| 公開日 | 2023/07/04 |
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| 記載者 | 株式会社トマック |
M&A
「うちの会社はいくらで売れる?」とAIに聞いた社長へ──答えが頼りにならない理由と、役に立つ聞き方
「数秒で出た値段」は、考え始める合図です
決算書を開き、売上と利益をAIに入力して、「この会社はいくらで売れますか」と聞く。そんな経営者が増えています。答えは数秒で返ってきます。
その数字は、会社の売却を考え始めるきっかけにはなります。しかし、そのまま会社の売却価格になるわけではありません。
この記事では、AIが出した会社の評価額をそのまま頼りにできない理由を3つ説明します。そのうえで、専門家との面談前に役立つAIの使い方を4つ紹介します。
1|決算書の数字を、そのまま会社の価値にはできません
中小企業の決算書は、会計上のルールに基づいて作成されます。ただし、実務上は税務の影響を受けていることも多く、会社の売却を前提に作られた資料ではありません。
例えば、土地は原則として取得時の価額を基に計上されます。建物は通常、取得価額から減価償却を行った帳簿価額で計上されますが、その金額が現在の市場価値と一致するとは限りません。
生命保険などについても、決算書に計上された資産額と、実際に解約した場合に受け取れる解約返戻金の額が異なることがあります。
会社の価値を検討するときは、こうした帳簿上の数字を現在の実態に合わせて調整します。例えば、次のような確認が必要です。
・土地や建物の帳簿価額と、現在の市場価値との差を確認する
・保険積立金などを、現時点の解約返戻金相当額に置き直す
・回収の見込みが低い売掛金や、販売・使用の見込みが低い在庫を精査する
・役員借入金などの負債の内容を確認する
・未払い残業代など、決算書に十分反映されていない債務がないか確認する
・役員退職慰労金規程などがある場合は、将来の支給可能性や金額を確認する
・経営者個人の名義になっている事業用の土地、建物、車両などがないか確認する
・役員報酬や一時的な経費などを見直し、買い手が事業を引き継いだ後の収益力を検討する
AIに決算書の数字だけを入力しても、こうした調整を正確に行うことは困難です。会社の価値を検討するために必要な情報の多くが、決算書の外にあるからです。
AIに追加資料や詳しい条件を与えれば、一定の整理や試算はできます。しかし、資料の正確性や個別事情までAIが確認してくれるわけではありません。
当社が企業価値の目安を算定するときも、最初に行うのは計算ではなく、会社の資産、負債、収益の実態を確認することです。
2|AIは一般的な計算方法を示せても、買い手の事情までは分かりません
AIに会社の価値を尋ねると、一般的によく使われる算定方法を当てはめた回答が返ってくることがあります。
例えば、「時価純資産に営業利益の数年分を加える」「利益に一定の倍率を掛ける」といった方法です。
こうした方法は、専門家が企業価値の目安を検討するときにも使います。ただし、問題は「何年分を加えるのか」「何倍とするのか」という幅です。利益の2年分を加える場合と5年分を加える場合とでは、算定結果が大きく異なります。
どの程度の年数や倍率を見るかは、業種や事業の安定性、成長性などによって変わります。
さらに、次のような事情でも評価は変わります。
・経営者が退任した後も事業が回る仕組みがあるか
・取引先との関係が会社ではなく、経営者個人に依存していないか
・特定の取引先への依存度が高くないか
・従業員や許認可、技術、設備、顧客基盤などに強みがあるか
・将来も安定した利益を見込めるか
決算書の数字だけでは、AIはこうした事情を十分に把握できません。
もう一つ、AIには分からない重要な要素があります。それは、実際の買い手が誰かということです。
同業者で、設備や人材を求めている会社と、新しい地域への進出を目指している会社とでは、同じ会社に対して提示する条件が異なることがあります。自社との相乗効果を高く評価する買い手が現れれば、一般的な算定額を上回る条件が提示される可能性もあります。
また、複数の買い手候補が関心を示せば、条件を比較しやすくなります。反対に、買い手候補が1社しかいなければ、その相手との交渉状況に大きく左右されます。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、バリュエーションは譲渡額を決める際の目安の一つであり、最終的な譲渡額は当事者間の交渉によって決まると説明されています。
AIが出した数字を確定的な価格だと思ったまま面談に臨むと、話が進みにくくなることがあります。その数字より低い評価は受け入れにくくなり、反対に高い評価についても、その理由を冷静に検討しにくくなるからです。
AIが示した数字は、あくまで幅のある試算の一つとして受け止めるのがよいでしょう。
3|AIは、推測や誤りも自然な文章で答えます
AIの回答は、確かな情報も、推測も、誤った情報も、同じような自然な文章で表示されます。
会社の評価やM&Aの話では、ここが落とし穴になります。
税制の適用期限、補助金の要件、行政上の制度などは改正されることがあります。AIの回答が、古い情報に基づいている可能性もあります。また、存在しない制度名や、明確な根拠のない倍率を、もっともらしく示すこともあります。
個人情報保護委員会も、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあるとして、利用者に注意を促しています。
対処方法は、難しくありません。
・「その回答の出典は何ですか」と聞く
・「いつ時点の情報ですか」と確認する
・制度、税率、期限などは省庁や自治体の公式ページで確認する
・最終的な判断は、税理士、弁護士、公認会計士などの専門家に確認する
この4点を意識すれば、AIの回答を検討材料として使いやすくなります。
また、AIに情報を入力するときは、情報管理にも注意が必要です。社名、取引先名、従業員の個人情報、未公表の決算情報などを安易に入力せず、利用するAIサービスの規約やデータの取扱いを確認してください。
個人情報保護委員会は、個人情報を含む情報を生成AIへ入力する場合、利用目的の範囲や、入力情報が機械学習に利用されないかなどを確認するよう注意を促しています。
4|それでも、AIは「質問を整える道具」として役に立ちます
AIは、会社の売却価格を決める道具としては頼り切れません。しかし、専門家との面談に向けて考えを整理する道具としては、とても役に立ちます。
事前に基本的な用語や論点を調べてから相談すると、限られた面談時間をより有効に使えます。
【用語を知る】
「のれん」「時価純資産」「基本合意」「表明保証」といった言葉の意味を、AIに分かりやすく説明してもらいます。
基本的な用語を事前に知っておけば、面談で会社固有の問題により多くの時間を使えます。
【質問を作る】
AIに次のように聞いてみます。
「会社の売却に関する初回面談で、企業価値の算定について専門家に確認すべきことを挙げてください。」
AIが作った質問一覧を、面談にそのまま持参しても構いません。
ただし、すべてが自社に当てはまるとは限らないため、優先順位を付けながら確認するとよいでしょう。
【会社の強みを言葉にする】
AIに次のように頼みます。
「自分では当たり前だと思っている会社の特徴を、買い手から見た強みに言い換えてください。」
長年の取引関係、従業員の技術、地域での知名度、許認可、立地、利益の安定性などは、経営者にとって当たり前でも、買い手から見れば重要な魅力になることがあります。
AIとのやり取りは、ノンネームシートや企業概要書を作成するときの材料にもなります。
【買い手候補の類型を考える】
AIに次のように聞いてみます。
「この業種の会社を買収するとしたら、どのような業種や目的を持つ会社が候補になりますか。」
同業者、取引先、周辺業種の会社、地域進出を目指す会社など、買い手候補を考える切り口が得られます。
ただし、AIが挙げた会社や業種が実際に買収を検討しているとは限りません。候補の仮説を作るための材料として使ってください。
【AIへの聞き方には型があります】
「この会社はいくらで売れますか」と聞くのではなく、次のように質問してみてください。
・会社の評価では、どのような項目を確認するのか
・決算書のどの数字を調整する可能性があるのか
・会社の評価を上げる要素、下げる要素には何があるのか
・専門家との初回面談で何を確認すべきか
・自社の強みを買い手に伝えるには、どのような情報が必要か
入力するときは、社名、個人名、取引先名などを外し、必要に応じて数字を丸めます。回答には根拠と情報の時点を求めます。
この3点を守るだけでも、AIをより安全で役立つ道具として使いやすくなります。
ご相談・注記
当社では、決算書などを基に、企業価値の目安を無料で算定しています。
AIに聞いた数字を、そのまま持って来ていただいて構いません。その数字と当社の算定結果がなぜ違うのかをご説明するところから、会社の資産、負債、収益力、事業上の強みなど、実態に即した検討が始まります。
譲渡と廃業で手取り額がどのように変わるかについては、当社サイトの記事で試算しています。
→ 会社の廃業費用はいくらか|北陸で譲渡と比べる https://tomac-gr.jp/news/haigyo-jouto-hikaku/
出典
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」および同参考資料
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
※株式会社トマックがご相談の窓口となり、必要に応じて提携する士業専門家と連携して進めます。
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。制度の内容や企業価値評価の考え方は案件ごとに異なりますので、個別の判断を行う前に専門家へご相談ください。
株式会社トマック
中小企業庁「M&A支援機関登録制度」の登録M&A支援機関/中小M&Aガイドライン遵守宣言
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