| 公開日 | 2024/12/20 |
|---|---|
| 記載者 | 大河原雄剛経営経理研究所 |
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コーヒーブレイクストーリー::売るという選択::
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コーヒーブレイクストーリー::売るという選択::
「ウチの技術は、まだまだ戦えるんだよ」
社長の村山は、やや声を荒げてそう言った。
M&A仲介会社の若い担当が、事業譲渡の選択肢を提示した時のことだった。
創業38年。試作品の開発と少ロット生産に特化した小さな町工場。今も依頼は絶えない。
だが、社員の大半が50代。息子は事業に関わらず、後継者もいない。
「別に今すぐ売る必要はない」
それが村山の口癖だった。
だが、ここ数年で取引先は変わり、条件も厳しくなった。銀行の態度も微妙に冷たくなってきた。決算書の数字に、じわじわと“限界”がにじむ。
先月、村山は初めて胃カメラを受けた。結果は「ストレス性胃炎」。医者は、「年齢の割に、頑張りすぎですね」と言った。
夜、自宅の食卓で妻が口を開いた。
「最近、なんのために働いてるのかわからないって顔してるよ」
「そんなことない」
即答したが、自分でも嘘だと思った。
その夜、息子からLINEが届いた。
「そろそろ、こっちで一緒に暮らさない? 子どもも会いたがってる」
スマホを握ったまま、村山は居間の天井を見上げた。目の前に浮かぶのは、削り機の音、油の匂い、汗だくの職人たちの笑顔。
次の日、M&A仲介会社のオフィスを訪れた。若い担当が、少し驚いた顔で立ち上がった。
「お時間ありがとうございます。……ご決断、されたんですか?」
村山は軽く頷いた。
「会社は、誰かに継がせたい。でもな……“売る”って言葉が、ずっと引っかかってたんだよ」
「ええ」
「でも昨日、ふと思った。“売る”って、“終わり”じゃなくて、“次に託す”ってことなのかもしれないな」
若い担当は、深く頷いた。村山の表情には、迷いの中にほんの少しの清々しさがにじんでいた。
――会社を手放す覚悟とは、人生の続きを考える覚悟でもある。
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