今回は、「インカムアプローチとは?」について、解説します。事業や企業、株式の評価方法には様々な種類があり、どの評価方法を採用するかで算定結果は異なります。
M&Aにおける評価方法を挙げると以下の種類があります。
1.インカムアプローチ
対象会社の収益力にスポットを当てた評価方法。
評価方法には、DCF法や配当割引モデルなどがあります。
2.コストアプローチ
対象会社の純資産にスポットを当てた評価方法。
評価方法には、簿価純資産法や時価純資産法があります。
3.マーケットアプローチ
株式市場の市場株価にスポットを当てた評価方法。
評価方法には、類似会社比較法や類似取引比較法、市場株価平均法があります。
どの評価方法にも一長一短あり、どれを採用するかは評価対象となる企業の特性や状況を勘案して決定する必要があります。
今回は、タイトルにもあるとおり、インカムアプローチに焦点を当てて解説していきますが、メリット・デメリットをしっかり理解いただき、対象企業の評価方法としての適不適の判断材料にしていただければと思います。
また、インカムアプローチは事業や設備、不動産そして、知的財産など多岐にわたる投資判断にも利用可能なため、M&A以外の投資に興味のある方にも、ぜひ読んで頂きたい内容となっています。
※過去の記事でマーケットアプローチに分類される「マルチプル法」の解説もしておりますので、理解を深めるために併せてご覧ください
今回のラインナップは、インカムアプローチについての、
を中心に、解説していきます。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、「【教えて!】予測財務諸表の作り方!」も解説していますので、是非、ご覧ください!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
【必見!】巻末にスモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤氏よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
インカムアプローチの意味
インカムアプローチとは、対象会社における将来期待・予測される収益(キャッシュフロー、配当など)を元に事業価値を算出、それに非事業価値を加算することで企業価値を算出、さらに企業価値から債権者価値を減算し、株式価値を算出する評価方法のことです。
対象会社の収益力にスポットを当てているため、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、成長著しいが創業間もなく、資産価値の少ない企業の場合、最も適した評価方法となります。
インカムアプローチのメリット・デメリット
まずは、各企業価値の算定方法のメリット・デメリットを確認しましょう。
整理すると以下のような図になります。
企業価値の算定方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
インカムアプローチ | 将来性を反映させやすい 個別の価値を反映させやすい M&A以外でも利用可能 |
恣意性をはらむ 精算予定の会社は不向き |
コストアプローチ | 客観性が高い | 収益性を反映できない 市況を反映できない 帳簿の誤りに左右される |
マーケットアプローチ | 客観性が高い | 類似会社が必要 市況に左右される 個別の価値を反映しにくい |
この図を踏まえて、インカムアプローチのメリット・デメリットを見てみましょう。
インカムアプローチのメリット
では、インカムアプローチのメリットを解説します。
①将来性や個別の価値を反映した企業価値評価が可能
インカムアプローチにおけるメリットの最たるものは、対象企業の将来性や個別の価値を反映した企業価値評価が可能と言うことです。
対象企業の将来性とは、つまり今後期待される収益性(主にフリーキャッシュフロー)を指しており、将来予測される利益を企業価値評価に盛り込みます。
また、企業や案件によっては、ビジネスモデルやキャッシュポイントなど、個別の事情も異なり、特にシナジー効果については買い手側も状況も勘案する必要があります。
この点、インカムアプローチの場合、案件固有の事象も見込んだうえで企業価値を算出することから、企業や案件の実態を忠実に反映した評価ができるのです。
前出の通り、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、成長著しいが創業間もなく、資産価値の少ない企業の場合は、将来性やシナジー効果に焦点を当てて企業価値評価を行う必要があるため、インカムアプローチが評価方法として採用されるのです。
②M&A以外でも利用可能
冒頭お話しした通り、インカムアプローチのメリットには、M&A以外でも利用可能と言うものがあります。
例えば、事業・設備や不動産または知的財産など、投資にかかわること全般に活用できます。投資判断は、将来の収益や成長性を見込んで判断を下すわけですが、それはM&Aについてだけではありません。事業や不動産なども、投資後にどのくらいのリターンがあるのかを測定し、その結果をもとに投資判断を下すわけです。
この点、インカムアプローチは、将来期待される収益に焦点を当てて評価するため、様々な投資意思決定にも利用が可能となるのです。
インカムアプローチのデメリット
次に、インカムアプローチのデメリットを解説します。
①恣意性をはらむ
インカムアプローチの最大のデメリットは、評価する人間の恣意的(勝手気ままな)な理論が介在し、主観的な評価になりやすく、客観性が損なわれるところです。
将来予測される収益性や成長性、またはシナジー効果は、評価する人間が売り手サイドの場合は希望的観測が入る一方、買い手サイドは、否定的でネガティブな見解をする傾向にあります。
それもそのはず、売り手サイドとしては企業価値を高く評価したいと考え、買い手サイドはその逆を示し、少しでも安価で買収しようとするからです。
この点、買収後に見込まれるフリーキャッシュフローやシナジー効果の予測は、具体的な根拠やそれを実現させるための綿密な計画を示すことが必須となります。
インカムアプローチによる評価を行う際は、楽観的(買い手の場合、悲観的)な意見だけではなく客観性も盛り込み、売り手、買い手がお互いに納得のいく信頼性のある企業価値評価を行うことが重要なのです。
②精算予定の会社は不向き
インカムアプローチの企業価値評価には、将来期待される収益が継続して獲得できるという前提を元に評価されます。これは、対象企業が将来にわたって無期限に事業を継続することを前提とする考え、つまり、ゴーイングコンサーンを大前提にしています。
逆説的に言うと、対象企業が清算予定や事業継続性に疑問がある場合、インカムアプローチで評価する事は不適合と言わざるを得ません。
こういったケースの場合であれば、純資産をベースとするコストアプローチ(簿価純資産法や時価純資産法)を評価方法として採用することが適切と言えます。
インカムアプローチ3つの評価方法
インカムアプローチには3つの評価方法があります。
①DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)
②配当還元法
③収益還元法
ここでは、この3つの評価方法について解説していきます。
①DCF法
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)とは、対象企業の将来的な収益(主にフリーキャッシュフロー)を現在価値に換算し、事業価値を算出、そこからさらに企業価値や株式価値を算出する評価方法のことです。
企業価値は事業価値に非事業用資産を加算したものであり、企業価値から債権者価値(借入金や社債など)を減算したものが、株式価値となります。
※イメージ図
DCF法により評価するには、さまざまな指標を用います。それら指標については、次のセクションで見ていきましょう。
●フリーキャッシュフロー(FCF)
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、対象企業において獲得した収益のうち、自由(フリー)に使える現金・預金(キャッシュ)は、どのくらいあるかを示す指標のことです。
フリーキャッシュフローが多ければ多いほど、事業投資や機械・設備の購入、借入金返済など事業で自由に使える資金が潤沢にあるということを示しており、事業運営が良好であると言えます
DCF法による評価を行う際、まずはフリーキャッシュフローの予測を行います。そのため、向こう3~5年程の予測財務諸表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書⇒いわゆる財務三表)を作成し、予測する営業利益から将来見込まれるフリーキャッシュフローを計算することとなります。
このフリーキャッシュフローの予測と言う部分が非常に重要で、前出の通りインカムアプローチには、作成者の恣意性が介在してしまうため、希望的観測(買い手であれば、悲観的な観測)で算出される傾向にあります。
予測する財務三表は、明確な根拠に基づいて作成し、客観的に見ても信頼性のある数字になるように設計する必要があるのです。
●割引率
割引率とは、将来予測されるフリーキャッシュフローの価値を現在の価値に換算するために用いる率のことです。フリーキャッシュフローは予測値であり、適切な割引率を用いて現在価値に換算します。
割引率のパーセンテージは、フリーキャッシュフローの期待収益率の目安(一般的に5~7%程度)で設定されることが一般的です。(ちなみに、企業が退職金の退職給付引当金を算定する場合にも割引率を利用します。国債、政府機関債、優良社債など安全性の高い債券の利回りをベースに利率が決定されることが一般的です。)
割引率は自由設定することが可能なため、前のセクションで説明したフリーキャッシュフロー同様、恣意性が介在してしまいます。適正な割引率を設定するには、次のセクションで、説明するWACC(Weighted Average Cost of Capital)をご覧ください。
●WACC(Weighted Average Cost of Capital)
WACC(Weighted Average Cost of Capital)とは、事業の現在価値を求めるための割引率として利用される率のことです。
負債資本コストと株主資本コストを、有利子負債と株主資本の比率に応じて加重平均した値であり、資本コストを株主資本コストと負債資本コストを加重平均して算出するため、加重平均資本コストとも呼ばれます。
債権者・投資家から見ると、投資に対する期待収益率であるといえます。つまり、負債資本コストは債権者が期待する収益率であり金利であり、株主資本コストは投資家が事業投資を行う際に期待する収益率と言うことです。
●ゴーイングコンサーン
ゴーイングコンサーンとは、企業が将来にわたって無期限に事業を継続することを前提とする考え方のことです。
前出の通り、インカムアプローチとは、対象会社における将来期待・予測される収益(キャッシュフロー、配当など)を元に事業価値を算出、それに非事業価値を加算することで企業価値を算出、さらに企業価値から債権者価値を減算し、株式価値を算出する評価方法のことなので、ゴーイングコンサーンが大前提となります。
●永続価値(PV:Perpetual Value)
永続価値とは、一定のキャッシュフローが無期限永久的に継続する場合のキャッシュフローの現在価値のことです。PV(Perpetual Value)とも呼ばれます。
インカムアプローチはゴーイングコンサーンが大前提ではありますが、将来期待・予測されるキャッシュフローを計算し続けるのは現実的ではないため、下記の計算方法を用いるのが一般的です。
●ターミナルバリュー
ターミナルバリューとは、5年目以降など予測できない期間に生み出されるキャッシュフローの永続価値のことです。
インカムアプローチで評価する際は、ゴーイングコンサーンにより永続価値を考慮した上で価値を算出する必要があります。
ターミナルバリューは、3~5年目など予測期間最終年度のフリーキャッシュフローを、永久成長率を加味した現在価値に割り引くことで求めることとなります。
M&Aの場合、各年のフリーキャッシュフローの現在価値とターミナルバリューを足し合わせて、企業価値を計算するのが一般的です。
●非事業用資産
非事業用資産とは、事業のために運用されていない資産のことであり、現金預金・投資有価証券・遊休資産(事業に使っていない不動産)などが挙げられます。
これらの資産は事業価値に含まれませんが、売却・処分した際にフリーキャッシュフローの獲得が期待できるので、企業価値を算出する際に加算される事となります。
投資有価証券や不動産の価格は変動しており、売却・処分する際は、該当する資産を時価評価し、獲得できるキャッシュから、諸費用を減算して算出する事が合理的と言えます。
●株式価値
株式価値とは、企業価値のうち、株主に帰属する価値のことです。企業価値(事業価値に非事業資産を加算した価値)から債権者価値(有利子負債など)を減算し算定されます。
②配当還元法
配当還元法とは、株主への配当金を基準とした評価方法です。将来受け取とる見込みの配当額を割り引くことで現在価値を算出します。配当還元法のメリットは、計算式がシンプルなことです。
しかし、配当金額を基準に算定されるので、企業の収益性が配当政策と乖離している場合、不適応となるデメリットもあります。また、そもそものところ配当金の支払いが見込めない場合は、採用する事は避けた方が良いでしょう。
ちなみに、非上場株式を相続・贈与した際の配当還元方式とは別物で、計算方法も算出される価値も全く異なるので留意しておきましょう。
③収益還元法
収益還元法とは、DCF法と同様、対象企業の将来的な収益(主にフリーキャッシュフロー)を現在価値に換算し、事業価値を算出、そこからさらに企業価値や株式価値を算出する評価方法のことです。
メリットとしては、DCF法よりも計算が簡便なことです。というのも、各年の将来的な収益を一定とし、算定されるからです。
この点は、収益還元法のデメリットでもあり、常に業績変動が予想される企業の評価には不向きであり、特にベンチャー企業やスタートアップ企業など、業績の振れ幅の大きい企業の評価には推奨できません。
将来的な収益が安定している不動産賃貸業などは適した評価方法となりますが、企業の評価を行う際は、やはりDCF法を採用するのが無難と言えるでしょう。
インカムアプローチによる事業価値・企業価値・株主価値の算定手順
インカムアプローチによる事業価値・企業価値・株主価値の計算は以下の手順で行います。
※今回は、DCF法による計算手順でご説明します。
①フリーキャッシュフローの計算
②割引率の算定
③各年の現在価値の算定
④ターミナルバリューの算定
⑤事業価値の算定
⑥企業価値の算定
⑦株式価値の算定
以下の【価値算定表】に埋めていくイメージで、ご覧下さい。
また、前提条件は以下のようになります。
【前提条件】
・法人税率 :法人税率は35%
・減価償却費 :減価償却費は各年500千円
・設備投資額 :設備投資額は各年500千円
・運転資本増加額:運転資本増加額は各年600千円
・割引率 :割引率はWACC(加重平均資本コスト)を採用することとし8% ※算定については後述
・成長率 :成長率は1%
・非事業用資産 :非事業性資産は時価換算で1,000千円
・債権者価値 :債権者価値は借入金であり2,000千円
DCF法による事業価値・企業価値・株主価値の算定例
前のセクションを元に、DCF法による事業価値・企業価値・株主価値を計算してみましょう。
①フリーキャッシュフローの計算
まずは各年のフリーキャッシュフローを計算します。
②割引率の算定
次は割引率(WACC)を算定します。各数値は以下の通りです。
各数値を、この式に当てはめてみましょう。
=8%
③各年の現在価値の算定
各年のフリーキャッシュフローを、割引率を使い現在価値を算定します。
※nは年数
④ターミナルバリューの算定
予測期間最終年度のフリーキャッシュフロー、成長率(1%)とWACCを用いてターミナルバリューを算定します。
⑤事業価値の算定
各年のフリーキャッシュフロー現在価値の合計とターミナルバリューを合算します。
ここまでで事業価値が算定出来ました。中間点として【価値算定表】を見てみましょう。
⑥企業価値の算定
事業価値に非事業用資産(時価)を加算します。
⑦株式価値の算定
最後に企業価値から債権者価値を減算し株式価値を算出します。
完成した【価値算定表】は以下のようになります。
まとめ
以上、「インカムアプローチとは?」を、解説しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①インカムアプローチの意味
・インカムアプローチとは、対象会社における将来期待・予測される収益(キャッシュフロー、配当など)を元に事業価値を算出、それに非事業価値を加算することで企業価値を算出、さらに企業価値から債権者価値を減算し、株式価値を算出する評価方法のこと。
②インカムアプローチのメリット
・将来性や個別の価値を反映した企業価値評価が可能
インカムアプローチの場合、案件固有の事象も見込んだうえで企業価値を算出することから、企業や案件の実態を忠実に反映した評価ができる。
・M&A以外でも利用可能
インカムアプローチは、将来期待される収益に焦点を当てて評価するため、様々な投資意思決定にも利用が可能。
③インカムアプローチのデメリット
・恣意性をはらむ
評価する人間の恣意的(勝手気ままな)な理論が介在し、主観的な評価になりやすく、客観性が損なわれる傾向にある。
この点、買収後に見込まれるフリーキャッシュフローやシナジー効果の予測は、具体的な根拠やそれを実現させるための綿密な計画を示すことが必須。
・精算予定の会社は不向き
ゴーイングコンサーンが大前提。
対象企業が清算予定や事業継続性に疑問がある場合、インカムアプローチで評価する事は不適合である。
④インカムアプローチ3つの評価方法
・DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)とは、対象企業の将来的な収益(主にフリーキャッシュフロー)を現在価値に換算し、事業価値を算出、そこからさらに企業価値や株式価値を算出する評価方法のこと。
・配当還元法
配当還元法とは、株主への配当金を基準とした評価方法のこと。
・収益還元法
収益還元法とは、DCF法同様、対象企業の将来的な収益(主にフリーキャッシュフロー)を現在価値に換算し、事業価値を算出、そこからさらに企業価値や株式価値を算出する評価方法のこと。
⑤DCF法により評価する際の指標
・フリーキャッシュフロー(FCF)
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、対象企業において獲得した収益のうち、自由(フリー)に使える現金・預金(キャッシュ)は、どのくらいあるかを示す指標のこと。
・割引率
割引率とは、将来予測されるフリーキャッシュフローの価値を現在の価値に換算するために用いる率のこと。
・WACC(Weighted Average Cost of Capital)
WACC(Weighted Average Cost of Capital)とは、事業の現在価値を求めるための割引率として利用される率のこと。
・ゴーイングコンサーン
ゴーイングコンサーンとは、企業が将来にわたって無期限に事業を継続することを前提とする考え方のこと。
・永続価値(PV:Perpetual Value)
永続価値とは、一定のキャッシュフローが無期限永久的に継続する場合のキャッシュフローの現在価値のこと。
・ターミナルバリュー
ターミナルバリューとは、5年目以降など予測できない期間に生み出されるキャッシュフローの永続価値のこと。
・非事業用資産
非事業用資産とは、事業のために運用されていない資産のことであり、現金預金・投資有価証券・遊休資産(事業に使っていない不動産)などが挙げられる。
・株式価値
株式価値とは、企業価値のうち、株主に帰属する価値のこと。
⑥インカムアプローチによる事業価値・企業価値・株主価値の算定手順
1.フリーキャッシュフローの計算
2.割引率の算定
3.各年の現在価値の算定
4.ターミナルバリューの算定
5.事業価値の算定
6.企業価値の算定
7.株式価値の算定
⑦DCF法による事業価値・企業価値・株主価値の算定例
※具体的な計算例を掲載しておりますので、本セクションを再度ご参照下さい。
今回の内容は、価値評価方法の1つである、インカムアプローチについて解説しましたが、本文中にもある通り、評価方法には、マーケットアプローチやコストアプローチも存在します。
全ての評価方法で価値をはじき出す必要はありませんが、多面的な評価を行う事によって、評価対象としている企業の特性や個性が見えてくることもあります。一つのアプローチ方法にこだわらず、様々な角度からその企業を評価してみて下さい。
また、今回はDCF法による事業価値・企業価値・株主価値の算定例も解説しました。工程数も多く大変な作業に感じるかも知れませんが、エクセルなどで作成すれば、自動計算も可能なので、実際に手を動かして練習してみて下さい。
※企業価値評価の依頼やセカンドオピニオンを受け付けてくれるM&A専門家もいます。気になる方は、下記URLより専門家に依頼しましょう!
【M&Aアドバイザーについてはこちらから】
【スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 伊藤氏からのワンポイントアドバイス!】
こんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
はいっ!
今回は、「インカムアプローチ」について解説しました。
前回、私が執筆した記事では、「マルチプル法」(マーケットアプローチ)について解説しましたけど・・・う~ん・・・汗
なるべく、M&A(投資とかにも)に馴染みのない方にもなるべくわかりやすく書いたつもりだったんですが、やっぱり今回も難しかったですかね??・・・汗
初めてインカムアプローチを知った人は、
って、概念自体に理解戸惑われたのでは?
ですが、インカムアプローチはM&Aだけではなく、事業や設備・機械など投資に対する価値を評価するために結構利用されているので、経営者だけではなく収益不動産をもってる方も知っててもらいたい内容でしたね~。
(将来、お金が入ってくることには、何にでもつぶしが効くというか)
ここで、みなさんにご質問です。
今回の記事を読んで頂いて、疑問を持った方はいませんでしたか?
インカムアプローチの価値算定(DCF法)のセクションで、向こう5年間営業利益から各年のフリーキャッシュフローを計算するところから始まりましたね。
そこから計算手順を踏んで、各価値(事業価値・企業価値・株式価値)が算定出来てメデタシメデタシで終わりましたね。
ここですが、
って、思いませんでしたか?
インカムアプローチでググってみると色んなサイトで説明してますが、営業利益からの計算例しか説明してないように感じません?
これだと営業利益からの算定方法しかわからず、将来予測される営業利益の計算方法が分からないですよね?
せっかく覚えた知識は実際に手を動かすことで自分のモノになって行くわけですが、これだと心が折れちゃいませんか?
本文中では、将来予測されるフリーキャッシュフローを計算するには、
と、記載しました。
そうつまり、「予測財務諸表」を作れば予測する営業利益が分かればわかるってことですよ!
そこで、今回のワンポイントアドバイスは「【教えて!】予測財務諸表の作り方!」を解説していきます!
「【教えて!】予測財務諸表の作り方!」
ではでは、予測財務諸表の作り方について解説していきましょう!
今回解説するポイントは以下の3つです!
それでは順に、ご説明しましょう!
①予測財務諸表の作成手順
予測財務諸表は、
1予測損益計算書(P/L)の作成⇒2予測貸借対照表(B/S)作成⇒予測キャッシュ・フロー計算書(C/F)の作成
ってな感じの流れで各計算書類を連動させながら作成していきます。
各計算書類の数字は、過去の実績から拾っていってももちろんいいんですけど、より精緻な数字に仕上げるには、色々と予測しながら作成していくわけなんですね。
次のセクションからは、各予測計算書類の作成について解説していきますよ。
②予測損益計算書(PL)の作成
基本的な考え方は、過去の実績から予測する感じで問題ないですが、事業計画や成長性、市場予測の成長率も加味した感じで作成していきます。
各勘定科目と予測方法のポイントは以下の表を参照して下さい!
※製造原価報告書がある場合でも、基本的な考え方は同じ
勘定科目 | 予測方法のポイント |
---|---|
売上高 | ・ベースは直近売上高 ・季節要因を勘案する必要がある場合、月次損益推移表からも予測 ・売上拡大が見込まれる場合は、その成長性も反映 ・新規事業計画がある場合は、売上高以外の勘定科目への反映も忘れずに ・市場予測の成長率も考慮する事が理想的だが、根拠がない場合は、切り捨ててもOK |
仕入 (売上原価) |
・過去の実績や売上高×仕入原価率でもOKだが、仕入価格の高騰などが見込まれる場合は、必ず反映させること ※ここら辺が狂いやすいので注意 ・製造原価も計算する場合は、以下勘定科目を参考にすれば良し |
人件費 | ・人員の入退社を勘案しながら作成 ・それに基づいて、法定福利費や福利厚生費、旅費交通費、その他、教育訓練費などを予測 |
減価償却費 | ・固定資産台帳と減価償却費明細より大まかな予想がつくが、予測貸借対照表(B/S)作成後に数字を入れてた方がベター |
営業費用 | ・「変動費」「固定費」に分けて予測するのが好ましい ※損益分岐点分析にも活用できるので、綿密に予測すると尚良し ・販売費用関係であれば、一般的には売上高に比例する ・固定費はシステム利用料や維持・保守関係なので読みやすいが、新規や解約が見込まれる場合は反映させること |
広告宣伝費 | ・宣伝広告費などは「予測」よりも「予算」で決定されることが一般的なため、事業計画から数字を入れるのがベター |
賃借料 | ・基本的は固定費であり、実績ベースで考えればいいが、オフィス・工場の賃貸借契約やその他、リース契約は事業規模が拡大することにより、移転や新規契約(増設)の可能性もあるため、注意すること |
その他 | ・予測キャッシュフロー計算書(C/F)まで作成する場合は、予測する営業利益まで分かればいいが、作成しない場合は、受取利息、支払利息、配当金などのキャッシュイン・アウトの事象も反映 ・その他、年度ごとに発生するキャッシュイン・アウトが予測される場合も勘案すること |
③貸借対照表(BS)の予測
貸借対照表(B/S)の予測は、予測損益計算書(P/L)の結果をもとに作成します。
各勘定科目と予測方法のポイントは以下の表を参照して下さい!
※製造原価報告書がある場合でも、基本的な考え方は同じ
勘定科目 | 予測方法のポイント |
---|---|
売掛金 | 売掛金、棚卸資産、買掛金など運転資本科目は、過年度実績(直近3年分)より各回転期間の平均値を算出 各回転期間が算出されたら、予測損益計算書(P/L)の売上高や売上原価に乗じることで予測値を算出する |
棚卸資産 | |
買掛金 | |
固定資産 | 固定資産台帳と減価償却費明細からも大まかな数字は入る 出来れば、過年度実績(直近3年分)より減価償却率の平均値を算出し、固定資産に乗じて予測値を算出した方がベター その方が、新たに固定資産を購入した場合、一緒に減価償却額の計算もできる ※新規固定資産については、期中6カ月経過時点で購入したと仮定し、1/2も乗じることを忘れずに(平均で考えるということ) |
純資産 | 予測損益計算書(P/L)の純利益を加算 |
④キャッシュ・フロー計算書(C/F)の予測
キャッシュ・フロー計算書(C/F)の予測は、予測損益計算書(P/L)と予測貸借対照表(B/S)の結果をもとに作成します。
各勘定科目と予測方法のポイントは以下の表を参照して下さい!
区分 | 主な項目 | 予測方法のポイント |
---|---|---|
税引前利益 | 税金 | 予測損益計算書(P/L)の税引前利益 |
営業CF | 減価償却費 売掛金 棚卸資産 買掛金 |
減価償却費はそのまま加算 売掛金、棚卸資産は増加するならば減算調整 買掛金は増加するなら加算調整 ※どちらも逆ならば、加算・減算も逆になる |
投資CF | 設備投資額 売却・処分額 |
新規設備投資に必要な額や、売却処分で得られる額 ※設備投資計画書を作成しておくと尚良し |
財務CF | 借入金増減額 配当金 |
新規借入金や返済による増減 配当金の支払いによる金額 ※資金調達計画書を作成しておくと尚良し |
増減額 | キャッシュ | 上記区分・項目の増減額 |
期首現預金 | 単純に期首残高を計上 | |
期末現預金 | 期首残高に増減額を調整して完了 |
これで予測財務諸表のかんせ~い!
おめでとうございま~す!
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「【教えて!】予測財務諸表の作り方!」を解説しました。
手間はかかるかも知れませんが、インカムアプローチの価値算定に比べたら、分かりやすいし簡単だったかなと思います。
インカムアプローチについても予測財務諸表についても、M&Aの枠外でも活用できるので、やっぱりしっかり押さえていただきたいところですね。
すごく面倒かも知れませんが、自社をモデルに実際に手を動かして練習してみて下さい!
今回解説したノウハウを自由自在に操ることができれば、自社事業発展のためになること間違いなしですから!
今回のワンポイントアドバイスでは、「【教えて!】予測財務諸表の作り方!」」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!
最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!
それでは!
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