
中小企業の経営者にとって、事業承継は会社の命運を左右する非常に重要なタイミングですが、実は、経営者の交代は新規事業の立ち上げにはベストなタイミングともいわれています。
なぜ、企業は新規事業の立ち上げを事業承継のタイミングで行うべきなのかという意義と実際に事業承継と同時に新規事業の立ち上げを実行した企業の具体例を紹介します。
中小企業の事業承継の現状
中小企業の事業承継は順調に行われているとは言い難いのが現状です。実際に中小企業が置かれている状況を考えてみましょう。
経営者の高齢化は業績にも影響している?
東京商工リサーチの2018年「全国社長の年齢調査」によると、日本全国の社長の年齢は61.73歳で、2009年以降最高年齢を更新し続けています。
さらに、「社長年齢と業績」を見ると、70代からが「減収」「赤字」に転じるボーダーラインとなっており、社長の高齢化に伴って業績にマイナスの影響が強く出ていることが明らかになっています。
一方で、「休廃業・解散企業」動向調査によると、2018年の倒産企業が8,235件であるのに対し、休廃業・解散件数は46,724件と倒産企業の約5倍に及んでいます。
現状では政府や自治体による中小企業への支援策等で倒産数は抑制されていますが、社長の高齢化によって休廃業および解散する企業は軒並み高い水準にあります。
「事業承継と言っても何からすればいいのか分からない…」
急速に進む日本の少子高齢化によって、国内人口と生産年齢人口は減少の一途をたどっており、業績は好調ながら後継者が獲得できず、事業承継を断念して休廃業・解散に至る企業もいまや少なくありません。
帝国データバンクによる2018 年の「日本企業の後継者不在率」は全国で 66.4%であり、約18万社で後継者不在という現状です。こうした中小企業オーナーのなかには、休廃業・解散を避けるために何から取り組めばいいのかが分からないまま、事業承継を先延ばししているケースも多く見られます。
参考:全国「後継者不在企業」動向調査(2018 年)|帝国データバンク
親族内での事業継承後に経営がうまくいかなくなるケースも…
帝国データバンクの調査では、事業承継を予定している企業の後継者候補として全国で最も多いのは「子供」で、全体の 39.7%に上ります。しかし、親族内で事業承継を行ったにも関わらず、次のような理由で経営が上手くいかないケースも多いのです。
・ 後継者がしっかりと企業経営の方向性を確立できていない
・創業時からの古参社員から信頼が得られていない
・創業経営者と後継者の経営の方向性の違いで対立する
早めの対応を取れないと、事業承継には思わぬ落とし穴もあるのです。
若者にとって“事業承継”や“跡取り”は古臭い?
「事業承継=後継ぎ」という一般的なイメージが、事業承継がうまくいかない理由に繋がっているケースもあります。若手の起業家からは、「事業承継」や「後継ぎ」といった語感から古臭さを感じるという声も聞かれます。
また、後継者のなかには「後継ぎがいないから仕方なく継ぐ」といった気持ちを持っている人もいれば、後継者に会社を託したいと願っている社長のほうも「とはいえ無理強いはできない」など、お互いに事業承継にネガティブなイメージを抱いている場合が多い事も、事業承継が思うように進まない要因のひとつです。このように、一見ネガティブなイメージが植え付けられている事業承継。
しかし、少し視点を変えることができれば、実は、後継者にとって事業承継は自分の夢や、やりたいことを実現できる大きなチャンスにもなります。
求められているのは、既存事業に新たな価値を生み出す事業承継
事業承継と言えば、単なる世代交代や家業を引き継ぐといったイメージが根強くあり、従来までは「社長の後を継ぐための事業承継」という考え方が確かに主流でした。
しかし昨今は、これまで培われてきた経営資源を有効活用し、新規事業の立ち上げに活かす事で、後継者が「経営資源を活かして新規事業や業態転換を実現するための事業承継」という考え方が浸透し始めています。こうした視点の変換を行う事で、ただ会社を引き継ぐだけではなく、企業が持つ資本、従業員、のれん、顧客といった資源や資産を活用し、新たなビジネスの価値を生み出すことを事業承継の醍醐味と捉える後継者が増えているのです。
従来の家業の範囲内でできる新しい取り組みはもちろん、後継者は、たとえば伝統産業とITの掛け合わせや、新規事業の立ち上げに応じた子会社の設立など、資源や資産をもとに新たな経営戦略を打ち出す事が可能になります。
また、事業承継のもうひとつの意義として、後継者は「企業の永続のために挑戦を続けなければならない」という重要なテーマがあります。事業承継は「やって終わり」ではなく、あくまでも新たなスタートに過ぎません。
受け継いだ資源や資産を活用し、さまざまなリスクや障害をクリアしながら、新規事業や業態転換、新たなマーケットへの参入など、挑戦を重ねることで永続的な経営をめざすことが、後継者の使命といえるでしょう。
後継者は具体的にどんなことをするの?
事業承継で引き継いだ会社の経営資源の活用法として挙げられる選択肢について整理してみます。
新規事業の開発
新規事業の開発と言っても、様々なものがあります。例えば、引き継いだ会社の経営資源を活用、既存のノウハウを基にするなど、今あるものを元に新規事業を開発することもあります。
たとえば二代目が家業とは異なる業界や業種での就業経験がある場合、その経験を活かし、既存の経営資源と掛け合わせることでまったく新しいビジネスモデルに挑戦することもできるでしょう。
業態転換
業態転換とは、その名の通り既存の業態から新たな業態へと転換することです。たとえば、流行に左右されやすい飲食業界や外食産業では、ゼロからの新規業態の開発は失敗のリスクが高いため、事業承継や買収、合併によって引き継いだ経営資源を活用して、既存店舗を流行の業態へ転換するケースが多く見られます。
新市場への参入
縮小傾向にある業界では、同業他社と限られた顧客を取り合うよりも、新しい市場に参入することが企業の生き残りの道となるケースが多いです。
事業承継のタイミングであれば、既存の経営資源と後継者のスキルや経験を組み合わせて新しい市場にアプローチがしやすいため、今までと異なる領域で挑戦することができます。
大規模な設備投資費用や人件費を必要とする事業に参入するよりも、経営資源や家業の範囲内でニッチ事業を狙うことで、参入を成功させた事例が多く見られます。
成長戦略のためのM&Aでさらに躍進
ここまで紹介したように、事業承継によって引き継いだリソースをもとにして、新規事業の開発や事業の拡大、新市場への参入を果たす際、これらをもっと急速に進めるためにM&Aを行うという方法もあります。
新規事業の立ち上げをゼロからスタートさせると相応のコストと時間がかかりますが、M&Aで新規事業と同じ事業分野の既存会社を買収すれば、引き継いだ経営資源で事業立ち上げの負担を大きく減らすことができます。
たとえば、いずれも縮小傾向に合ったゴルフ用品メーカーと繊維メーカーがM&Aを行い統合したことで、新たにレディース向けやファッション性の高いゴルフウェアを開発した例は、両者のシナジー効果によって新たなジャンルの開拓に成功しています。
事業承継×新規事業で事業のさらなる継続・発展へ
中小企業の経営者の高齢化により、事業承継は喫緊の課題です。従来の「後継ぎ」という意味合いの強かった事業承継から、「引き継いだ経営資源を新たなチャレンジに活かす」というポジティブな意味へと発想を切り替えることで、事業の永続的な発展を期待できます。
また、国や自治体からもこうした事業承継への支援の輪が広がっています。事業承継の課題に突き当たっている経営者、後継者の方は、これを機に新たな視点に目を向けてみてはいかがでしょうか。
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