ビジネスデューデリジェンスは、M&Aの実施において非常に重要な役割を持ちます。
しかし、マーケティングやM&Aについて知見がないと聞き慣れない言葉です。詳しい意味や具体的なやり方について、曖昧にしか理解していない方は多いのではないでしょうか。
今回は「ビジネスデューデリジェンスとは?」という基礎的な部分から、ビジネスデューデリジェンスの具体的な手法をご紹介します。
ビジネスデューデリジェンスの意味とは?
デューデリジェンス(DD)とは、「DUE(当然)」「Diligence(勤勉)」という2つの英単語を組み合わせた言葉です。M&Aの領域では「M&A対象企業の情報を分析・検討・評価し、企業の価値やリスクを洗い出す調査」を意味します。
ビジネスデューデリジェンスは、複数あるデューデリジェンス工程のうち最初に行われるものです。もしもこのビジネスデューデリジェンスが適切に実施できなければ、取引の難航や破談につながるかもしれません。詳細を見ていきましょう。
ビジネスデューデリジェンスの意味と役割
ビジネスデューデリジェンスとは、M&Aの対象企業を調査し、企業価値を算出することを意味します。具体的な役割は、次の4要素を洗い出すことです。
ビジネスデューデリジェンスの役割 | 確認できる事項 |
---|---|
経営判断の客観性の担保 | ・偏った評価になっていないか
・信頼できる情報か |
将来収益の見込み算出 | ・M&Aで本当に収益を挙げられるか
・M&A後の成長の度合いはどれくらいか |
事業に内包するリスクの顕在化 | M&Aした後にトラブルや経営悪化が起こらないか |
事業シナジーの明確化 | 事業同士の相性はどれくらいよいのか |
事業が持つ強みや弱み、将来の可能性、リスクなどを調査した後、「本当にM&Aを実行すべきなのか」「収益を挙げるには」といった、事業計画実施の検討や計画の修正を行います。
知識や経験を持つ買い手自身が評価することもありますが、M&A専門会社や会計事務所などの第三者が行うことも多いです。
ビジネスデューデリジェンスが重要である理由
ビジネスデューデリジェンスの実施は、法律上で義務付けられているわけではありません。しかし、「そもそもM&Aをしてよい結果になるのか?」を客観的にジャッジできるビジネスデューデリジェンスは、M&Aの成否に関わる重要な役割を担います。
重要といえる根拠は次のとおりです。
・客観的な経営状態を把握することで適切なM&Aが行えるから
・隠れた強み・弱みや将来性なども考慮して総合的に判断できるから
・相手側の意見を丸呑みして騙される可能性があるから など
デロイトトーマツコンサルティングが2013年に実施した「M&A経験企業にみるM&A実態調査」でも、次の結果が見られました。
・過去に行ったM&Aが成功基準に達していると答えたのは36%に留まる
・M&Aの目的のほとんどがシェアの拡大やノウハウの獲得など利益の追求である
ビジネスデューデリジェンスが担う役割は大きいといえるでしょう。
ビジネスデューデリジェンスの目的は3つ
ビジネスデューデリジェンスを行う目的は、主に以下の3つです。
・ビジネスモデルの把握
・事業における将来性の把握と修正
・M&Aにおけるバリュエーションの適正性評価
ビジネスデューデリジェンスは、M&A後に想定どおりのシナジーを生み出すためにも、納得のいく金額でM&Aを実行するためにも非常に重要です。
以下では、ビジネスデューデリジェンスの目的について解説します。
目的1.ビジネスモデルの把握
ビジネスデューデリジェンスを行う目的の1つは、買収する企業のビジネスモデルや収益構造を把握することです。
買収する企業の組織体制や事業構造などの内部環境を調査することで、M&A後にどのような経営体制を整備すればスムーズに統合できるか、M&A後も従来の取引先との関係は継続するか、などを理解できます。
また、業界動向や競合企業など、企業を取り巻く外部環境についても理解し、今後の売上に影響を与える要因がないかを分析することが大切です。
目的2.事業における将来性の把握と修正
ビジネスデューデリジェンスは、M&A後の事業の将来性を把握し、取り組むべき課題を明確化するためにも行われます。
M&Aの目的は、シナジーを生み出し、1社ではなし得ない成長を実現することです。M&Aによって期待するシナジーは生じるか、企業価値は向上するかといった将来性を分析し、成功のための課題を事前に明らかにすることで、効果的なM&Aを実行できます。
目的3.M&Aにおけるバリュエーションの適正性評価
ビジネスデューデリジェンスは、当初のバリュエーション、つまり買収金額が適正な金額であるかを評価するためにも重要です。
買収する企業の内部環境や外部環境を分析し、将来性を把握したうえで、バリュエーションが妥当な金額かどうかを検討します。妥当ではないと判断した場合は修正し、その後の交渉に進むことが必要です。
ビジネス以外のデューデリジェンスについて
デューデリジェンスには、ビジネスデューデリジェンス以外にもいくつか種類が存在します。
デューデリジェンスの種類 | 概要 |
---|---|
法務デューデリジェンス(法務DD) | 所有権、許認可、登記関係など法務関係の調査 |
財務デューデリジェンス(財務DD) | 収益性は負債など企業の財務情報の調査 |
税務デューデリジェンス(法務DD) | 法人税などの税務関係の調査 |
ITデューデリジェンス(ITDD) | 管理システム統合などのシステム関係の調査 |
人事デューデリジェンス(環境DD) | 人材やM&A後の待遇などの人事関係の調査 |
企業規模や業種によっては、周囲の自然環境におよぼす影響を分析する「環境デューデリジェンス(環境DD)」や、技術・ブランドなどの知的財産について分析する「知的財産デューデリジェンス(知的財産DD」なども実施します。
ビジネスデューデリジェンスの実務
ここからは、ビジネスデューデリジェンスではどのような実務が行われているかについて、詳細をご紹介します。
・コマーシャルデューデリジェンスによる事業市場分析
・オペレーショナルデューデリジェンスによるリスク分析
コマーシャルデューデリジェンスとは、対象企業および事業を取り巻く市場状況、競争状態、顧客の動向などを調査・分析する工程です。
・対象企業の事業に将来性はあるのか
・対象企業のポジションや持続性はどうか
・顧客ニーズを捉えた商品・サービスを展開しているか など
上記のような市場性の洗い出しを行い、M&A後のリスクやポテンシャルなどを評価します。
企業の市場性や運用成績などの「結果」を見るコマーシャルデューデリジェンスに対し、オペレーショナルデューデリジェンスは、企業の業務フローや生産工程などの「オペレーション・過程」をチェックします。
・既存の戦略や業務フローのままで事業の拡大・縮小は可能か
・製造工程の稼働率や効率性は問題ないか
・追加で設備や人材に投資すべきか
など「どのように事業を動かしていたのか」「統合後に発生する業務上のリスクは何か」まで追求して分析することで、M&A後に業務がスムーズに進むかがわかります。
現場が稼働することを想定したシミュレーションまで行ってこそ、本当の将来性やリスクが見えてくるのです。
ビジネスデューデリジェンスの進め方
ビジネスデューデリジェンスは、具体的にどのように進めるのでしょうか。以下では、進め方を4ステップで解説します。
①資料の開示
②資料の分析
③売り手へのヒアリング
④専門家による調査・分析
各ステップとも、M&Aを成功に導くためには非常に重要です。以下では、ステップごとにやるべきことと注意点を解説しているため、ぜひ参考にしてください。
ステップ1.資料の開示
まずは、M&Aに必要な資料を売り手に開示してもらいます。具体的には、以下のような資料が必要です。
・貸借対照表
・損益計算書
・キャッシュフロー計算書
・中・長期事業計画書
・事業計画の算出根拠
これらの資料をもとに、ビジネスデューデリジェンスで調査すべき項目を洗い出し、優先順位をつけます。
なお、M&Aの交渉を進めるうえで双方は秘密保持契約を締結するため、開示によって売り手企業の情報が漏えいすることがないよう注意が必要です。
ステップ2.資料の分析
売り手企業から資料を収集したら、期待したシナジー効果が生み出されるか、なんらかのリスクはないか、などについて分析します。さまざまな資料をもとに分析する必要があるため、多くの時間がかかる工程です。
この段階でリスクに見落としがあると、M&A後に大きな問題が発覚する可能性はあります。また、買収価格にも大きく影響する要素であるため、慎重な分析が欠かせません。
ステップ3.売り手へのヒアリング
買い手、あるいは買い手の代理人である弁護士などは、売り手にヒアリングを行います。資料だけでは読み取れない、経営者の思いや企業理念といったポイントを確認する重要な工程です。資料の分析によって疑問が生じた場合は、疑問を直接確認します。
売り手の経営層から、直接話を聞ける貴重な機会です。ヒアリング漏れがないよう、事前に質問事項を整理しましょう。
ステップ4.専門家による調査・分析
売り手から収集した資料やヒアリング内容をもとに、外部の専門家と連携しながら、最終的な調査・分析を行います。
ビジネスデューデリジェンスの内容を報告書にまとめ、買い手は報告書の内容をチェックし、M&Aを実行するか最終判断を下さなければなりません。デューデリジェンスで明らかになったリスクは、最終契約の前に売り手に確認し、対応してもらうことが必要です。
ビジネスデューデリジェンスの結果によっては、M&Aの取りやめや契約書の修正といった変更を迫られる可能性もあります。
ビジネスデューデリジェンスでよく使われるフレームワーク
ビジネスデューデリジェンスを実施する際は、既存のフレームワークを用いることが一般的です。まずビジネスデューデリジェンスでは、大きく分けて2つの環境を分析します。
・外部環境分析:自社がコントロールできない外部的要因の分析
・内部環境分析:自社でコントロールできる内部的要因の分析
これらの分析に用いられるフレームワークは、「SWOT分析」が有名です。
「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「脅威(Threat)」の4要素を分析します。
ただしSWOT分析を行うには、まず事業、周囲環境、世間の動向などの客観的事実の整理が必要です。さらに以下のようなフレームワークがよく用いられます。
・外部環境分析:PEST分析、5フォース分析
・内部環境分析:VRIOフレームワーク、バリューチェーンモデル
M&A後のシナジー分析・定量化
M&Aの成功には、事業にシナジー(双方が作用しあって効果や成果を高める)があるかが大きく影響します。M&A後のシナジーについて分析・定量化(数値で表す)ことも、ビジネスデューデリジェンスのひとつです。
・シナジーおよびディスシナジーの発現時期や頻度はどの程度か
・シナジーの定量化のロジックは合理的か
・シナジーを発生させるための条件や投資コストはどんなものか
「M&Aを実行すればお互いにこれだけ利益がある」という部分を洗い出せれば、相手との交渉もスムーズに進むはずです。
ビジネスデューデリジェンスのおすすめ書籍
最後に、ビジネスデューデリジェンスに役立つおすすめの書籍を2冊ご紹介します。
「スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門」は、スモールM&Aに焦点を当て、問題点と強みを抽出する分析手法やヒアリング手法を実践的に解説した1冊です。業種別の論点や失敗例も解説しているため、中小企業のM&Aに役立ちます。
著者 | 寺嶋 直史、齋藤 由紀夫 |
出版社 | 中央経済社 |
ページ数 | 271ページ |
「M&Aを成功に導く ビジネスデューデリジェンスの実務」は、ビジネスデューデリジェンスの進め方や注意点を、ステップごとにわかりやすく解説した本です。チャート集もついているため、ビジネスデューデリジェンスを効率的に進めたい場合に重宝します。
著者 | PwCアドバイザリー合同会社 |
出版社 | 中央経済社 |
ページ数 | 600ページ |
参考:M&Aを成功に導く ビジネスデューデリジェンスの実務(第4版)
ビジネスデューデリジェンスを行う際は、専門家に丸投げするのではなく、論点や注意点を事前に理解しましょう。上記でご紹介した本のほかにも、ビジネスデューデリジェンスに関するさまざまな書籍が発売されているため、ぜひ参考にしてください。
まとめ|バトンズのM&A支援専門家によるビジネスデューデリジェンスで適切なM&Aを!
ビジネスデューデリジェンスは、M&Aの実施において非常に重要な役割を持ちます。正しく企業の価値を分析することで、適切なM&Aが可能です。
しかし、正確に実施するには事業へのあらゆる理解だけでなく、財務や税務、法律などの専門的な知識を持たなければなりません。
もし「M&Aを検討しているけれど、自分1人では難しそう」と感じたときは、ぜひバトンズに登録しているM&A支援専門家への無料相談をご利用ください。
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