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2025/03/03

安定か、挑戦か。

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安定か、挑戦か。
駅から少し歩いた場所にあるカフェは、昼下がりの陽射しが窓際の木製テーブルを優しく照らしている。僕はカップを手に取りながら、対面に座る旧友を眺めた。  「まさか、お前が会社を辞めて起業するなんてな」  コーヒーの湯気越しに、彼は微笑んだ。  「そう言われると思ったよ。でも、ずっと考えていたことなんだ」  彼とは同期入社だった。二人とも30代半ばを迎え、部長職目前のポジションにいた。しかし、彼は数ヶ月前に退職し、独立したのだった。  「怖くなかったのか?」  彼は苦笑しながら、スプーンでカフェラテの泡をかき混ぜた。  「もちろん、怖かった。でも、それ以上に、このまま定年まで同じ景色を見続けることのほうが怖かったんだ」  彼の言葉が胸に突き刺さる。確かに、会社員でいる限り、安定は手に入る。しかし、その安定が、いつの間にか鎖になっているような気がしていた。  「会社に残る選択肢だって悪くない。むしろ、賢い選択だと思う。だけど、お前は本当に、それでいいのか?」  彼の瞳がまっすぐに僕を射抜く。  僕は答えに詰まった。  「ほら、今も悩んでる顔してる」  彼は笑うと、スマートフォンを取り出して画面を見せた。そこには、彼が手がける新しいプロジェクトのロゴが表示されている。  「この半年、朝も夜も関係なく働いた。でも、不思議なことに、一度も『やらされている』とは思わなかった。全部、自分で決めて動いてるからな」  やらされている——。その言葉が、会社のデスクで報告書を作る自分の姿と重なった。  「もちろん、リスクはある。でもな、リスクのない人生なんてないだろ?」  彼はそう言うと、カップを持ち上げて微笑んだ。  僕は黙って窓の外を見た。通りを歩く人々、行き交う車、そしてカフェの奥でノートパソコンを開いている若いビジネスマンの姿——。  「お前はどうしたい?」  彼の問いに、すぐには答えられなかった。でも、確かに心のどこかに、小さな火が灯ったのを感じた。  キャリアチェンジには恐怖がつきまとう。でも、それを乗り越えた先にあるものを知る者は、ほんの一握りしかいない。  僕はゆっくりとコーヒーを飲み干し、カップを置いた。  「……お前のオフィス、今度見せてくれないか?」  彼は驚いたように目を丸くしたあと、すぐに笑った。  「いつでも歓迎するよ」  窓の外に広がる街が、いつもより少しだけ輝いて見えた。
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