今回は、「会社分割とは?」について、解説します。
会社分割は、M&Aスキーム(譲渡形態)の一つであり、グループ企業内の再編でよく活用される手法となっています。中小企業M&Aでは、あまり活用されることのないM&Aスキームのため、複数回のM&A成約経験のある方でも、なかなか体験したことがないのではないでしょうか?
代表的なM&Aスキームには、株式譲渡と事業譲渡がありますが、M&Aの可能性に幅を持たすためにも、今回解説する会社分割についても知識をつけていただき、M&Aの成功に役立てていただければと思います。
また、会社分割は事業譲渡と似たM&Aスキームともなっており、よくこれと比較されることがあります。本編では、両者の違いにも触れているため、案件状況によってM&Aスキームを使い分けて頂ければ幸いです。
今回のラインナップは、会社分割についての、
①会社分割の意味
②会社分割の種類
③吸収分割
④新設分割
⑤共同分割
⑥会社分割と事業分割の違い
⑦会社分割のメリット
⑧会社分割のデメリット
⑨会社分割が用いられるケース
⑩会社分割の手続き
⑪新設分割の手続きの流れ
⑫吸収分割の手続きの流れ
⑬会社分割における労働契約に係る法的手続き
を中心に、解説していきます。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、「【必見】会社分割における許認可の承継」も解説していますので、是非、ご覧ください!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
【必見!】巻末にスモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表伊藤氏より、M&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
会社分割の意味
会社分割とは、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、他の会社に承継することです。会社分割と一言で言っても、複数の種類があり、メリット・デメリット、そして、手続きについても、他のM&Aスキームと比較し、かなり特徴があります。
各セクションで詳しく解説しているので、一つ一つ確認しながら読み進めてください。
会社分割の種類
会社分割には、大別すると吸収分割と新設分割の2種類があり、案件の状況に応じて使い分ける必要があります。
吸収分割と新設分割の詳細については、次のセクションで見ていきましょう。
吸収分割
吸収分割とは、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、既存の他の会社に切り離した事業を承継することです。既存のグループ会社または、全くの別会社へ事業を承継し、不採算事業を切り離して事業効率を上げることを目的に活用されることが一般的です。
吸収分割は、さらに分割型吸収分割と分社型吸収分割の2種類があります。
分割型吸収分割(人的吸収分割)
分割型吸収分割とは、吸収分割において分割する会社の株主に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のことです。
分社型吸収分割(物的吸収分割)
分社型吸収分割とは、吸収分割において分割する会社に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のことです。
新設分割
新設分割とは、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、新設した他の会社に切り離した事業を承継することです。新設した会社へ事業を承継し、経営の効率化や不採算事業を切り離して事業効率を上げることを目的に活用されることが一般的です。
新設分割にも吸収分割同様、さらに分割型新設分割と分社型新設分割の2種類があります。
分割型新設分割(人的新設分割)
分割型新設分割とは、新設分割において分割する会社の株主に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のことです。
分社型新設分割(物的新設分割)
分社型新設分割とは、新設分割において分割する会社に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のことです。
共同分割
共同分割とは、複数の企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、既存または、新設した他の会社に切り離した複数の事業を承継することです。既存の会社に事業を承継する場合は、共同吸収分割となり、新設する会社に事業を承継する場合は、共同新設分割となります。
複数の関連事業を1つの会社に集約することによって、事業規模を一気に拡大させることを目的に活用されることが一般的です。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と事業譲渡の違いをご解説する前に、事業譲渡について簡単にご説明します。
事業譲渡とは、企業の保有する全部または一部の事業を譲渡するM&Aスキーム(譲渡形態)のことです。事業を譲渡した売主は、その代価を現金でもらい、事業を譲受した買主は、その代価を現金で支払い、譲渡対象事業の経営権を得るのです。
小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)では、最も多い譲渡スキームではありますが、株式譲渡に比べると若干複雑で手間も要します。
事業譲渡は、会社分割同様、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、他の会社に譲渡する点で共通しているため、両者はよく混同される傾向にあります。しかし、両者は全くの別物であり、混同したままM&Aを実行する事は非常に危険なため、相違点を正確に把握しておく必要があります。
次のセクションで、両者の具体的な違いを見てきましょう。
事業譲渡は売却
会社分割は、切り出した事業を、既存または新設した他の会社に移転して承継します。これに対し、事業譲渡は、切り出した事業を、他の会社に売却して承継します。
会社分割の場合は、事業部ごと他の会社に移転することが一般的です。これに対し、事業譲渡の場合は、譲渡する資産、顧客、従業員、契約的地位を自由設計し、1事業として集約したものを他の会社に売却するという点で異なります。
事業譲渡をM&Aスキームに活用した場合、1事業として集約したものが事業部に見えるため、この点が非常に混同されやすいのですが、事業譲渡契約は、厳密にいうと、売買契約であると言えるのです。
包括的・個別的な承継
会社分割の場合は、事業部ごと他の会社に移転されるため、顧客、従業員、その契約的地位も、包括的に承継(包括承継)されます。この点、個別に各契約を締結し直す必要はなく、手続き的には簡便となります。
しかし、事業譲渡の場合、譲渡する資産、顧客、従業員、契約的地位を自由設計し、1事業として集約したものを他の会社に売却するため、包括的に承継する事はできません。
そのため、個別に各契約を締結し直す必要があり(個別承継)、手続き的に複雑となり時間も要します。
譲渡対価
譲渡対価についても、両者で大きく異なる点となっています。一般的に、会社分割の譲渡対価は、事業を承継する会社の株式となりますが、事業譲渡の譲渡対価は、現金となります。
そのため、事業譲渡の場合、譲渡代金と譲渡を譲り受けた後の、当面の事業資金を調達しておく必要があり、資金力に余裕のない会社は、M&Aスキームとして活用する事が難しくなるのです。
課税関係
課税関係については特に気を付けるべき点となります。会社分割は、適格組織再編となる場合は、法人税上の優遇措置を受けることが可能です。
※適格組織再編については後述します。
しかし、事業譲渡の場合、売り手側は法人税が課税され、買い手側は、消費税がかかります。税務処理については、非常に重要な点であるため、顧問税理士などに相談しながらM&A手続きを遂行するようにしてください。
会社分割のメリット
会社分割をM&Aスキームとして活用するメリットについて解説してきましょう。
会社分割のメリットは以下の3つになります。
資金調達が不要
中小企業M&Aで活用されるM&Aスキームの代表は、株式譲渡と事業譲渡です。どちらも譲渡対価は現預金となりますが、会社分割の場合、譲渡対価は買収企業の株式を対価として、分割する会社または株主に交付します。
よって、資金調達は不要であり、大きなキャッシュアウトや資金借入の負担はありません。
包括承継が可能
前述の通り、会社分割は、事業部ごと他の会社に移転されるため、顧客、従業員、その契約的地位も、包括的に承継(包括承継)されます。したがって、個別に各契約を締結し直す必要はなく、手続き的には簡便となります。
これは、分割する事業規模が大きければ大きいほどメリットがあり、M&A手続きを進める上での手間や時間を大幅にショートカットすることが可能となります。
経営のスリム化
会社規模が大きくなればなるほど、展開する事業も多角化されていく傾向にあります。
多角化戦略をとることでリスク分散も図れますが、不採算が過ぎる事業部は、いつか閉鎖しなければいけません。事業を閉鎖するには、当然コストもかかり、それにより多くの時間も費やします。
しかし、自社にとっては不採算となる事業部を生かせる企業に譲渡することで、垂れ流していた赤字がカットされ、買収企業側の株式を取得できます。更に、買収企業が不採算事業を再生してくれれば、買収企業からの配当金を受け取れる可能性さえ出てきます。
また、事業規模が縮小されたことで身軽になり、会社の意思決定も効率化され、迅速な判断も下すことができるようになります。事業の選択と集中が実現され、経営もスリム化されるというわけです。
会社分割のデメリット
次は、会社分割をM&Aスキームとして活用するデメリットについて解説してきましょう。
会社分割のデメリットは以下の3つになります。
包括承継による弊害
包括承継が可能と言うのは、会社分割のメリットでもありますが、一方、それによる弊害もあります。それは、資産や契約的地位を包括承継することで、簿外債務や偶発債務などのリスクも引き継いでしまう恐れがあると言うことです。
これは、株式譲渡をM&Aスキームに活用した時も同様であり、デューデリジェンス(買収監査)で、会社や事業の深部まで調査する必要があります。
包括承継はメリットである反面、それによる弊害もあると言う事を忘れないで下さい。
買収企業の株価低下リスクの発生
会社分割は、そもそも不採算事業の切り離しを目的にされることが多く、赤字事業部を譲り受けたことで、承継会社の業績が悪化し、財務内容を毀損する恐れがあります。承継会社が上場企業の場合、業績が悪化しなくても別の問題も介在します。
買収対価には株式を発行し分割会社やその株主に交付しますが、新株を発行する、つまり、増資をすることになります。これにより、企業の発行済み株式の総数が増加することで、1株あたりの株式の価値が下がることとなります。
いわゆる、「株式の希薄化」のリスクが発生すると言うことです。
また、既存の株主にとっては1株あたりの配当が減少するなどの不利益が生じる可能性も出てくるため、非常に注意が必要となります。
株主総会特別決議が必要
会社分割を実行するには、株主総会の特別決議で可決される必要があります。特別決議において、株主の3分の2以上から賛同を得られない場合は実行できません。
これは、新株を発行することの弊害でもあり、株主構成が変動してしまうことや、前のセクションで解説した、株式の希薄化が主な要因と言えます。
会社分割が用いられるケース
会社分割が用いられるケースは、大別して2つのケースがあります。
グループ企業の組織再編として
会社分割が最も多く用いられるのは、グループ企業の組織再編を行うケースです。
前述の通り、会社分割の譲渡対価は金銭の授受を必要としない株式であり、グループ企業内での株式の交付となるため、資本関係を維持した状態で、事業の切り離しが可能です。
さらに、優遇税制や簡易・略式での手続きを適用できる場合もあり、グループ企業の組織再編には最も適したM&Aスキームと言えるでしょう。
※優遇税制や簡易・略式については後述します
M&Aスキームとして
当然の話ですが、会社分割を通常のM&Aスキームとして活用できます。分割会社としては、事業の選択と集中、経営のスリム化などを図ることができ、承継会社としては、事業規模の拡大、新規事業の取得などを図ることができます。
この点、株式譲渡や事業譲渡など、他のM&Aスキームとも比較し、分割会社と承継会社で、どの譲渡形態が一番メリットが出るかを考察しながらM&Aを遂行することを推奨します。
会社分割の手続き
会社分割の手続きは、新設分割と吸収分割で異なります。
おおまかな手続きの流れは一緒ですが、新設分割の場合は、事業を移転させる会社の新設手続きが必要となります。一方、吸収分割の場合は、既存の会社に事業を承継させるため、吸収分割契約書を締結する点がポイントとなります。
それぞれの手続きの流れについて見ていきましょう。
新設分割の手続きの流れ
新設分割の手続きの流れを見ていきましょう。
後述する吸収分割の手続きの流れと比較しながら読み進めてください。
①新設分割計画書の作成
まずは、新設分割計画書を作成する必要があります。
計画書の一般的な記載事項は、
などです。
②分割会社への事前開示書類の備置
事前開示書類とは、法定開示事項を記載した書類のことで、株主総会の2週間前から会社分割の効力発生日後、6カ月間、分割会社の本店に備え置かなければいけません。
③従業員への事前通知
労働承継法で定められている事項を、従業員へ事前に通知します。
④反対株主による株式買取請求通知
株主に、新設分割に反対する場合は、株式買取請求ができる主旨で通知をします。
⑤債権者保護手続き
新設分割手続において債権者には、官報公告と個別催告で異議申立てができる主旨で通知をします。
また、債権者の権利に影響がない場合は、債権者保護手続きは省略できます。
⑥株主総会開催・特別決議
新設分割を実行するには、株主総会の開催と特別決議の承認が必要です。また、株主総会の開催通知には、新設分割の計画についても通知する必要があります。
⑦登記申請
登記申請は、分割会社・新設会社の双方で行います。分割会社では、株式を引き渡すことにより資本が減少するため、それを証明する書類と、代表者役員の印鑑登録証明書が必要となります。
一方、新設会社は、新設分割計画書や定款、株主総会の特別決議の議事録、増資したことを証明する資料(譲渡対価が株式なので)などが必要になります。
⑧分割会社・新設会社で事後開示書類を備置
分割会社・新設会社で事後開示書類を備置しなければいけません。期間は、新設分割の効力発生日から6ヶ月間となります。
吸収分割の手続きの流れ
吸収分割の手続きの流れを見ていきましょう。
前述した新設分割の手続きの流れと比較しながら読み進めてください。
①吸収分割契約書の作成
吸収分割では、既存の会社に事業を承継させるため、吸収分割契約書を作成します。分割会社の会社機関に取締役会が設置してある場合は、取締役会の承認を得る必要となります。
②吸収分割契約の締結
分割会社、承継会社間で、吸収分割契約を締結します。
③分割会社への事前開示書類の備置
事前開示書類とは、法定開示事項を記載した書類のことで、株主総会の2週間前から会社分割の効力発生日後、6カ月間、分割会社の本店に備え置かなければいけません。
④従業員への事前通知(分割会社のみ)
労働承継法で定められている事項を、従業員へ事前に通知します。
⑤反対株主による株式買取請求通知
株主に、吸収分割に反対する場合は、株式買取請求ができる主旨で通知をします。
⑥債権者保護手続き
吸収分割手続において債権者には、官報公告と個別催告で異議申立てができる主旨で通知をします。
また、債権者の権利に影響がない場合は、債権者保護手続きは省略できます。
⑦株主総会開催・特別決議
吸収分割を実行するには、株主総会の開催と特別決議の承認が必要です。
⑧登記申請
登記申請は、分割会社・承継会社の双方で行います。分割会社では、株式を引き渡すことにより資本が減少するため、それを証明する書類と、代表者役員の印鑑登録証明書が必要となります。
一方、承継会社は、株主総会の特別決議の議事録、増資したことを証明する資料(譲渡対価が株式なので)などが必要になります。
⑨分割会社・承継会社で事後開示書類を備置
分割会社・吸収会社で事後開示書類を備置しなければいけません。期間は、吸収分割の効力発生日から6ヶ月間となります。
会社分割における労働契約に係る法的手続き
会社分割においては、労働者保護手続きを行わなければなりません。これは、労働契約承継法によるもので、これに抵触しないよう注意しなければなりません。
必要な手続きについて解説していきましょう。
労働組合や労働者への通知
労働組合や労働者へ、会社分割を計画していることを通知する必要があります。通知内容は、意思決定するに十分な情報と、会社分割に対し異議申立てを受け付けるものとなります。
労働組合との事前協議
労働承継法においては、会社分割を計画する場合、労働組合と労働者との事前協議を行うことが義務付けられています。協議内容は、承継会社の情報、労働環境、待遇、そして、労働組合と労働者からの意見聴取となります。
労働者からの理解
労働者保護手続きで最も重要なことは、労働者からの理解です。会社分割後、承継会社で労務に従事するのは当然、労働者であり、彼らからの理解なく会社分割を行うことはできません。
そのため、労働契約承継法では、労働者から理解を得ること、労働者との協議を受け付けること、そして、異議申立てがあれば受け付けることを義務付けています。
会社分割における債権者保護手続
会社分割においては、債権者についても保護する必要があります。債権者保護手続きを行わず、会社分割の登記が完了した場合、登記日より6カ月以内であれば、債権者は会社分割について無効の裁判を起こせます。
会社分割における債権者保護手続きについての注意点としては、
①官報への広告しか行わず、個別催告を怠る
②官報公告や債権者保護手続きのスケジュールを誤る
などがありますので、注意が必要です。
また、異議申し立てが可能な債権者は、
①債務の履行も連帯保証債務の履行もできない分割会社の債権者
②人的分割を行った分割会社の債権者
③承継会社の債権者
となります。
前のセクションで解説した労働者保護手続き同様、債権者保護手続きも、会社分割において、非常に重要な部分となりますので注意して下さい。
簡易組織再編・略式組織再編で株主総会の特別決議を省略
組織再編の一種である会社分割は、要件を満たせば、簡易組織再編または、略式組織再編となり、株主総会の特別決議を省略できます。
会社分割における簡易組織再編・略式組織再編の適用要件は以下のようになります。
簡易組織再編の適用要件
・分割会社側:譲渡する資産が分割会社の総資産額の5分の1以下の場合に適用可能
・承継会社側:譲渡対価(株式)が承継会社の純資産額の5分の1以下の場合に適用可能
略式組織再編の適用要件
※補足:特別支配関係とは、親会社が子会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有している関係のこと。親会社は、特別支配会社。子会社は被支配会社と言われる
会社分割における適格要件と税務
会社分割において、適格要件を満たし適格組織再編と認められれば、税制上の優遇措置を受けることができます。これは、税制適格分割と呼ばれ、分割会社より引き継ぐ資産・負債を簿価で引き継ぐことが可能となり、事実上、法人税の優遇を受けることとなります。
適格要件を満たさない場合は、税制非適格分割と呼ばれ、分割会社より引き継ぐ資産・負債を時価で引き継ぐこととなり、法人税の優遇を受けることができません。
また、グループ会社以外の会社分割を行う場合も、一定の要件を満たせば優遇措置を受ける事もでき、これは、共同事業適格要件と呼ばれます。適格要件については、会社分割の検討段階で把握しておく必要があり、顧問税理士をはじめ、その他専門家などに相談し、優遇措置の恩恵を受けることができるか否かの意見を求めるようにしましょう。
会社分割における注意点
会社分割における注意点を解説します。特に上場企業や大企業では、金商品取引法や独占禁止法に抵触しないよう注意しなければいけない部分となります。
公正取引委員会、監督官庁などへの事前確認・届出
大企業や上場企業の場合、会社分割による事業規模拡大によって、独占禁止法に抵触する可能性がないかを確認する必要があります。独占禁止法に抵触する恐れがないかを、公正取引委員会へ事前に確認・届出を行い、会社分割を実行する上での障害を把握しておくのです。
また、公正取引委員会による調査は時間も要すため、その点も考慮しなければいけません。
契約書類などの開示臨時報告書の提出
上場企業の場合、金融商品取引法の定める組織再編行為に当てはまるかどうかを確認する必要があります。
該当する場合は、臨時報告書や有価証券届出書、有価証券通知書を提出しなければならず、この点、注意が必要です。
まとめ
以上、「会社分割とは?」を、解説しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①会社分割の意味
②会社分割の種類
③吸収分割
・吸収分割とは、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、既存の他の会社に切り離した事業を承継すること。吸収分割は、さらに分割型吸収分割と分社型吸収分割の2種類がある。
・分割型吸収分割とは、吸収分割において分割する会社の株主に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のこと。
・分社型吸収分割とは、吸収分割において分割する会社に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のこと。
④新設分割
・新設分割とは、企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、新設した他の会社に切り離した事業を承継すること。新設分割にも吸収分割同様、さらに分割型新設分割と分社型新設分割の2種類がある。
・分割型新設分割とは、新設分割において分割する会社の株主に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のこと。
・年分社型新設分割とは、新設分割において分割する会社に、事業を承継する会社の株式を対価として引き渡す方法のこと。
⑤共同分割
・共同分割とは、複数の企業が展開する事業の一部または全てを切り離し、既存または、新設した他の会社に切り離した複数の事業を承継すること。
既存の会社に事業を承継する場合は、共同吸収分割となり、新設する会社に事業を承継する場合は、共同新設分割となる。
⑥会社分割と事業譲渡の違い
・会社分割は、切り出した事業を、既存または新設した他の会社に移転して承継。これに対し、事業譲渡は、切り出した事業を、他の会社に売却して承継する。
・会社分割の場合は、事業部ごと他の会社に移転する事が一般的。これに対し、事業譲渡の場合は、譲渡する資産、顧客、従業員、契約的地位を自由設計し、1事業として集約したものを他の会社に売却する。
・会社分割の場合は、事業部ごと他の会社に移転されるため、顧客、従業員、その契約的地位も、包括的に承継(包括承継)される。しかし、事業譲渡の場合、譲渡する資産、顧客、従業員、契約的地位を自由設計し、1事業として集約したものを他の会社に売却するため、包括的に承継する事はできない。
・一般的に、会社分割の譲渡対価は、事業を承継する会社の株式となるが、事業譲渡の譲渡対価は、現金となる。
・会社分割は、適格組織再編となる場合は、法人税上の優遇措置を受けることが可能。しかし、事業譲渡の場合、売り手側は法人税が課税され、買い手側は、消費税がかかる。
⑦会社分割のメリット
・譲渡対価は買収企業の株式を対価として、分割する会社または株主に交付する。よって、資金調達は不要であり、大きなキャッシュアウトや資金借入の負担はない。
・事業部ごと他の会社に移転されるため、顧客、従業員、その契約的地位も、包括的に承継(包括承継)される。
・自社にとっては不採算となる事業部を生かせる企業に譲渡することで、垂れ流していた赤字がカットされ、買収企業側の株式を取得できる。
⑧会社分割のデメリット
・資産や契約的地位を包括承継することで、簿外債務や偶発債務などのリスクも引き継いでしまう恐れがある。
・赤字事業部を譲り受けたことで、承継会社の業績が悪化し、財務内容を毀損する恐れがある。また、企業の発行済み株式の総数が増加することで、1株あたりの株式の価値が下がることとなる。(株式の希薄化)
・株主総会の特別決議で可決される必要がある。
⑨会社分割が用いられるケース
・グループ企業の組織再編を行うケース。優遇税制や簡易・略式での手続きを適用できる場合もあり、グループ企業の組織再編には最も適したM&Aスキームと言える。
・通常のM&Aスキームとして活用。分割会社は、事業の選択と集中、経営のスリム化などを図ることができ、承継会社としては、事業規模の拡大、新規事業の取得などを図ることができる。
⑩会社分割の手続き
・新設分割の場合は、事業を移転させる会社の新設手続きが必要となる。
一方、吸収分割の場合は、既存の会社に事業を承継させるため、吸収分割契約書を締結する点がポイントとなる。
⑪新設分割の手続きの流れ
2.分割会社への事前開示書類の備置
3.従業員への事前通知
4.反対株主による株式買取請求通知
5.債権者保護手続き
6.株主総会開催・特別決議
7.登記申請
8.分割会社・新設会社で事後開示書類を備置
⑫吸収分割の手続きの流れ
1.吸収分割契約書の作成
2.吸収分割契約の締結
3.分割会社への事前開示書類の備置
4.従業員への事前通知
5.反対株主による株式買取請求通知
6.債権者保護手続き
7.株主総会開催・特別決議
8.登記申請
9.分割会社・承継会社で事後開示書類を備置
⑬会社分割における労働契約に係る法的手続き
・労働組合や労働者への通知。計画している事を通知する必要がります。通知内容は、
意思決定するに十分な情報と、会社分割に対し異議申立てを受け付けるというもの。
・労働組合と労働者との事前協議を行う事が義務付けられている。
・労働者からの理解を得ること。
⑭会社分割における債権者保護手続
⑮簡易組織再編・略式組織再編で株主総会の特別決議を省略
⑯会社分割における適格要件と税務
・税制適格分割:分割会社より引き継ぐ資産・負債を簿価で引き継ぐことが可能となり、事実上、法人税の優遇を受けることとなる。
・税制非適格分割:適格要件を満たさない場合は、分割会社より引き継ぐ資産・負債を時価で引き継ぐこととなり、法人税の優遇を受けることができない。
・共同適格要件:グループ会社以外の会社分割を行う場合も、一定の要件を満たせば優遇措置を受けることもできる。
⑰会社分割における注意点
・独占禁止法に抵触する恐れがないかを、公正取引委員会へ事前に確認・届出を行い、会社分割を実行する上での障害を把握しておく必要あり。
・上場企業の場合、金融商品取引法の定める組織再編行為に当てはまるかどうかを確認。
該当する場合は、臨時報告書や有価証券届出書、有価証券通知書を提出しなければならず、注意が必要。
冒頭でもお話ししましたが、中小企業M&Aでは、あまり活用されることのないM&Aスキームのため、複数回のM&A成約経験のある方でも、なかなか体験したことがないと思います。
ですが、M&A買収を複数回成約することで、事業規模が大きくなっていけば、いつかは必要になってくるM&Aスキームとなるでしょう。なぜならば、グループ企業全体で考えると、部分最適よりも全体最適を考慮した経営を意識する事が最も重要になってくるからです。
内容としては、M&A上級者向けのものとなりましたが、重要な点をしっかり押さえてもらい、グループ企業全体の最適化に役立てて頂ければ嬉しいです。
※ご自身での会社分割の手続きがお難しい場合、ご相談を受け付けてくれるM&A専門家もいます。気になる方は、下記URLより専門家に依頼しましょう!
【スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」伊藤氏からのワンポイントアドバイス!】
こんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
はいっ!
今回は、「会社分割」について解説しました。会社分割は、非常に奥の深いM&Aスキームと言うこともあり、長尺になりましたね。(汗)
最後まで読んで頂いてなんですけど、やっぱり、グループ企業の組織再編で活用されることが多いので、中小企業のM&Aでは、あんまりお目にかからないですね。
特に小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)の現場では、まず使われないM&Aスキームですよね。
小規模M&Aを含め、中小企業M&Aの売り手の目的って、キャッシュが欲しいからなんですね。
現金じゃなく株でもらってもしょうがないというか・・・
また、包括承継についても、事業規模が大きければ大きいほど、メリットはありますが、小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)の事業譲渡の場合、個別承継させる契約は、さほど多くないので、そこまで手間がかかりません。
何より、簿外債務や偶発債務などの承継リスクが少ないので、どうしても事業譲渡に走っちゃいますよね。
まあ、一概にも言えないんですがね。ざっくりした言い回しですみませんね。
ただ、記事を読んで頂いてお分かりの通り、吸収分割にせよ新設分割にせよM&Aスキーム(譲渡形態)自体が、グループ企業の組織再編向けの建付けでメリットはありますよね。
手続きの流れもそうですし、簡易組織再編、略式組織再編、適格要件なんかも組織再編がやりやすいように設計されているなって感じがしますよね。
特に、包括承継なんかも言えることですよね。
顧客、従業員、その契約的地位も包括的に承継されるので、事業譲渡みたいに一つずつ契約を締結し直す必要がないので、ここいらへんのメリットって大きいですよね。
ただ、ここで注意点ですが、包括承継って万能じゃないんですね。
契約的地位が包括的に承継されるって言っても、チェンジオブコントロール(COC)条項は注意しないといけませんよ。
重要なところなので、ちょっとここで、チェンジオブコントロール(COC)条項のご説明しますよ。
チェンジオブコントロール(Change of Control-COC)条項とは、
M&Aなどの理由により、契約当事者のどちらかで経営権の移転が生じた場合、商取引契約の内容に何らかの制限や、契約の解除事由が発生したり、契約の相手方に対して経営権の移転について、事前または事後に、通知や承諾を得なければならないという条項のこと
です。なので、分割する事業部の全ての契約は必ずチェックし、必要があれば契約の相手方に通知や承諾を得るようにして下さいね。
ここ重要ですよ!
そしてまた、もう一つ重要なポイントをお話ししますよ!
それは、「許認可の承継」です!
分割会社から承継会社に事業を移転した時、もちろん許認可も承継しなければいけません。許認可が承継できなかったら、大変なことになりますよね!
だって、承継会社でその許認可事業ができないんですよ!会社分割した意味自体なくなっちゃいますよね!
こりゃ大変だ!
なので、会社分割における許認可の承継についても正確に知っておいていただきたい部分なんですね。と言うことで、今回のワンポイントアドバイスは「【必見】会社分割における許認可の承継」を解説していきます!
【必見】会社分割における許認可の承継
ではでは、会社分割における許認可の承継について解説していきましょう!
今回解説するポイントは以下の4つです!
①許認可の承継タイプは3つ!
②当然承継タイプ!
③事前の許可・承認タイプ!
④新たに許認可取得タイプ!
⑤その他の注意点!
それでは順に、ご説明しましょう!
①許認可の承継タイプは3つ!
会社分割における許認可の承継タイプは3つです!
(会社分割は組織再編の一種なので、組織再編における許認可の承継タイプと思って下さいね。)
それは、
・当然承継タイプ!
・事前の許可・承認タイプ!
・新たに許認可取得タイプ!
です!
当然承継タイプは読んで字のごとく、許認可が分割会社から承継会社に事後の届け出だけで当然に承継されるタイプです。
次の事前の許可・承認タイプは、各監督官庁へ事前に許可・承認を受ける事で、分割会社から承継会社に許認可が承継されるタイプです。
最後の新たに許認可取得タイプは、組織再編と同時に監督官庁に新規で許認可を申請し、これを取得するタイプです。っというか、平たく言うと許認可の承継ができないってことですね。
先ほどもお話ししましたが、許認可を意識せずに組織再編を行うと、許認可が無いため営業ができなくなり、大変なことになっちゃいます!(汗)この点は、十分に気を付けてもらいたいですね。
次のセクションでは、3つのタイプの代表例をいくつか挙げてご紹介します。
②当然承継タイプ!
当然承継タイプの代表例は以下となります。
・特定貨物自動車運送事業の許可
・第一種貨物利用運送事業の登録
③事前の許可・承認タイプ!
事前の許可・承認タイプの代表例は以下となります。
・旅館業の許可
・一般貨物自動車運送事業
・第二種貨物利用運送事業の許可
・一般旅客自動車運送事業の許可
④新たに許認可取得タイプ!
新たに許認可取得タイプの代表例は以下となります。
・宅地建物取引業の免許
・労働者派遣事業の許可
・有料職業紹介事業の許可
⑤その他の注意点!
許認可の承継について注意点を解説します。それは、許認可の承継方法も法改正によって変わる可能性があると言うことです。
実際、従前の建設業については、会社分割などの組織再編をする場合、新たに許認可を取得する必要がありましたが、令和2年10月1日施行の改正建設業法により、新たに『建設業許可の承継(事業譲渡・合併・分割)、相続に係る事前認可制度』が創設され、事前の許可・承認で承継されるようになりました。
他の許認可についても今後、同様の動きがある事が予想されます。
これは個人的な見解ですが、国の方でも日本企業の事業承継手続きを円滑に進められるために、こういった法改正を行っているんだと思うんですね。
と言うこともあり、組織再編を実行する際は、事業に伴う許認可の承継方法を逐一調査して、不備のないように手続きを進めて下さいね。
今は「新たに許認可取得タイプ!」であるとしても、数年後は「当然承継タイプ!」になっているかも知れませんよ!
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「【必見】会社分割における許認可の承継」を解説しました。
許認可の承継については、やっぱり素人には難しいですよね。この部分については、自分で調査するよりも弁護士や司法書士に相談した方が早いですよね。
長年同じ業務に携わっていても、⑤その他の注意点!で解説したように、法改正によって取り扱いが変わっている可能性もあります。その都度、許認可についての調査が必要ってことですよね。
また、おおもとの話に戻りますけど、M&A自体、やっぱり難しいですよね。個人間での取引、特に個人事業を個人の方がM&Aする場合なんかだと、手続きの抜け漏れやトラブルが多いですし、注意が必要ですね。
ご自身でできるところまでM&Aを進めてみて、やっぱり無理だな~って思ったら無理せず、M&A専門家にご相談することも検討してみて下さいね。
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今回のワンポイントアドバイスでは、「【必見】会社分割における許認可の承継」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!
最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!
それでは!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
【必見!】巻末にスモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 代表 伊藤氏よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
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