1株あたり利益の意味があるEPSを計算すれば、対象企業の成長性を判断できます。参考にする際には、何が理由で数値が上下するのかをあらかじめ理解しておくことが大切です。
本記事では、EPSの計算式や使い方を説明した上で、注意点やその他の重要な指標も紹介します。
EPSとは
EPSとは、“Earnings Per Share”の略で、「1株あたり利益」という意味で使われています。
以下の計算式で求められます。
このとき、当期純利益は税引き後の純利益であること、分母となる発行済株数には自社株が含まれないことに注意が必要です。
EPSが低ければ収益力が低いと判断されます。たとえば、当期の税引き前の純利益が1億円、法人税などの税金の合計が4,000万円、発行済株式数が200万株の企業の場合、
EPS=(1億円-4,000万円)÷ 200万株
=6,000万円 ÷ 200万株
=30円
となり、1株あたりの純利益、つまりEPSは30円となります。
一般的に投資やM&Aを判断する際、売上高や営業利益、純利益など、企業がどれくらいの売上・利益を上げているかは重要な評価基準です。会社単位の利益の大きさは業種や規模、業績等によって日々左右されています。そこで、EPSを用いてより多角的な評価視点を持って、投資やM&Aの判断をすることが可能になります。
EPSは、これから大きく業績を伸ばして株価を上げていく銘柄を探すときに活用できるだけでなく、企業の経営方針、基本方針の指標としても用いられることがあります。
EPSはどう活用すればいいの?
投資やM&Aにおいて、実際にEPSはどのように活用できるのでしょうか?
企業の成長性を判断する
EPSによって1株あたりの純利益がどれくらい出ているかを見ることで、企業の成長度がわかります。
企業が新規事業への参入や事業拡大を行う際には、増資によって資金を調達する場合があります。増資は一般的に、企業が新株を発行することで、事業の元手となる資本金を増大させるものです。
一方、発行済み株式数が増えることで、1株あたりの利益(EPS)が小さくなってしまう「株式の希薄化」が起きる場合もあります。
しかし、短期的にEPSが下がったとしても、増資後に企業が利益を上げることができれば、EPSも上がり、株価も上昇します。このような前向きな増資を実現することができるでしょう。
企業の成長性を判断する際にわかりやすい指標が、EPS成長率です。以下の計算式を用いて当期と前期のEPSを比較します。
例えば、上記式の計算結果がプラスであれば、企業業績が着実に伸びているということです。
PER(株価収益率)を計算する
PER(Price Earnings Ratio)は、株価が割安か割高かを見極めるための株式指標の一つで、「PER(倍)= 株価 ÷ EPS」という計算式によって算出されます。
たとえば、EPSの数値を使って計算したPERが7倍の銘柄があったとして、同業種・同規模の平均PERが12倍であったとすれば、将来的にこの銘柄のPERも12倍まで上昇する可能性があると考えて株価が将来的に下がる可能性を考えることもできます。
株式銘柄の適正な株価を求める
「株価=EPS × PER(倍)」の計算式を用いて、適正な株価を求めることも可能です。日経平均のPERは10~15倍が妥当とされており、たとえばある銘柄のEPSが100円であれば、適正な株価は1,000~1,500円と見ることができます。
これを活用した投資家が、1,000円以下まで下落した株を割安と判断して買い注文を積極的に行い、株価が上昇するケースがあります。逆に1,500円以上まで上昇したら、割高と見て売却される株が増え、株価が下落する可能性があります。
このように、EPSとPERを活用して将来的な株価の予想を立て、株式の売り買いの判断をすることができますし、EPSがわかれば、そこから配当性向を導き出すこともできます。
EPSで配当性向を算出するための計算式は以下の通りです。
配当性向がわかれば、投資判断や企業の財務分析に役立ちます。配当性向がどのような指標なのか、配当性向からわかることについて確認しておきましょう。
配当性向とは
配当性向とは、会社が税引後の利益(当期純利益)のうち、どれだけを配当金の支払いに回したかを表す指標です。つまり、株主に対してどの程度の利益を還元しているかを示しています。
一般的に、30〜40%が配当性向の目安です。また、EPSを用いずに以下の式で配当性向も求められます。
配当性向からわかること
配当性向が高ければ、それだけ株主に対する配当を重視している企業といえます。そのため、特に配当金を気にしている投資家にとって重要な指標といえるでしょう。
ただし、配当性向が低い企業は株主に配慮していないわけではありません。配当しない分の金額を事業拡大の資金に充てて利益向上につながれば、株主にとっても最終的にプラスといえるでしょう。
また、企業の安定性を重視して内部留保を厚くするためにあえて配当性を低くしている企業もあります。
EPSを見る時に注意するポイント
基本的に企業が好調なときはEPSが上昇し、状況が悪化しているときはEPSが下落します。
しかし、EPSの活用方法で見たように、何らかの要因で一時的にEPSが下がっても、その後に企業が利益を上げるとEPSも上昇するため、長期的な伸び率を見ることが重要です。 また、企業側にとっては投資家から資金を募るために、できるだけ良く見せようと努力しているところも把握しておく必要があるでしょう。
EPSはどうしたら上がるのか
前述のように、EPSの計算式は「当期純利益 ÷ 発行済み株式数」で求められます。確固たる経営基盤があり、売上と利益を増加させている企業のEPSは上昇基調となり、株価も上がります。
また、自社株を買う「株式消却」が行われると、市場に出回る株式が減少します。したがってEPSの計算式の分母である発行済株式数が減少し、EPSが上昇することもあり得ます。
EPSはどうしたら下がるのか
企業が増資などで株式数が増加すると、結果的にEPSが小さくなります。ただし、増資で一時的にEPSが下がっても、その後企業が利益を上げることができれば株価も上昇していきます。
株式併合や株式分割によっても上下する
そのほか、株式併合や株式分割もEPSが上下する要因となりえます。株式併合とは、複数の発行済みの株式を1株にまとめることで、株式分割は発行済みの株式を複数に分割することです。
株式併合では、株式の数が減るためEPSは上昇します。その反対に、株式分割では株式数が増えるためEPSは減少します。
EPSやPER以外にも参考になる指標がある
EPSやPER以外にも、BPS、PBR、ROE、ROAといった株式や株価にまつわる指標が存在します。BPSは1株当たり純資産、PBRは株価純資産倍率、ROEは自己資本利益率、ROAは総資産利益率のことです。
さまざまな指標を理解しておけば、企業の安全性や収益性を判断する際の参考になります。各指標を算出するための計算式や、使い方を確認しておきましょう。
BPS(1株当たり純資産)とは
Book-value Per Shareを省略したBPSは、対象企業が1株あたりどれだけの純資産を保有しているか判断するための指標です。以下の計算式で求められます。
前期と比較し、BPSが向上していればそれだけ対象企業の安定性が高くなったということです。BPSは、次に説明するPBRの算出にも役立ちます。
PBR(株価純資産倍率)とは
Price Book-value Ratioを省略したPBRは、1株当たりの純資産に対して株価が割安か、割高かを判断するための指標です。以下の計算式で求められます。
PBRが1を割れば割安、1以上であれば割高といえるでしょう。ただし、長期間1を割っている銘柄もあるため、必ずしもPBRだけで投資のタイミングがわかるわけではありません。
ROE(自己資本利益率)とは
Return On Equityを省略したROEは、自己資本からどれだけの利益を出したのかを判断するための指標です。以下の計算式から求められます。
また、EPSやBPSを用いて以下のように計算することも可能です。
ROEが高ければ高いほど、効率的に利益を出しているといえるでしょう。
ROA(総資産利益率)とは
Return on Assetsを省略したROAは、総資産からどれだけの利益を出したのかを判断するための指標です。以下の計算式から求められます。
ROAでは、自己資本に銀行借入などの負債も含め、いかに効率的に活用して利益を出したのかがわかります。ROEよりもさらに広い視点で、効率性を考えた指標といえるでしょう。
EPSを活用して、優良企業を見分けよう!
EPSを活用すれば、投資する株式銘柄やM&Aで買収する企業が優良かどうかを判断することができます。ただし、現状のEPSを唯一の指標とすることはリスクが伴います。
過去にさかのぼってEPSの推移を見たり、商品やサービスのニーズを見たりして、より多角的な企業分析を行うことが重要です。
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