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2021/11/10

弁理士による知財価値評価のポイント②~スコアリングと特許評価指標について

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弁理士による知財価値評価のポイント②~スコアリングと特許評価指標について
少し時間が開きましたが、2021年6月に公開したコラム「弁理士による知財価値評価のポイント①~事業との関係性、説得力のある理屈」では、知的財産(特許権や商標権など:知財)の金銭的価値評価には、対象となる知財の内容に基づく説得力のある理屈を構築し、それを数値に反映するためのストーリーが重要だと述べました。 一般的に「知財の定量的評価」といえば知財の金銭的(経済的)価値評価を指すものとして受け取られます。しかし、「知財の内容に基づく説得力のある理屈を構築し、それを数値に反映」して評価結果(数値)の信頼性を担保するためには、前提となる「知財の定性的評価」をきっちりと行い、それに基づく定量的評価でなければなりません。このコラムでは、定量的評価を見据えた定性的評価として、スコアリング(スコア化)という言葉を用います。 ※スコアリングについては以下のコラムもご参照ください。 https://aivas.jp/20151007_738.html https://aivas.jp/20160123_1054.html https://aivas.jp/20160617_493.html このスコアリングのための指標や評価基準にはさまざまなものが考えられますが、特許の価値評価の実務でよく使われるのは日本特許庁が作成した「特許評価指標(技術移転版)」(平成12年12月)です。 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/242680/www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/pdf/tt1212-035.pdf 経済的価値評価の代表的な手法であるインカムアプローチのなかでもロイヤルティ免除法は、例えば特許の場合には、その特許技術が移転・流通し、ライセンスの対象となり得ることを前提としています。そのため特許庁が産業界や金融関係者からの要望に応えて、特許技術の標準的な評価の手法として作成したものが、この特許評価指標(技術移転版)なのです。この特許評価指標に基づいて特許技術のスコアリングが可能になります。 大まかに表せば、この指標は下記のような評価項目について5段階評価を行ない(一部の項目は3段階評価)、総合評価として、評価目的に応じて上記評価結果を総合的に判断するものです。特許評価指標(技術移転版)にはその評価方法が項目ごとに、より詳細に記載されています。 A.フェイス項目(省略) B.権利固有評価 (1)権利としての技術支配力:特許の権利化状況、発明の技術的性格、権利としての強さなど (2)技術としての完成度:発明の実証度合い C.移転流通性評価 (1)技術移転の信頼性:事業化に向けた追加開発の必要性、ライセンス制約条件など (2)権利の安定性:権利者の侵害対応の義務や協力 D.事業性評価 (1)発明の事業化可能性:事業障害、特許の事業への寄与度、侵害対応の 容易性など (2)事業化による収益性:事業規模、収益期待額 E.総合評価 「特許評価指標(技術移転版)」第4頁から抜粋 このようなスコア化アプローチは特許庁作成の評価指標に基づいているという点で、いわば専門官庁のお墨付きの手法に則ったものであるということができます。 上記のうち「B.権利固有評価」の各項目は、特許権の法的・手続的側面や特許技術の技術的側面から客観的に判断できるものです。 しかし、「C.移転流通性評価」や「D.事業性評価」の各項目については、将来の市場規模を推定し、市場への参入に当たっての技術的・営業的・コスト的優位性を判断し、事業性評価に当たっての代替技術の存在の有無、事業性のリスクなど、もろもろの視点から考慮する必要があります。これらは特許請求の範囲や明細書を読んだだけでは判断できない領域であり、5段階評価といえども、客観性(説得力のある理屈)を持たせるためには、業界・技術動向調査や、マーケット調査、当事者へのインタビュー・質問状などが欠かせないものとなってきます。 これに加えて、先日のコラムで紹介したように、実際の知財価値評価においては評価書の依頼者や読み手の属性などの様々な状況に応じて定性的評価や定量的評価のボリュームやバランスなどを調整する必要もあります。 ロイヤルティ免除法自体は周知で、そのためのスコアリングの指標や評価基準も公表されているからと言って、誰でも簡単に知財価値評価を行えるものではありません。 以上
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