現在のM&A(企業の合併・買収)市場は、活発な動きを見せています。世界経済の回復と企業の成長志向が相まって、成約件数は着実に増加傾向にあります。特に、技術分野やエネルギー産業などの新興市場においては、戦略的なM&Aが相次いでおり、市場の競争は一段と激化しています。
そこで本記事では、2023年時点での最新の国内のM&Aの状況や、M&Aの背景にある国内企業が抱える問題、これからのM&Aの展望について予測を交えて解説しています。
2023年のM&A市場の現状
2023年の段階におけるM&A市場は、過去と比較して増加している状態です。経済産業省が発表している「小規模事業者における M&Aの現状と課題」に記載されているレコフデータの調べによると、増加傾向にあるのは近年の特徴でもあり、4年前の2019年には4,000件を超えて過去最高のM&A件数となりました。この数字は公表されている分の件数であり、未公表のM&Aを含めると近年の国内のM&Aは活発になっていることが伺えます。
また、ベンチャー企業関連のM&A件数も増加傾向にあり、レコフデータの調べによると、2019年におけるベンチャー企業関連のM&Aは1,375件にも上り、その年のM&A件数のおよそ1/3をベンチャー企業が占めるほど勢いを増しています。
理由としては、大手企業の急速なDX(デジタルトランスフォーメーション)化計画が考えられ、最新テクノロジーに長けているITベンチャー企業を買収することにより、短期間で経営体制を整えたり、新規事業の起ち上げが可能になるからです。また、ベンチャー企業側も資金調達の手段としてM&Aを活用できるといったメリットがあります。
総括すると、M&Aが増加傾向にあるのは、テクノロジーの進化や経営層を含めた働く人の意識の多様化など、時代の変化が大きく関係していると言えるでしょう。
2023年までのM&Aの件数の推移
ここでは、2000年~2023年までの国内のM&Aの推移について解説します。
リーマンショックや新型コロナウイルスといった、世界の経済に大きな影響を与える出来事が起きましたが、M&Aにはどのような影響があったのでしょうか。
リーマンショック時のM&A件数の推移
経済産業省が発表している「小規模事業者における M&Aの現状と課題」のデータを参考にすると、2000年代に入ってからの3年間のM&A件数は、1990年代と比較しておよそ1,700件と大きな変化はありませんでした。
その後、ライブドアのニッポン放送の株式取得によってM&Aは国内で大きな話題となり、ブームに乗る形で大幅な件数増加の推移を辿ったものの、2008年のリーマンショックによる景気低迷によりM&A件数は大幅に減少することになります。2008年までは2,000件を超える件数だったのが、2009年~2012年の間は1,600~1,900件台と低迷する状況が続きました。
コロナ前のM&A件数の推移
リーマンショックで低迷が続いていた国内のM&A市場でしたが、2011年の東日本大震災によって再び増加傾向に転じることとなります。大きな理由としては、復興を目的とした政府の政策が要因にあり、2013年には2008年以来となる2,000件を超えるM&A件数に推移を戻しています。
東日本大震災を経ての2012年からコロナ渦前の2019年までの7年間は、前年を上回る件数増加が続きました。2019年には4,088件と過去最高のM&A件数となり、翌年2020年はコロナ渦に入ったものの、3,730件と高い数字を継続しています。
2023年現在もM&Aの件数は増加傾向を続けており、通常の経営合併だけでなく、事業承継型のM&Aも増加しています。コロナ渦による経済活動の低迷はあったものの、金融緩和政策の影響や、国内企業における後継者の不足問題などを背景に、コロナ渦中もM&Aの活発な動きがキープされたものと考えらえます。
中小企業においてもM&A件数が増加している
国内のM&Aが活発化していることには、大企業のM&Aだけでなく、中小企業関連のM&Aが増加していることも影響しています。中小企業がM&Aを行う背景には、後述する後継者不足の問題、事業規模の拡大を目的とした経営戦略、傾いている経営の立て直しといった、大きく分けて3つの理由があります。
また、企業の廃業や倒産を可能な限り食い止めるため、国がM&Aによる救済を推進していることも中小企業のM&Aが増えている要因です。中小企業はM&Aを行うことで優遇措置がなされ、事業承継補助金が支給されたり、事業承継優遇税制によって税金の負担を軽減できる制度を利用できるためです。
国内のM&A成約件数が増加している理由
2000年代に入ってから、一旦の落ち込みはあったものの、国内のM&A成約件数は増加傾向にあります。世界的な経済危機を経てもなお、国内で活発にM&Aが行われる背景にはどういった理由があるのでしょうか。
中小企業の後継者不足
少子高齢化の影響で国内の中小企業の後継者が不足しているため、M&Aによって新たな経営陣を迎え入れ、企業を存続させるケースが増えています。経済産業省が発表している「M&Aを中心とする事業再編・統合を 通じた労働生産性の向上」によると、近年70代・80代以上の経営者の割合が高まっており、2025年までには70歳以上の経営者は245万人に達する試算が出ているため、企業経営において後継者不足が大きな問題となっています。
こうした後継者不足を解消するため、M&Aを選択する中小企業が増えており、政府の推進サポートも含め、今後さらにM&Aが経営のスタンダードになることが予想されます。
M&Aに対するイメージの変化
10年前に比べ、経営者の抱くM&Aへのイメージがポジティブに変化したことも、M&A成約件数が増えている一因です。経済産業省が発表している「小規模事業者における M&Aの現状と課題」によると、10年前と比べてとくに30代・40代のM&A(買収・譲渡)へのイメージが良好になっていることがわかります。
それぞれの年代で4割以上の経営者がプラスのイメージ(抵抗感が薄れた)と回答しています。50代・60代・70代の経営者も、買収に関してはおよそ3割がプラスのイメージと回答しており、M&Aを選択する企業が増えていることを示唆するデータだと言えるでしょう。
また、上記参考資料によると、経営者の抱くM&Aのイメージには地域差もほぼ無く、都市部の企業だけでなく、地方の企業にとってもM&Aは一般的な経営手法になっていることがわかります。つまり、経営者の年齢が若いほどM&Aに対して寛容な傾向があり、10年前に比べて経営に対する考え方・価値観の変化が起きていると言えます。
M&Aアドバイザリー会社の支援が充実
近年、企業のM&AをサポートするM&Aアドバイザリー会社が増えていることも、国内のM&A成約件数が増加している要因です。M&Aアドバイザリー会社とは、事業・会計・税務・法務などの交渉に専門知識を用いて介入し、買い手企業・売り手企業双方の利益の最大化を目指してM&Aを総合的にサポートするスペシャリストとなります。
また、経済産業省が発表している「小規模事業者における M&Aの現状と課題」によると、とくに中規模企業のM&A取引に介入するM&Aアドバイザリー会社が増えていることが伺えます。ここでも中小企業の経営難や後継者問題が影響しており、M&Aによる経営の立て直しを必要としている企業が多いことがわかります。
その他にも、中小企業や個人によるM&A件数の増加に伴い、M&Aアドバイザリー会社が手付金を廃止して完全報酬型にシフトするなど、多くの企業が利用しやすくしたこともM&A成約件数増加に寄与しています。
中小企業の経営課題の解決
中小企業が技術的な側面で経営危機に陥っていることも、国内のM&A成約件数が増加している要因の1つでしょう。
現代社会におけるビジネスでは、ビッグデータ・AI・IoT(Internet of Things)などのIT技術を使った業務が一般化してきており、その波を受け、今後は産業構造自体が大きく変化する可能性が示唆されています。大手企業をはじめ、中小企業もテクノロジーに早急に対応(DX化)する必要があり、経営課題として多くの企業の前に立ちはだかっている問題です。
グローバル化が進んでいる現代のビジネスシーンにおいて、自社のDX化が遅れることは世界水準から取り残されるリスクにも繋がりかねません。そのため、M&Aによって他企業と経営統合を行い、IT人材の確保・ITスキルや技術の獲得・IT関連企業との連携など、技術的な経営課題の解消を目指す企業が増えています。
国による補助金等の支援
2025年問題への対策として、国が補助金等で支援を行っていることも、M&A成約件数の増加に影響しています。
2025年問題とは、第一次ベビーブームで生まれたもっとも人口の多い団塊世代が75歳以上になり、それに伴って起きるさまざまな社会問題が起こるというものです。
この2025年問題に向け、国は補助金等の支援の設置に着手しています。経済産業省が発表する中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」によると、支援策には以下のようなものがあります。
● 贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度といった事業承継税に関する支援
● 中小企業信用保険法の特例・日本政策金融公庫法等の特例といった金融支援
その他にも、M&Aに関する相談やサポート支援を受けられる事業承継・引継ぎ支援センターが設営されています。
M&Aプラットフォームの台頭
オンライン上で、買収・譲渡それぞれを目的とした企業同士がマッチングするM&Aプラットフォームが登場したことも、M&A成約件数の増加に影響しています。M&Aプラットフォームでは、買収側・譲渡側それぞれの企業がシステムに登録し、手続きを簡略化することで中小企業同士のM&Aを低コスト・短期間で行うことを実現しています。
M&Aプラットフォームによっては、譲渡側の企業が無料で登録できるものもあるため、資金力のない小規模事業者もM&Aに参入することができます。また、買収側・譲渡側それぞれの当事者企業が相手企業を探せる状況もあり、その場合は仲介業者を介さずM&Aが行えるため、よりスピーディーなやり取りを行うことができます。
さらに、オンラインの特性を活かし、遠方の企業同士のマッチングも可能なため、国内だけならず海外企業とのM&Aを行うことができることも魅力でしょう。こうしたM&Aを促進させるサービスが登場したことにより、より一層M&Aが活性化することが予想できます。
今後のM&Aの件数の予想・見通し
国内企業同士のM&Aの中でも、とくに自助努力では経営を上向かせることができない事業者が、小売業の買収・売却を検討するケースが増えることが考えられます。規模の大きなM&Aは減少していく可能性はありますが、中小企業の後継者不足の解決のために事業承継を目的としたM&Aは増加する見込みです。
また、「小規模事業者における M&Aの現状と課題」によると、経営者年齢が若い企業ほど「買い手意向あり」の割合が高く、特に、経営者年齢が30代以下の企業では4割以上で買い手意向が強くなっています。そのため、若い企業が抱えている経営課題を考えると、今後も中小企業を中心とした国内企業同士のM&Aの増加が予測されます。
まとめ
日本国内のM&Aは、リーマンショックやコロナといった経済的な危機があったものの、2023年の段階でも増加傾向にあります。国内のM&Aが増え続けている背景には、中小企業が抱える後継者の問題・DX化の課題・M&Aアドバイザリー会社の増加・M&Aプラットフォームの台頭などがあります。また、M&Aに対するイメージがポジティブに変化したことも、促進に繋がっている側面があるでしょう。
とくに、中小企業が抱える後継者の問題とDX化によるテクノロジーへの対応は早急に解決すべき社会問題でもあり、中小企業が廃業・倒産などに追い込まれた場合、多くの失業者を生むなど二次被害に発展しかねません。それらを解消する手段としてM&Aが有効であり、多くの危機的状況に追い込まれた企業を救済し、日本経済を土台から支える戦略でもあります。
現状、国内のM&A市場は活性化しており、今後も中小企業のM&Aによる経営の立て直しは増え続けることが予測できます。M&Aが全てを解決するわけではありませんが、企業や社会を支えるための経営戦略であると言えるでしょう。
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