
株式投資に興味を持たれている方は、財務諸表やその分析指標の用語の多さに苦労されているのではないでしょうか。中でもROEは投資家にとって重要な指標のひとつであり、投資判断のためにぜひとも理解しておきたい指標です。
投資家が期待するROEは8%以上とされていますが、東証一部上場企業のROEはそれを上回る10%前後となっています。
ROEから経営を読んでみる
では実際に、どんな点に着目してROEを見ていけば良いのでしょうか。ここでは具体的な見方を解説していきます。
ROEが上がる要因
まずはROEが上がる2つの要因について解説します。
1.当期純利益が増加している企業
当期純利益が増加すればROEは上がります。利益が増加する要因は2つあります。
a.事業の拡大による利益の増加
順調に事業を拡大し、当期純利益が増加している企業はROEが上がっていきます。
事業の拡大には、既存ビジネスの成長や新規事業への参入、企業買収(M&A)による事業規模の拡大といった要因があります。事業そのものが好調であることから、ROEの上がる理由として最も健全なものといえます。
b.コスト削減による利益の増加
コスト削減によって当期純利益が増加する企業もあります。これもROEが上がる要因となります。しかしながら、コスト削減によって利益を継続して増加させるためには、毎年コストを削減し続けなければなりません。この手法は何年も継続できるものではなく、効果に限界があります。
2.自己資本が減少している企業
自己資本が減少すればROEは上がります。自己資本が減少する要因は2つあります。
a.配当を増やす
配当は自己資本の中から支払われますので、配当を増やせば自己資本は減少します。配当が高い企業は株主への還元も大きく、ROEも上がりやすい企業ですので、投資家からは魅力的な企業と見られています。
b.自社株を購入する
余剰資金を元手にして市場に出回っている自社の株式を購入する手法です。自社株を購入するということは、資金を株主に返還するという効果があり、自社株を購入した金額分の自己資本が減少します。資金の豊富な企業にとってはROEを上げる有効な手法です。
ROEが下がる要因
ROEが上がると、様々なプラスの要因が考えられることが分かりましたね。それでは次に、ROEが下がる2つの要因について解説します。
1.当期純利益が減少している企業
業績が悪化し当期純利益が減少すればROEは下がります。利益が減少する要因は2つあります。
a.事業不振による利益の減少
利益が減る要因の多くは売上が減ってコスト削減がそれに追い付かないことです。これまで順調だった既存ビジネスが成熟期を過ぎたり、新規事業の参入が思惑通りにいかなかったり、M&A後に統合された企業間の人材育成がうまくいかなかったり、といった状況が考えられます。
b.コスト増加による利益の減少
原材料の高騰や人手不足による賃金の上昇といったコストの増加によって利益が減少すると、ROEは下がります。
一方で、順調に業績が拡大している企業でも、
・先行投資で研究開発費を増やすとき
・採用人員を増やすとき
など、コストが一時的に増加した場合、売上に結び付くまでに時間がかかることがあります。この場合、コスト増加が先行して利益は減少します。しかしながら、事業の拡大に向けた布石としてのコスト増加は将来の利益につながると考えられますので、ROEが回復する可能性があります。
2.自己資本が増加している企業
自己資本が増加すればROEは下がります。自己資本が増加する要因は2つあります。
a. 過去の利益が内部留保として積み上がっている
毎年の利益は、配当として還元しなければ内部留保として積み上がっていきます。これにより自己資本が増えていきますので、分母が増えてROEは下がります。
b. 資金を調達するために増資をおこなう
資金調達のために増資をすると自己資本が増加し、ROEは下がります。
増資によって調達した資金の多くは事業の拡大のための設備投資や企業買収などに充てられます。ROEを回復させるためには、調達した資金を事業の拡大につなげて利益を増加させる必要があります。
高ROEでも安全とは限らない?
ROEは企業の安全性を示す指標ではありませんので、ROEが高くても安全な企業とは限りません。その一例として、業績とは無関係にROEを上げる不健全な方法があります。
それは「借入金で調達した資金で、自社株を購入する」という方法です。
自社株を購入すれば自己資本が減少しますので、ROEは上がります。
この方法は、銀行から借りたお金を株主に還元しただけですので、自社株の購入に充てた資金は利益を生み出すことがありません。借入金で調達した資金は期限が来たら返済しなければなりませんが、このような資金の使い方は返済資金の足しにならないので、将来的に経営を圧迫していきます。
こうしたケースを見抜くために併せて参考にする指標に、企業の安全性を示す「自己資本比率」という指標があります。総資産のうち何%を自己資本で調達しているかを表す指標です。法人企業統計の集計では日本企業全体で41.7%(2017年度)となっています。
自己資本比率が40%を大幅に下回っているにもかかわらず、自社株の購入でROEが上がっている企業については、貸借対照表の推移から借入金が増加していないかどうかを確認する必要があります。借入金が増加傾向にある場合は、不健全な方法でROEを上げた企業と考えられるため、このような経営判断をする企業への投資は控えた方が良いとされています。
参考記事:「ROEの目安は10%?知っておきたい財務指標の意味」
高いROEを維持する企業こそ優良企業
一時的にROEを上げることと、高いROEを維持することは全く違います。ROEを高く保つことの難しさを解説します。
利益を継続的に増やしていく必要がある
まず、分子である当期純利益が増えていかなければROEの継続的な向上は望めません。利益を継続的に増やしている企業は、事業の拡大のための施策の立案力と実行力があり、外部環境の変化にも柔軟に対応できる、事業戦略が確かな企業であると判断できます。
自己資本の増加を抑制する必要がある
ROEは利益が増えれば増えるほど分母の自己資本が増加するため、数値を下げる要因になる、というジレンマを抱えています。これを克服するためには、配当を増やすことで自己資本の増加を抑制する必要があります。
一方で、利益は将来の事業の拡大に向けた再投資の元手でもありますので、利益をどれだけ再投資に回し、どれだけを配当として株主に還元するかのバランスを決めるのは非常に難しい経営判断です。
このように、利益の還元と再投資のバランスをとりながら、自己資本の増加を抑えつつ事業の拡大を続けていくことは本当に難しいことです。
高いROEを維持している企業は、事業の拡大と自己資本の有効活用、株主への還元といったさまざまな経営課題を何年も継続的にクリアしてきた優良企業と判断できます。
ROEだけではなく、他の指標も活用しよう
ROEが上下する要因を理解することで、自己資本と利益の関係性を整理できますし、高いROEを維持している企業が投資家に評価される理由も理解いただけたのではないでしょうか。
このように、投資先として優良な企業かどうかを判断するためにROEは重要な指標ですが、ROEだけで判断することはおすすめできません。
ROEと同じように経営効率を表す指標で、ROA(総資産利益率)というものがあります。ROAは「当期純利益÷総資産×100」で計算される指標です。総資産と利益の関係性を示すことで、企業の総合的な経営効率を表します。
先程の「借入金で調達した資金で、自社株を購入する」という不健全なROE改善策ですが、この方法ではROAは全く上がりません。自己資本が減った分だけ借入金が増えるので、総資産は減らないからです。つまり、ROAも活用すれば、ROEだけが上がっている不自然な企業を見破ることができます。
参考記事:「ROAとROEの違いとは?きちんと使い分けたい重要な財務指標」
また、ROEの計算式から分かる通り、ROEは株価との相関関係はないので、株価が割安なのか割高なのか、といった判断材料として活用できる指標ではありません。
株価との相関関係を表す指標には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)があります。同業他社との比較で特に有効な指標で、株価を判断する材料として投資家が重視する指標です。
参考記事:「PER(株価収益率)って何を評価してる?純利益をもとにした会社の投資指標の活用法」
参考記事:「PBR(株価純資産倍率)とは?正しい活用法をやさしく解説!」
株価の上昇を期待して投資先を判断する際には、PERやPBRといった指標もあわせて参考にしましょう。
このように、ROEだけで判断するのではなく、他の指標も活用しながら、目的に見合う投資先かどうかを総合的に判断しましょう。
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