複数の会社を支配する目的で株式を保有する組織形態を持株会社(ホールディングス)と呼びます。設立することで、効率の良い経営ができるようになる点がメリットのひとつです。
本記事では、持株会社の概要や種類、設立方法などについて解説します。
持株会社とは
持株会社とは、複数の会社についてそれらの会社を支配する目的で株式を保有している組織形態のことを言います。1社の親会社(持株会社)に対して、複数の会社が子会社(グループ会社)として存在します。
持株会社の特徴は、企業の意思決定と事業運営はそれぞれ別の会社が行っている点です。親会社では事業を行わず、グループ全体の企業戦略や意思決定に専念します。つまり、グループの頭脳の部分に当たります。
一方、複数の子会社は親会社が策定した企業戦略に基づいて自社の事業戦略を策定し、経営活動を行います。親会社を頭脳とするなら、複数の子会社はグループの手や足の部分に当たります。
これらの親子関係は、株式の保有によって支配関係が構築されています。
事業持株会社と純粋持株会社
持株会社は、事業持株会社と純粋持ち株会社に分けられます。事業持株会社は株を所有して自ら事業も行う会社であり、純粋持株会社は株を所有して自らは事業を行わない会社という違いがあります。
持株会社が増加した背景
もともと、持株会社は1947年制定の独占禁止法で禁止された形態でした。しかし、企業活動のグローバル化や、日本における産業の空洞化への懸念などから経済界を中心に規制緩和を推進すべきとの主張がなされたため、1997年6月の法改正で持株会社設立が解禁されています。
解禁以降、持株会社が増加傾向にある背景のひとつが企業再編です。各企業は、親会社に資源配分の役割を集中させることでグループ全体の経営効率を向上させるため、持株会社設立という道を選びました。
3種類の持株会社を整理
持株会社は、目的や成り立ちによって事業持株会社、純粋持株会社、金融持株会社の3種類に分類できます。
純粋持株会社は株式保有による管理を目的とするのに対し、事業持株会社は直接事業も手がける点が違いです。また、金融持株会社は金融業界に深く関係しています。
それぞれの持株会社の定義を、さらに詳しく確認していきましょう。
事業持株会社とは
事業持株会社とは、企業支配を目的とした株式保有だけでなく、自ら事業を営む会社を指します。企業は持株会社になった後も、引き続き事業の継続が可能です。
株式交換による持株会社化の場合、既存の事業会社が持株会社となるため、事業持株会社に該当します。ちなみに、株式交換とは既存する複数の企業の株式を交換する組織再編行為のことです。
純粋持株会社とは
純粋持株会社とは、統治・支配目的に対象企業の株式保有のみをおこなう会社を指します。純粋持株会社では、企業は新たに持株会社を設立する点や事業をおこなわず収益が基本的に子会社からの配当金に限られる点が特徴です。
一般的に、株式移転による持株会社化の場合、純粋持株会社となります。ちなみに、株式移転とは、既存企業の全発行済み株式を新会社(特定親会社)に取得させることです。
金融持株会社とは
金融持株会社とは、金融業界の企業が設立する持株会社のことです。統治・支配目的に新たに持株会社を設立するため、純粋持株会社のひとつに分類されることもあります。
金融持株会社設立が解禁されて以降、銀行・証券・信託・保険と異なる金融業の相互乗り入れが見られるケースも増えてきました。国内における金融持株会社の代表例が、3大メガバンクグループ(三菱UFJ・みずほ・三井住友)です。
持株会社と混同しやすい用語を整理
持株会社化は、合併とは異なる概念です。合併は複数の企業を一社にまとめることで、手法によって新設合併と吸収合併に分けられます。持株会社は、傘下の企業は全て別法人として存在する点が合併との主な違いです。
また、事業部制やカンパニー制もしばしば持株会社と混同されてしまいます。それぞれの定義を確認していきましょう。
事業部制とは
事業部制とは、本社部門の下に事業部を並列で配置した組織形態のことです。事業部制をとることで本社部門の負担減につながり、かつ各事業部で迅速な意思決定ができるようになります。
各事業部で独自に業績管理をできるものの、本社部門と別法人ではない点が持株会社との違いです。あくまでひとつの会社のため、一部門で問題が生じたことが全社に大きな影響を及ぼす可能性があります。
カンパニー制とは
カンパニー制とは、各事業部門で独立採算制をとる組織形態のことです。各事業部門は法的には独立しておらず、本部と同一法人である点が持株会社と異なります。
また、事業部制とカンパニー制の主な違いは、裁量の範囲です。事業部制は主に業績管理を単独でおこなうことに対し、カンパニー制では人事権から資金調達まで権限譲渡されることがあります。
持株会社の設立方法
持株会社の設立は、大きく「抜け殻方式」と「株式移転方式」の2つの方法があります。
抜け殻方式は、子会社を設立し、会社の事業すべてを子会社に移して自らが持株会社となる方法で、株式移転方式は、親会社を設立し、会社の株式を親会社に移動させる方法です。
また、すでに存在する2つの会社の株式を交換する株式交換方式という方法もあります。親会社が子会社の株を100%保有することで、1社を完全親会社、もう1社を完全子会社とすることができます。
持株会社の支配関係
次に持株会社の支配関係について紹介します。
先ほどご紹介したように会社の支配関係は株式の保有率によって決まるのですが、なぜ株式の保有で支配関係が生まれるのか、どれくらいの割合を保有されると支配関係が生まれるのか解説していきます。
会社の最高意思決定機関
持株会社の関係が成立するとき、子会社は親会社に従うことになります。その理由は、株式会社の最高意思決定機関が株主総会だからです。
株式会社の所有者はその会社に出資している株主であることから、株主が会社の意思を決めることになります。株主総会では、株主が多数存在するとき、その出資比率に応じて議決権を与えて、議決権の多数決で様々な事案を決めていく仕組みになっています。
つまり、議決権をたくさん持っている株主(大株主)が存在すると、実質的にその大株主がその会社を所有し、支配することになります。この大株主が会社である場合、その会社は他社に所有されるので、これらの会社間に支配関係が生まれることになります。
これが、株主の保有によって支配関係が生まれる理由です。
株式を50%以上保有されると子会社に
次は、支配関係の強さと株式の保有割合についてお伝えします。
ある会社に株式を50%以上保有され、(たいていは株式:議決権=1:1のため)議決権を50%以上保有することになると、その会社の子会社になります。株主総会での通常の議題の可否は多数決で決められますが、ある会社が議決権の50%以上を保有しているとすべての議題について思いのままに決めることができ、事実上支配することになります。このような理由で子会社として認定されます。
なお、
・100%の株式を保有された場合
⇒株式取得した会社の完全子会社となる
・20%~50%株式を保有された場合
⇒単独過半数は取れないものの大きな影響を与える大株主として、その会社の関連会社に認定される
など、支配の程度も株式の保有数によって変わります。
持株会社制のメリット
次は、持株会社制のメリットについて3つ紹介します。
効率の良い経営
1つ目のメリットは、効率の良い経営を行うことができることです。この理由には、各会社が専門性を発揮することと会社間のシナジー効果の2つがあります。
先述したように、持株会社制では
・親会社がグループの経営戦略と意思決定
・子会社は親会社の経営戦略の基づいた各事業の戦略と事業の運営
の2つを行っています。
このように、役割を分担することで各会社は専門性を発揮することができ、より効率の良い経営を行うことに集中することができます。
シナジー効果については、グループ内の企業に仕事を依頼したほうが外注よりもコストを抑えることができます。また、グループ内の会社同士が協力して販売・営業に当たるとノウハウやナレッジを共有でき、売上が大きく増加することがあります。
このように、持株会社制ならではの効果も得られるため、効率の良い経営を行うことができると言えます。
M&Aでグループを守る
2つ目のメリットは、M&Aでグループを守ることができることです。
万が一グループに経営の危機が訪れた場合、売却したい事業のみ切り売りすることができるため、グループとしてのダメージを減らすことができます。また、親会社は子会社の株式を保有しているため、子会社の敵対的買収から守ることができます。
このように、持株会社制を取り入れていれば、危機の際にも会社のDNAを守ることができるのです。
買収や合併を進めやすい
敵対的買収を仕掛けられた際にグループを守ることができるだけでなく、グループ内で買収や合併を進めやすい点も持株会社制のメリットです。
ホールディングスにおける、各企業間の仲間意識が強くなります。企業文化・風土が近いことも多く、今までつながりのない企業に買収されるケースと比べると、ホールディングス内の企業からの買収や合併の方が従業員からの反発を受けることが少なくなるでしょう。
持株会社のデメリット
最後に持株会社のデメリットについて2つ紹介します。
グループ内での連携が難しくなる
1つ目は、グループ内の連携が難しくなることです。持株会社と子会社は親子関係であるため、支配関係で結ばれています。しかし、グループ内の子会社同士は兄弟会社の関係で、そこに支配関係はありません。そのため、自発的にヨコの連携をとることが難しくなります。
持株会社である親会社はしっかりとしたリーダーシップをとり、グループ内で無駄がないよう調整する必要があります。
コストがかかる
2つ目はコストがかかることです。当然ですが、子会社化するためには株式を50%以上保有する必要があり、そのためには資金的なコストがかかります。また、グループを組織してから成果が出るまでに時間がかかるという時間的なコストもかかります。
持株会社制を取り入れていくには、長い目で見た経営とそれに耐えられる基礎体力が必要です。
持株会社(ホールディングス)化の具体的なコスト
デメリットとして紹介した通り、持株会社化にはコストがかかります。
かかる主な初期費用は以下の通りです。
持株会社化にかかる初期費用
- 登記費用
- オフィス引越しや設備変更などの事務費用
- 外部専門家起用にかかる費用
- 持株会社化のための人件費
また、持株会社にした後も、以下のコストがかかります。
持株会社化にかかる費用
- 税金
- 管理費用
- システム保守利用料
- グループ内での取引発生に伴う管理費用
持株会社制とM&Aの関係
今回は持ち株会社についてお伝えしました。
M&Aを行うスキームの1つとして持株会社制があります。資金力に乏しかったり、リーダーシップが強力でないとなかなか組織することができない形態ですが、成功すると効率の良い経営を行うことができ、グループをより強固にすることができます。
メリット・デメリットを把握したうえで持株会社制に興味のある方は、専門家との相談の上、検討してみてはいかがでしょうか。
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