事業再生
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2023/12/21

先代急逝後の慢性的赤字状態からのV字回復した秘訣(後編)

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目次
1. 課題解決へのアクションプラン 2.経営者としての覚悟と取引先との価格交渉  ・経営者としての覚悟  ・取引先との交渉 3. 経営者としての成長  ・社長自らの本気度と涙  ・経営改善計画の策定と実行による経営者としての成長 4. 今後の展望
課題解決へのアクションプラン
前回は、「あるべき姿」と「現状」とのギャップを可視化し、収益向上のための施策を総合的に整理しました。これを元に具体的なアクションプランの実施が決定されました。 具体的な取り組みの初めは、車両(トラック)別や運送ルートごとの売上と原価を一覧表にまとめることからスタートしました。運送業の原価には、ドライバーの人件費、車両のリース料や減価償却費、高速代、保険料など、運送に関連する費用が含まれています。 一方で、当社の販管費は主に役員報酬(社長のみ)や本社事務所の賃借料などが中心であり、管理が相対的に容易です。したがって、運送原価の明確な把握・管理ができれば、利益目標の設定も効果的に行えます。具体的には、車両ごとの売上から運送原価を差し引いたものが売上総利益となります。 また、販管費を車両ごとに配分し、売上総利益から差し引くと営業利益が算出されます。この販管費の配分は、走行距離や積載量、稼働時間などを考慮して行われました。そして、過去の営業利益を振り返り、実態を明らかにしました。 こうして算出した結果から数量に単価を掛けて請求している取引先の車両の中には、数量の減少に伴い売上総利益が大幅にマイナスになるものがあることが分かりました。同時に、数量が減少している車両は積載率や稼働時間が低く、遊休時間が多いことも浮き彫りになりました。 当社は従業員に対して毎月一定の残業時間を前提に給与を支給しています。そのため、法定時間内に業務を完結している車両もあり、固定残業代が無駄になっていました。対照的に、1日あたり定額で請求している取引先の車両は、全体的に一定の利益が確保できていました。 現状を理解した上で、会社全体としての営業利益目標を検討し、それを実現するために車両別の売上目標を設定しました。そして、取引先に対して提案する際には、現状の実態と要望を明確に示しました。 提案書に盛り込まれた主なポイント: ①売上総利益が赤字であり、これまでのままでは倒産の危険性がある。 ②車両ごとの過去の実績から、数量が減少しているルートが赤字に陥っている。 ③少量の配送先が比較的多く、運送効率が低い。 ④売上総利益が大幅に赤字の車両については、数量ベースではなく、1日ごとの定額に変更を希望。 ⑤配送量が少ない先に対しては、配送の頻度を調整し、まとめての配送を提案。 ⑥定年退職後の再雇用人員の勤務日数を柔軟に調整し、配送日数の減少に対応する。 これらの提案書が完成した段階で、取引先との交渉に臨むこととなりました。
経営者としての覚悟と取引先との価格交渉
◆ 経営者としての覚悟 現在、売上総利益が赤字になっているのは1社の取引先のみですが、この1社の売上が全体の約半分を占めており、もし交渉が不調に終われば全体の売上も半減する可能性があります。経営者としては、慎重かつ相当の覚悟が求められます。 特に、当社の社長が交渉が得意でないことから、非常に大きな試練となっています。当然ながら、社長も交渉をするべきかどうか検討に検討を重ねています。社長とコンサルタントが協議した結果、以下の内容が共有されました。 ・現状のコスト削減では限界があり、交渉しないまま継続すると年間2千万円以上の赤字が見込まれ、現預金を考えても1年も持たない可能性がある。 ・主力銀行であるA銀行も赤字が継続する中、これ以上の融資は難しく、返済猶予中で新規融資は見込めない。 ・何もしないでいればいずれ資金が詰まり、倒産の可能性が高い。交渉が破談になっても売上が半分になっても、人員整理や事業のダウンサイジングを実施すれば即座に倒産することは回避可能。 ・諸葛孔明の言葉を借りれば、「座して死を待つよりは、出て活路を見出さん」の方が望ましい。何もしないで倒産を待つよりも、積極的な行動で選択肢を残すことが賢明。 ◆ 取引先との交渉 これらの認識をもとに、1ヶ月ほどかけて社長は交渉に臨む覚悟を決めました。最初のポイントとして、相手よりも人数的に有利な立場で臨むことが決まりました。相手は担当者と担当部長の2人が出席する見込みだったので、こちらは3人で臨むことにしました。社長、配車担当者、コンサルタントの3名が参加します。1回の交渉で成功することは期待できないため、ますは前述の提案書に基づいて交渉を進めることが決まりました。 当社の要望だけを押し通すのではなく、客観的な資料も用意しました。例えば、数量ベースでは赤字になるルートは、1日あたりの定額に変更するための「運賃のあり方」や「トラック輸送の標準的な運賃」といった国土交通省の提案を参考にしました。また、過去の取引経緯や推移、取引先にとってのメリット・デメリットも提示しました。 運送業界は現在、慢性的なドライバー不足に悩まされています。特に3Kと言われるような業種や業態は、人員確保が難しい状況です。そうした中で、当社が取引先から運送品質に関して一定の評価を得ているのは、先代の経営姿勢が影響しています。先代は創業当初から従業員と家族のように接し、高い給与や業績好調時の決算賞与といった高待遇を提供してきました。 近年は赤字が続き、賞与も支給できていないものの、従業員の定着率は比較的高く維持されています。また、サービス品質に対する一貫した教育も先代から引き継がれており、取引先からの高評価を受けています。これらの点が取引先にとってのメリットであり、当社を変更することで新たな不安が生じる可能性があります。誠実にその旨を説明し、当社の要望に合意してもらうための交渉を行いました。
経営者の成長
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