| 公開日 | 2023/07/04 |
|---|---|
| 記載者 | 株式会社トマック |
M&A
事業の土地が、会社の資産ではなかった──譲渡の前にオーナー個人の不動産を棚卸しする
「あの土地も自分名義だった」は、後から出てくる
譲渡の話が具体化してから、社長が「そういえば、あの土地も自分の名義だったかもしれない」と言い出す。中小企業の譲渡では珍しくありません。
オーナー個人が持つ不動産は、会社の帳簿にも稟議資料にも載りません。手がかりは本人の記憶と、机の引き出しに入っている書類だけです。
その棚卸しに使える仕組みが、2026年2月2日に動き出しました。所有不動産記録証明制度といいます。名義人を指定すると、全国の不動産が1通の一覧証明書になって出てきます。
個人名義のままの不動産は、会社の資料には出てこない
もともとは自宅の隣の畑だった。そこへ会社の倉庫を建て、会社が個人に地代を払う形にした。地方の中小企業ではよく見る成り立ちです。
日々の事業には支障がないので、代替わりのときも登記だけが残ります。中小企業庁の事業承継ガイドラインも、承継の準備として「会社と個人の関係の明確化」を挙げています。
その入口が、名義人ごとの不動産の一覧です。
出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
「本人も把握していない」は、想像より多い
当社の相続のご相談でも、「どこに不動産があるか分からない」という照会が月に4〜5件あります。ご家族が分からないのですから、買い手が資料から拾えるはずもありません。
出てくるのは、農地や山林、過去に投資目的で取得された未開発のリゾート地域の土地です。開発が止まった地域では固定資産税が課されていないこともあり、通知書からも追えません。
譲渡の交渉が進んでから出てくると、対象資産の線引きをやり直すことになります。
制度の使い方は、思ったより単純です
請求できるのは、所有権の登記名義人本人と、その相続人その他の一般承継人、そして代理人です。
登記名義人には法人も含まれます。つまり対象会社自身の不動産も、全国分をまとめて確認できます。支店や旧工場の土地が社内資料から漏れているかどうかを、登記側から突き合わせられます。
請求先は、全国のどの法務局・地方法務局でも構いません。窓口・郵送・オンラインのいずれでも請求できます。
出典:法務省「所有不動産記録証明制度について」
手数料の数え方に、ひとつ罠があります
手数料は「検索条件1件につき、1通当たり」です。ここを1通あたりの定額と読むと、見込みが外れます。
書面請求は1,600円、オンライン請求は郵送交付1,500円・窓口交付1,470円です。旧住所や旧姓を足していくと、指定した条件の本数だけ金額が積み上がります。
書面請求で検索条件を4件指定すれば、請求は1通でも6,400円です。長く商売をしてきたオーナーは転居も改姓も重なりがちで、条件が増える側の人です。
この証明書だけでは、棚卸しは終わりません
法務省は、検索結果に出てこない不動産を4つ挙げています。ここを知らずに一覧だけを信じると、抜けたまま先へ進みます。
1つ目は、登記記録上の氏名・住所と検索条件が一致しない不動産です。転居や改姓のあと登記が古いままだと拾えません。
2つ目は、同姓同名の別人の不動産が混じる場合です。所在地と登記内容の確認が要ります。
3つ目は、登記簿がコンピュータ化されていない不動産です。古い山林や、長く動きのない土地で起こります。
4つ目は、所有権の登記がされていない不動産です。表示に関する登記だけの土地・建物は、そもそも検索の対象外です。
出典:法務省「所有不動産記録証明制度について」
抜けを埋めるのは、市町村の「名寄帳」です
名寄帳は固定資産課税台帳の写しです。ひとつの市町村が課税している範囲で、指定した名義人の不動産が並びます。
所有不動産記録証明書は登記を出どころにした全国の一覧、名寄帳は課税を出どころにした市町村単位の一覧です。台帳が別なので、両者の内容はずれることがあります。
課税されていない土地まで載ることがあるのが、名寄帳の効きどころです。納税通知書には現れない私道が、ここで初めて姿を見せます。手数料は市町村によりますが、1件あたり数百円の水準です。
名義が動いていない不動産でも、課税の側では相続人の代表者が納税義務者になっていることがあります。突き合わせないと全体像は出ません。
譲渡のスキームは、不動産の帰属で変わります
株式譲渡なら、会社名義の不動産はそのまま買い手に移ります。個人名義の不動産は移りません。
そこで、譲渡と同時に個人から会社へ売る、賃貸借を結び直す、対象から外して賃料だけ整える、といった選択が出てきます。どれを選ぶかで、オーナーの手取りと買い手の負担が変わります。
この判断は、不動産の全量が分かっていなければ組めません。表明保証で資産の帰属を書き切るには、一覧が先に必要です。
個人保証と担保は、不動産とセットで出てきます
個人名義の不動産には、会社の借入の担保が設定されていることがあります。登記事項証明書を取れば、担保の有無と債権者が分かります。
1通あたり、書面請求は600円です。オンライン請求なら窓口交付490円、郵送交付520円になります。数が多いと積み上がるので、まず一覧を作り、必要なものだけ取るのが無駄がありません。
経営者保証の解除の交渉も、担保の状況が分かってから組み立てるほうが早く進みます。
過去の相続で名義が止まっている会社は、2027年3月31日を意識してください
先代名義のまま動いていない不動産があるなら、相続登記の申請義務化の対象です。
2024年4月1日より前に始まった相続は、原則の期限が2027年3月31日です。取得を知った時点が2024年4月以降であれば、その日を起点に3年以内となります。
戸籍を出生から死亡まで集める作業は、相続の回数だけ重なります。数か月かかることもあり、想定した決済日に間に合わないことがあります。
出典:法務省「相続登記の申請義務化について」
生前に、オーナー自身が取っておくのがいちばん早い
所有権の登記名義人は、自分の分を自分で請求できます。相続関係を示す戸籍も要りません。
譲渡を考え始めた段階でオーナー自身が一覧を取っておけば、デューデリジェンスの資料要求にそのまま出せます。遺言や財産目録にも流用できます。
やる順番は次の3つです。
1. オーナー個人と会社の名義で、所有不動産記録証明書を取る
2. 不動産のある市町村ごとに名寄帳を取り、非課税の土地と課税の記録を突き合わせる
3. 帰属を決める必要があるものだけ、登記事項証明書で担保と権利関係を確認する
工程1と2は書類が揃えば動きます。時間が読めないのは、名義を動かす必要が出たときです。
ご相談は、方針が決まる前で構いません
「会社の土地が誰の名義か、正確には分からない」という段階で十分です。何をどの順番で確かめるかを、費用の見込みとあわせて一覧にしてお渡しします。
地域ごとの窓口や手数料、市役所での申請の実際は、当社サイトの記事にまとめてあります。
【富山】親名義の不動産の調べ方|所有不動産記録証明制度と名寄帳
https://tomac-law.jp/fudosan-shirabekata/
事業承継・M&Aのご相談
https://tomac-gr.jp/shoukei/
※ 不動産の名義変更(相続登記)の申請は提携する司法書士事務所、譲渡に伴う税務は提携する税理士法人が対応します。
※ 本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づいています。制度は改正されることがありますので、お手続きの前にご確認ください。
関連コラム
