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年買法とは?意味や計算方法を専門家が解説

2023年10月10日

今回は、「年買法とは?」について、解説します。

年買法? 聞きなれない言葉ですね。しかし、企業を売却したい・買収したいと考えている方には必ず知っておいていただきたいM&A用語です。

年買法は、企業価値評価方法の1つであり、算定方法も簡便なため、特に中小企業のM&Aを検討する際は、積極的に活用される評価方法となっています。

本編では、年買法による企業価値評価方法だけではなく、他の評価アプローチにも触れていますので、M&Aにおける企業価値評価の基礎知識を習得したい方には、是非、最後までご覧いただき、M&Aの成功に役立てていただければと思います。

今回のラインナップは、年買法についての、

①年買法の意味
②年買法の考え方
③年買法の計算方法
④年買法のデメリット
⑤年買法のデメリットを補うためには

を中心に、解説していきます。

※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、「【徹底追究】のれんの算定方法!」も解説していますので、是非、ご覧ください!

 


【監修者プロフィール】


合同会社アジュール総合研究所 / 代表社員
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)

「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ

【必見!】巻末にスモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 代表 伊藤氏よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!

 

 

 

年買法の意味

年買法とは、企業価値評価方法の一つであり、評価対象企業の時価純資産にのれん(営業権)として、一般的には営業利益の複数年分(1〜5年分)を加算して企業価値を算定する評価方法のことです。

企業価値評価としては、時価純資産に営業利益の複数年分を加算するだけで簡便に算定できることや、売り手・買い手両者の感覚値で成約価額が決定する傾向にある中小企業のM&Aでは非常に重宝される評価方法です。

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営業利益の複数年分は、時価純資産とM&A成約価額の差額となり、「のれん(営業権)」と呼ばれます。M&A成約後、獲得が予想される営業利益として、時価純資産に加算するわけです。

のれん(営業権)を営業利益の何年分にするかは、売り手・買い手間の交渉の中で協議決定されます。

 

 

年買法の考え方

年買法の考え方を知る前に、M&Aにおける企業価値評価の算定方法について説明しましょう。

M&Aにおける企業価値評価の算定方法は、以下の方法があります。

 

【企業価値評価の算出方法】

インカムアプローチ
対象会社の収益力にスポットを当てた評価方法です。
評価方法には、DCF法配当割引モデルなどがあります。

コストアプローチ
対象会社の純資産にスポットを当てた評価方法です。
評価方法には、簿価純資産法時価純資産法があります。

マーケットアプローチ
株式市場の市場株価にスポットを当てた評価方法です。
評価方法には、類似会社比較法類似取引比較法市場株価平均法があります。

 

ここで、企業価値の算定方法のメリット・デメリットも図解して見てみましょう。

【企業価値の算定方法のメリット・デメリット】

企業価値の算定方法 メリット デメリット
インカムアプローチ 将来性を反映させやすい
個別の価値を反映させやすい

M&A以外でも利用可能
恣意性をはらむ
精算予定の会社は不向き
コストアプローチ 客観性が高い 収益性を反映できない
市況を反映できない
帳簿の誤りに左右される
マーケットアプローチ 客観性が高い 類似会社が必要
市況に左右される
個別の価値を反映しにくい

 

まず、年買法は、コストアプローチの一種であると言えます。しかし、コストアプローチは、企業価値評価結果の客観性が高い反面、収益性を反映できないというデメリットがあります。

そこを補完する意味で、のれん(営業権)として、営業利益の複数年分(1〜5年分)を加算し、インカムアプローチのメリットである、評価対象企業の将来性や個別の価値を反映させて、企業価値を算定する手法を取っています。

年買法とは、いわば、コストアプローチとインカムアプローチの合いの子のような企業価値評価方法と言うわけです。

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年買法の計算方法

前出の通り、年買法とは、企業価値評価方法の一つであり、評価対象企業の時価純資産にのれん(営業権)として、一般的には営業利益の複数年分(1〜5年分)を加算して企業価値を算定する評価方法のことです。

これを、計算式で表してみましょう。

【計算式】
年買法の企業価値評価結果=時価純資産+のれん(一般的に営業利益の複数年分)

決算報告書から数字を引用すれば、簡単に算定はできますが、企業価値評価としての合理性や、交渉当事者間の合意、デューデリジェンス(買収監査)を見越した場合は、年買法の企業価値評価結果を構成する「時価純資産」と「のれん」の算定方法も熟知しておく必要があります。

※「時価純資産」と「のれん」の算定方法については、巻末にある今回記事のワンポイントアドバイスで詳しく解説しておりますので、是非、ご覧下さい。

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年買法のデメリット

年買法は、上記計算方法をご覧いただいたとおり、非常に簡便に算定でき、売り手・買い手双方にも分かりやすい企業価値評価方法となっていますが、デメリットも存在します。

このセクションでは、年買法を利用する際のデメリットをご紹介します。

 

ファイナンス理論に基づいて算出される評価方法ではない

年買法は、中小企業のM&A独自の企業価値評価方法であり、ファイナンス理論に基づいて算出される評価方法ではありません

時価純資産については、コストアプローチに基づいた考え方となっており、算定結果は概ね合理的に見積もることは可能ですが、問題は「のれん」部分です。

一般的には、営業利益の複数年分を、のれんとして見積もり加算するわけですが、年数は相場として1~5年と任意となっており、この点、営業利益の何年を加算するかで成約価額は大きく異なってきます。

また、加算される営業利益を現在価値に算定することはあまり見られず、

将来価値として見ていいものなのか?
業界の市況はどうなっているか?

などの、疑問はどうしても拭いきれないのです。

 

 

営業利益の何年分を見積もるかで交渉決裂の恐れがある

つまるところ、売り手としては、営業利益を見積もる年数を多く、買い手としては年数を少なくしたいと言うことで、両者の意見がぶつかり、交渉決裂(ディールブレイク)してしまうリスクがあります。

売り手の言い分としては、今まで堅実に経営してきており、今後の経営見通しも順風満帆と言う事であれば、4~5年と主張するでしょうし、買い手側からすれば、今後の事業業績は約束されるものではなく、投資回収の観点から1~2年が妥当であると主張するのも当然な話です。

「では、中間をとって3年としましょう。」と、単純にいかないのがM&Aの難しいところです。

M&Aにおいて、金額交渉は最も難しい部分でもあり、ドツボにはまると交渉は進展せず、簡単に交渉決裂となります。のれんとして見積もる営業利益年数の合理性と言う部分については、どうしても交渉頼りとなってしまうのです。

 

市況が反映されているとは言えない

年買法の算定結果の構成要素となっている時価純資産と営業利益はあくまで過去の結果であり、マーケットや景気動向などの市況は反映されていません。

評価対象となる企業の

・業界動向は、明るいのか?暗いのか?

・法制度の改定は追い風となるか?向かい風となるか?

・地政学リスクなどの回避しづらい外部環境リスクはあるのか?

など、環境要因はどうしても年買法ではカバーしきれないのです。

 

年買法のデメリットを補うためには

前のセクションでは年買法のデメリットを解説しました。これらデメリットを補完するには、どうしたら良いでしょうか?

次の解説を見ていきましょう。

 

売却希望価格としての提示金額とする

ノンネームシートで買い手候補を募集する際、売却希望金額もシートに記載されるわけですが、その金額にも何かしらの算定根拠は持っておきたいものです。

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そこで、中小企業のM&Aで活用されることが多い年買法を利用するのは、ある意味、買い手からの納得も得られます。

前のセクションで説明した通り、年買法はファイナンス理論などに裏付けされたものではありませんが、やみくもに売却希望の金額を提示しても買い手からの理解はなかなか得られず、交渉希望の打診さえ受けることも難しくなります。

そこで、企業価値評価で多く利用される年買法を根拠に、あくまで売却希望価格の目安として提示するのです。特に、小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)では、買い手からの納得感もあり、非常に効果的です。

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他の企業価値評価方法とも比較する

年買法を活用した場合、営業利益の何年分を見積もるかが交渉のポイントになってくるわけですが、一旦、視点を変えてみるのも良いでしょう。

冒頭解説した通り、企業価値評価方法は

◉インカムアプローチ

◉コストアプローチ

◉マーケットアプローチ

の、3つがあります。

 

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これら全てをとは言いませんが、他の企業価値評価方法で算出した金額とも比較してみると、自然に適正と考えられる「のれん」の見積金額も見えてくることがあります。

年買法同様、他の企業価値評価方法もメリット・デメリットがあります。評価対象企業や交渉状況に応じて、どの評価アプローチを採用するかは変わってきますが、複数の企業価値評価を実施することで、売り手・買い手両者が納得する金額も見えてくるはずです。

年買法だけではなく、他の企業価値評価方法とも比較検討することで、交渉決裂のリスクを少しでも回避するようにしましょう

 

市況については別途調査を実施する

結論、買収対象としている企業業種の市況については、企業評価とは別に調査を実施する事が最善と言えます。

売り手と買い手が同一業種であれば、買い手側も業界市況がどうなっているか?今後どうなるか?などの知見もあり、それを見越した金額感での交渉が可能となります。

それにプラスして、対象企業の事業内容の詳細をヒアリング(ビジネスデューデリジェンスの一環として)することで、交渉したい金額もより明確になっていきます。

年買法にかかわらず、どの企業評価方法を採用しても業界市況や動向などの調査は必要となります。多面的な評価を実施し、売り手・買い手双方が納得のいく金額を模索していくことが重要なのです。

 

 

 

まとめ

以上、「年買法とは?」を、解説しました。

今回の内容を、おさらいしましょう。

①年買法の意味

・年買法とは、企業価値評価方法の一つであり、評価対象企業の時価純資産にのれん(営業権)として、一般的には営業利益の複数年分(1〜5年分)を加算して企業価値を算定する評価方法のこと。

・時価純資産に営業利益の複数年分を加算するだけで簡便に算定できる事や、売り手・買い手両者の感覚値で成約価額が決定する傾向にある中小企業のM&Aでは非常に重宝される。

 

②年買法の考え方

・年買法は、コストアプローチの一種である。

・コストアプローチは、企業価値評価結果の客観性が高い反面、収益性を反映できないというデメリットがある。そこを補完する意味で、のれん(営業権)として、営業利益の複数年分(1〜5年分)を加算し、インカムアプローチのメリットである、評価対象企業の将来性や個別の価値を反映させて、企業価値を算定する手法を取る。

・年買法とは、コストアプローチとインカムアプローチの合いの子のような企業価値評価方法であると言える。

 

【企業価値の算定方法のメリット・デメリット】(再掲)

企業価値の算定方法 メリット デメリット
インカムアプローチ 将来性を反映させやすい
個別の価値を反映させやすい

M&A以外でも利用可能
恣意性をはらむ
精算予定の会社は不向き
コストアプローチ 客観性が高い 収益性を反映できない
市況を反映できない
帳簿の誤りに左右される
 

マーケットアプローチ

 

客観性が高い

類似会社が必要
市況に左右される
個別の価値を反映しにくい

 

③年買法の計算方法

【年買法の計算式】

年買法の企業価値評価結果=時価純資産+のれん(一般的に営業利益の複数年分)

※「時価純資産」と「のれん」の算定方法については、巻末にある今回記事のワンポイントアドバイスで詳しく解説しておりますので、是非、ご覧下さい。

 

④年買法のデメリット

・年買法は、中小企業のM&A独自の企業価値評価方法であり、ファイナンス理論に基づいて算出される評価方法ではない。

・売り手としては、営業利益を見積もる年数を多く、買い手としては年数を少なくしたいと言う事で、両者の意見がぶつかり、交渉決裂(ディールブレイク)してしまうリスクがある。

・年買法の算定結果の構成要素となっている時価純資産と営業利益はあくまで過去の結果であり、マーケットや景気動向などの市況は反映されていない。

 

⑤年買法のデメリットを補うためには

・企業価値評価で多く利用される年買法を根拠に、あくまで売却希望価格の目安として提示。特に、小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)では、買い手からの納得感もあり、非常に効果的。

・評価対象企業や交渉状況に応じて、どの評価アプローチを採用するかは変わってくるが、複数の企業価値評価を実施することで、売り手・買い手両者が納得する金額も見えてくる。年買法だけではなく、他の企業価値評価方法とも比較検討することで、交渉決裂のリスクを少しでも回避することが重要。

・買収対象としている企業業種の市況については、企業評価とは別に調査を実施する事が最善である。多面的な評価を実施し、売り手・買い手双方が納得のいく金額を模索していくことが重要である。

 

冒頭でもお話ししましたが、年買法は中小企業のM&Aでは好んで採用される企業価値評価方法のため、M&Aを検討されている方は必ず知っておいていただきたい内容です。

売り手側としては、希望売却価格の目安として算定し、買い手側としては、それと投資回収期間と比較し、検討可能か否かの判断材料に活用することを推奨します。

ここで、重要なことは、企業価値評価方法に年買法を利用するにせよ、他のアプローチ方法を取るにせよ、必ず金額交渉は発生します。これだけ企業価値評価についての解説をしておきながら、なし崩し的な意見となりますが、M&Aの成約価額は、金額交渉で決定されます。

この点、どの評価方法を採用したとしても、売り手・買い手双方がしっかりと向き合い、歩み寄る姿勢を持たなければ、M&Aは成約しません。

M&Aを成約させるうえで最も重要な事とは、お互いの主張に耳を方向け、意見を尊重しながら、交渉をまとめていくことなのです。

※ご自身での企業価値評価がお難しい場合、ご相談を受け付けてくれるM&A専門家もいます。気になる方は、下記URLより専門家に依頼しましょう!

【M&Aアドバイザーについてはこちらから】

 

 

【スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」伊藤氏からのワンポイントアドバイス!】

こんにちは!
この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。

ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!

 


はいっ!

今回は、「年買法」について解説しました。

M&A初心者にとって、閲覧当初は、

年買法ってなんだ??

って、感じだったかと思いますけど、内容としては、そんなに難しい話じゃなかったんじゃないですかね?

マーケットアプローチであるマルチプル法やインカムアプローチであるDCF法よりは、かなり分かり易く、算定方法もはるかに簡単ですよね。

冒頭もお話ししましたけど、年買法は中小企業のM&Aでは、必ず活用する企業価値評価方法なので、今回の記事の内容は必ずマスターしていただきたいところですね。

私自身も、小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)を中心にM&Aアドバイザー業務を行っているわけですけど、企業価値評価を行う際は、やっぱり年買法を活用するわけなんですね。

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と言うのも、小規模M&A含め、中小企業のM&Aって、年買法で評価する事が一般的になっていますし、算定方法も簡便なので、売り手・買い手の納得も得られやすいんですね。
(これもさっき言いましたね。)

それに、文中では、年買法はファイナンス理論に基づいた評価方法ではないなんて記載はしましたが、他の企業価値評価も実施してみると、あら不思議、年買法の結果と似たり寄ったりの算定結果になったりするんですよね。

ロジカルな説明ができなくて大変恐縮なのですが、なんだかんだ言って、年買法って企業実態を一番反映した企業価値評価方法なんじゃないかなって個人的には思いますね。

更に言うと、年買法で算定して提示した売却希望価額が、その後の交渉やデューデリジェンスで問題なければ、そのまま成約価額になることも全然珍しくないですよ。

年買法って、そのくらい中小企業のM&Aに広く浸透した企業価値評価方法ってことなんですね~。

ここでもう一度、年買法の算定方法をおさらいしましょう。

年買法の計算式って

【年買法の計算式】

年買法の企業価値評価結果=時価純資産+のれん(一般的に営業利益の複数年分)

でしたよね。

時価純資産については、貸借対照表の簿価純資産(右側の右下あたりに記載されていますよ!)を、時価評価すれば算定出来て、ここはほぼ固定できる部分なんですね。

交渉論点になるのは、やっぱり「のれん」ですよね。ここが売り手も買い手も納得のいく算定方法で評価できれば、金額交渉もすんなり行くわけですよね。

相場としては、営業利益の3年分となることが多いですが、これだとやっぱりざっくりしすぎですよね?

特に買い手側は、

営業利益の3年って本当に適正なのかな?

っていう疑問があって、なかなか買収まで踏み込めないですよね。

逆に言うと、この部分の評価方法が論理的であれば、買い手も、

よし!ではこの金額でまずは基本合意書を締結して下さい!

って、一歩踏み込めるわけですよね。

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つまり、この「のれん」を突き詰めて聞けば売り手・買い手が合意できる金額を導き出せ、M&Aの成約にぐっと近づくというわけです!

と言う事で、今回のワンポイントアドバイスは「【徹底追究】のれんの算定方法!」を解説していきます!

 

【徹底追究】のれんの算定方法!

ではでは、のれん部分の算定方法を深掘りしていきましょう!

今回解説するポイントは以下の5つです!

①まずは直近の営業利益で算定!
②進行期で算定!
③直近3期分の営業利益で算定!
④経常利益で算定!
⑤当期純利益で算定!
⑥時価純資産の算定も見てみよう!

 

それでは順に、ご説明しましょう!

 

①まずは直近の営業利益で算定!

まずは、損益計算書から直近の営業利益を見てみましょう!

毎期、売上高と販管費が横ばいであれば、営業利益も安定しているはずです。そういう事であれば、直近の営業利益を元にのれんを算定すればOKです!

ポイントは、営業利益が安定しているというところですね。なぜならば、毎期の営業利益が安定していれば、M&A後の営業利益も予測がつきやすく、買い手側も納得感のあるのれんとなるからです。

直近の営業利益からのれんを算定する事は、まま、一番オーソドックスな算定方法ですね。

 

②進行期で算定!

進行期、つまり当期の営業利益で算定することもありますね。

これは、進行期があと1〜2カ月程で決算を迎えるケースなどで活用する方法です。

例えば、3月決算場合、進行期の試算表が1月末まで出来ている場合、1月末までの営業利益に2月と3月の予想営業利益を加算して今期予測の営業利益を算出し、その数字をのれんの算定に使います。

買い手の心理としては、なるべくタイムリーな数字で企業価値評価を行いたいものなんですね。

なぜならば、直近の営業利益や次のセクションで解説する直近3期分の営業利益って、あくまで過去の実績で、なるべく将来獲得できる利益を重視したいからなんですね。

もちろん、進行期の数字も過去の実績ではありますが、直近であればあるほど、将来獲得できる利益を読みやすくなるわけです。

結果、直近の営業利益が上々でも、進行期がポンコツなら当然、のれんの金額も下がってくる可能性があります。(逆もまたしかり)

①の考え方に、ちょっと工夫を凝らした算定方法ですね。

 

③直近3期分の営業利益で算定!

会社経営を安定させることって難しいですよね。業界の浮き沈みもありますしね。そういった場合、毎期営業利益も安定せず、ばらつきが出てくることってよくありますよね。

そういった場合は、直近3期分の営業利益から算定する方法もあります。正確に言うと、直近3期分の営業利益の平均を算出し、のれんを算定するのです。

例えば、営業利益の実績が

・前前々期   : 500万円

・前々期    :1,500万円

・前期(直近期):1,000万円

 

であれば、直近3期分の営業利益の平均は1,000万円ですよね。

例のように営業利益の変動幅が大きいようなら、その平均値をのれんの算出根拠にするのも1つの手法なわけですね。

追加で説明すると、営業利益の実績が右肩上がりか、その逆かも見るべきですよね。

毎期右肩上がりで勢いがあれば、のれんは、営業利益平均の相場である3年分以上になる可能性がありますし、右肩下がりであれば、1~2年分となる可能性もあります。

時系列でも業績を測定したい時などは、この方法が良いかなと思いますね。

 

④経常利益で算定!

のれんの算定方法は営業利益が基礎となることが一般的ですが、借入金過多で支払利息が多い場合は、経常利益で算定することもありますね。

と言うのも、営業利益は売上高から販管費を控除した結果なわけですけど、支払利息は営業外費用に計上されるんですね。

支払利益が多い場合、営業利益よりも経常利益を基礎としてのれんを算定した方が、評価対象企業の収益実態をより適切に反映していると言えますよね。(営業利益から支払利息を控除してもいいですよ!)

 

⑤当期純利益で算定!

当期純利益って獲得したから税金を引いた利益なわけですよね。つまり、最終的にどのくらいの利益が内部留保にできるかを表したものとも言えますよね。更に言うと、大きな減価償却資産や借入金がさほどなければ、手元に残るキャッシュに近い数字となるわけです。

この点、簡易キャッシュフローで算定する考え方にも似てくるかなとも思います。

この算定方法は、買い手側が利益ベースではなくキャッシュフローベースで買収検討する際に活用する方法でもありますね。

 

⑥時価純資産の算定も見てみよう!

ここまで、のれんの算出方法について解説しましたが、時価純資産の算定方法も簡単に触れておきますね。

まずは、貸借対照表の純資産を見て下さい。

これって、帳簿に記載されている純資産、つまり、「簿価純資産」ってことなんですね。

では、「時価純資産」って、何でしょうか?

時価純資産は、帳簿に記載されていない事象を反映した純資産って事なんですね。

簿価純資産を時価純資産に修正する代表的なポイントは以下になります。

【簿価純資産を時価純資産に修正するポイント】

・回収不能の売掛金金額の控除
・棚卸資産の修正
・有形、無形固定資産の減価償却不足の修正
・所有不動産、有価証券などの含み益、含み損の修正
・保険積立金の解約返戻金など簿外資産の計上
・仕入債務、未払金、未払人件費などの計上漏れの修正 などなど

 

この点は、デューデリジェンスで判明し修正する事が一般的ですが、分かる限り修正事項を反映させた時価純資産を出しておいた方が、金額交渉もスムーズに行きます。

※今回は、のれん部分を中心に解説したので、時価純資産についてはサラッと解説しましましたが、機会があれば、別の記事で詳しく解説しますね!

 

今回記事の「まとめ」の「マトメ」

以上、「【徹底追究】のれんの算定方法!」を解説しました。

年買法って簡単に企業価値評価を算定できる反面、適正なのれんを見積もるって、やっぱり難しいんですね。

のれんを見積もる上で重要視すべきことを一言で言うと、評価対象企業の収益性の実態をどれだけ反映させられるかって、ことなんですね。

のれんとして見積もる適正な収益は、営業利益?経常利益?それとも当期純利益?はたまたキャッシュ?

収益の観測点は、直近?進行期?直近3期平均?それとも予測?

などなど、枚挙にいとまはありませんが、他の企業評価方法も含め、どの方法でどうやって評価するのが、対象企業の収益性の実態が反映されるかを考察する事が重要だと言うことなんですね。

評価対象企業の実態に即した収益性が分かれば、のれんとして見積もる年数も自ずとわかってくるものです。

売り手さん、買い手さんだけではなく、M&Aアドバイザーを目指している方もこの記事を読んでいるのではないでしょうか?

みなさんには、是非、評価対象企業の収益性を深く分析し、最も適した企業価値評価を行ってもらえれば幸いです!

 

今回のワンポイントアドバイスでは、「【徹底追究】のれんの算定方法!」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。

また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!

最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。

また次の記事でお会いしましょう!

それでは!

 


【監修者プロフィール】


合同会社アジュール総合研究所 / 代表社員
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)

「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
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