ビジネス用語である「関連会社」について理解することは、企業の組織や取引の理解に欠かせません。関連会社とは、他の会社との間に一定の資本や業務関係が存在する企業を指します。一方、似たような言葉である「関係会社」は、資本関係の他に事業や親子関係などが含まれます。
本記事では、法律に基づく関連会社の厳格な定義とその判断基準について詳述します。また、関連会社と子会社や、グループ会社との関係性についても解説します。
関連会社とは
まずは、関連会社の定義とある会社を関連会社と判定する基準について解説していきます。
判定基準を理解することで、どのような会社が関連会社となるのかを理解することが可能です。
関連会社の定義
「関連会社」は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第一章第八条」に基づき以下のように定義されています。
“この規則において「関連会社」とは、会社等及び当該会社等の子会社が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の会社等をいう。”
つまり、「関連会社」は直接の子会社以外で、ある会社が財務や事業方針に重要な影響を及ぼすことが可能な会社を指します。この定義は、「影響力基準」と呼ばれる考え方に基づいています。
一つの会社が別の会社に対して、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて財務及び営業又は事業の方針に重要な影響を与える力を持つ場合、その会社を「関連会社」と認定するのが、影響力基準です。
影響力基準によれば、出資比率だけでなく、実質的な影響力も評価の対象となります。
具体的には、次のような状況が考えられます。
● 出資:一つの会社が別の会社に対して大きな出資を行っている場合
● 人事:例えば役員を送り込むなど、 一つの会社が別の会社の経営陣に影響を与えることができる場合
● 資金:一つの会社が別の会社に対して資金を提供している場合
● 技術:一つの会社が別の会社に対して、技術の提供や共有を行っている場合
● 取引:一つの会社と別の会社との間で大きな取引がある場合
これらの要素は、一つだけではなく、複数の要素が組み合わさることで、一つの会社が別の会社に対する影響力を持つことになります。
関連会社の例
電通は日本国内最大手の広告代理店であり、その関連会社としてビデオリサーチやD2Cなどが挙げられます。
ビデオリサーチはテレビ視聴率調査を行う企業で、電通がその情報を使用して広告活動を最適化するといった関係性です。D2Cは電通とNTTドコモが共同出資した会社で、携帯電話向けの広告を手掛けています。これらの会社は、電通の事業遂行において重要な役割を果たし、また電通からの影響を受けているため、関連会社とされています。
また、ソニーはエレクトロニクス、ゲーム、エンターテイメント、金融サービスなど、多岐にわたる事業を展開している多国籍企業です。その関連会社としてエムスリー株式会社があります。
エムスリー株式会社は医療関連情報の提供や医療機関と製薬会社をつなぐビジネスを展開しており、ソニーがエムスリーに対して資本・人的な投資を行い、事業の方針に影響を与えていることから関連会社とされています。
また、ソニーグループホールディングスはエムスリー以外にも140社もの関連会社を抱えており、これらの企業との関係性を通じて、様々な事業領域にわたる影響力を保持しています。
これらの例からわかるように、関連会社は主要な会社がその事業を拡大し、新たな領域に進出するために重要な役割を果たしています。また、関連会社の多さはその企業グループがどれだけ多様な事業を手掛けているか、またはその事業の複雑さを示す一つの指標ともなります。
参考:「株式会社電通グループ 有価証券報告書」
参考:「ソニーグループ株式会社 有価証券報告書」
関連会社の判断基準
日本における関連会社の判断基準は、以下のように議決権の保有比率と、その他の一定の要件に基づいて定義されます。
1. 議決権 20%以上:
議決権の保有比率が20%以上の場合、その会社は関連会社と判断されます。これは、議決権20%以上を保有することで、会社の経営に対して一定の影響力を有していると見なされるためです。
2. 議決権15%以上、20%未満の場合:
議決権の保有比率が15%以上20%未満の場合でも、以下に述べる一定の要件に該当する場合には関連会社と判断されます。
3. 議決権15%未満の場合:
議決権の保有比率が15%未満で、特定の者の議決権と合わせて自己所有等議決権数が20%以上、かつ一定の要件に当てはまる場合にも関連会社と判断されます。
一定の要件とは以下の5つの項目を指します。これらのいずれかに該当する場合、該当会社は関連会社と判断されます。
これらの基準は、一つの会社が別の会社に対する影響力の度合いを評価し、その関連性を判断するためのものです。ただし、これらは基準であるため、具体的な判断はそれぞれの具体的な状況によります。
関連会社以外の会社の分類
それでは次に会社の分類の「親会社」「子会社」「関連会社」「その他の関係会社」について詳しく見ていきましょう。
親会社及び子会社
親会社及び子会社とは、「財務諸表等規則第1章第8条第3項」にて以下のように定義されています。
具体的には、親会社の定義は子会社となる企業の株式を50%以上保有している場合です。つまり、他社に50%以上の株式を保有され、経営の決定権を他社に握られている会社をその会社の子会社と呼びます。
また、株式の所有率が50%未満の場合であっても、「A社の社員が出向し、B社の役員になっている」場合や「A社がB社の事業方針を決定する契約を交わしている」などB社の大きな決定権がA社に委ねられている場合には「A社はB社の親会社である」「B社はA社の子会社である」と言い表すことができ、実質的な支配権があるかどうかが判断基準となります。
実際に親子関係にあたるかどうかは実態を鑑みて判断されます。子会社になると親会社との連結決算の対象になり、連結決算の会計処理は連結法が適用されることとなります。
その他の関係会社
その他の関係会社とは、関連会社の対義語のような意味を持ちます。つまり、A社の関連会社がB社であれば、B社にとってA社はその他の関係会社です。具体的にはある会社の株式の20%以上を所有するなど、ある会社の財務や営業、事業の方針の決定に対し重要な影響を与えられる親会社以外の会社がその他の関係会社です。
関連会社と関係会社との違い
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の第8条8項において、「関係会社」とは、以下のように定義されています。
したがって、関係会社とは、子会社と関連会社の両方を含む概念です。一方で関連会社には、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第一章第八条」にあるように、子会社は含まれません。
関連会社と子会社の違い
関連会社と子会社は出資額の割合や条件、会計処理が異なります。最も大きな関連会社と子会社との違いは、株式の保有率です。ある会社に50%以上株式を保有されているかそれに近い状態なのが子会社で、20%以上株式を保有されているかそれに近い状態なのが関連会社です。
子会社と関連会社は既出のように株式の所有割合で変わってきますが、株式の移動だけで判断するのではなく、どのような関係になっているのか議事録のような確実な資料に目を通して関連会社との関係性を常に把握しておく必要があります。
また、子会社と関連会社の条件に当てはまらない例外もあり、その1つが「完全子会社」です。子会社の株式が、ある会社に100%保有されている場合は全ての意思決定権は親会社にあり、その子会社は「完全子会社」となります。
その他にも「非連結子会社」もあり、その名の通り重要度が高い案件から連結して対応していく会社から外されているものを指す意味合いを持っています。
関連会社とグループ会社との違い
「関連会社」と「グループ会社」は、企業が他の企業に対して持つ影響力や関与度を示す概念ですが、それぞれ異なる意味を持っています。
関連会社は通常、企業が20%以上50%未満の投票権(議決権)を持つ企業を指します。これはその企業が関連会社の財務及び営業又は事業の方針に対して重要な影響を与えることができるとされています。また、企業が一定の要件(例えば、役員派遣、重要な取引関係、技術提供等)を満たす場合にも、議決権が20%に満たない企業を関連会社とみなすことがあります。
グループ会社は、法律などにより明確に定義されている訳ではありませんが、特定の企業(親会社)が直接的あるいは間接的に経営支配する企業を指します。具体的には、親会社が子会社に対して過半数(50%以上)の投票権を保有し、その経営を実質的に支配する場合、その子会社は親会社のグループ会社であるとされます。
したがって、主な違いは、親会社が他社に対して持つ影響力の程度にあります。関連会社は親会社が一定の影響力を持つが経営を支配していない会社を指すのに対し、グループ会社は親会社が経営を支配し、事業方針の決定に直接的な影響を及ぼせる会社を指します。
関連会社のメリット
関連会社のメリットには、ネームバリューを利用できることや、節税効果を期待できることがあります。ここでは、それらのメリットを具体的に解説していきます。
ネームバリューを利用できる
取引先の新規開拓などを行う場合でも、グループ内の大手企業のネームバリューがあれば、スムーズに商談を進めることができるでしょう。さらに、グループ内の大手企業の名前を使った商品提案や大手企業の関連会社だからできるサービス提供も可能で、自社の製品やサービスの信頼度が上がります。
安定した仕事をスムーズに受注できる
関連会社は同じ親会社の傘下にある場合が多いため、企業の信頼性が向上します。信頼性の高い企業として認知されることで、新規のクライアントやプロジェクトを獲得するチャンスが増えます。
また、グループ内の大手企業のサポートを受けられるので、安定して仕事を受注できます。また、他社よりも他の会社との連携がスムーズにいき、受発注をしやすいなど優位な状態からの仕事ができるのでとても働きやすい環境になります。
経営の効率化
関連会社の設立は、経営陣が持つ決定権を分散させることが可能となります。この決定権の分散は、組織内の意思決定構造に一定の革新をもたらします。
具体的には、少人数の取締役で組織全体の意思決定を行うという従来の組織運営モデルを転換させることが可能です。結果として、意思決定プロセスがより効率的になり、経営のスピードが向上します。これは、特に迅速な対応が求められるビジネス環境では、大きな競争優位性を生み出す可能性があります。
さらに、特定の事業に特化した関連会社を設立することで、その事業領域についてより迅速かつ専門的な意思決定が可能となります。これにより、企業が複数の事業領域を抱える場合でも、それぞれの事業領域が独自の戦略を追求し、自身の市場環境に最適な決定を迅速に行うことが可能です。
節税効果を期待できる
関連会社を設立することで、親会社の利益が分散され、各会社の利益が軽減税率の対象となる可能性があります。この利益の分散は、法人税負担の軽減を目指す一方で、組織全体の収益構造にも影響を与えます。
全体としての法人税負担が軽減することで、組織全体の財務状態が改善される点が大きなメリットです。これは、企業の成長に対する持続的な投資を支え、更なるビジネスチャンスを探求する余地を提供します。
さらに、関連会社を利用して特定の事業や資産を管理することで、税務上の最適化が可能になる場合もあります。税務対策をより戦略的なものとして位置付け、企業の全体的な成長戦略に組み込むことが可能です。
後継者問題の解決
後継者が複数いる場合には、それぞれに異なる関連会社を引き継がせることで、複数の後継者が同時に経営経験を積むことが可能です。これは、後継者たちが各々の事業を運営することでリーダーシップと経営知識を鍛える良い機会を提供するとともに、経営陣の多様性という点からも、組織の成長と発展に対する新たな視点を提供します。
関連会社のデメリット
関連会社には以下のようなデメリットもあります。
ほかにも、設立に時間やコストがかかるというデメリットもあります。以下では、関連会社になるデメリットについて詳しく解説します。
不祥事を起こした場合、会社全体のイメージが低下する
関連会社が何らかの不祥事を起こした際には、その影響が親会社や他の関連会社にまで及ぶ可能性があります。親会社と関連会社はしばしば密接に結びつき、ブランドや評判を共有しているため、一つの会社で問題が発生すると、その他の会社にもネガティブな影響が及ぶ可能性があります。
会社全体のイメージが低下すると、企業の評判や顧客信頼に深刻な打撃を与え、長期的なビジネス成長に障害を生じさせる可能性があります。したがって、関連会社を管理し、その行動を監視するための適切なガバナンス構造を確立することが重要となります。
関連会社へ依存しすぎると他の会社に対する営業力が失われる
関連会社への過度な依存は、他の企業とのビジネスを拡大する能力、つまり営業力を削ぐリスクがあります。関連会社へのビジネスの集中が進むと、他の新たなビジネスパートナーを探す能力が低下する可能性があります。
特に経営が困難になったときに、他のパートナーとの新規ビジネスチャンスを探すことが困難となる為、注意が必要です。また、一部の関連会社に過度に依存することで、その関連会社が問題を起こしたときにビジネス全体が影響を受けるリスクも高まります。
設立に時間やコストがかかる
新たな会社を設立するには、各種の手続きが必要です。企業設立に必要な手続きには、商業登記の申請、設立総会の開催、株式の発行、定款の作成などが含まれ、手続きには多くの時間と専門的な知識を必要とします。
また、親会社と関連会社間で利益相反の可能性がある取引を行う場合には、その事実を取締役会や株主総会に開示し、その承認を得る必要があります。これは、経営の柔軟性や迅速性を制限する可能性があり経営上のリスクとなり得ます。
まとめ
ビジネスの世界では関係会社や関連会社、グループ会社などの言葉をよく目にしますが、株式の保有比率や条件によって異なりますので、注意が必要です。
また、今回紹介したように関連会社にはメリットもありますしデメリットもあるため、会社の経営状況を見極めたい場合は照らし合わせてみてください。実際に事業の譲渡などM&Aを行う際には、子会社や関連会社などの扱いについて悩むこともあるでしょう。
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