ノウハウ

2019.01.21

今、M&Aで最も注目されるPMI!中小企業M&Aを成功のために買主が行うべきこと

▼2005年、中小企業庁が行った「承継」に関するアンケートでは、回答企業経営者のうち95.1%の企業経営者が、「自分の代で廃業するのではなく、何らかの形で引き継ぎたい」と望んでいることが報告されています。

参考:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h18/H18_hakusyo/h18/html/i3220000.html

しかし、現実には「経営の引き継ぎ」は決して簡単なものではなく、現在では承継問題を抱える中小企業を親族や社員でもない第三者が引き継ぐ“M&A”が増えているのはご存知の方も多いと思います。多くの中小企業経営者が望む「事業の承継」、そして承継の先にある企業の発展、これらを実現し、M&Aを成功に導くために欠かせないプロセスが「PMI」なのです。

今回は中小企業M&Aにも必要不可欠なPMIをテーマに、事例を紹介しつつ、M&A成功のために買主が抑えておくべきポイントを解説していきます。

 

PMIとは

 

PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成立後の統合プロセスのことを指しています。

M&Aの実行後に当初想定したシナジー効果を確実に実現し、企業価値を向上させるためには、PMIによって経営ビジョンや組織文化・風土、販売・管理体制、業務プロセスなどソフト面、ハード面ともに有機的に機能させる必要があります。M&A先進国のアメリカでは、PMIを「ポストM&A」と呼んで非常に重視しています。まさに、PMIがM&A成功のカギを握ると言っても過言ではありません。

 

失敗事例から学ぶPMIの重要性

 

M&Aでは買主と売主はもちろんのこと、譲受企業と譲渡企業の両者の対等で密なコミュニケーションが重要です。PMIが如何にM&Aの成否を左右するか、ある譲受企業の失敗エピソードを紹介します。

IT分野では名の知れたA社は、同業で社員30名程度の中小企業B社のM&Aを進めていました。譲受の手続きはスムーズに進み、両社のさまざまな領域の統合検討を行うPMIの段階に差し掛かった頃です。譲受企業A社の役員から、B社の人事部長に一本の電話が入ります。

電話の内容は、「人事制度の統合に反対しているようだが、これは当社(A社)の制度を採用することで決定事項だ」というもの。しかし、事前の打ち合わせでは、A社から「制度統合は考えていない」という回答があったばかりなのです。

突然の電話に驚いたB社の人事部長は、「打ち合わせでは『制度統合は考えていない』というお話でしたが、どういうことでしょうか?」と聞き返したそうですが、A社の役員は「買収されるんだから、こちらの言い分に従うのが当然だろう」の一点張り。

このやりとりの齟齬の裏側には、譲受企業内でのコミュニケーション不足が原因だったことが後にわかります。A社の契約当事者は、制度統合はしないと考えていたにもかかわらず、担当者レベルでは制度統合はしないが、細部の運用は統合するものと考えていたというコミュニケーションの行き違いがあったのです。

A社の対応は、PMIでは御法度とも言えるものでした。買主が立場を利用して方針をゴリ押しすることは、すなわちM&Aを失敗へと導きます。

制度統合の問題は言うまでもなく、A社のトップダウン型の社風と小規模会社B社の自由闊達な社風のギャップも埋められず、せっかく引き継いだB社から半数以上の社員が1年を経ずして退社したといいます。

PMIでは、経営方針、財務経理、人事制度などさまざまな領域の統合検討が求められます。買主と売主の双方の密なコミュニケーションはもちろん、企業内でも契約担当者から実務担当者までの細部に至って意思疎通を行い、統合プロセスを着々と実行していくことが必要です。

 

中小企業がPMIによってM&Aを成功に導くポイント

 

買主がPMIのプロセスで押さえておくべきポイントを紹介します。

ポイント①|譲渡企業(売主、従業員)の不安や心配を早期に取り除く

M&A後、譲受企業から譲渡企業に新しい経営者が派遣されてからも、「経営方針や各種制度、仕事のやり方はそのまま」「社内が落ち着いてから統合プロセスを開始する」というように、無用な混乱を起こさないための「様子見」が行われることがほとんどです。

しかしある日突然、何の説明もなくM&Aを言い渡された譲渡企業の従業員は何を感じるでしょうか?「これから会社や私たちはどうなるの?」「仕事のやり方や暮らしが変わったらどうしよう」といった、先の見えない不安を抱えるはずです。

無用な混乱を起こさせないための「様子見」が、実は従業員の不安を煽ることになり、モチベーションや生産性の低下、あるいは退職者の急増といった諸問題を引き起こす可能性があります。

買主はこのような悪い意味での「様子見」をせずに、新体制発足の初日からM&A後のビジョンや経営方針等を明確なメッセージとして従業員に発信し、統合プロセスについて早期に手を打つことが必要不可欠です。これを従業員ディスクローズなどと言い、買主からプレゼンを行ったり、懇親会を行うなど特に譲渡企業従業員と距離を縮める第一歩にします。

ポイント②|内外のコミュニケーションを密にする

企業が違えば、経営方針や各種体制、企業風土などさまざまな点で異なります。M&Aでは、異世界とも言える譲受企業・譲渡企業間で価値観の共有や組織統合のための「異文化コミュニケーション」を経験することになるでしょう。

M&Aに成功している事例を見ると、買主が自らのビジョンや経営方針を譲渡企業従業員に対し早期に、丁寧に、繰り返し発信し、相互理解を深めています。さらに、M&Aのキーパーソンのみならず、企業内の契約担当者、現場担当者との間でも綿密にコミュニケーションを行い、情報共有を円滑に行う必要があります。

PMIでは内外でコミュニケーションを密にとれるような機会と場の確保と、それを継続できる組織づくりを目指さなければなりません。

ポイント③|PMIは人を大切にするプロセス

M&A成立までのプロセスでは、買主はビジネスの拡大やコスト削減、優秀な人材の確保、売り手側企業は事業承継などがメインに進められます。

しかし、M&Aを成立から成功へと導くためには、PMIの過程でM&Aの成果を実現する「人」にスポットを当てなければなりません。M&Aの失敗例で紹介したように、トップのビジョンや方針を一方的な押しつけの形で強いるようなPMIでは、人心が離れていったり、成果の実現が遅くなったりしてしまいます。

企業を形作っていくのは人です。PMIにおいて人を大切にすることは、基本でありもっとも重要なポイントなのです。

 

M&Aは目的でなく手法

 

M&Aの成約はスタートであり、成功というゴールに導くために欠かせないプロセスがPMIです。業種や規模にかかわらず、M&Aでは譲受企業・譲渡企業双方のビジョン、方針、さらには想いを統合していくPMIが求められます。

中小企業ほど、社長のワンマンで会社が成り立っている、ということがままあります。これまで何年も、何十年もその社長のもとで運営されてきた会社を、新たな社長は事業だけでなく文化まで引き継いでいかねばなりません。また、刻々と変化していく社会の中では、伝統を壊さない範囲で、新しい創造も必要になります。過去の成功事例を見ると、このバランスに成功の秘訣があるようです。

創業社長の想いを継ぎつつ、新しいエッセンスを吹き込んでいく……そんなPMIが、中小企業のM&Aでは強く求められているのです。

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