ノウハウ

2020.02.12

事業承継をすることで社長が得られる資産とは

後継者不在で事業承継を諦めてしまう経営者が増えている一方で、最近では、M&A等による第三者承継を選択する方も増えています。中小企業のM&Aは、株式譲渡または事業譲渡です。

今回は、第三者承継、特に一般的に使われる方式である株式譲渡について、株式譲渡をすることで経営者が得られる資産について解説します。

 

事業承継=家族への承継ではなくなった

昔の事業承継は、実子など親族内承継が主流でした。しかし、経済の先行きが不透明である現状では、継ぐ方も継がれる方もかなりの覚悟が必要となっています。そのため、経営に強い覚悟がある従業員など第三者による事業承継が増えています。

家族への承継だけには限界がある

事業承継を検討する場合、まずは子供に跡を継いでもらうかどうかがポイントとなります。子供に後を継いでもらう場合に、大きな問題が2つあります。

1つは、事業の収益性や成長性への不安です。親の事業を引き継ぐという選択肢が、子供にとって最適なものといえる確証はありません。特に借入金などを抱えている場合、親、子供両方にとって「事業を引き継ぐ・引き継がせる」ことは強い覚悟が必要となります。

もう1つは、相続に関する問題です。事業承継は、経営権と財産権の承継です。後継者が事業に集中できるようにするためには、財産権である株式を後継者に集中させることがベストです。ところが、財産権である株式を後継者に集中させることで、財産相続の際に他の相続人(兄弟姉妹、義理の兄弟姉妹)との間に軋轢が生じることはよく耳にする話です。

第三者への承継が増加中

親族内承継が事業の将来性や財産相続などで不安が残る中、最近では、従業員承継やM&Aなどの第三者承継が大幅に増加しています。

2017年の中小企業庁の資料によると、最近5年間に就任した経営者の65%が親族以外の後継者によって事業承継が行われています。特に、M&Aなどによる第三者承継は、中小企業でも事業承継の最有力な選択肢として考えられるようになっています。

 

承継後に社長が得られるもの

M&Aによる事業承継を株式譲渡で行うと

・会社が存続できる

・譲渡した経営者が譲渡益を得られる

などのメリットがあります。そのため、事業譲渡と比べ売り手に有利な事業承継といえます。

会社の存続

株式譲渡による事業承継を行うと、経営者が交代するだけで、基本的には会社はそのまま事業を継続することができます。

・従業員の雇用

経営者が事業承継で特に心配する点に、従業員の雇用確保があります。基本的に、従業員の雇用を継続するかどうかは買い手側の経営判断ですが、株式譲渡であれば従業員の雇用も引き継がれて、譲渡後も簡単に解雇することはできないのが一般的です。

・地域経済への貢献

会社がそのまま存続すると、従業員の雇用維持だけでなく、地域経済への貢献もそのまま続くことになります。例えば、廃業すると今の仕入先は売上先を失うことになり経営上問題を抱える可能性があります。金融機関や顧客にとっても影響は大きいでしょう。事業承継をすることによって、仕入先や顧客など地域に引き続き貢献できます。

・シナジー効果で事業の成長も

株式譲渡により会社や事業の成長が期待できることも、株式譲渡の大きなメリットです。買い手企業は、人材や設備、技術力など売り手には無い経営資源があります。買い手企業と売り手企業の経営資源を相互に活用することで、新たな商品開発や市場開拓などシナジー効果が期待できることになります。

まとまった資金を得られる

株式譲渡によって売却し得られるまとまった資金(売却益)が、出資した金額よりも大きいと、現経営者は手元に今後の生活資金を残すことができます。株式譲渡により会社を売却するためには、会社の資産価値があることと目に見えない収益力(のれん)があることが前提です。なお、債務超過の会社などはそもそも売却益の獲得は期待できません。

譲渡金額の算出方法

株式譲渡で一番重要なことは、譲渡金額の算出です。

譲渡金額は株式評価額×株式数で決定します。株式評価額は、原則的評価方式である「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」と例外的な方式である「配当還元方式」の3つの方式で算出します。この方式については後ほどご説明します。

公開株式と非公開株式

「非公開会社」と「非上場会社」は、同じ意味で使われる場合もありますが、厳密には違います。

非公開会社とは、「譲渡制限(株式を他人に譲る場合に会社の許可が必要であること)がある株式会社」です。言い換えれば、株式の譲渡制限がない場合には上場会社でなくても公開会社となります。多くの中小企業は、非公開株式会社です。

非公開株式の価値評価方法

非公開株式の価値評価方法は次の3つがあります。

・類似業種比順方式

類似業種比準方式とは、非公開株式会社の株価評価額を決定する時に、評価対象の株式と事業の内容が類似している上場会社の株式の価額を参考にする方法です。

類似業種比準方式は株式市場で価格が決まる上場企業の株価を参考にしているため、市場の実態に見合った評価ができます。また、純資産価額方式で評価するより株式の価値が低くなる傾向があります。

・純資産価額方式+のれん

純資産価額方式は、仮に会社が解散した場合の清算価値を評価する方法です。評価する時点での貸借対照表の総資産と総負債を相続税法上の評価額に置き換えた上で、総資産から総負債を差し引き、人税等を差し引いた純資産により評価を行います。

中小企業のM&Aでは、時価(修正簿価)純資産法がメインとなっています。この方法では、貸借対照表の資産や負債を、土地の含み益や隠れ負債などを織り込み、時価で評価します。この方法による純資産額に、のれん(今後の1~3年で期待される営業利益)を加算して株式の譲渡代金とするのが一般的です。

・配当還元方式

配当還元方式とは、過去2年間の配当金の額を10%で割戻して株式評価額を決定する方法です。先の2つの方法とは異なり「例外的」な方法です。少数株主の相続や贈与の場合に、簡易的に配当還元方式で算出してもよいとされています。

 

譲渡額から引く費用

売り手側は売却代金を丸々手に入れることができません。以下2つのコストが発生します。

・仲介会社に支払う報酬などの手数料

・譲渡益に課税される所得税

 

仲介などのサポート費用

仲介会社などの報酬には、相談料や着手料、中間報酬、成功報酬などがあります。会社によって相談料の有無や成功報酬率の違いなど様々なパターンがあります。

・相談料

M&Aを行うかどうかを判断する上で、M&Aコンサルタントなど知識や経験に基づいた助言や相談を行う際に発生する費用です。

・着手金

M&Aに向け具体的に取り組むことになる段階で発生する費用です。発生することがあります。各種調査やマッチング活動等一定の費用を賄うための費用です。

・中間報酬

中間報酬とは、M&Aの基本合意書を締結した際にM&Aアドバイザリーに支払うため発生する費用です。

・成功報酬

売り手と買い手が最終的に合意し、M&Aが成約すると、成功報酬が発生します。成功報酬は、取引金額に手数料率を乗じた金額になります。一般的には、「レーマン方式」と呼ばれる手数料率が使われます。

税金

株式譲渡で株式の譲渡代金を受け取るのは売り手の株主です。そのため、課税される対象者も、売り手の株主となります。中小企業の場合、株主のほとんどは個人であり、株式の売却による利益(譲渡所得)に対し所得税が課されます。譲渡売却した翌年の確定申告で申告・納税する必要があります。

譲渡所得は、売却代金から必要経費を差し引いた金額です。株式を取得した時の費用である「取得費」と仲介会社に支払った「手数料」が必要経費になります。

申告・納付する税額は、譲渡所得に税率(所得税15.315%、住民税5%の一律20.315%)を乗じた金額で計算されます。

 

株を一部保有することも可能

買い手企業の合意が必要ですが、現経営者が持ち株の全部を譲渡せず、一部を保有することも可能です。

引退しても会社との縁が切れるわけではない

株式譲渡で「財産権」を全部譲渡したとしても、現実には「経営権」を即座に譲渡することは難しいでしょう。特に現経営者が持っている人的ネットワークや対外的な信用力などは次の経営者にとっても貴重な経営資源です。一部株式を保有し続けてもらったり、顧問として継続的に働いてもらったりすることが、結果的に事業承継を成功に導くことになります。

キャピタルゲインの期待も

売り手企業と買い手企業の経営資源のシナジー効果で、事業が成長し収益力が高まると株価評価額も高くなっていきます。完全に経営の一線から離れる時に、継続して保有していた株価の評価額が高くなっていると、再びキャピタルゲイン(譲渡益)を得ることが期待できます。

 

事業承継によって資産を獲得しよう

会社の財政状態もよく、今後の収益力も期待できるのであれば、様々な選択肢から事業承継の方法を選ぶことができます。M&Aによる第三者承継も有力な選択肢の1つです。親族内承継であれば、後継者の負担を考え、退職金などを遠慮するケースも多々ありますが、M&A(第三者承継)ではその心配もなく事業を引き継ぐことができます。自分で育て上げた会社を第三者に売却することで、上手に資産形成を行いましょう。