M&A
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2020/08/31

DDはやらなくてもよい?

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DDはやらなくてもよい?
DDは絶対にやらなければいけないものではございません。M&Aを取り巻く様々なルール(法制度)でも、会社を買収・売却する時はDDを実施しなければならないとは規定されていませんし、知人の個人事業主がソフトウェア会社を買収した時は、DDは特に行わなかったという話も聞いています。
DDとはリスク点検
それでは、なぜDDを行うことが一般的なのでしょうか。端的にいうと、会社はリスクの高い買い物だからです。リスクが高いというのは、その会社の実態がよくわからないという状態です。 M&Aはよく結婚に例えられます。学生時代の同級生や社会人時代の先輩と結婚する人、旅先で偶然出会った人など結婚のご縁は様々な形でありますが、結婚相談所を利用してご結婚される方もいらっしゃるかと思います。 今ご覧になっているバトンズは結婚相談所のような位置づけにあります。 結婚相談所の利用者は、容姿や学歴、年収、出身地などのプロフィールをまとめて、自分がどのような人間なのかを結婚相手(候補)にアピールすることになります。このプロフィールの出来が良いほど、より条件の良い結婚相手を見つけられる可能性が高まります。 M&Aでのマッチングにおいても会社の規模(資本金や売上高)や本業での儲け(営業利益)などの会計上の数値や本店所在地などをまとめて、将来の買手候補にアピールすることになります。 結婚相談所がプロフィールの内容に嘘偽りがないことを確認するように、バトンズなどの運営会社は会計数値の根拠資料(決算書など)を提出することを求めるのが一般的ですが、運営会社側で決算書の内容自体が正しいか否かを確認することはできません。 アピールに使われた会計上の数値は正しいといえない以上、会計上のリスクがある状態といえます。 リスクは会計の観点に限らず、法律の観点でも存在します。例えば、プロフィール上本店所在地が銀座4丁目と記載された会社があったとします。しかし登記簿を見てみると別の住所だった、そもそも登記しておらず会社の実態がないというリスクもありえます。 このように、会社プロフィールに関するあらゆるリスクを点検するための手続きとしてDDを実行するのです。DDを行うことで会社プロフィールを受け入れることができます。
財務DDをやってわかること
会計上のリスクが高いと思った買手は、財務DDを行うことを売手会社に提案することになります。限られた時間の中で決算書の数値が正しいことを証明することはできませんので、何を調査してほしいのかを明確にしたうえで、会計数値の調査を外部専門家(公認会計士など)に依頼します。 外部専門家は、買手会社の気になる点を踏まえたうえで、「売手会社ってどんな会社なの?」を把握しつつ、特に次の2点に注力します。 貸借対照表に計上されている資産って、本当にその価値があるの? 貸借対照表に計上すべき負債は漏れなく、正しく見積もって計上されているの? ①の例としては、売掛金の回収可能性があります。会社が自社商品を販売する時、商品を引き渡したらその場でお金がもらえるのではなく、後日お金がもらえることの方が一般的ですよね。売掛金とは、商品を渡したけどまだもらえていないお金を意味します。 財務DDでは、売掛金の主な相手先を理解し、相手先別にいつ頃お金を回収できるかをヒアリングすることから始まります。例えば、病院(医療法人)で計上される売掛金は、国(厚生労働省)と医療サービスを受けた個人の両方に請求することができます。国に正しく請求してお金がもらえないことは考えられないのですが、治療を受けた患者さんがクレジットカード払いをして1年以上お金を支払ってくれない場合は、その売掛金に回収可能性がないと評価する可能性があります。 ②の例としては、売手会社の社長がM&A実行後に退職することが前提となっているため、長年の功績を考慮して、売手会社から社長に退職慰労金を支給するケースです。退職慰労金を貸借対照表に計上していないと純資産が実際より大きく見えてしまうため、買手は高値で買収してしまうリスクがありますし、買収代金とは別に退職金なんて払うつもりなかったと思わぬ出費が発生するリスクがあります。
法務DDをやってわかること
法務DDは、会社のビジネスの流れを理解して、そのビジネスを行う上で必要な顧客や取引先等とのあらゆる契約書をチェックする作業です。 財務DDの②の例にあった退職金は、会社所定のルールに基づき支給することになるので、退職金規定がなければ支給額を決定することができません。退職金を予定しているのに、「退職金規定がそもそもない」という指摘事項が上がることはよくある話です。 また、買手会社(Webコンテンツ制作会社など)は売手会社が使用している外部のクラウドサーバーを、買収後もそのまま使用したいと考えていたとします。しかし、そのクラウドサーバーの運営会社は、売手会社以外の会社にサーバーを貸す契約になっていないことを理由に、買手会社にサーバーを貸してくれない可能性があります。そのため法務DDにより、「契約当事者がM&Aの実行により変更される場合、契約は無効となる」といった文言がないかを見てもらうことがリスクを低くするのに必要となります。
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