スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
今回は、「業界再編M&Aとは?」について、解説します。
業界再編M&Aとは、M&Aや経営統合、業務提携などを通じて業界地図が変わり、各業界の勢力図が再編される動きのことです。
業界再編M&Aは、各業界内に多大な影響を及ぼすことがあり、組織再編を行った企業同士だけではなく、業界内の中小零細企業も決して無関係な話ではありません。
こう言った事もあり、今回の記事は大企業から中小企業の経営者まで幅広く読んで頂きたい内容となっています。
今回のラインナップは、業界再編M&Aについての、
②業界再編M&Aが起こる主な理由
③業界再編M&Aのメリット・デメリット
④業界再編M&Aが活発な業界
⑤中小企業が業界再編M&Aに対応していくには?
を中心に、解説していきます。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、【なぜっ!?】人材不足の業界でM&Aが活発な理由!も解説していますので、是非、ご覧ください!
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業界再編M&Aと業界のライフサイクルとの関連性
業界再編M&Aが起こる要因は、業界のライフサイクルと照らし合わせてみるとよくわかります。業界のライフサイクルとは、業界における新規事業の成り立ちから、衰退するまでの流れのことで、
の順でプロセスが遷移していきます。
ここでは、業界再編M&Aと、この4つのプロセスとの関連性を解説していきます。
導入期
業界において新商品や新サービスが開始される時期のことで、新規事業の創設期とも言えます。
当然、認知度・需要ともに少なく、先駆者としては手探り状態。各企業も収益が上がらない場合は、早期撤退も考慮に入れている時期です。M&Aとの関連性はまだなく、どちらかと言うと融資や出資先を募ると言った資金調達がメインで行われます。
成長期
新規事業もやっと軌道に乗り、世間でも広く受け入れられはじめ需要も右肩上がりとなる時期です。この頃、様子見をしていた各企業も新規参入に打って出る動きを見せはじめ、業界内の競争が始まります。
打ち手の早い企業はこの時期でM&A戦略を開始し、一気にシェア拡大を目論見、業界内で盤石な地位を築こうとします。
M&A戦略の主な目的としても、
・川下から川上に位置する関連企業の取り込み(垂直型M&A)
など、同一業界又は関連性の近しい企業に絞り、事業規模拡大と製造ラインを短期間で整備しようとする、いわゆる「時間をお金で買う」ことで確固たる地位を構築します。
この時期は、スピードが命と言えるでしょう。
成熟期
世間でも広く浸透され、業界全体の売上も良好。まだまだ需要もありますが、成長期ほどの勢いはなく、成長曲線も踊り場状態となってくる時期です。
この時期になってくると、企業間格差も拡大していき、各企業は事業自体の「継続・撤退」を迫られる時期ともなり、いわゆる「勝ち組・負け組」がはっきりしてきます。
結果として、「勝ち組は撤退企業(または事業)の買収で更なる規模の拡大を図り、今後もこの業界をけん引する企業として君臨する」一方、「負け組は撤退を決定し、今まで投じた資本を少しでも回収するため、企業(または事業)を売却し、業界から完全にフェードアウトする」という構図が出来上がります。
M&Aにおける売却価額もこの頃がピーク(時期によっては下がり調子)となり、買い時・売り時を見誤ると互いに損をする可能性もあるので、業界動向には常に注視する姿勢が必要となります。
衰退期
業界自体がピークアウトし斜陽化して行く時期です。
この時期の業界は、上位企業のみで運営されているような構図となり、新規参入企業ももちろんありません。むしろ、上位企業さえも新たな事業の開拓に目を向けており、衰退期を向えた事業については、現状維持を図る施策に切り替えています。
M&Aについてもピークを過ぎており、撤退が遅れた企業(または事業)の売却価額もだいぶ目減りしており、買い手がつかないことさえ出てきます。
導入期から衰退期までの一連の流れで、最終的には上位3社の市場占有率が90%を超えるという構図が出来上がり、業界再編も終焉をむかえるのです。
業界再編M&Aが起こる主な理由
前のセクションでは、業界のライフサイクルによる業界再編M&Aの発生を解説しましたが、発生要因は、これ以外にもあります。
ここでは、業界再編M&Aが起こる主な理由をご説明します。
好景気による業界再編M&A
好景気中は、消費活動が活発となりモノやサービスがよく売れるのはご想像の通りです。この動きに連動し、企業の売上・収益も上がることから、更に事業規模の拡大を図ろうとします。
活動拠点の拡大や製造ラインの増設を企業内で行うことはもちろん、M&A戦略も活発となり、業界自体の勢力図を塗り替えるような業界再編M&Aが起こることがあります。
規制改革による業界再編M&A
法改正や税改正など、規制改革は各業界に多大なる影響を及ばします。当然、各企業は改正された内容を遵守しなければならず、業界構造自体が大きく変わることがあります。なぜならば、改正内容に対応できない企業がいる場合、それを機に企業または事業売却を検討することがあるからです。
事業継続する企業はこの流れを受けM&A戦略の好機と判断し買収する動きに出ます。結果、業界再編M&Aにつながることになるのです。
技術革新による業界再編M&A
技術革新が起こると、各企業はこぞって最先端技術の更なる開発や導入する動きに出ます。なぜならば、技術革新の対応に出遅れると、競合他社との競争力が低下し、業界内でパイオニアの地位を築いていた企業も、今までの優位性が失われる危険性があるからです。
また、技術革新に対応できない企業は当然のことながら淘汰されていき、業界地図から姿を消すこととなります。更に、技術力があっても企業規模が小さく資金面をはじめ経営資源が乏しい企業は、生き残りを図るため、大企業グループの傘下にはいる決断をすることもあり、業界は再編されていくのです。
この点、規制改革による業界再編M&A同様、スピーディーに対応できるかがカギとなり、この二つが起こる時期は、業界でも激動期となるのです。
業界内のリーダー企業決定による業界再編M&A
業界のライフサイクルに目を戻してもらうと、成長期から成熟期にかけて業界内は安定期を迎えていることとなります。これもひとえに業界地図が形成されてきたことと、業界内のリードオフマンが現れたことにほかなりません。
業界内のリーダーは業界の盟主とも言え、中小企業としては、リーダーの動きに追随するほうが経営上何かと都合がよく、リーダー企業と中小企業間で資本関係を築く動きが出てきます。
これはバンドワゴン効果によるもので、いわゆる「長い物には巻かれろ」という考え方ですが、生き残りをかける中小企業としては賢い選択とも言えます。
ただ、業界内のリーダーは1社とは限らず、中小企業も複数存在するどの有力企業の傘下に入るかの判断は慎重にならなければならず、今後の経営の明暗を分けるところとなります。業界のリーダーは、業界のライフサイクルの衰退期を向えるころには5社前後に絞られ、業界地図もだいぶスリム化されます。
この結果と言うのも、業界再編M&Aが巻き起こったからに他ならないと言えるでしょう。
異業種の新規参入による業界再編M&A
異業種企業であっても、その業界で十分な利ザヤが稼げると判断すれば、当然、新規参入に動きます。
新規参入に打って出る企業は、異業種の中でも内部留保の厚い有力企業であり、その潤沢な資本力を背景に、新規参入業界でも一気に上位を狙ってきます。
新規参入の方法としては、イチから会社や事業を立ち上げることは元より、立上げ期間をショートカットすべく、M&A戦略で効率良く、短期間で業界シェアを拡大し、確固たる地位を構築してくるのです。これは、規模の経済で一気に押し込む戦略であり、「チカラこそパワー」という資本主義経済の利点をいかした戦法ともいえます。
これにより、業界地図内には忽然と大勢力が出現する形となり、場合によっては業界内のリーダーが変わることさえあります。
この動きは、業界のライフサイクルで言うと、導入期から成長期に切り替わる頃が活発となります。これによる業界再編M&Aは短期集中的に巻き起こるため、業界内の企業は異業種からの参入にも常時警戒を怠ってはいけないのです。
業界上位の統合による業界再編M&A
業界のライフサイクルにおいて、成熟期から衰退期にかけての勢力図は、新規参入もM&Aも落ち着いて来ることもあり、だいぶ固定化されてきます。
この時期、業界トップ企業と2位以下の差がかなり離れることもあり、「一人勝ち」の様相を呈すことがあります。2位以下の勢力がこのままの地位に甘んじることは、企業内だけではなくステークホルダーへの示しもつかず、何としてもこの状況を打開する手を打ちたいところです。
その戦略として、業界上位企業同士の統合という方法は効果的であり、例えば、2位と3位の企業が統合し、トップシェア企業を一気に追い抜くこともあります。
逆もしかりで、トップシェア企業が2位以下に更に差をつけるべく、3位以下の企業と統合し、他の追随を許さない体制を構築することもあります。
M&Aのスキームとしても、株式譲渡よりも吸収合併を採用することが多く、親子間のシェア拡大よりも、単体でのトップを確保する傾向があります。
これらの動きが出てくる頃は、業界再編M&Aの最終段階とも言え、その後「突発的な事象」が起こらない限り、業界地図はほとんど変動しなくなるのです。
業界企業の不祥事による業界再編M&A
前のセクションでの終盤でお話しした、「突発的事象」の最たるものが、「不祥事」です。
何らかの事情で、業界上位企業の不祥事が明るみに出た場合、ブランドイメージが毀損され、売上にも大打撃を受けます。結果、株価も大きく下がり、企業継続自体が危ぶまれます。
中小企業が生き残りを図るために、大企業の傘下に入ることと同様、これが起こると上位企業であっても、その例外ではありません。消費者はじめステークホルダーからの信頼回復を図るため、他の上位企業への身売りが行われることがあり、上位同士の合併により業界再編M&Aが急遽として起こることがあります。
誰もが予期せぬことであり、まさに突発的に業界地図が変わることとなるので、業界全体にも激震が走ることは必定です。
また、「突発的事象」には他に「災害」もあり、「不祥事」同様、社内にリスク対策室などを設け企業継続性への危機管理は常に行わなければならず、業界上位企業であってもその地位に胡坐(あぐら)をかいていてはいけないと言うことなのです。
業界再編M&Aのメリット・デメリット
ここで、業界再編M&Aにおけるメリット・デメリットを買い手側・売り手側に分けてご紹介しましょう。
買い手における業界再編M&Aのメリット
買い手における業界再編M&Aの最大のメリットは短期間での事業規模の拡大と言えます。
事業規模の拡大を目指すと言うことは、ブランディングや人材の確保、新たな営業拠点・製造ラインの増設など、やるべきことは枚挙にいとまがありません。
これら経営資源を短期間で獲得し、自社とのシナジー効果で更なる事業規模の拡大を目指すには、M&A戦略は最も効率が良く、金銭(M&Aスキームによっては自社の株式などで)の支払いで、欲しいものが手に入り業界シェアを一気に伸ばすことが可能となります。
買い手における業界再編M&Aのデメリット
業界再編M&Aにより、業界シェアを一気に拡大させることができる反面、その反動も一気に受けることとなります。
企業買収を行う際、デューデリジェンス(買収監査)を行うことで、子会社(または吸収合併における消滅会社)における経営リスクをある程度洗い出すことは可能ですが、全て把握することは難しいものです。
短期間のうちにM&Aを複数回実行することは、各子会社(または吸収合併における消滅会社)の経営リスクが一気に噴き出し、中核となる企業の経営を脅かす要因にもなりえます。
また、従業員も急激なM&Aに耐え切れず、買収後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)業務、つまり統合業務に手が回らず、せっかくのM&Aもシナジー効果どころか、経営リスクのみが残る結果となってしまうのです。
この点、業界再編M&Aにかかわらず、買い手企業は注意しなければいけないところであり、受け入れ後の経営リソースをしっかり確保し、PMI計画を綿密に策定した上で、M&A戦略に出るようにしましょう。
売り手における業界再編M&Aのメリット
業界再編M&Aにおいて、売り手としては、「大企業に取り込まれてしまった」という不名誉なイメージを持たれる方も多いですが、決してそうではありません。
業界再編が進むその中で、強か(したたか)に生き残りを図ることは経営者として当然の行動であり、その選択肢として企業売却を採用したと言うことに過ぎず、大企業グループの下で会社が存続し、順風満帆ということであればそれは立派なメリットであり、その判断は英断と言えます。
最も良くないことは、業界再編の荒波に飲み込まれ転覆してしまうことであり、経営陣やステークホルダーだけではなく、従業員とその家族の人生も一変させてしまうことです。
M&Aに対し、ネガティブなイメージを持つことが最大のリスクともいえるかも知れません。M&Aをポジティブにとらえ、メリットも熟知した上で経営を行う事が重要なのです。
売り手における業界再編M&Aのデメリット
売り手企業においてのデメリットは、急激な変化により従業員が大量離職してしまうことが挙げられます。
特に大企業が中小企業を買収する際、子会社の従業員が大企業の経営理念や社風に適応できず、大混乱を招いてしまうこともあります。
なぜならば、大企業と中小企業の企業文化には、かなりの温度差があり、それを無理やり大企業に寄せてしまうことは、従業員のマインドや生活を一変させてしまうことになるからです。
全ての人間が、急激な変化に適応できるわけではありません。
人材獲得も目的に買収したのであれば尚のこと、買い手企業は、子会社の経営理念や社風を尊重し、信頼関係を構築できるよう努めるべきなのです。
業界再編M&Aが活発な業界
業界再編M&Aが活発な業界には、ある共通点があります。それは、人材不足が叫ばれている業界です。
例を挙げると
・調剤薬局:薬剤師の不足
・士業業界:弁護士、税理士、社労士等の有資格者はじめ、専門知識のある人材の不足
・マンパワーが必要となる業界:建設業、運送業、介護事業などは慢性的な人手不足
などです。
これらの業界は、「人材=収益源」となっている業界であり、それだけに人材の獲得は企業が成長する上で欠かすことはできず、急務な課題となっています。
日本の人口減少も相まって、採用活動だけでは到底追い付いていません。そこでM&A戦略を図ることは、人材ごと企業を囲い込むことが主流となっているため、業界全体のM&A合戦も熾烈なものになっているのです。
バトンズをはじめ、M&Aプラットフォームの利用者と成約件数は毎年増加傾向であり、これらの業種が売却案件として登録されると買い手企業からの問い合わせが殺到し、数カ月で成約に至ると言うことは、それの裏付けともなっています。
中小企業が業界再編M&Aに対応していくには?
業界内で巻き起こる業界再編M&Aは、中小企業の経営にも多大なる影響をもたらします。
業界内の勢力図は刻一刻と変化しており、中小企業の経営者も、
・事業自体を撤退するか?
・どこか大企業グループの傘下に入るか?
・傘下に入るとすれば、どの企業グループに入るべきか?
など、重要な経営判断に迫られます。
ここでは、中小企業が生き残りを図るためには、業界再編M&Aにどのように対応していくべきかを解説します。
業界動向の情報収集を怠らない
日々流れるニュースや紙面の中には、当然のことながら業界動向の情報もあるはずです。
業界内のM&Aや、規制改革、技術革新など、業界全体に影響のあるトピックスはもちろん、細々とした話題にも常にアンテナを張っておかなければ、業界動向に対応ができません。
経営戦略を練る上でも、情報量が大いに越したことはありませんが、経営者としては、それらを精査する力が必要となります。なぜならば、情報は収集することよりも活用することの方が重要であり、フェイク情報や誤認をした場合、おのずと間違った経営判断をする可能性があるからです。
正しい判断をするには、正しい情報を見極めることが最も重要なのです。
業界のライフサイクルに目を向ける
情報収集を行う中で、業界のライフサイクルも鮮明に見えてくるはずです。ライフサイクルが見えると自社がどう動くべきかが、おのずと見えてくることが多く、将来を見据えた判断も可能となります。
業界再編M&Aが活性化する時期は、「成長期~成熟期」であり、この時期の見極めが重要となってきます。ここで、独立を保つか、どこかの傘下に入るのかの判断が必要であり、これを逃し「衰退期」に入ってからでは遅いのです。
どこかの傘下にはいるならば・・・
情報収集やライフサイクルを意識した上で、M&Aにより、どこかの傘下に入る決断をしたならば、まずは自社の経営理念や将来ビジョンを再度明確にさせる必要があります。
なぜならば、買収先を検討する際、自社の企業文化を大切に引き継いでくれる先を探索する必要があり、これが明確になっていなければ、買い手先もどのような思いを承継すればいいのかが分からず、結果として両者の意識に齟齬が生じ、どこの傘下からも受け入れてもらえなくなるからです。
また、強引に大企業グループの傘下に入ったとしても、従業員が企業文化に馴染めず大量離職が発生する危険性さえあるのです。
そのならないためにも、自社の企業文化を明確にし、それを買い手候補に伝え、この文化を大事に引き継いでもらえる先に承継しなければいけないのです。
まとめ
以上、「業界再編M&Aとは?」を、解説しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①業界再編M&Aの意味
・業界再編M&Aとは、M&Aや経営統合、業務提携などを通じて業界地図が変わり、各業界の勢力図が再編される動きのこと。
②業界再編M&Aと業界のライフサイクルとの関連性
・業界のライフサイクルとは、業界における新規事業の成り立ちから、衰退するまでの流れのことで、「導入期」⇒「成長期」⇒「成熟期」⇒「衰退期」の順でプロセスが遷移していく。
・導入期
M&Aとの関連性はまだなく、どちらかと言うと融資や出資先を募ると言った資金調達が行われる。
・成長期
打ち手の早い企業はこの時期でM&A戦略を開始し、一気にシェア拡大を目論見、業界内で盤石な地位を構築。
M&A戦略の主な目的としても、
◆同業種の買収によるシェア及び営業エリアの拡大(水平型M&A)
◆川下から川上に位置する関連企業の取り込み(垂直型M&A)
など、同一業界又は関連性の近しい企業に絞り、事業規模拡大と製造ラインを短期間で整備しようとする、いわゆる「時間をお金で買う」ことで確固たる地位を確立。
・成熟期
勝ち組は撤退企業(または事業)の買収で更なる規模の拡大を図り、今後もこの業界をけん引する企業として君臨する一方、負け組は撤退を決定し、今まで投じた資本を少しでも回収するため、企業(または事業)を売却し、業界から完全にフェードアウトするという構図が確立。
・衰退期
M&Aもピークを過ぎており、撤退が遅れた企業(または事業)の売却価額もだいぶ目減りしており、買い手がつかない事さえある。導入期から衰退期までの一連の流れで、最終的には上位3社の市場占有率が90%を超えるという構図が出来上がり、業界再編も終焉をむかえる。
③業界再編M&Aが起こる主な理由
・好景気による業界再編M&A
活動拠点の拡大や製造ラインの増設を企業内で行うことはもちろん、M&A戦略も活発となり、業界自体の勢力図を塗り替えるような業界再編M&Aが起こることがある。
・規制改革による業界再編M&A
改正内容に対応できない企業がいる場合、それを機に企業または事業売却を検討することがあり、事業継続する企業はこの流れを受け、M&A戦略の好機と判断し買収する動きに出る。
・技術革新による業界再編M&A
技術力があっても企業規模が小さく資金面をはじめ経営資源が乏しい企業は、生き残りを図るため、大企業グループの傘下にはいる決断をすることもあり、業界は再編されていく。規制改革による業界再編M&A同様、スピーディーに対応できるかがカギとなり、この二つが起こる時期は、業界でも激動期となる。
・業界内のリーダー企業決定による業界再編M&A
業界内のリーダーは、業界の盟主とも言え、中小企業としては、リーダーの動きに追随するほうが経営上、何かと都合がよく、リーダー企業と中小企業間で資本関係を築く動きが出てくる。業界のリーダーは、業界のライフサイクルの衰退期を向えるころには5社前後に絞られ、業界地図もだいぶスリム化される。
・異業種の新規参入による業界再編M&A
新規参入の方法としては、イチから会社や事業を立ち上げることは元より、立上げ期間をショートカットすべく、M&A戦略で効率良く、短期間で業界シェアを拡大し、確固たる地位を構築してくる。これによる業界再編M&Aは短期集中的に巻き起こるため、業界内の企業は異業種からの参入にも常時警戒を怠ってはいけない。
・業界上位の統合による業界再編M&A
業界上位企業同士の統合という方法は効果的であり、例えば、2位と3位の企業が統合し、トップシェア企業を一気に追い抜くことがある。逆もしかりで、トップシェア企業が2位以下に更に差をつけるべく、3位以下の企業と統合し、他の追随を許さない体制を構築することもある。
・業界企業の不祥事による業界再編M&A
不祥事など突発的事象が発生した場合、消費者はじめステークホルダーからの信頼回復を図るため、他の上位企業への身売りが行われることがあり、上位同士の合併により業界再編M&Aが急遽として起こることがある。「突発的事象」には他に「災害」もあり、「不祥事」同様、社内にリスク対策室などを設け企業継続性への危機管理は常に行わなければならず、業界上位企業であってもその地位に胡坐(あぐら)をかいていてはいけないのだ。
④業界再編M&Aのメリット・デメリット
・買い手における業界再編M&Aのメリット
経営資源を短期間で獲得し、自社とのシナジー効果で更なる事業規模の拡大を目指すには、M&A戦略は最も効率が良く、金銭(M&Aスキームによっては自社の株式などで)の支払いで、欲しいものが手に入り業界シェアを一気に伸ばすことが可能。
・買い手における業界再編M&Aのデメリット
短期間のうちにM&Aを複数回実行することは、各子会社(または吸収合併における消滅会社)の経営リスクが一気に噴き出し、中核となる企業の経営を脅かす要因にもなりえる。また、従業員も急激なM&Aに耐え切れず、買収後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)業務、つまり統合業務に手が回らず、せっかくのM&Aもシナジー効果どころか、経営リスクのみが残る結果となってしまう。
・売り手における業界再編M&Aのメリット
業界再編が進むその中で、強か(したたか)に生き残りを図ることは経営者として当然の行動であり、その選択肢として企業売却を採用したと言うことに過ぎず、大企業グループの下で会社が存続し、順風満帆ということであれば、それは立派なメリットであり、その判断は英断と言える。
・売り手における業界再編M&Aのデメリット
急激な変化により従業員が大量離職してしまうことがある。なぜならば、大企業と中小企業の企業文化には、かなりの温度差があり、それを無理やり大企業に寄せてしまうことは、従業員のマインドや生活を一変させてしまうことになるからだ。
⑤業界再編M&Aが活発な業界
・「人材=収益源」となっている業界であり、それだけに人材の獲得は企業が成長する上で欠かすことはできず、急務な課題となっている。日本の人口減少も相まって、採用活動だけでは到底追い付けず、そこでM&A戦略を図ることは、人材ごと企業を囲い込むことが主流となっているため、業界全体のM&A合戦も熾烈なものになっている。
⑥中小企業が業界再編M&Aに対応していくには?
・業界動向の情報収集を怠らない
経営戦略を練る上でも、情報量が大いに越したことはないが、経営者としては、それらを精査する力が必要となる。なぜならば、情報は収集することよりも活用することの方が重要であり、フェイク情報や誤認をした場合、おのずと間違った経営判断をする可能性があるからだ。
・業界のライフサイクルに目を向ける
ライフサイクルが見えると自社がどう動くべきかが、おのずと見えてくることが多く、将来を見据えた判断も可能となる。活性化する時期は、「成長期~成熟期」であり、この時期の見極めが重要となってくる。
・どこかの傘下にはいるならば・・・
まずは自社の経営理念や将来ビジョンを再度明確にさせる必要がある。なぜならば、買収先を検討する際、自社の企業文化を大切に引き継いでくれる先を探索する必要があり、これが明確になっていなければ、買い手先もどのような思いを承継すればいいのかが分からず結果、両者の意識に齟齬が生じ、どこの傘下からも受け入れてもらえなくなるからだ。
今回のテーマである業界再編M&Aについては、どの業界であっても、また企業規模にかかわらず熟知していただきたい内容でした。なぜならば、業界の流れに乗り遅れると対応が後手に回り、拡大だけではなく生き残りも難しい時代となってきたからです。
M&A戦略を経営戦略の柱のひとつとして企業経営を行わなければ企業の成長だけではなく、存続が危ぶまれるという時代になってきたこと自体が、業界と言う壁をも越えた再編ともいえるのではないでしょうか。
※M&Aのご相談を受け付けてくれるM&A専門家多数!気になる方は、下記リンクより専門家に依頼しましょう!
スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」伊藤氏からのワンポイントアドバイス!
こんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
はいっ!
今回は、「業界再編M&A」について解説しました。
いつもの話題は、M&Aについての、「第三者承継」や「基本合意」「独占交渉権」「クロージング」などの細かい部分にスポットを当てて解説してきましたが、今回は業界全体とM&Aの関係という、だいぶマクロなお話でしたね。
【関連記事】
ご覧いただいてお気づきかと思いますが、M&Aと関わり合いのない経営を行っていても、業界内でM&Aが活発だと業界全体に荒波が立ち、その渦に巻き込まれる可能性があるわけなんですね。
売り手さんであっても買い手さんであっても、「ウチはM&A戦略は取らないから関係ないよ」では、済まないと言うことが伝わればわたくし、大満足です!
若干、上級者向けの話題にも感じられたかと思いますけど、しっかり押さえていて下さい!
さてさて、業界再編M&Aですが、「業界再編M&Aが活発な業界」のセクションでもお話しした通り、非常に活発な業界ってたくさんあるんですね。
例でも挙げましたけど、ITや調剤薬局、士業(弁護士、税理士、社労士など)、マンパワーが必要な業界(運送、建設、介護など)は慢性的な人手不足で、採用活動だけでは全く追いつかないんですね。そこでM&Aを活用して会社ごと人材を獲得するという戦略をとっている企業は年々増加傾向にあるわけです。
実際、士業事務所案件のM&Aを弊社でご依頼いただくと、お問い合わせから2~3か月で成約してしまうくらいです。(長くても半年かからないですね。すごいですよね。)
この点、本文中ではサラッとだけお話ししたので、もう少し深掘りして解説したいなあと思っていました。
と言う事で、今回のワンポイントアドバイスは「【なぜっ!?】人材不足の業界でM&Aが活発な理由!」を解説していきます!
【なぜっ!?】人材不足の業界でM&Aが活発な理由!
ではでは、人材不足の業界でM&Aが活発な理由について解説していきましょう!
今回解説するポイントは以下の3つです!
それでは順に、ご説明しましょう!
①有資格者は引っ張りだこ!
少子高齢化が進むこのご時世ですが、採用活動で悩まれている経営者の方ってかなり多いですよね。優秀な人材を採用すること自体なかなか難しくなってきてますが、有資格者ともなれば、もっともっと難しいですよね。
特に、弁護士、税理士、社労士、医師、薬剤師、建築士、不動産鑑定士などなど、難関資格と呼ばれる資格を保有している人材は貴重ですよね。
これらの有資格者はどこも引っ張りだこですね。
業界で言うと難関資格保有者を何人雇用しているかも立派なブランド力になっていて、頭数が多いほど、世間からの見栄えも良くなり、新規採用のエントリーも増えるわけです。
つまり、これら有資格者をM&Aで複数人獲得するってことは、単に資格保有者数と彼らが稼ぐ売上が増えるだけじゃなく、採用活動も有利になっていくってことなんですよ。
と言うこともあり、こういった難関資格と関連した業界ってM&Aが活発だったりするわけなんですよね~。
②戦力になるまで時間がかかる!
これについては、IT業界が最たるものですね。
IT・ソフトウェア関連のM&Aを買収したことがある方は、知っていると思いますが、IT・ソフトウェア企業の企業価値評価って時価純資産や各利益も当然見ますが、人に焦点を当てて評価することがあるんですね。(むしろこっちのが多いです。)
これどういうことかと言うと、IT・ソフトウェア企業のM&Aの場合、必須資料として作成するのが従業員全員分のスキルシートなんですね。資格や得意分野、経験年数、今までに参画したプロジェクト、そして、個人が年間で売り上げた数値なんかも記載されることがあります。
これら各個人の情報をエクセルシートに一覧表などにまとめて、スキルシートとして買い手側に開示するのが一般的です。
なぜこんなことするかと言うと、買い手側からすれば、各個人が年間でどれだけ売り上げているかと、どういったスキルを持っている人材がいるのかが一番気になるからなんですね。
IT人材って戦力になるまでに時間がかかるんですよ。
資格ももちろんなんですけど、「技術力とクオリティの高い仕事を早くこなせる」人材って本当に重宝されるわけで、技術力とクオリティが高ければ、売上単価と会社の信用度も上がりますし、作業が早ければそれだけ早く納品ができますよね。
つまり、
「単価が高く、信頼性がある成果物を、早く納品できる」
という、ことにつながるわけですね。
けど、こうなるためには、かなりの熟練が必要なんですね。新卒採用者を育てた場合、一人前になるまで長期間かかりますし、最初のうちはむしろ従業員への投資みたいなものです。
こう言った事もあり、「即戦力人材は、M&Aで獲得しよう!」ってなるのは、当然の流れですよね。
③とにかくマンパワーが欲しい!
建設業、運送業、介護事業は特に慢性的な人材不足ですね。肉体労働系は業務もきついですし、採用してもなかなか定着せず、離職率も高いですよね。これら業界の経営者の方は頭の痛いところだと思います。
上記①②をご覧いただいてもうお察しの通り、マンパワー不足解消もM&Aで一気に解決したくなるのがごく自然な流れで、やはりこの業界のM&Aも活発ですね。
人数が多ければそれだけ請け負える仕事量も増えますし、売上も伸ばせます。
つまり、
「それだけでも十分なシナジー効果が獲得できる!」
と言えるわけなんですね。
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「【なぜっ!?】人材不足の業界でM&Aが活発な理由!」を解説しました。
人材獲得を目的としてM&A戦略をとる場合って、もちろんお金がかかりますよね。買収代金だけじゃなく、M&A専門家に支払う費用や、デューデリジェンス費用、その他諸経費もです。
人材紹介会社に登録して、採用した時も費用がかかりますよね。人材紹介会社によっても変わりがありますが、月額料金やら成果報酬やらと。いずれにせよ人材を獲得するためには、それなりの費用がかかるわけです。
両者の大きな違いとすれば、「M&Aの方は人材獲得プラスアルファで、シナジー効果も見込めると言うこと」ですよね。そういった意味でも、M&A戦略は効率がいいとM&A専門家としては感じますね。
今回の記事を読んで頂いて、M&A戦略も経営戦略の柱にしていただければ嬉しい限りです。近い将来、業界再編M&Aを巻き起こして、業界地図を塗り替えるのは、あなたかも知れませんよ!
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今回のワンポイントアドバイスでは、「【なぜっ!?】人材不足の業界でM&Aが活発な理由!」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
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最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!それでは!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
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