「子会社」という用語は会社法などによって厳密に定義されており、その定義に基づいて法令などが運用されます。そのため、理解があいまいだとビジネスの場面でトラブルの原因になるおそれもあるでしょう。特に企業買収やM&Aにおいて、子会社についての知識を正しく理解することが重要です。
この記事では、子会社の定義と「グループ会社」「関連会社」など似た用語との違い、子会社設立のメリット・デメリットなどを解説します。また、子会社化を進めるためにおすすめのサービスについても紹介します。
子会社とは?
子会社とは他の会社に経営権を掌握されている会社のことで、掌握している側は「親会社」といいます。
「親」「子」という言葉のイメージから大まかな意味は見れば理解できますが、子会社であるか否かで決算書の作成方法など実務上の取り扱いが違ってくるため、その意味は会社法などで厳密に定義されています。
子会社の定義
会社法の第二条三項によると、子会社は以下のように定義されます。
つまり、A社の議決権の過半数をB社が持っているとき、A社はB社の子会社となります。ここで、個人が過半数の議決権を保有している、いわゆるオーナー企業などは該当しません。
過半数の議決権を持っているB社は、A社の株主総会の普通決議を自分の意思だけで決議できます。普通決議は役員の選任・解任などを行えるため、A社の経営権は事実上B社が握っていることになるのです。
財務諸表を作成する際は、過半数の議決権を持たない場合でも、実質的に支配されている場合は子会社とみなされることがあります。
これは「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財務諸表等規則)」の第八条4項で規定されており、要約すると以下の場合にA社はB社の子会社とみなされます。
B社がA社の議決権を40%以上50%以下所有していて、かつ以下のいずれかの条件を満たすとき
⚫︎ B社と同じ意思を持つ他のA社株主がいるため、事実上過半数の議決権を行使できる。
⚫︎ A社の取締役会などの構成員の過半数が、B社からの出向者で占められている。
⚫︎A社の資金の半分以上がB社からの融資でまかなわれている。
子会社と関連会社・関係会社・グループ会社との違い
関連会社・関係会社・グループ会社は、子会社との違いが分かりにくい用語です。
しかし、これらの用語にはさまざまな点で違いがあり、特に関連会社と関係会社は財務諸表等規則などによる厳密な定義があるので、意味を正しく理解しておくことが重要になります。
子会社と関連会社は親会社の株式保有比率が違う
子会社は株式保有比率が過半数であることが基準になりますが、関連会社は20%以上が基準になるのが主な違いです。
関連会社の定義は、財務諸表等規則と会社計算規則に記載があります。
例えば、A社はB社の子会社ではないが、A社の方針決定についてB社が重要な影響力を持つとき、A社はB社の関連会社となります。何をもって重要な影響力を持つとみなすかについては、財務諸表等規則で定められています。
要約すると、以下の場合などでA社はB社の関連会社となります。実際にはこれ以外にもいくつかの細かい規定があります。
2. B社がA社の議決権を15%以上20%未満持っている、または他の株主と合わせて事実上20%以上持っていて、かつ以下のいずれかの条件を満たす時。○ A社の取締役などの中にB社からの出向者がいる
○ B社がA社に対して重要な取引・融資・技術提供などをしている
親会社、子会社、関連会社を含めたまとまりを関係会社という
関係会社も関連会社と同様、財務諸表等規則と会社計算規則によって定義されています。
ある会社A社があって、以下のようなB社・C社・D社・E社があるとき、これら4社のことを「A社の関係会社」と呼びます。
● A社の子会社C社
● A社の関連会社D社
● A社を関連会社に持つE社(E社がA社の議決権を20%以上持っている)
この定義から分かるように、関係会社は特定の会社を指すものではなく、ある会社に対して強い関係性を持つ会社のまとまりを意味します。また、A社自身は関係会社に含めない点に注意しましょう。
関連会社と関係会社は言葉が似ているので混同されがちですが、両者の意味は全く違います。
グループ会社は関係会社とほぼ同じ意味
グループ会社は子会社・関連会社・関係会社と違って法律などによる定義はなく、いわゆるビジネス用語になります。そのため、その意味は使う人や場面などによって多少違ってくることもありますが、一般には関係会社と同じような意味で使われることが多いです。
ただし、孫会社や兄弟会社などは関係会社に含まないのに対して、グループ会社はこれらも含めて使われる可能性もあるので、厳密に同じとは限りません。
子会社の種類
子会社と一口に表現することが多いですが、いくつかの種類があります。
ここでは、代表的なものを紹介します。
完全子会社
親会社が子会社の全株式を所有しているとき、その子会社を完全子会社と呼びます。ここでの注意点は、株主が個人や相互会社(保険会社の形態の一つ)の場合は完全子会社とは呼ばない点です。
また、完全親会社A社とその完全子会社B社があり、A社とB社で分担してC社の全株式を所有しているときも、C社は完全子会社とみなされます。
法令等では、「会社法の第八百四十七条の二」、および「会社法施行規則の第二百十八条の三」において、全株式を所有する親会社・子会社をそれぞれ完全親会社・完全子会社と呼ぶ旨が記載されています。
完全子会社は親会社の意向に反対する少数株主が全く存在しないので、より迅速な意思決定を行うことができ、経営統合の手段として一般的に用いられます。
連結子会社
親会社の連結決算の対象となる子会社を連結子会社と呼びます。ここで連結決算とは、親会社と子会社を1つのまとまった組織とみなし、全体での財務状況を算出することです。
「連結財務諸表に関する会計基準」によると、親会社は原則として全ての子会社を連結決算の対象にするとされています。上場企業と大規模な非上場企業は、連結財務諸表の提出が法律で義務づけられているため、原則としてその子会社は連結子会社となります。
非連結子会社
非連結子会社とは、連結決算の対象とならない子会社のことです。連結財務諸表に関する会計基準によると、関係が一時的であったり、重要度が低い子会社は非連結子会社にできるとされています。
子会社を場合によっては非連結子会社にしてもよいのは、会計における「重要性の原則」という考え方がもとになっています。
これは、連結決算は企業グループ全体の財務状況を正しく把握するためのものなので、もし連結しなくても正しさが損なわれないなら、非連結子会社にして決算手続きを簡略化してもよいということです。
また、子会社が親会社と全く違う事業を営んでいるなどの理由で、連結すると企業グループ全体の財務状況がかえって分かりにくくなる場合も、子会社を非連結子会社とすることがあります。
特別子会社
特別子会社とは、会社の代表者とその同族関係者が、議決権の過半数の株式を保有する会社のことです。ここで同族関係者とは、民法で規定されている親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)に加えて、親族ではないが関係の深い者(内縁関係の者や使用人など)を含めたものです。
また、特別子会社のうち、株主を「代表者」と「代表者と生計を一にする親族」のみに限定したものを特定特別子会社といいます。
特別子会社は「子会社」という名前がついていますが、株主が個人のため会社法などが定める子会社には該当しません。なお、特別子会社と字が似ている用語に「特例子会社」というものがありますが、これは障害者雇用を促進する会社のことであって全く別物です。
兄弟会社
親会社が複数の子会社を持つとき、これらの子会社同士を兄弟会社と呼びます。兄弟会社は直接的な支配関係はありませんが、同じ親会社を持つため企業グループの一員を成し、互いに強い影響を及ぼし合うこともあります。
兄弟会社は関係会社には該当しませんが、これより広い概念である「関連当事者」に該当します。
関連当事者は直接的な取引関係がなくても互いの財務に影響を与える可能性があることから、「関連当事者の開示に関する会計基準」にもとづく適切な情報開示をすることが求められます。
子会社化するメリット
ここからは何を目的にして子会社を作るのかを解説していきます。実際に子会社化を進める前に子会社を作ることのメリットを理解しましょう。
人材・ノウハウを有効活用できる
子会社を作ることで、子会社が買収前から保持している技術、ノウハウ、人材、販路ネットワークといった資産を活用し、事業の拡大や多角化につなげることができます。また、設備投資や人材育成を始め、事業をゼロベースで立ち上げるコストや時間を抑えることも期待できるでしょう。
子会社化には買収するための資金が必要です。しかし、一から事業を立ち上げるコストを考えた場合に、子会社化が合理的な判断になる可能性があります。
法人税に軽減税率が適用される
法人税は課税所得と税率の掛け算で算出され、税率は企業の資本金、所得に応じて高くなるのが特徴です。子会社化を行うことで、課税所得を親会社と子会社で分け合うことができるため、軽減税率が適用され節税につながります。
一方で、法人税率は都道府県ごとに異なる場合があること、毎年変更があることに注意が必要です。また、新設された法人に対する消費税は2年間免除されるので、期間限定ではあるものの、子会社化によって消費税の節税も期待できます。
親会社のブランド力を使うことができる
子会社となった企業にとっても、親会社のブランド力を使って事業が展開できるというメリットがあります。子会社化前は無名の企業でも、親会社のネームバリューを活かした販路の開拓が可能です。
また、ネームバリューに留まらず親会社が持つ人材、ノウハウ、設備も活用できるため、子会社化前には手を出せなかった事業領域にも進出できるでしょう。
事業を拡大させることができる
他社をM&Aなどで子会社化することで、自社単独では難しい事業拡大を実現できることがあります。例えば、自社の弱みや経営課題を補完できるような会社を子会社化すれば、問題解決をより手早く低コストで行える可能性があります。
また、同業他社を買収して子会社化すれば、販路を拡大し業界内シェアを伸ばすことができます。異業種の子会社化も有力な手段で、自社で一から新事業に進出する場合に比べて、子会社の実績やノウハウを有効活用できます。
経営資源・リソースを有効活用することができる
自社にない経営資源やリソースを持つ会社を子会社化することで、これらの資産を有効活用できます。例えば、営業力のある会社が独自の技術を持つ会社を子会社化すれば、互いの強みを活かすことができるでしょう。
また、子会社化すると経営資源の共有がしやすくなり、コスト削減や業務の効率化が期待できます。他には、自社単独では有効な活用法が見いだせない資産を、子会社のリソースと組み合わせることで活用できるケースもあります。
子会社化するデメリット
子会社を作るメリットを解説してきましたが、ここからは子会社化を行う際のデメリットについて解説します。メリットだけでなくデメリットも理解することで、健全な子会社化を実現しましょう。
事務作業の負担・管理コストの増加
子会社化によって企業や事業を買い取ることで、会社としての規模が大きくなり、多くの変化が生じます。一番わかりやすい例が、従業員の増加に伴う業務の増加です。給与の支払いや人事面での手続きをはじめ、事務作業の工数が純増するでしょう。
また、管理作業に留まらず、子会社の経営面についてもフォローしなければなりません。
具体的には子会社の営業利益やキャッシュフローといった経営指標を把握し、目標達成に向けた評価を継続して行うことが必要です。子会社が株式市場に上場している場合は株価の動向についても気を配る必要があります。さらに、子会社が持つ設備の維持費や人件費等のコストも増えることになるでしょう。
損益の通算は認められていない
親会社と子会社は、完全子会社の場合を除いて互いの損益を通算できません。そのため、自社の一部を切り離して子会社化した場合、税金面で不利になるケースがあります。
例えば、自社の赤字部門を子会社化した場合、今まで損益通算していた赤字が相殺できなくなるので、親会社の法人税が高くなる可能性もあります。
また、子会社化すると法人住民税の均等割を別途支払うことになるのも不利な点です。
子会社の責任を取ることがある
子会社化によってある会社の親会社になることで、子会社に対する管理監督責任が発生します。もし、子会社がコンプライアンスに違反するなどの不祥事を起こした場合は親会社が連帯責任を負うことになります。
子会社は別会社ではあるものの、親子関係があるため親会社が主体的に子会社のリスク管理を行って統制をとることが重要です。また、親会社には経営上の責任もあります。例えば連結子会社である場合、子会社の損益は親会社の決算に計上されるため、子会社が赤字や債務超過に陥った場合は親会社が補填しなければなりません。
また、あまりにも子会社の業績が悪く再建の見込みがない場合は、子会社を売却あるいは清算するといった判断が必要となる可能性があります。
子会社化する方法
ここまで子会社の種類について解説してきました。
ここからは実際に子会社化を進めるための手法である「株式取得」と「事業譲渡」について解説していきます。それぞれの特徴を理解し、自身のビジネスモデルに合うやり方を見極めましょう。
株式取得
株式取得は、子会社となる企業の株式を50%以上取得することで子会社化を行う手法です。具体的には、子会社となる企業の株式を保有する法人や個人から直接株式を買い取ることを指します。
株式取得の中でも最も一般的な手法が株式譲渡です。株式譲渡は経営権の移行を目的として株式を譲渡することであり、M&Aの有効的な手段とされています。株式譲渡を行う際には、経営権に付随して子会社の債務も引き継ぐため、子会社となる企業の経営状態について事前に入念なチェックを行うことが重要です。
株式譲渡以外にも、第三者割当増資、株式交換といった株式取得の手法があるため、目的に応じて選択するとよいでしょう。
事業譲渡
事業譲渡は、金銭を対価に事業を譲り受けることを意味します。株式ではなく、事業そのものが買収の対象となることが株式取得との大きな違いです。事業譲渡では、買収される企業の事業に関連する商品、設備、人材を引き継ぐことができます。事業単位での買収となるため、買い手にとっては不採算部門を対象から外すことができ、債務を引き継ぐ必要がないことが大きなメリットです。
M&Aを活用した子会社化ならバトンズ
ここでは、バトンズを活用した実際の子会社化の事例とバトンズをおすすめする理由について解説します。
バトンズで子会社化した事例
資格試験の教育サービスを展開するアガルートでは、創業当初よりシステム開発を外注していました。しかし、教育コンテンツには強みがあるものの、ITに関する知見がないために事業展開に必要なITインフラの整備に課題がありました。
この状況を打開するために、バトンズを活用してIT会社である株式会社プラハの子会社化を検討したのです。子会社化の過程では、バトンズのプラットフォームを使い仲介者を経由しない直接的なコミュニケーションが実現しました。
これによって、教育コンテンツを生かすITプラットフォームが欲しいアガルートと、IT技術を生かすコンテンツが欲しいプラハの意向が合致した形でM&Aが成立しましたす。
まさに、バトンズを通じた子会社化によって親会社と子会社の双方にシナジー効果が出た事例といえるでしょう。
M&Aをおすすめするワケ
子会社化の手段としてはM&Aがおすすめです。
社会全体で高齢化が進んでことにより後継者不足に悩む中小企業が増えており、事業承継を通して会社を存続させたいと考える経営者が多くなっています。
特に近年はコロナ禍による業績悪化によって経営体力が低下し、より資金力のある企業に経営を託したいというニーズがあります。これから立ち上げたい新事業の方向性と買収したい企業の事業内容が合致していれば、M&Aによる子会社化は有効な手段となるでしょう。
M&Aならバトンズ
バトンズはM&Aの仲介を行うサービスです。
バトンズには豊富な案件が登録されており、今後進出したい事業にマッチした案件を迅速に探すことができます。さらに、専門家によるサポートを無料で受けることも可能です。
M&Aに関しては不慣れである、コストが心配といった場合でも安心のサービスといえるでしょう。
まとめ
今回紹介したように子会社や子会社化は関連会社などの似た意味の用語が存在するため、きちんと区別して理解する必要があります。子会社化は、子会社の人材やノウハウの活用を通した事業拡大や節税を目的に行われることが多い一方で、子会社に対する責任が発生するなど注意すべき点もあります。
バトンズでは多数のM&A案件が登録されており、専門家のサポートも受けられるため、M&Aによる子会社化を行う際の強い味方になります。子会社化により、事業拡大や新規事業の創出を検討している場合などは、ぜひご相談ください。
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つなぐマッチングプラットフォームです。
累計5,000件以上の売買を成立させています。
またM&Aを進めるためのノウハウ共有や
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まずはお気軽にご相談ください。
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