を把握したうえで戦略を練っていきましょう。PMIこそがM&A後の会社の将来を左右することになります。
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