FC(フランチャイズ)の店舗や事業のオーナーで、「そろそろ事業を後継者に譲りたいからM&Aで譲渡を」と考える人が増えています。
とはいうものの、FC加盟店はFC本部との契約によって成り立っているものだけに、通常のM&Aとは違う点があることには注意が必要です。
当記事では「FCとは?」という基本的な説明をはじめ、FCが絡む事業承継問題、FCの店舗や事業をM&Aするメリットや注意点について解説します。
ぜひ、当記事でFCのM&Aについて正しく理解し、今後のビジネス展開の参考としてください。
そもそもFCとは?
FCとは、ある事業者が持つ「特権」を別の事業者に分け与え、その見返りに加盟料(ロイヤリティ)を受け取るというビジネスモデルです。たとえば、コンビニエンスストアや外食レストランのチェーン店などが有名ではないでしょうか。
特権を与えて加盟料を受け取る側を「フランチャイザー(本部)」、特権を受けて商売を行う側を「フランチャイジー(加盟店)」と呼びます。
加盟店側は、本部が持つ商標やサービス、商品、そのほかのノウハウを特権として使えるため、たとえ起業ノウハウや経営戦略が乏しくてもビジネスを開始できる点がメリットです。対して本部側は、ロイヤリティによる利益取得や認知度の向上、ブランド力の拡大が見込めます。
FCの市場規模は、2019年度時点で右肩上がりの傾向でした。日本フランチャイズチェーン協会の「JFAフランチャイズチェーン統計調査」によると、2009年度の売上高約20.8兆円に対し、2019年度の売上高は約26.6兆円と約5.8兆円もの上昇を見せています。
FCのオーナーも事業承継問題に悩んでいる?
事業承継とは、経営者が自分の会社や事業、資産などのすべてを後継者に引き継ぐことです
会社の経営者や自営業の人が事業を引き継ぐ際には、後継者不足など様々な問題に悩まされることがあります。昨今では、FCのような店舗のオーナーも事業承継について悩むケースが増えているようです。その大きな原因は、オーナー自身の高齢化に伴い、経営を継続すべきか後継者を見つけて承継すべきかを悩む点にあるといえます。
10~30年前の働き盛りでオーナーになった人の多くが、引退を考える年代に差し掛かっているのです。
2020年現在、ファミリーマートやセブンイレブンなどの大手コンビニチェーンが「引退モデル」として、FCオーナーの事業承継を後押しする動きも出てきました。
今後も、FCの店舗や事業の事業承継は盛んになっていくのではないでしょうか。
FCオーナーがM&Aする理由を複数解説
FCのオーナーがM&Aによる事業承継を検討する理由は次のとおりです。
・高齢化によって経営にかかわるのが難しくなったから
・親族や身近な知人に適切な後継者がいないから
・経営悪化による負債を事業売却資金で補填したいから
・廃業だと従業員の雇用を維持できないから
・ほかに注力したい事業があるから
・FC本部とうまく折り合いがつかないから など
「利益を得たい」、「リタイアしたいけど経営や雇用は維持したい」という場合に、FCのオーナーはM&Aの実施を考えます。
そもそも「特権を与えられている立場の加盟店が事業承継などできるのか?」という疑問が生じるかもしれませんが、FC本部の承諾を得られている場合は可能です。
ただし、加盟店・本部・事業承継先という3者間で次のような思惑が交錯するため、慎重な協議が必要になります。
・加盟店(売却する側):高い利益を得たい、ほかの加盟店に情報を漏洩させたくない
・事業承継先(購入する側):洗練されたビジネスモデルやノウハウを得たい
・本部(許可する側):売上低下が怖い、ほかに信頼できるオーナーを紹介したい、ノウハウの流出が怖い
もしも本部に無断でM&Aを進めた場合、契約違反として訴訟に発展するか高額な違約金を請求される可能性があるため注意しましょう。「事業承継は禁止」と契約書に明記されているパターンもあります。
FCオーナーにとって譲渡するメリットとは
FCオーナーにとってFCの店舗や事業を譲渡するメリットは、次のとおりです。
・譲渡益を別事業の開業・運営資金に充てられる
・譲渡益をリタイア時の退職金として充てられる
・経営や本部とのやり取りなどのプレッシャーから解放される
・事業にかかわっていた従業員の雇用や取引先の商売関係を維持できる
・ケース次第で債務も引き継げる
譲渡後、経営者自身はFC本部から得ていた商標や商品などを利用できなくなります。
しかし、FC経営を通じて得たオリジナルのノウハウや人脈、技術などの無形資産は手元に残るため、新事業を立ち上げたりほかの会社に就職したりするときの大きな武器になるはずです。
また、今日までの外食産業やコンビニ文化の浸透を考えると、廃業ではなくM&Aによる「第三次産業の維持」というマクロの視点でもメリットがあるといえるでしょう。
買い手がFCを買収するメリットとは
買い手にとってFCの店舗や事業を買収するメリットは、次のとおりです。
・ほかの事業とのシナジー効果によって、売上の向上や開発力アップが期待できる
・ビジネスモデルをそのまま引き継げるため、開業の手間やコストを削減できる
・FCが持つ知名度、集客力、商品力を利用できる
・従業員の育成やノウハウ蓄積の労力がある程度抑えられる
・すでに存在する地域エリアの固定客からの売上が見込める など
既存事業と買収事業の融合による変化や、FCの店舗や事業が元々持つポテンシャルなどの要素によるビジネス拡大への大きな貢献が見込めます。
また、ゼロから新しく事業を立ち上げることに比べ、既存のビジネスモデルを流用することによる初期コスト削減が可能な点もメリットです。
FC店舗/事業をM&Aする際の注意点
FCの店舗や事業をM&Aする際の注意点、デメリットには次のことが挙げられます。
・買い手にとって魅力的な事業でなければ取引先が見つからなくなる
・総合的なM&Aの知識がなければ成功が難しい(相手に騙される)
・企業価値やリスクの調査(デューデリジェンス)には高い専門性が必要になる
・FC本部との話し合いによっては、M&Aの成功までに交渉時間がかかることも
・従業員や顧客への報告タイミング次第では離職や客離れにつながる など
「買い手を見つけて売る」と書けば単純に思えますが、実際にM&Aを成功させるには多大な労力と時間が必要です。
特にFCの場合は、本部が難色を示すことも少なくありません。いかに「このM&Aが本部にとってメリットがあるのか」、「M&Aによるトラブルや不利益が少ないか」などのアピールが重要です。
契約期間、商標、FC本部への支払金(ロイヤリティー等)、競業避止義務など
FCの店舗や事業をM&Aするときには、「契約期間」や「商標」、「FC本部への支払金(ロイヤリティー等)」、「競業避止義務」などFCならではの注意点が存在します。
注意点の1つめは、契約期間についてです。FCの店舗や事業をM&Aする際は、残りの契約期間の長さ次第で違約金が発生する可能性があります。
2つめは、商標などの契約関係についてです。「契約解除なしでそのまま譲渡できる」、「一度正式に契約解除の必要がある」など契約内容によって扱いが変わってきます。M&Aを検討する際には、一度FC本部との契約内容をチェックしましょう。
3つめは、保証金やロイヤリティなどFC本部への支払金についてです。本来、保証金はFC契約が終了次第返ってくるものですが、契約内容に反するM&Aを行った際には、額が少なくなったりゼロになったりします。そういった場合、ロイヤリティも状況によってはさらに上乗せされるケースもあるので注意が必要です。
4つめの注意点である競業避止義務とは、競合他社への転職や競合になりえる会社の立ち上げなどの競業行為を禁止するものです。本来は、「職業選択の自由」によってFCのオーナーも制約なく次の就職や起業を行えるはずですが、過去には競業避止義務の有用性や合理性が認められて処分された事例があります。
M&Aを行う前にFC本部との契約をよく見て、「競業避止義務の遵守期間は何年か」、「競業他社の対象とはどんなものか」、「機密保持に関して別途報酬を受け取っていないか」などを確認しておきましょう。
FCのM&Aを行う際は専門家に相談しよう
FCのM&Aにおいては、通常のM&Aに必要な専門知識を持つことに加えて、FCならではの注意点を考慮しなければなりません。FCオーナーという忙しい立場をこなしながら、同時にM&Aの勉強や事業評価を行うのはなかなか困難なことです。
もしもFCのM&Aを行いたい場合には、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。専門家であれば、売却先の選定はもちろん、正しい企業調査や評価(デューデリジェンス)を実施してくれるなど、M&Aにおける重要かつ難しい作業を正確に担ってくれるでしょう。
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