| 公開日 | 2026/03/24 |
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| 記載者 | シェアモル株式会社 |
M&A
【バトンズ独自コラム】調剤薬局のM&A・事業承継を徹底解説【2026年最新】
この記事でわかること
本記事はバトンズに掲載するために書き下ろした独自コラムです。M&A仲介のプロであるシェアモルM&Aのアドバイザーが、調剤薬局におけるM&A・事業承継の最新動向をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
・調剤薬局業界でM&Aが急増している背景と最新の市場動向
・調剤薬局を売却する際の相場感と価格に影響する要素
・売り手・買い手それぞれにとってのM&Aのメリットと注意点
・2025年〜2026年に実際に行われた調剤薬局M&Aの実名事例
調剤薬局の業界動向とM&Aが増えている背景
市場規模と店舗数の推移
調剤薬局業界は、日本の医療制度において欠かせない存在です。厚生労働省の発表によると、2024年度の調剤医療費は前年度比1.6%増の約8.4兆円に達しました。2019年度と比較すると約7,000億円の増加であり、高齢化の進展や医薬分業率の上昇を背景に市場規模は堅調に拡大を続けています。
一方、全国の薬局数は約6万2,000〜6万3,000軒で推移しており、コンビニエンスストアの店舗数を上回る水準にあります。しかし近年は新規出店のペースが鈍化しており、今後は店舗数の純増よりも既存薬局の集約・再編が進むフェーズに入ったとみられています。
M&Aが増加している4つの背景
第一に、調剤報酬・薬価改定による収益性の低下があります。2年ごとに実施される調剤報酬改定では、調剤基本料や技術料が段階的に引き下げられてきました。特に特定の医療機関に処方箋が集中する門前薬局では、報酬の減額幅が大きく、従来の経営モデルでは利益を確保しにくい状況に陥っています。2025年の改定では、対物業務から対人業務へのシフトがさらに明確化され、地域支援体制加算などの要件を満たせない小規模薬局にとってはいっそう厳しい経営環境となっています。
第二に、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な問題です。いわゆる「パパママ薬局」と呼ばれる個人経営の調剤薬局では、開業オーナーの高齢化が進む一方で、親族に薬剤師資格を持つ後継者がいない、あるいは後継者に事業を引き継ぐ意思がないケースが増えています。後継者不在のまま廃業すれば、地域住民の医療アクセスが失われるリスクもあり、第三者への事業承継としてのM&Aが有力な選択肢となっています。
第三に、薬剤師不足の問題があります。薬学部の6年制移行に伴い薬剤師の供給が一時的に減少した影響もあり、特に地方では薬剤師の採用が困難な状態が続いています。在宅医療やかかりつけ薬局としての機能強化が求められる中、人材を十分に確保できない薬局は単独での経営維持が難しくなっています。
第四に、大手チェーンやドラッグストアの積極的なM&A戦略が挙げられます。調剤薬局業界は上位10社の市場占有率が売上高ベースで約14%、店舗数ベースで約8%にとどまっており、他の小売業界と比較して寡占化が進んでいません。大手調剤チェーンやドラッグストアは、新規出店が飽和状態にある中で、M&Aによる地域薬局の取り込みを成長戦略の柱に位置づけています。
PEファンドの参入と業界再編の加速
近年の特筆すべきトレンドとして、投資ファンド(PEファンド)による調剤薬局業界への関与が挙げられます。2020年にポラリスキャピタルが総合メディカルグループの株式を取得し、2023年にはCVCキャピタル・パートナーズに売却するなど、ファンド間での大型取引も行われています。2025年にはアドバンテッジパートナーズが日本調剤に対するTOB(公開買い付け)を実施し、業界に大きな衝撃を与えました。こうしたファンドの参入は、業界再編のスピードをさらに加速させるものと考えられます。
調剤薬局のM&A相場・売却価格の目安
一般的な算定方法
調剤薬局のM&Aにおける売却価格は、主に「時価純資産+営業権(のれん)」の考え方で算定されるのが一般的です。営業権については、年間の調剤報酬(技術料)や営業利益をベースに、おおむね2〜5年分を目安とする「年倍法」が広く使われています。小規模な調剤薬局では「薬局の時価純資産+営業利益の2〜3年分」、地域で一定のブランド力や処方箋枚数を持つ薬局であれば「営業利益の3〜5年分」が目安とされるケースが多いです。
売却価格に影響する主な要素
・処方箋枚数と応需医療機関の数:1日あたりの処方箋枚数は収益力を直接的に示す指標です。複数の医療機関から処方箋を受けている面対応型薬局は、門前薬局よりも集中リスクが低く、高い評価を受ける傾向があります。
・立地条件:人口密集地、駅前、病院・クリニックの近隣に位置する薬局は買い手の関心が高くなります。一方、競合薬局が少ないエリアの薬局も、その地域での独占的な処方箋確保が期待でき、評価が高くなるケースがあります。
・薬剤師の在籍状況:管理薬剤師を含む薬剤師の人数と勤続年数は大きなポイントです。M&A後も薬剤師が引き続き勤務してくれるかどうかは、買い手にとって重要な判断材料となります。
・在宅医療・かかりつけ機能の対応状況:在宅訪問薬剤管理指導やかかりつけ薬剤師指導料の算定実績がある薬局は、今後の報酬改定にも対応しやすい体制が整っていると評価されます。
・施設・設備の状態:無菌調剤室の有無、電子薬歴システムの導入状況、店舗の内装・外装の状態なども価格に影響します。
概算レンジ
一般的な目安として、年間売上高が1億円前後の小規模調剤薬局であれば、売却価格は数千万円〜1億円程度の範囲が多いとされます。複数店舗を持つ中規模チェーンになると数億円〜数十億円、さらに大手チェーンの買収となれば数百億円規模にのぼります。ただし、調剤報酬改定の動向や薬局の立地・人材状況によって価格は大きく変動するため、正確な価格算定にはM&Aの専門家による個別評価が不可欠です。
調剤薬局をM&Aで売却・承継するメリット
売り手(譲渡側)のメリット
従業員の雇用を守れることは、薬局オーナーにとって最大の安心材料です。廃業を選べば従業員は失業し、地域の患者も通い慣れた薬局を失うことになります。M&Aで事業を引き継いでもらうことで、従業員はそのまま雇用を継続でき、患者へのサービスも途切れません。
創業者利益を実現できる点も大きなメリットです。長年にわたって築き上げた顧客基盤やブランドを適正価格で譲渡することで、引退後の生活資金やセカンドキャリアへの投資原資を確保できます。
さらに、経営負担からの解放も見逃せないポイントです。調剤報酬改定への対応、薬剤師の採用・教育、電子処方箋やマイナ保険証への対応など、年々増加する経営課題から解放され、心身の負担を軽減できます。
買い手(譲受側)のメリット
許認可と人材をまとめて取得できるのは、調剤薬局M&Aの最大の特徴です。新規に薬局を開設するには、保険薬局の指定申請や管理薬剤師の確保が必要ですが、M&Aであれば既存の許認可と薬剤師スタッフをそのまま引き継ぐことができます。
既存の患者基盤・処方元医療機関との関係を承継できるため、新規出店に比べて開業直後から安定した収益が見込めます。地域での長年の信頼関係は一朝一夕で築けるものではなく、M&Aによって即座に獲得できる大きなメリットです。
スケールメリットの実現も重要です。店舗数の拡大により、医薬品の仕入れコスト削減、バックオフィス業務の効率化、薬剤師の柔軟な配置などが可能となり、グループ全体の収益力を高めることができます。
調剤薬局のM&Aで注意すべきポイント
許認可の承継手続き
調剤薬局のM&Aでは、保険薬局の指定や薬局開設許可の取り扱いに注意が必要です。株式譲渡の場合は法人格が変わらないため許認可はそのまま維持されますが、事業譲渡の場合は新たに許認可を取得し直す必要があります。行政手続きに一定の期間がかかるため、スキーム選択の段階で十分な検討が求められます。
薬剤師・キーパーソンの離職リスク
調剤薬局の価値は薬剤師の技術力と患者との信頼関係に大きく依存しています。M&A後に管理薬剤師やベテラン薬剤師が離職してしまうと、営業に支障をきたす可能性があります。買い手は、買収前の段階で主要な薬剤師の処遇条件や今後の勤務意思を確認し、必要に応じてリテンション策(引き留め策)を講じることが重要です。
処方元医療機関との関係
門前薬局の場合、処方元となる医療機関との関係が事業の根幹を成します。医師の高齢化や閉院リスク、医療機関の方針変更によって処方箋枚数が大きく変動する可能性があるため、デューデリジェンスの段階で処方元の状況を入念に確認する必要があります。
調剤報酬改定リスク
2年ごとに実施される調剤報酬改定は、薬局の収益構造に直接影響を与えます。将来の改定動向を見据えた事業計画の策定や、地域支援体制加算・かかりつけ薬剤師指導料など、今後評価が高まると見込まれる加算への対応状況をデューデリジェンスで確認することが重要です。
在庫医薬品の評価
調剤薬局では多種多様な医薬品在庫を保有しています。使用期限切れ間近の在庫や不動在庫の存在は、実質的な資産価値の目減りにつながります。M&Aに際しては、医薬品在庫の棚卸しと適正な評価を行うことが不可欠です。
調剤薬局のM&A成功事例
事例1:アインホールディングスによるクラフト(さくら薬局グループ)の買収(2025年5月)
時期:2025年5月(株式譲渡契約締結)、同年8月に株式取得完了
売り手:クラフト株式会社(東京都千代田区)。「さくら薬局」ブランドで首都圏・関西圏・東海地方を中心に約800店舗の調剤薬局を展開。2022年に事業再生ADRを申請し、投資ファンドの日本産業推進機構グループ(NSSK)に買収されて経営再建を進めていた。
買い手:株式会社アインホールディングス(札幌市)。調剤薬局「アイン薬局」を全国展開する業界最大手。
スキーム:株式譲渡(NSSKが保有する全株式を591億円で取得)。
結果・ポイント:本買収によりアイングループの店舗数は2,141店舗となり、売上高は単純合算で5,000億円規模に到達しました。業界再編の象徴的な大型案件であり、ファンドが経営再建を行った後に事業会社へ引き渡す「ファンド→事業会社」のモデルケースとしても注目されています。
出典:アインホールディングス プレスリリース(2025年5月29日)、日本経済新聞(2025年8月1日)
事例2:アインホールディングスによるエーアンドエムの買収(2025年3月)
時期:2025年3月
売り手:株式会社エーアンドエム(新潟県)。新潟県内で約30店舗の調剤薬局を運営する地域密着型チェーン。
買い手:株式会社アインホールディングス(札幌市)。
スキーム:株式譲渡(全株式取得による子会社化)。
結果・ポイント:この買収により、アインホールディングスの店舗数は1,270店舗を超えました。新潟県という地方エリアでの地域密着型薬局チェーンの取り込みは、大手が地方市場へ浸透する典型的なM&A事例です。地域での信頼と顧客基盤をそのまま引き継ぎ、スケールメリットを活かした経営効率の向上が期待されています。
出典:アインホールディングス「株式会社エーアンドエムの株式取得に関するお知らせ」(2025年3月)
事例3:アドバンテッジパートナーズによる日本調剤のTOB(2025年7月)
時期:2025年7月(公開買い付け開始)、同年9月にTOB成立
売り手(対象企業):日本調剤株式会社(東証プライム上場)。業界大手の調剤薬局チェーン。
買い手:アドバンテッジパートナーズ(PEファンド)が設立した特別目的会社(AP86)。
スキーム:TOB(公開買い付け)による非上場化。投資額は1,000億円超とされる。
結果・ポイント:日本のPEファンドの草分けであるアドバンテッジパートナーズが調剤薬局大手を非上場化するという、業界に衝撃を与えた案件です。上場廃止後は経営の自由度を高め、積極的なM&Aで企業価値の向上を図るものとみられています。PEファンドが調剤薬局業界を有望な投資先と位置づけていることを示す象徴的な事例です。
出典:スピカコンサルティング「2025年7月の調剤薬局業界M&Aまとめ」、日本M&Aセンター M&Aニュース
事例4:クリエイトSDホールディングスによるサンエフの子会社化(2025年8月)
時期:2025年8月
売り手:株式会社サンエフ(東京都府中市)。東京都府中市を中心に9店舗の調剤薬局を運営。
買い手:株式会社クリエイトSDホールディングス。調剤薬局事業、ドラッグストア事業、デイサービス事業などを展開するヘルスケア企業。
スキーム:連結子会社を通じた株式取得による子会社化。
結果・ポイント:ドラッグストア系企業による調剤薬局の取り込み事例です。クリエイトSDホールディングスは既存のドラッグストア網と調剤薬局事業のシナジーを追求しており、異業種からの参入による業界再編の一端を示しています。
出典:fundbook「調剤薬局のM&A動向を解説」(2025年11月更新)
調剤薬局のM&A・事業承継の流れ
ステップ1:事前準備と専門家への相談
まず、自社の経営状況を客観的に把握し、M&Aの目的(引退、経営改善、事業拡大など)を明確にします。調剤薬局のM&Aは許認可や調剤報酬制度など専門知識が求められるため、薬局業界に精通したM&A仲介会社やアドバイザーに早い段階で相談することをおすすめします。
ステップ2:企業価値の算定
財務諸表の整理に加え、処方箋枚数や応需医療機関の状況、薬剤師の在籍状況など、調剤薬局特有の価値評価ポイントを整理します。正確な企業価値を把握することで、交渉をスムーズに進めることができます。
ステップ3:買い手候補の選定とマッチング
M&A仲介会社を通じて、薬局の特性に合った買い手候補を探します。大手チェーン、地域の中堅薬局、ドラッグストア、PEファンドなど、買い手の種類によってM&A後の薬局運営の方向性が異なりますので、売り手オーナーの希望を踏まえて慎重に選定します。
ステップ4:条件交渉と基本合意
買い手候補との間で、売却価格、スキーム(株式譲渡・事業譲渡など)、従業員の処遇、引き継ぎ期間などの条件を交渉し、基本合意書を締結します。
ステップ5:デューデリジェンス(買収監査)
買い手側が、財務・税務・法務に加え、調剤報酬の算定状況、処方元医療機関との契約関係、薬剤師の雇用条件、医薬品在庫の状態、許認可の有効性など、調剤薬局特有の項目についても詳細な調査を行います。
ステップ6:最終契約と実行(クロージング)
デューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な条件調整を経て、株式譲渡契約(または事業譲渡契約)を締結します。クロージング後は、許認可の変更届出、従業員への説明、患者への告知、システム統合などを段階的に進めます。
まとめ:調剤薬局のM&Aを成功させるために
調剤薬局業界は、調剤報酬改定の影響、経営者の高齢化、薬剤師不足、大手チェーンやドラッグストアの業界参入といった複数の要因が重なり、かつてないペースで再編が進んでいます。2025年にはアインホールディングスによるさくら薬局グループの約800店舗の買収や、アドバンテッジパートナーズによる日本調剤のTOBなど、大型案件が相次ぎました。
こうした大型M&Aの陰で、日本全国では多くの中小調剤薬局が、後継者不在や経営環境の悪化を背景にM&Aによる事業承継を選択しています。M&Aは廃業とは異なり、従業員の雇用を守り、地域の患者が安心して薬をもらい続けることのできる前向きな選択肢です。
調剤薬局のM&Aを成功に導くためには、業界特有の許認可や報酬制度に精通した専門家に相談し、適切なタイミングで準備を始めることが大切です。近年は買い手企業が薬局の質を厳しく見極める傾向が強まっており、「いつでも売れる」という状況ではなくなりつつあります。まだ経営が安定しているうちに、将来の選択肢としてM&Aを検討しておくことをおすすめします。
シェアモルM&Aでは、調剤薬局業界に精通したアドバイザーが、オーナー様の想いに寄り添いながら、最適なM&A・事業承継のお手伝いをいたします。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務・財務アドバイスを構成するものではありません。具体的なM&Aの進行に際しては、弁護士・税理士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談ください。
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