【M&Aの裏側】共同受託で老舗旅館のM&Aを支援。金融機関とプラットフォームによる新たな支援モデルの可能性
2025年07月24日
2025年07月24日

志賀高原に位置する「北アルプスを望む露天風呂の宿 ひがしだて」は、株式会社ホテル東館が運営する老舗旅館。2025年4月、同社はホテル・旅館の運営等を手掛ける「株式会社ホワイト・ベアーホテルズ」へ事業承継をしました。
このM&Aを仲介したのは、長年、ホテル東館のメインバンクとしてバックアップしてきた長野信用金庫。そのセカンドオピニオン的立場で黒子の役割としてM&Aをサポートしたのが、バトンズでした。このM&A支援体制は、どのような背景で実現し、どのように進めていったのか。M&A仲介を務めた長野信用金庫の石坂力男様をお招きし、その舞台裏についてお話を伺いました。

──まずは、今回のM&Aのご相談内容や経緯について、簡単に教えてください。
譲渡企業様であるホテル東館は、長野県山ノ内町、志賀高原で旅館業を営んでおり、長野信用金庫がメインバンクを務めてきました。
志賀高原のホテルの中ではかなり珍しく、早期から高級路線に切り替えたことが特徴的で、私も実際に訪問したときは「こんな素晴らしい旅館が志賀高原にあるんだ」と驚いたことを覚えています。
──その旅館業を、後継者不在を背景にM&Aの検討を始めたという経緯ですよね。
譲渡企業オーナー様にはご子息がいらっしゃったので、本来はご子息に引き継ぎたかったそうですが、立地や家族経営の難しさから、現実的に難しいだろうという判断でした。
私も事業の内容をみて、相当な資本力のある買い手でないと、たとえディール自体が成立したとしても、そのあとの運営がうまくいかないだろうと感じました。譲渡企業オーナー様の事業に対するこだわりを考えると、PMIを見越してお相手を選ぶといった側面も大いにあったと思います。
──なるほど。資本力がないと厳しいと感じられた理由について、もう少し詳しく伺えますか?
まず、旅館の箱自体が大きいので、ある程度の運転資金がかかります。また、事業をより成長させていくために、新たな事業展開を思い切ってできる企業でないと厳しいのではないかという判断です。将来的な修繕等も考慮すると現状維持のままでは難しい状況でしたので。
そのため、長野県内にはこの規模を引き受けられる企業はないというのが正直な肌感覚で、ファンドや首都圏の大手資本との提携をイメージしていました。
──買い手企業様との関係性についても教えてください。
もともと、長野県山ノ内町の別のホテルの事業承継で、ホワイト・ベアーファミリー様とのM&A支援で我々がサポートしたという経緯がありました。ホワイト・ベアーファミリーの近藤社長から、志賀高原でさらに事業を広げていきたいという話を聞いており、直感的に「この会社なら、ホテル東館様をしっかりと運営いただけるかもしれない」と感じ、ご紹介させていただいたという流れです。

──今回のM&A案件に対して、どんなところに拘りましたか?
こだわった点は、「仲介」でやるということです。お相手のホワイト・ベアーファミリー様は企業規模の大きい会社で、M&A仲介会社とのコンタクトもあったはずですが、信用金庫としてM&A後も両社と取引を継続していきたいというビジョンがあり、当金庫の仲介で進めたいと思っていました。
──金融機関としてM&A仲介を行う難しさはありましたか?
長野信用金庫は、譲渡企業様のメインバンクとして長年融資を行ってきたため、金融機関ならではの「利益相反」の問題と、譲渡企業様に不利にならないよう客観性を担保することが大きな壁でした。実際に、この点で支援を諦める金融機関は相当多いと思います。
また金融機関 には、融資先の企業を評価する債務者区分というものがあり、「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の5段階に分けられます。一般的に金融機関が取り扱うM&A案件は「正常先」同士がベースですが、「要注意先」への支援も求められます。しかし、経営難である「要注意先」へM&A支援を行う場合、そこからM&A手数料をもらう点でハードルが上がるのが現実です。
今回の譲渡企業様は堅実経営により、資産超過であり資金調達力も認められる財務内容でしたが、特に今後の事業展開を考えると仲介者として高品質のM&A仲介業務を提供する必要を強く感じました。
また、債務者区分に関係なく、取引先の譲渡企業様を守ろうとして、結果的に有効でないマッチングになることもあり、やはり経験が求められます。私自身、知識・経験不足から意図せず「悪質なM&A」になってしまう危険性も念頭に置いて、今回のM&A支援にも取り組みました。
──金融機関が取引先のM&A支援に取り組む難しい部分ですね。売りFAとしてやるという方法もあったかと思いますが、その点はいかがでしょうか?
確かに、形式上はFAとして受託はできますが、金融機関というのは非常に影響力が大きい組織です。結果的に仲介のような動きになることがほとんどで、それならば最初から仲介であるべきというのが、私の考えです。
「FAでやれば利益相反は発生せず、問題は起きない」というのは非常に楽観的で、FAであろうと双方の利益を考える必要があるというのが現実だと思います。

──今回は、バトンズと共同受託のような形となりました。この形がひとつの解決策となり得ると感じていますか?
はい。今回のように、お客様が相談できる相手が複数いる状況を作ることで、懸念事項を緩和できると手応えを感じています。ただし、金融機関ともう一社、それぞれに相応のレベルが求められますし、お客様から信頼される組織でなければなりません。
──パートナーとしてバトンズを選んだ理由についてもお聞かせください。
地元の提携先にご依頼する選択肢もありましたが、買い手候補企業が大阪拠点だったこと、M&Aの経験や手数料体系などを総合的に考えたとき、バトンズと組むことが頭に浮かびました。
──バトンズを選んでいただき、大変光栄に思います。これまで密に連携をとっていたことも大きかったでしょうか?
そうですね。バトンズの担当者である武田さんや君島さんなど、オンラインやリアルでの面談等を通じて、密に連携をとっていたことは大きかったと思います。やはり、その方がどういう考えを持っているのか、その企業がどういう文化なのかを理解できていることが重要ではないかと感じています。
──貴庫とバトンズの役割や立ち位置の違いについては、どのように考えられましたか?
我々信用金庫は、「案件化」や「企業の実態を掴む」部分、そしてお客様との直接的なリレーションにおいて強みが出せると考えています。本件においても、お客様とのリレーションシップにはどこにも負けない自信があったので、私たちで担当させていただきました。
一方、私たちはM&A専門業ではないため、バトンズ様には私たちやお客様の「相談窓口」「セカンドオピニオン」としての立場を期待していました。最終契約や条件調整、スキーム構築の部分で、バトンズさんから専門的見解をいただきたかったですね。
──進め方や条件の確認など、相談相手がいると心強いですよね。経験を積んでも、アドバイザーとして迷う場面は必ずありますから。
おっしゃる通りで、自分では良いと思っていても、客観的に見ると違うのではないか、ということもあります。今回は、とくにそのすり合わせが難しい案件だったと感じています。
また、M&A交渉が始まったのが2024年12月ごろで、中小M&Aガイドライン改訂の運用時期と重なりました。教科書的な理解はしていましたが、実践で適用していく不安があり、そういった面でもバトンズさんのお力は不可欠でした。加えて、交渉状況を常に共有できたことも、精神的に大きな支えとなりました。高品質のM&Aを提供したいという思いがありましたから。
今回は私どもがM&Aにおいて主となり、バトンズ様が専門知見でサポートするという明確な役割分担が機能したと考えています。

──今回のM&Aへの取り組みを通じて感じた手応えについてお聞かせください。
地域外かつ異業種のマッチングを実現できた点が大きな成果でした。地方創生が叫ばれる中で、県内のマッチングだけでは、成長可能性の観点からみて小さな成長にとどまってしまうと感じます。長野から大阪の企業への譲渡、そして旅館業と観光業という異業種マッチングを実現できたことは、当金庫にとって大きな進歩だとみています。
──地域外のマッチングは「外にもっていかれる」と考える人も多いですが、外部から雇用や資金を呼び込むことで、地域のプラスになる側面も大いにありますよね。
おっしゃる通りで、M&A後も買い手様と我々の関係性は続いています。資金や取引先が親会社に集約されると懸念される声もありますが、むしろ地元の金融機関と深く繋がろうとするケースも多いです。この事例を通じて、地域外のM&Aの可能性を伝えていければと思います。
──今回のご成約を通じて、バトンズと金融機関で進めるM&Aの今後の可能性や、期待感についてはいかがでしょうか?
バトンズはM&Aプラットフォームの分野で先進的な取り組みをされており、業界のリーダー的存在です。金融機関は自前でのM&A推進が求められますが、専門人材の不足が大きな課題です。この点においても、バトンズとの共同仲介は、私たちにとってM&A支援に対する新しい形を示すことができたと手応えを感じています。
信用金庫の強みは、事業者様との距離感、つまり地域との密着性です。一方、バトンズには業界No.1のプラットフォームとして蓄積されたM&Aノウハウがあります。これらを組み合わせることで、「M&A支援者同士の相乗効果」を生み出せると思います。この分野においては、「互恵と互助」の精神で、手を取り合っていくべきだと考えています。
──これまでのバトンズの使い方は、案件を紹介いただいてバトンズが仲介・FAを請け負うか、バトンズを使って金融機関の皆様が仲介・FAとして関わるかが主流でした。今回のように長野信用金庫様が主導権を握り、私どもがサポートするという共同受託の形は、弊社にとっても新たな気づきとなりました。
今後、借入金を多く抱えたM&A譲渡案件が増えてくることが予想される中で、金融機関の役割はますます重要になってくると思います。このような取り組みは今後も増えるでしょうし、当金庫としてもお互いに力を借りながら多くのM&Aを支援し、企業様の成長・発展に貢献していきたいと思います。

──最後に、長野信用金庫様におけるM&Aに関するPRや、今後の地域へのメッセージをお願いします。
長野信用金庫は、地方活性化のため、M&Aを重要な手段と考えております。特に、地域外・異業種とのマッチングを通じた新たな成長可能性の追求に注力しています。お客様の実情や実態まで深く理解し、誰にとっても納得感のあるM&Aの実現を目指しています。
また、M&Aは成約で終わりではありません。買い手様が事業を継続・発展させるためのM&A後の資金調達支援や経営支援は、金融機関だからこそ可能だと考えています。実際にM&A後には補助金申請もサポートし、一定の成果も得られました。
金融機関の使命として、これからも地域の事業者様のM&Aを通じた発展を全力でサポートしてまいります。
──本日は貴重なお話をありがとうございました。
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