| 公開日 | 2023/07/04 |
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| 記載者 | 株式会社トマック |
M&A
被災した会社を誰に引き継ぐか──能登半島地震から考える、事業承継で確かめたい4つのこと
災害は、事業承継の相談そのものを止めてしまうことがあります
2024年1月1日に発生した能登半島地震から、2年9か月余りがたちました。同じ年の9月には、奥能登豪雨も重なりました。
中小機構の事業評価報告書では、石川県の事業承継・引継ぎ支援センターについて、地震や豪雨の影響を受け、令和6年度の相談件数・成約件数が目標に届かなかったことが報告されています。復旧が優先される状況では、会社を誰に引き継ぐかという話は、どうしても後回しになりがちです。
一方、被災した会社の引継ぎには、平時の事業承継にはない確認事項があります。復旧に利用した補助金、被災後の借入金、税制上の取扱いなどです。確認しないまま進めると、必要な事前承認を受けずに手続を進めてしまったり、補助金の返納を求められたりするおそれがあります。
地震や豪雨は、どの地域の会社にも起こり得ます。この記事では、能登の例を手がかりに、被災した会社を引き継ぐときに確かめたい4つのポイントを整理します。
1|復旧の補助金で直した施設・設備には、「処分の制限」がかかります
被災した施設や設備は、国や自治体の補助金を利用して復旧することがあります。能登半島地震では、石川県の「なりわい再建支援補助金」がその代表例です。
こうした補助金で取得・修繕した施設や設備は、一定期間、補助の目的どおりに使用することが求められます。この期間を「処分制限期間」といいます。
処分制限期間は、財産の種類や構造、用途などに応じて国の告示で定められています。石川県の資料では、例として、鉄筋コンクリート造の工場は24年、食料品製造業用の設備は10年とされています。修繕の場合も、原則として、補助事業による修繕が完了した日から処分制限期間が始まります。
処分制限期間中に、補助金で整備した施設・設備について次の行為をするときは、原則として、事前に知事の承認を受ける必要があります。処分の内容によっては、補助金の全部または一部の返納が必要になる場合もあります。
・譲渡(有償・無償を問わず、所有者が変わること)
・貸付け
・交換
・取り壊し、廃棄、転用
・担保に供すること
ただし、取得価額が50万円未満の設備を処分する場合や、処分制限期間を経過している場合など、承認申請が不要となるケースもあります。ただし、不動産や船舶(それらの従物を含む)は、金額にかかわらず承認が必要です。
事業承継との関係で重要なのは、石川県の資料が次のケースを、承認手続を行うことにより、補助金の返納が不要となる場合の例として挙げていることです。
・事業を第三者に引き継ぐ場合
・個人事業を相続した相続人が、引き続き事業を行う場合
ただし、どちらの場合も承認手続自体は必要で、個別の状況によって取扱いは異なります。事業を引き継いだ人も、残りの処分制限期間中は同じ制限を受けます。
買い手の側から見ると、補助金で取得・修繕した施設や設備は、「利用や処分に一定の条件が付いた資産」です。
売り手は、補助金で取得・修繕した資産の一覧、交付決定通知書、実績報告書、財産管理台帳など、交付条件が分かる書類を早めにそろえておくと、承継の検討を進めやすくなります。
株式譲渡、事業譲渡、個人事業の承継など、引継ぎの方法を決める前に、補助金の担当窓口へ相談してください。承認には時間を要することもあるため、早めの確認が大切です。
2|被災後の借入金と、経営者の個人保証を整理します
被災した会社では、施設や設備の復旧、休業中の運転資金などを確保するため、新たな借入れを行っている場合があります。
被災前からの借入金を抱えたまま、新たに復旧資金を借り入れることで返済負担が重くなる問題は、一般に「二重債務問題」と呼ばれます。
能登半島地震では、地域経済活性化支援機構(REVIC)、中小機構、石川県、地域金融機関などが共同で「能登半島地震復興支援ファンド」を設けました。ファンドの総額は100億円で、被災事業者の既往債権の買取りなどにより、財務内容の改善や新たな資金調達を支援する仕組みです。
事業承継では、借入金と経営者の個人保証をどのように扱うかが大きな論点になります。後継者や買い手が、前の経営者の保証をそのまま引き継ぐことに不安を感じるのは、被災した会社に限りません。
経営者保証については、事業承継の場面に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則があります。中小企業庁は、事業承継時の経営者保証の解除に向けた専門家による支援や、一定の要件のもとで経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」も案内しています。
被災後の借入れについて、返済猶予や返済条件の変更を受けている場合もあります。事業承継の相談を始める前に、次の事項を借入先ごとに一覧にしておくと、検討できる選択肢が見えやすくなります。
・借入先
・借入残高
・金利と返済期間
・返済猶予や条件変更の有無
・担保の内容
・保証人
・信用保証協会の保証の有無
・補助金や制度融資との関係
3|事業承継税制には、災害に関する措置があります
自社株式の贈与税・相続税の納税を猶予する「法人版事業承継税制」には、災害などによって会社が被害を受けた場合の特例的な措置があります。
国税庁の案内によると、主な内容は次の3つです。
【納税猶予税額の免除事由の追加】
一定の被害を受けた会社について、災害の発生前に贈与により株式を取得した後継者や、災害発生日から1年を経過する日の前日までに相続などにより株式を取得した後継者が対象です。経営承継期間内に、後継者が株式の全部を一定の相手に譲渡した場合や、会社について破産手続開始の決定・特別清算開始の命令があった場合は、一定の要件のもとで、猶予されていた税額が免除されることがあります。
【納税猶予期間中の事業継続要件などの免除・緩和】
会社が災害によって一定の被害を受けた場合、一般措置における雇用の確保に関する要件や、資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないことなどの要件について、被害の内容や程度に応じた免除・緩和措置があります。
なお、法人版事業承継税制の特例措置では、もともと雇用確保要件が弾力化されています。災害措置の適用関係は、一般措置か特例措置かによっても異なるため、個別の確認が必要です。
【相続税の納税猶予に関する適用要件の緩和】
災害などの発生日から1年を経過する日までの間に、相続または遺贈により非上場株式を取得した場合、一定の要件のもとで、相続税の納税猶予を受けるための要件の一部が不要となることがあります。
ここでいう一定の被害には、例えば次のようなものがあります。
・災害によって滅失した事業用資産が、一定の資産を除く総資産の30%以上となる場合
・災害発生日から6か月間継続して本来の業務に従事できない事業所に勤務していた従業員が、災害発生日前日の従業員総数の20%以上となる場合
措置の適用を受けるためには、都道府県知事の確認書の写しなど、所定の書類を添付した申請や届出が必要です。手続ごとに期限も定められています。
また、法人版事業承継税制の特例措置を利用するための特例承継計画の提出期限は、2027年9月30日です。対象となる株式の贈与・相続などの期限は、2027年12月31日です。
被災によって承継の時期を見直す会社は、復旧の見通しだけでなく、これらの期限との関係も早めに確認してください。
4|誰に引き継ぐか。選択肢は、親族と社内だけではありません
被災した会社でも、引継ぎの相手は親族や役員・従業員だけではありません。
全国の事業承継・引継ぎ支援センターでは、令和7年度の第三者承継(M&A)の成約件数が2,265件となり、過去最多を更新しました。
もう一つの選択肢が、全国48か所の事業承継・引継ぎ支援センターで運営されている「後継者人材バンク」です。
後継者人材バンクは、創業を目指す個人と、後継者が不在の中小企業・小規模事業者などを引き合わせ、創業と事業の引継ぎを同時に支援する仕組みです。令和7年度の成約件数は114件で、こちらも過去最多となりました。
店や工房、設備、従業員、取引先などを引き継げることは、ゼロから創業する人にとっても利点があります。被災した地域で事業や雇用を残す方法の一つとして、検討できる仕組みです。
まだ被災していない会社にとっては、平時の備えが、事業承継の備えにもなります。
中小企業庁の「事業継続力強化計画」は、中小企業が行う防災・減災の事前対策を計画としてまとめ、経済産業大臣の認定を受ける制度です。
認定を受けた事業者は、別途それぞれの制度の要件を満たすことにより、一定の税制措置、金融支援、一部の補助金における加点措置などの対象となる場合があります。認定を受けただけで、これらの支援が自動的に適用されるものではない点には注意が必要です。
株主の整理、借入金と保証の一覧化、許認可の確認、補助金で取得・修繕した資産の整理。こうした事業承継の下準備を平時に進めておけば、万一のときにも、復旧と承継を並行して検討しやすくなります。
ご相談・注記
当社は、富山・高岡・福井の事務所を拠点に、石川県を含む北陸全域で事業承継・M&Aのご相談をお受けしています。決算書などをもとに、企業価値の目安を無料で算定しています。
石川県の相談窓口、県の補助金、被災した事業者向けの相談先については、当社サイトの次の記事にまとめています。
→ 石川県の事業承継とM&A|金沢・能登の窓口と県の制度 https://tomac-gr.jp/news/ishikawa-jigyo-shokei/
出典
・中小機構「令和6年度に認定支援機関等が実施した事業承継・引継ぎ支援事業に関する事業評価報告書」
・中小機構「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2026年5月29日)
・石川県「石川県なりわい再建支援補助金に関する財産処分について」(令和6年4月)
・内閣府・金融庁・中小企業庁「『能登半島地震復興支援ファンド』の設立及び『能登産業復興相談センター』の開設について」(令和6年3月29日)
・中小企業庁「経営者保証」
・中小企業庁「事業継続力強化計画」
・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
・国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)に係る災害等に関する措置の概要」(令和8年7月)
※株式会社トマックがご相談の窓口となり、必要に応じて、提携する士業などの専門家と連携して進めます。
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。補助金、融資、税制その他の支援制度は、個別の事情や手続の時期によって取扱いが異なります。実際に手続を行う前に、各制度の担当窓口、金融機関、税理士などの専門家へご確認ください。
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