今回は、「コングロマリットとは?」について、解説します。事業規模がある程度大きくなってくると、中核事業以外の事業展開を視野に入れた経営が実行されることがあります。いわゆる多角化戦略です。
大きな利益を生み出す事業は、複数あるに越したことはなく、現在進行形で新規事業の展開を検討している方も多くいるのではないでしょうか?
コングロマリットも多角化戦略の一翼を担う経営戦略であり、M&Aとも関連性のある戦略でもあります。
今回のラインナップは、コングロマリットについての、
②コングロマリットの目的
③コングロマリットの効果
④コングロマリットを形成するための方法
⑤コングロマリットと類似した企業形態
⑥コングロマリットのメリット
⑦コングロマリットのデメリット
⑧コングロマリットとその他の多角化戦略との比較
⑨M&Aによるコングロマリットを成功させるには
を中心に解説していきます。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、「【超重要】選択と集中」も解説していますので、是非、ご覧ください!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
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コングロマリットの意味
コングロマリットとは、多様な業種・事業を展開する企業グループのことで、グループ内でのシナジー効果の創出や経営リスクを分散する目的で形成されます。消費者ニーズの多様化が進む現代社会において、企業グループが成長し続けるために注目されている戦略であり、M&A戦略とも関連性の高い経営方針でもあります。
一般的には、多様な異業種を複数展開する企業グループをコングロマリットと呼びますが、同一業種または類似業種を複数展開する場合でも同様に呼ばれることがあります。
コングロマリットの目的
コングロマリットには主に2つの目的があります。
それぞれについて解説していきましょう。
売上の拡大
日本のマーケット規模は、アメリカ、中国、インドなどと比較すると、そこまで大きくはないため、国内売上高はすぐに頭打ちになってしまいます。海外市場に打って出るにしても、当然容易ではありません。
しかし、コングロマリットによる事業の多角化を図ることで、国内マーケットの各分野で売上を上げる事が可能となり、企業グループの更なる発展が期待できるのです。
経営上のリスクヘッジ
コングロマリットにより事業の多角化を図ることは、経営上のリスクヘッジを図ることもできます。
コングロマリット型のビジネスモデルは、多様な業種・事業を様々展開することであり、社会情勢の悪化や地政学リスクなど不測な事態が起きた場合、一つの事業が打撃を受けても他の事業が、そのダメージを補填する効果が期待できるのです。
コングロマリットの効果
コングロマリットには、2つの効果があります。
コングロマリット・プレミアム
コングロマリット・プレミアムとは、企業グループを形成する企業や事業間で相互にシナジー効果を発揮し、グループ全体の企業価値を底上げする効果のことです。
企業グループ間のシナジー効果は、何も売上拡大やコスト削減だけではありません。宣伝広告効果や有利な資金調達、そして、社会的地位の確立など数字に表れない部分も期待できます。それにより企業グループ全体のイメージアップにもつながるのです。
コングロマリット・ディスカウント
コングロマリット・ディスカウントとは、多角化戦略が裏目に出てしまい、シナジー効果が思うように発揮できず、グループ内の企業や事業間で足を引っ張り合う状態のことです。
コングロマリット型のビジネスモデルの根幹には、中核事業とは全く異なる事業を複数展開するという概念があります。しかし、あまりにも中核事業と関連のない事業を複数展開し続けると、事業間のシナジー効果は薄くなり、最終的に黒字事業が赤字事業に押され、企業グループ全体の企業価値が下がってしまうこととなるのです。
コングロマリットを形成するための方法
コングロマリットを形成するためには3つの方法があります。
3つの方法について見ていきましょう。
資本提携
資本提携とは、相互または一方が相手方の株式を保有することにより資本関係を形成し、相互に業務、資金、人材、ノウハウ、権利などの経営リソースを活用し協業することです。
持ち株比率は1/3以下とされることが多く、相互の独立性は保持されるのが一般的です。
買収
買収とは、買い手企業が売り手企業の株式を買収し、子会社化することで資本関係を構築することです。資本提携同様、親子間の企業で業務、資金、人材、ノウハウ、権利などの経営リソースを活用し協業し、シナジー効果を発揮させることを目的とします。
前述の通り、資本提携の場合、持ち株比率は1/3以下とされることが多く、相互の独立性は保持されるのが一般的ですが、買収の場合は全ての株式の取得を目的とし、完全子会社とすることがほとんどです。
上記は株式譲渡によるものですが、事業譲渡も買収の一種であり、M&Aによるコングロマリットの一手段と言えます。
合併
合併とは、複数の法人を一つの法人格に統合することです。
組織再編の一種であり、一方の法人格のみを残し、他方の法人格を消滅させ、合併により消滅する会社の権利義務を、存続する会社に承継させる方法を吸収合併といい、全ての法人格を消滅させ、消滅する会社の権利義務を新たに設立する会社に承継させる方法を新設合併と言います。
コングロマリットと類似した企業形態
企業グループの形態にはコングロマリットと類似したものもあります。
ここでは、類似した形態とコングロマリットとの違いについて解説していきます。
トラスト(企業合同)
トラスト(企業合同)とは、同一業種の企業同士で株式の買収や持ち合いによる持株会社を設立し、ある一定の市場で競争優位に立つことを目的とする企業形態のことです。
コングロマリットが異なる業種を営むグループの企業形態であり、トラストは同一業種を営むグループの企業形態である点で異なります。トラストは特定した市場の独占力を高める効果がある一方、過度な独占を行うことにより、市場の価格競争原理を歪める可能性があります。
そのため、公正取引委員会から独占禁止法違反の判定を受けないよう注意する必要があります。
カルテル(企業連合)
カルテル(企業連合)とは、同一業種を営む企業同士が、ある一定の市場での競争を避けることを目的として、価格・生産計画・販売地域などを調整し、自分たちが優位になるような協定をすることです。
コングロマリットとの違いは、企業同士に資本関係はなく、全くの外部企業同士の協定となります。カルテルは市場における健全な価格形成の妨げとなり、消費者の利益を大いに害する恐れがあります。
そのため、独占禁止法により、不当な取引制限として禁止されているので、注意する必要があります。
コンツェルン(グループ)
コンツェルン(グループ)とは、持ち株会社を中核として子会社・孫会社を持ち、市場の独占を目的とするグループ企業のことです。
コングロマリットとの違いは、同一業種または異業種でのグループ企業を形成し、市場の独占度を高めることを目的としており、コングロマリットのように多角化自体を目的としているわけではないと言うことです。
コンツェルンは財閥と呼ばれ、戦後GHQからの独占禁止法より解体された話は有名ですが、1997年の法改正により、持ち株会社の設立が解禁されています。
コングロマリットのメリット
コングロマリットのメリットを3つご紹介します。
シナジー効果
コングロマリットの最大の醍醐味は、シナジー効果を期待できることです。グループ企業内における中核事業の他に、多様な異業種事業を組み合わせることによって、グループ内のシナジー効果を狙うことが可能となります。
具体的には、資産、人材、権利、知的財産などの経営資源を共有することが可能となり、企業価値やイメージアップ、宣伝効果などが期待できます。
中核事業と異なる事業は一見、何の関連性もないように思われますが、異業種間の連携で化学反応を起こし、革新的なビジネスが生まれる可能性もあり得ます。
結果、常識にとらわれない新たなビジネスモデルの構築も期待できることでしょう。
経営リスク分散
事業規模が大きくなればなるほど、一極集中したビジネスモデルは経営リスクも大きくなります。なぜならば、社会情勢や地政学リスクなどによる要因で、一気に経営が傾く可能性も大きくなるからです。
その点、コングロマリットを行うことで、一つの事業が傾いても他の事業がそのリスクを補填し、経営を安定化させることも期待できます。多種多様な事業展開を行うことは、リスク分散経営とも言え、規模の大きいグループ企業であればあるほど、必須の経営形態とも言えるでしょう。
中長期的な経営計画の策定
中長期的な経営計画の策定に適した経営形態でもあります。
コングロマリットは多種多様な事業展開をすることで多角化戦略をとることになりますが、新規事業は短期的に成果が上がるものではありません。しかし、中長期的にみると投下資本を回収し、更なる利益獲得をすることが可能となります。
中長期的な経営計画を綿密に練り、そのレールに即した経営を行うというビジョンも描きやすくなるのです。
コングロマリットのデメリット
コングロマリットのデメリットを3つご紹介します。
コーポレートガバナンス(企業統治)の低下
コングロマリットの最大のデメリットは、コーポレートガバナンス(企業統治)の低下が懸念されることです。グループ企業下にある各企業または事業の独立性が強い場合、各部が自由気ままに経営を行う事がしばしばみられます。
行き過ぎた独立経営は、末端まで目が行き届かず、不正などの温床ともなり得ます。
適正な監視・指導体制が構築されておらず、重大な問題が発生した場合、グループ企業全体に多大なる影響を及ぼす可能性さえあります。
コングロマリットの実行には、事業規模が大きくなる前に盤石な企業統治体制を整えておくことが重要になると言うことを覚えておいてください。
企業価値の低下
前述のコングロマリット・ディスカウントでも触れましたが、多角化戦略が裏目に出てしまい、シナジー効果が思うように発揮できず、企業や事業間で足を引っ張り合ってしまうリスクも内在します。その結果、グループ企業自体の企業価値が下がってしまっては目も当てられません。
この点、中長期的な経営計画を綿密に策定し、問題が発生しても対応できるよう、あらかじめ想定されるリスクに対策を講じておくことが必要なのです。
短期的な戦略には不向き
前のセクションでも解説しましたが、中長期的な経営計画の策定には向いていますが、その反面、短期的な戦略には不向きな経営方針とも言えます。
新規ビジネスの展開は、短期的な成果を出すことは難しく、長い目で見る必要があります。コングロマリットは即効性のある経営方針ではないため、経営資源の余力を見ながら中長期的な経営計画の策定を行い、成果を狙うようにしましょう。
コングロマリットとその他の多角化戦略との比較
コングロマリットとその他の多角化戦略の比較をしてみましょう。
多角化戦略の4つの種類を整理すると以下のような図になります。
【多角化戦略図】
多角化戦略 | 既存事業 | 新規事業 |
---|---|---|
類似市場 | ① 水平型多角化戦略 | ② 垂直型多角化戦略 |
新規市場 | ③ 集中型多角化戦略 | ④ 集成型多角化戦略 (コングロマリット) |
④の集成型多角化戦略がコングロマリットにあたります。多角化戦略の各種類について順を追ってみていきましょう。
①水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、企業が保有する技術やノウハウ、生産ラインなどの経営リソースを活用して開発した新商材を、既存事業と類似市場に投入する戦略のことです。
既存事業の経営リソースを生かした新規事業を展開することとなるので、スピード感を持った実装と、参入リスクも低く抑えることが可能であり、既存事業とのシナジー効果を出しやすい戦略です。
②垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略とは、既存事業の川上または川下の事業に参入する戦略であり、川上から川下までの流通・生産ラインなどを、自社で一部または完結させることを目的とします。
類似市場への参入となるため、業界知識もあり、流通・生産ライン上、ボトルネックとなっていた問題の解消などが期待できる一方、同一業界内での事業拡大を目的とするため、業界全体が斜陽化すると、それに比例して企業全体の業績も悪化する傾向にあります。
③集中型多角化戦略
集中型多角化戦略とは、自社が保有する特殊技術やノウハウ、知的財産などを活用した商材を新規市場に投入し、事業の多角化を狙う戦略のことです。
競合他社にない自社独自の強み、ブランド力、差別化ポイント(USP-ユニークセリングプロポジション)をリソースとして活用するため市場浸透力も高く、新規市場でも盤石な基盤を築くことが期待できます。
④集成型多角化戦略(コングロマリット型多角化戦略)
集成型多角化戦略とは、既存の市場・商材とは全く関連性のない、新領域へ事業展開する戦略のことです。
既存事業業界の業績が悪化または衰退しても、新規事業が成功すれば赤字を帳消しにし、黒字に転換させることも可能であり、極端な話、企業の主力事業(本業)自体が変わることもあり得ます。
企業の経営リスクを分散させることを目的として採用される戦略ではありますが、既存の市場・商材とは全く関連性のない、新領域へ事業展開することになるため、シナジー効果は得られにくく、経営リソースの初期投資も大きくなり、失敗した場合、本業自体に甚大な被害を及ぼす可能性もあります。
まさにハイリスク・ハイリターンな多角化戦略と言えます。
M&Aによるコングロマリットを成功させるには
M&Aによるコングロマリットを成功させるには、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を意識した統合作業を実行することが重要です。
PMIとは?
PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成約後に実施される、経営統合作業のことです。
M&Aの成功は、成約させることではなく、その後の事業経営にシナジー効果をもたらし、企業価値を高めることです。そのためには、PMI計画を綿密に策定し、成約後の経営統合作業を速やかに行い、シナジー効果を最大化させることに注力しなければなりません。
そういう意味でも、PMIはM&Aによるコングロマリットを成功させる重要なプロセスであると言えるのです。
PMIの3つの目的
PMIの主な目的を3つご紹介しましょう。
シナジー効果の最大化
やはりM&Aの醍醐味であるシナジー効果の最大化が第一の目的となります。
M&Aの成約は、費用だけではなく、多くの人員や、時間も費やします。それだけに、成約後は、単純に売り手企業の事業利益が上乗せされるだけではなく、シナジー効果による事業利益の倍増を狙うべきであり、投資回収期間を少しでも縮め、企業価値を高める必要があるのです。
経営理念、社風など企業文化のスムーズな統合
第二に、経営理念、社風など企業文化のスムーズな統合が挙げられます。
どの企業もカラーがあり、当然、同一業種同士のM&Aであっても、企業文化は異なります。これがPMIの目的の2番目に来る理由は、「人(ヒト)」に関わることだからです。
M&Aにより、企業文化が大きく変わってしまうと、その変化に対応できない従業員も少なからず出てきます。
順応できない人間が多数出てしまうと、どうなるでしょうか?
退職する人間が続出してしまいます。誰か1人辞めると、堰を切ったかのように。
パフォーマンスがさがるだけであれば、時間が解決する可能性もあり、修復も可能ですが、どこの企業も人材難のこのご時世、人員の流出はリカバリーする事が困難なため、絶対に避けなければなりません。
経営組織・機能の整備
三番目とはなりますが、経営組織・機能の整備も非常に重要な目的です。
統合後の各人のポジションが定まらなければ、やはり組織は機能しません。特に、買収後に子会社(または譲受事業)の責任者(または関わる人員)となる人間には、予め告知しておかなければなりませんし、場合によっては、組織機能図も一新する必要さえあります。
M&A成約後、スタートダッシュを切れる組織体制を築いておくことが理想となります。
PMIプロセスと開始時期
PMIプロセスの実行時期は、以下のようになります。
①プレPMI
プレPMIとは、PMIの計画の策定プロセスのことです。開始時期は、基本合意の締結前後で、M&Aの成約に向けて本格的に動き出す時期となります。
基本合意締結後はデューデリジェンスも開始されるため、PMI計画の策定を開始するにはちょうどいい時期です。M&A成約後、即時PMIを実行するには、プレPMIで綿密な計画を練る必要があるのです。
②PMI実行
PMIの実行期間は、M&A成約後~3か月程度となります。プレPMIにおいて策定した計画を短期集中的に実行します。
綿密に計画したPMIの即時実行は、M&A後の良い弾みにもなり、統合後の混乱も未然に防ぐ効果もあります。早期にシナジー効果を発揮し、投下資本の回収期間を短縮できれば、まずは成功と言えるでしょう。
③ポストPMI
ポストPMIとは、成約後3か月以降に実行される通常の経営のことであり、M&Aもある程度軌道に乗った状態で行われます。
PMIは短期的な計画であることに対し、ポストPMIは中長期的な視点で計画・実行されます。この点、コングロマリットを目的としたM&Aの場合、ポストPMIの計画策定が成功の鍵となるのです。
PMIの主な実施項目
PMIの主な実施項目は以下となります。
〇経営・組織体制の整備の実施
〇就業規則・報酬・人事制度・異動など労務面の整備の実施
〇決裁・業務フローの整備の実施
〇業務・営業ツールの統合
〇顧客・仕入先などの取引先の情報共有や引き継ぎ
〇技術・ノウハウなどのシェア
〇買い手・売り手の従業員同士のコミュニティの提供 など
一般的なものを列挙しましたが、案件によっても変わって来るので、状況に応じて実施項目を策定しましょう。
まとめ
以上、「コングロマリットとは?」を、解説しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①コングロマリットの意味
②コングロマリットの目的
・売上の拡大
コングロマリットによる事業の多角化を図ることで、国内マーケットの各分野で売上を上げる事が可能となり、企業グループの更なる発展が期待できる。
・経営上のリスクヘッジ
社会情勢の悪化や地政学リスクなど不測な事態が起きた場合、一つの事業が打撃を受けても他の事業が、そのダメージを補填する効果が期待できる。
③コングロマリットの効果
・コングロマリット・プレミアム
コングロマリット・プレミアムとは、企業グループを形成する企業や事業間で相互にシナジー効果を発揮し、グループ全体の企業価値を底上げする効果のこと。
・コングロマリット・ディスカウント
コングロマリット・ディスカウントとは、多角化戦略が裏目に出てしまい、シナジー効果が思うように発揮できず、企業や事業間で足を引っ張り合う状態のこと。
④コングロマリットを形成するための方法
・資本提携
資本提携とは、相互または一方が相手方の株式を保有することにより資本関係を形成し、相互に業務、資金、人材、ノウハウ、権利などの経営リソースを活用し協業すること。
・買収
買収とは、買い手企業が売り手企業の株式を買収し、子会社化することで資本関係を構築すること。
・合併
合併とは、複数の法人を一つの法人格に統合すること。
⑤コングロマリットと類似した企業形態
・トラスト(企業合同)
トラスト(企業合同)とは、同一業種の企業同士で株式の買収や持ち合いによる持株会社を設立し、ある一定の市場で競争優位に立つことを目的とする企業形態のこと。
・カルテル(企業連合)
カルテル(企業連合)とは、同一業種を営む企業同士が、ある一定の市場での競争を避けることを目的として、価格・生産計画・販売地域などを調整し、自分たちが優位になるような協定をすること。
・コンツェルン(グループ)
コンツェルン(グループ)とは、持ち株会社を中核として子会社・孫会社を持ち、市場の独占を目的としたグループ企業のこと。
⑥コングロマリットのメリット
・シナジー効果
グループ企業内における中核事業の他に、多様な異業種事業を組み合わせることによって、グループ内のシナジー効果を狙うことが可能となる。
・経営リスク分散
コングロマリットを行うことで、一つの事業が傾いても他の事業がそのリスクを補填し、経営を安定化させることも期待できる。
・中長期的な経営計画の策定
中長期的な経営計画を綿密に練り、そのレールに即した経営を行うというビジョンも描きやすくなる。
⑦コングロマリットのデメリット
・コーポレートガバナンス(企業統治)の低下
適正な監視・指導体制が構築されておらず、重大な問題が発生した場合、グループ企業全体に多大なる影響を及ぼす可能性さえある。実行には、事業規模が大きくなる前に盤石な企業統治体制を整えておくことが重要。
・企業価値の低下
多角化戦略が裏目に出てしまい、シナジー効果が思うように発揮できず、企業や事業間で足を引っ張り合ってしまうリスクも内在する。
・短期的な戦略には不向き
コングロマリットは即効性のある経営方針ではないため、経営資源の余力を見ながら中長期的な経営計画の策定を行い、成果を狙うことが重要。
⑧コングロマリットとその他の多角化戦略との比較
・水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、企業が保有する技術やノウハウ、生産ラインなどの経営リソースを活用して開発した新商材を、既存事業と類似市場に投入する戦略のこと。
・垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略とは、既存事業の川上または川下の事業に参入する戦略であり、川上から川下までの流通・生産ラインなどを、自社で一部または完結させることを目的とする。
・集中型多角化戦略
集中型多角化戦略とは、自社が保有する特殊技術やノウハウ、知的財産などを活用した商材を新規市場に投入し、事業の多角化を狙う戦略のこと。
・集成型多角化戦略(コングロマリット型多角化戦略)
集成型多角化戦略とは、既存の市場・商材とは全く関連性のない、新領域へ事業展開する戦略のこと。
⑨M&Aによるコングロマリットを成功させるには
・M&Aによるコングロマリットを成功させるには、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を意識した統合作業を実行する事が重要。PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成約後に実施される、経営統合作業のこと。
コングロマリットは、多角化戦略、M&Aとも密接な関係のある経営戦略です。
大企業が好んで実行する経営戦略ではありますが、近年では小規模M&Aの活性化もあり、中小企業においても注目されている戦略です。
コングロマリットに規模の大小はありません。中小企業を営む方にもコングロマリットを意識したM&A戦略を視野に入れていただき、経営基盤の拡大と安定化を目指していただけたら幸いです。
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スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 伊藤氏からのワンポイントアドバイス!
こんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
はいっ!
今回は、「コングロマリット」について解説しました。
多角化戦略については以前、私の方でも記事として投稿させて頂きましたが、その中でも一番難易度の高いコングロマリットについてのお話でしたね。
コングロマリットは、大規模企業向けの話題ではありますが、中小企業だってスモールビジネスをいくつも新規展開する例や、小規模M&Aで多角化に打って出ることも珍しくなくなってきましたよね。
私感ですが、近年では、コングロマリット自体もスモール化してるんじゃないかなって思いますね。というのも、やっぱり例のウィルスの影響もあり、中核事業が一本だけだと経営リスクの分散が図れないと気付いた経営者が増えたからなんだと思うんですよね。
もう過去の話ですが、ウィルス発生当初は、小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)も一旦は下火になりましたが、その後半年もしないうちに活発な取引が再開されたのを覚えています。(むしろこの時期に買い手からの問い合わせが増えた感じがしたかも・・・)
これを機に、社会情勢に対応できる経営基盤を構築したいと、あらためて考えた経営者が増えたのでしょうね。
良かったのか悪かったのかは考え方次第ですが、人類自体が色々と学ばされた時期でしたね。多角化戦略に踏み切った会社が増えた半面、逆も増加傾向にありました。
それは、「選択と集中」です。
多角化とは真逆の経営戦略ですが、それゆえに今回の記事とセットで知っておいていただきたい話題ですね。中核事業が一本だけならば、拡大路線にかじを取り、多角化戦略で売上拡大を狙う、つまり、コングロマリット・プレミアムですよね。
ですが、コングロマリット・ディスカウントのセクションでもお話しした通り、目論見が外れてズッコケちゃうこともあるわけですよね。
そうなった時には、どうしたらいいか?
今度は「縮小する」って考えが必要になってくるわけですよね。拡大である「多角化」に対して、縮小である「選択と集中」。この両方の正しい知識を持つことで初めて、危機管理ができていると言えるんじゃないですかね?
多角化戦略を検討しているのであれば、選択と集中についてもしっかりマスターしていただきたいと思います。と言うことで、今回のワンポイントアドバイスは「【超重要】選択と集中」を解説していきます!
「【超重要】選択と集中」
ではでは、選択と集中について解説していきましょう!
今回解説するポイントは以下の4つです!
①選択と集中とは?
②選択と集中のメリット!
③選択と集中のデメリット!
④選択と集中の実行ポイント!
それでは順に、ご説明しましょう!
①選択と集中とは?
選択と集中とは、中核事業以外の事業を取捨選択し、残存する事業に経営資源を集中させ、企業価値の上昇を狙う経営戦略のことです。選択と集中は、不採算事業や成長性が見込めない事業を縮小させて、余剰となる経営資源を集約し、中核事業に集中投下するって感じです。
これに対し、多角化戦略は、中核事業の関連事業や全くのド新規事業に進出(コングロマリット)し、規模の経済で一気に市場を席巻するって感じです。
経営戦略としては、全く逆の発想ですよね。次のセクションからは、選択と集中のメリデメリを見ていきましょう。
②選択と集中のメリット!
選択と集中のメリットとして、まずは経営資源の集中と最適化が図れますよね。
今までは、不採算事業や非成長事業など収益性のない事業にも経営資源をつぎ込んでいたわけですけど、これらをカットすることで、中核事業はじめ収益力のある事業にリソースを投入でき、企業全体の収益性を高めることが可能になりますよね。
これに関しては、数字上や目に見える部分ですが、思考面も結構大事ですね。単純にいらない事業を切り離したことで、シンプル思考になれるんですよね。
経営者の方ならご理解いただけると思いますが、会社を経営する上で、思考を集中させるってかなり重要だったりするんですね。あれこれ考えるべきことが多いと時間も労力も消費しますし、何より思考が取っ散らかってると良いアイデアも生まれません。
この点、考えなくていいものから解放されて身軽になるって大きいですよ!
つまりは、思考の断捨離も重要ってことですね!
③選択と集中のデメリット!
選択と集中の一番のデメリットは、利害関係者の反発が強いと言うことが挙げられますね。
株主に対しては、不採算事業や非成長事業の撤退はむしろ喜ばれることもありますが、働いていた従業員は特に反発がありますよね。
グループ内の企業や事業部に移されるとしても、業種・職種が変わる可能性が高いですし、やりたくない仕事ならなおさら反発も起こります。
金融機関やその他の債権者なんかも厄介ですね。切り離す事業に対して貸し付けた融資や売掛金が回収不能になる可能性が出てくれば、当然、黙ってませんよね。ここら辺の目途も立てないといけないので、結構なエネルギーを使いますよ。
断捨離には、心して取り掛かる勇気が必要ってことですね。
④選択と集中の実行ポイント!
選択と集中の実行ポイントを挙げてみましょう!
などなど、お決まりのものを挙げてみました。
これらは当然やらなければいけないプロセスなわけですが、最も重要なのは、
「捨てる勇気を持つ」
って、ことなんですね。赤字の事業であっても今までつぎ込んだ費用(サンクコスト:埋没した費用なんていわれますね)や思い入れがあるとどうしても断捨離ってできないんですよね。
心情的な部分になりますけどね。
これがあると、なかなか事業の切り離しって難しくなってしまうんですよね~・・・
ここはもう覚悟を決めて臨んでいただきたいところですね。
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「【超重要】選択と集中」を解説しました。
今回のメインテーマがコングロマリットであると言うことと、尺の都合で、選択と集中についてのお話はサラッとになってしまいましたが、要点はお話しさせて頂いたつもりです。
最後にひとつお話しさせて頂きますが、「多角化戦略」と「選択と集中」どちらが正解でどちらが不正解と言うものではありません。
経済や企業って生き物なんですね。
その時の状況に応じてどちらの戦略をとるべきかは、当然変わってきます。
重要なことは、「今この状況下において、自社はどの経営戦略をとるべきか!」を見極められる眼を持つことで、
「今この状況下において、自社はどう変化すべきか!」を常に意識することなんですね。
『種の起源』を残したチャールズ・ダーウィンも言っているように、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。 唯一生き残るのは、変化する者である。」これが、真理なんですよね。
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今回のワンポイントアドバイスでは、「【超重要】選択と集中」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!
最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!それでは!
【監修者プロフィール】
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2024年09月17日
トラック・運送業のM&A動向 | メリットや事例について解説【2024年版】
運送業界は、 M&Aの需要が高まっている業界のひとつです。その背景には、後継者不足や2024年問題などさまざまな理由があり、事業規模の大小問...
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2024年09月05日
未来への想いを共有できる会社とM&Aで手を組みたい。バディネットは、すべてのモノが繋がる社会を支えるインフラパートナーへ
2012年に電気・電気通信工事業界で通信建設TECH企業として創業したバディネット。2024年現在、5社の買収に成功して業容を拡大させています。今回は...
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2024年08月05日
コラム/法務デューデリジェンスとは?流れやポイント、費用などを解説
デューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は、M&Aの実施にあたり、関連当事者が種々の問題点を調査・検討する手続のことを指します。通常...