M&Aなどで2つ以上の企業が組み合わさることで、シナジー効果を期待できます。メリットは、得意先・売上拡大や時間・コストの削減につながることです。
シナジー効果の意味について説明した後で、各種類の特徴やメリットについて詳しく解説します。
シナジー効果とは
シナジー効果とは端的にいうと、相乗効果のことです。2つ以上の企業を組み合わせることで、相乗効果が発揮され、企業価値の向上などが期待できます。
このようなことから、昨今では企業がシナジー効果を期待して、部門の統廃合だけではなく、M&Aなどを行うケースが増えています。
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併と買収のことです。
「シナジー効果」の意味と概要
シナジー効果とは、物、人、事柄など、様々な要素を組み合わせることによって、お互いに作用して生まれる相乗効果のことです。シナジーという言葉は、もともと薬学・生物学・生理学において用いられていた専門用語でしたが、次第にビジネスシーンでも使われるようになりました。
ビジネスシーンでは、財務・製造・販売など複数の職能を適切に組み合わせて発揮させることで生まれるプラスの効果を指します。
一般語としてのシナジーの意味
シナジーは英語では「synergy」と綴ります。相乗作用と訳され、様々な場面で使用されている言葉です。
生理学・生物学におけるシナジーの意味
生理学・生物学におけるシナジーは、複数の筋肉・神経などが共同的に作用して、相乗効果が生まれることを指しています。スポーツで適切に取り入れることができれば、高いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。これを筋シナジーと言う場合もあります。
シナジー効果があるというのはどういうことか
では、ビジネス・経営のシーンでシナジー効果があるとはどういうことでしょうか。
具体的には、複数の職能を適切に組み合わせて以下のことなどが達成されることを指します。
◉取引製品の拡大
◉技術開発ノウハウの発展
◉生産能力の拡大
◉仕入れ値引きの拡大
◉配送会社の集約
シナジー効果は、企業による多角化戦略やM&Aによっても得られます。
多角化戦略は、新規の製品を用いて新規の市場を開拓していく戦略です。経営学者のイゴール・アンゾフは、多角化は「水平型多角化」「垂直型多角化」「集中型多角化」「集成型多角化」に分類できるとしています。
それぞれがどのような意味を持つのか見ていきましょう。
- 水平型多角化:現在の顧客と似た顧客を対象にして、事業を広げる多角化です。
例:家電量販店が住宅分野に進出する場合 - 垂直型多角化:部品の製造や販売に手を広げる多角化です。
例:原料メーカーが最終製品を生産し、販売まで行う場合 - 集中型多角化:現在の技術やマーケティングと関連する分野に進出する多角化です。
例:食品メーカーがバイオ分野に進出する場合 - 集成型多角化:現有の製品・市場と関係のない分野への多角化です。
例:電機メーカーが銀行業に進出する場合
このように、時には多角化戦略を用いることでもシナジー効果を発揮させることができます。
なぜシナジー効果を求めるのか
企業はなぜシナジー効果を求めるのでしょうか。それは、シナジー効果のおかげで「1+1」が2ではなく、3や4になるからです。
例えば、営業が顧客のニーズを汲み取り、研究開発にそのニーズを伝え、顧客のニーズに合った研究が行われる場合には、売上高の増加というシナジー効果が期待できます。売上高が増加すれば、キャッシュインフローは増えます。キャッシュインフローとは、企業に入ってくるお金のことです。
また、製造と購買が密に連絡し合い、1カ月に必要となる材料の量が明確にわかれば、不要な材料仕入れをなくすというシナジー効果が生まれます。不要な材料仕入れが減ると、キャッシュアウトフローは減少します。キャッシュアウトフローとは、企業から出ていくお金のことです。
キャッシュインフローの増加やキャッシュアウトフローの減少は、企業価値の向上や財務基盤の強化・安定化に繋がります。財務基盤が安定し強固になると、持続的な成長のための人材・設備等に対する投資が可能になり、経営の多角化も行いやすくなります。
さらに、コスト削減が起こると、製品を安い価格で販売できるため、企業の競争力の向上へと繋がります。
5種類のシナジー効果
シナジー効果は、シーンに応じてさまざまな種類が存在します。
代表的なシナジー効果は以下の5つです。
- 売上シナジー
- 財務シナジー
- コストシナジー
- ブランドシナジー
- アナジー効果(マイナスシナジー)
各シナジー効果を確認していきましょう。
1. 売上シナジー
売上シナジーとは、企業同士が連携することで売上拡大につなげるシナジー効果のことです。一方、抱える顧客に関連商品として自社の製品を紹介するクロスセル(クロスセリング)も売上シナジーのひとつといえます。
また、ある企業が他方の企業に対して営業人員を送り込み、重点的に販売したい商品の営業を強化して売上アップにつなげることも売上シナジーです。
2. 財務シナジー
財務シナジーとは、企業同士が連携することで、資本力増強や資金流出防止を図るシナジー効果のことです。合併により発生した余剰資金を活用すれば、投資や人材確保にまわせます。
また、黒字計上している企業は、繰越欠損金が発生している企業を買収した場合に自社の利益を圧縮することが可能です。結果として、節税効果が期待できるでしょう。
3. コストシナジー
コストシナジーとは、企業の規模拡大に伴い、さまざまなコストを抑えて利益増につなげるシナジー効果のことです。例えば、M&A以降、各社が有していた総務や管理などの本部機能を一元化すれば、人件費や設備費用を圧縮できます。
そのほか、複数社で共同仕入れをおこなうことで仕入原価を下げることや、備品を共同で購入することで販売管理費を下げることもコストシナジーといえるでしょう。
4. ブランドシナジー
ブランドシナジーとは、双方のブランドイメージを活用することで、売上増加につなげるシナジー効果のことです。ブランドシナジーでは、自社のイメージを残しつつさらに知名度をアップできます。
通常、新たにブランドを立ち上げる場合は世間に浸透するまでに時間を要しますが、提携する他業種の企業の知名度を活用することにより、異なる業界でもスムーズに自社の認知度を上げられるでしょう。
5. アナジー効果(マイナスシナジー)
他のシナジー効果とは異なり、アナジー効果は連携したことでかえって弊害が生じ、各企業にマイナスに働く効果のことです。そのため、マイナスシナジーやネガティブシナジーと表現されることもあります。
アナジー効果の具体例は、今までとやり方が変わったことで混乱が生じて営業スピードが鈍った、人事評価制度が複雑になった、双方の情報システムを統合するのに多額のコストがかかったなどが一般的です。
シナジー効果の生み出し方
シナジー効果の生み出し方には様々な方法があります。どの戦略も企業同士の相乗効果を狙ったもので、さらなる企業価値の向上につなげることが期待できます。
M&A
M&Aが行われることで、他社のブランドとの統一がなされ売上高が上がる、研究所を統廃合することでコスト削減に繋がる、仕入れ先への交渉力が増し材料単価が引き下げられる、などのシナジー効果が期待できます。
グループ一体経営
企業を別々にではなく、グループ化して一体的に経営することで、企業間でノウハウを共有できます。さらに、会社がそれぞれに自分の会社だけのメリットを考えるのではなく、親会社がグループ全体のメリットを考えて経営戦略を立てられることによるシナジー効果の発揮も期待できます。
多角化戦略
例えば、共通の技術を活用できる分野への進出による多角化を行うと、全く関連のない分野への進出と比べて、研究開発の費用を抑えられるなどのシナジー効果が期待できます。
また、顧客基盤を共有できる分野への進出による多角化を行うと、全く関連のない分野への進出と比べて、広告宣伝費を抑えられることや違うジャンルで確立したブランドを共有できることなどのシナジー効果が想定されます。
事業提携
他社と事業提携が行われることにより、生産能力の向上や取扱製品の拡大などのシナジー効果が期待できます。
シナジー効果による3つのメリット
M&Aなどを通じてシナジー効果を発生させることで、さまざまなメリットを期待できます。
主なメリットは以下3点です。
各メリットを確認していきましょう。
1. 得意先の拡大・売上増加
売上シナジーに見られるように、他社と提携することで他社の得意先との接点が増えます。結果として商材拡大・売上増加につながる点がメリットです。
また、提携相手が他業種であれば、新たな市場に踏み出すきっかけを得られます。特に、本業周辺の市場が先細りである場合、シナジー効果を活用して他市場への進出を検討するとよいでしょう。
2. 経営資源を有効活用して時間・コスト節約
M&A後に経営資源を有効活用して時間もコストも節約できる点も、シナジー効果のメリットです。経営資源を有効活用すれば、新規事業を立ち上げたり、他業種に進出したりする際にかかる時間やコストも省けます。
そのほか、本部機能の一元化で無駄をなくせる、業務範囲が幅広くなるため、従業員を適材適所に配置しやすくなるなどもシナジー効果による経営資源の有効活用例です。
3. ノウハウ共有による組織力向上
自社の従業員は、提携・合併後に相手側の従業員から言葉で教わったり、実際にどのように働いているのかを見て学んだりできます。このように、ナレッジやノウハウを共有することで、各従業員の能力や全体の組織力向上につながる点もシナジー効果のメリットです。
組織力が向上することで、企業の更なる発展が期待できるでしょう。
シナジー効果を発揮させる秘訣は
シナジー効果を発揮させるにはどうすればよいのでしょうか。
例えば、以下の方法などがあります。
- PMIの徹底
PMIとは「post‐merger integration」の略語であり、M&Aなどの後に実施される経営統合作業のことです。M&Aなどの目的はシナジー効果の発揮にあるため、PMIはM&Aに関する手続きの中で最も重要なものの一つです。PMIにおいては、シナジー効果の定量的な測定と検証などを徹底的に行うべきです。 - 事業計画の早期立案
M&AのPMIにおいては、100日プランと呼ばれるM&Aなどの実施後100日で策定する事業計画を練るのが通常です。人間の集中力が続くのは3カ月程度であるという説もあるため、100日という短い期間で計画を立案することが合理的であると考えられています。 - M&Aのタイミング
M&Aおよびシナジー効果の発揮は、一般的に時間がかかればかかるほど成功する確率が低くなるとされています。情報漏洩のリスクや相手企業への不信感が高まるからです。
ただし、必要な交渉や手続きを行わなければ、M&A後に問題が発生する可能性があります。このバランスを見て、M&Aのタイミングを見極め実施することがM&Aおよびシナジー効果の発揮のために重要であると言えます。
組織再編でシナジー効果を狙う際の注意点2つ
シナジー効果を狙い、全てが成功につながるわけではありません。アナジー効果が発生し、かえって悪化するおそれもあります。
M&Aで後悔しないように、シナジー効果を狙う際の注意点を2つ確認しておきましょう。
①従業員が流出する恐れがある
企業によって、文化や社風に違いはあるものです。そのため、企業同士が統合した際に、社風の違いに戸惑いを感じた従業員が、退職してしまう可能性もあります。
統合後に優秀な従業員が流出しないように、経営陣や管理職は今後の方向性をあらかじめ説明しておく、統合後の役職を用意しておくなどの対策が必要です。
②組織全体が疲弊する恐れがある
M&A成約に至るまでには、交渉や契約締結、人事取り決め、業務の統合作業などさまざまな段階を踏まなければなりません。M&Aが完結する頃には、双方の従業員間で摩擦が発生したり組織全体が疲弊したりする恐れもあります。
スムーズに業務を進められるように、早い段階から同じ方向性を見据えてM&A完結後の体制を整えておきましょう。
シナジー効果を生み出した事例
最後に、実際にシナジー効果を生み出した事例を紹介します。紹介するのは、ネットやテレビなどのニュースでも話題になった2例と、弊社バトンズが関与した事例です。
事業多角化によるシナジー効果
楽天やソフトバンクは、M&Aによるシナジー効果を発揮した代表例です。いずれも、M&Aを通じて事業多角化に成功しています。
インターネット・ショッピングモール「楽天市場」開設から始まった楽天は、米国企業買収による海外進出、国内信販子会社化に伴うクレジットカード決済サービス開始、カナダ企業買収による電子書籍事業参入など、さまざまな業界への進出を続けています。
楽天グループ内での回遊性を高めるビジネスモデル「楽天エコシステム(経済圏)」を発表している点も特徴です。
一方、パソコン用パッケージソフトの流通事業から開始したソフトバンクは、米国企業との共同出資で日本法人ヤフーを設立、アリババグループへの出資、ボーダフォン子会社化による移動通信事業参入などを進めています。
参考:楽天グループ/楽天の歴史
参考:ソフトバンクグループ/ ソフトバンクグループの歩み
業務提携からのシナジー効果
「ビックロ」は、家電量販店と衣料品小売業という異業種同士でシナジー効果を狙った事例です。「ビックカメラ」と「ユニクロ」が、2012年9月に「ビックロ ユニクロ新宿東口店」をオープンさせています。お互いのノウハウを組み合わせ、ライフスタイルや街を盛り上げるランドマークを目指しました。
なお、2022年6月19日をもって、ビックロ ユニクロ新宿東口店は閉店しています。
参考:ユニクロ /「ビックロ ユニクロ新宿東口店」9月27日ついにオープン!~ようこそ、Tokyoの、新名所へ~
バトンズ仲介M&Aのシナジー効果3つ
最初に紹介するのは、広島県で機械工具の専門卸商社として経営を続ける企業が、同じく機械工具販売をおこなう東京都の企業を引き継いだ事例です。異なるエリアの同業他社をM&Aすることで、取引先の多角化というシナジー効果を狙いました。
続いて紹介するのは、用水の水処理をおこなう大阪府の企業が、廃水の水処理をおこなう東京都の企業を引き継いだ事例です。M&Aにより、用水事業と廃水事業の顧客を紹介しあう、譲受側の技術を譲渡企業の廃水に転用するなどのシナジー効果が期待されます。
最後は、大阪府で内装工事業を営む企業と同じく大阪府で同業を営む企業のM&A事例です。同エリア・同業で取引先も一部重なる親和性の高い企業を引き継いだことによるシナジー効果で、特に施工部門における改善が見込まれています。
シナジー効果が発揮される3つの事例についての詳しい内容は、以上の記事を参考にしてください。
まとめ
ここまでシナジー効果について、意味・例・成功の秘訣などを説明しました。経済のグローバル化や競争の激化を背景に、今後ますますシナジー効果の発揮は経営において重要な課題となっていくでしょう。
シナジー効果を強く発揮するには、自社に適した企業とのM&Aを成功させることが必要です。大きなシナジー効果が期待できるM&Aを成功させる上で、経験と知識が豊富な専門家の力を借りることもプラスに働くでしょう。
今回の記事がM&Aに携わる皆様にとって、お役に立つものであれば幸いです。
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