ノウハウ

2019.04.17

【会社を買いたい人必見】買主が検討するときの順序ってあるの?

「ティザー」「NDA」「IM」…。M&Aがニュースになることは多いですが、まだまだ一般的な取引ではありません。通常どのような順序で検討や交渉が進むのか、また、どのような文書がやりとりされるのか、ご存知でない方も多いかと思います。これから会社を買いたいという方にとって、知っておくとちょっと為になる、M&Aに取り組む際に必要な手順と活用される文書をご紹介します。

売主が相手探しを行う際の方法は大きく3つ

経営者が会社または事業を譲渡したいと考えた場合に、すでに譲渡するお相手として決めている買主がいて、その相手と1対1で交渉を続け、納得のいく条件で譲渡する方法を「相対方式」といいます。また、心に決めた買主がいない場合でも、以下の場合だと「相対方式」が有効と考えられます。

・利害関係者が多く、情報が出回ってしまう(情報漏洩が起きる)と会社に多大な影響が出る可能性が高い場合

・そもそも譲渡し得る先が、資金面や業界柄、限定されている

逆にたくさんの相手先に自社の情報(初期的打診は匿名)を開示して、いい条件を示してくれた会社に譲渡する方法が考えられます。こういった場合は、期限を区切り買主側から譲渡対価を提示してもらい、売主側で交渉権を付与していきます。この方式を「入札方式」といいます。以下の場合に「入札方式」が有効と考えられます。

・価格最大化を求める

・売却手続きの公平性・客観性を求められる

・再生型のM&Aである

実は、中小零細企業のお相手探しの方法としては、上記2つの方式の「ハイブリッド方式」を利用することが多いです。たくさんのお相手候補の中から、売主の希望や相乗効果を鑑み優先順位をつけて、相対で交渉を進めていく方式です。以下の場合にはこの「ハイブリッド方式」が有効と考えられます。

・譲渡し得る先が特定しづらく、多くの候補先にあたる必要がある

・価格だけでなく、価値観や譲渡後の方針などを鑑みて、最適化したい

実際には多くの会社がこの方式が最適だと考えられるため、長年中小零細企業のM&Aマーケットではこの方式をとってきました。近年は、さらにこのお相手候補をピックアップするのにネットマッチングを活用するのが、ひとつの流行になりつつあります。

売主がより多くの買主候補に検討してもらうために用意する「ティザー・メモランダム」

譲渡したい会社または事業が入札方式やハイブリッド方式を選択した場合、まずは譲受してくれそうな買主を探し、初期的な関心があるかを判断してもらわなければいけません。この段階で、ティザー・メモランダム(「ノンネーム」とも。以下、「ティザー」という)という文書を作成します。

ティザーは、譲渡希望の会社名を「A社」等とし、社名がわからないようにした文書のこと。例えば、譲渡希望の会社の社長が、多くの買い手候補に自ら打診すると、意図しない形で自社を売りに出しているという情報が広まってしまうリスクがあります。

そうした事態は、自社の価値の毀損につながってしまうため、アドバイザー等が社長に代わり、候補としてふさわしいと選定された買主候補にティザーを開示しながら打診していきます。このようにして複数の買主候補に打診することで、納得のいく価格・条件での適任の譲渡先(買主)を探しています。

会社を買いたい方は、まずはこのティザーを確認して買う可能性があるのか否かを判断します。この時点で買わないことを決断しているのであれば、それ以上の詮索は売主にとって好ましいことでないですので控えるようにしましょう。

匿名のままで譲渡希望の会社の可能性を見極める!

ティザーは、対象会社名を買主候補に伝えることなく、譲受したいと関心を持ってもらうための文書であることをお分かりいただけたでしょうか。匿名の履歴書・概要書のようなものですね。ここで匿名ということが非常に重要で、買主候補がティザーを読んでも、対象会社を特定することはできないものでなければなりません。

例えば、対象会社が二つの事業を経営しており、会社としての売上が100億円だとします。二つの事業のうちひとつが非常に特殊だとすると、その事業内容と売上の大きさだけで、見る人が見ればどこの会社かわかってしまう場合も。

このような場合は、特殊なもうひとつの事業内容については特定できないよう曖昧な表現にしたうえで「ティザー」を作成しています。そのため、買主候補の方は「ティザー」にあまり細かい内容の記載がない場合は、「これは特定されやすい会社なんだ」または「特定されたくない会社なんだ」と解釈すると良いかもしれません。

とはいえ、ティザーを読んで買主候補に興味をもってもらわなければ意味がありませんので、売主としては、実際に買主候補が興味を持つであろう内容を事前に検討し、魅力的な内容については十分に記載しておかなければいけません。

興味を持ったら、NDAを締結し実名開示を受け交渉開始!

買主候補がティザーの提示を受けて興味を持ったとします。当然更なる検討を深めるためには情報の開示が必要です。そこで、情報の開示を受ける前に、買主候補は売主とNDA(秘密保持契約)を結ばなければなりません。売主にアドバイザーが付いている場合には、そのアドバイザーとNDAを交わしたり、売主へ秘密保持の覚書を差し入れたりすることもあります。

なお、NDA作成にあたっては、大きく分けて3つの注意点があります。

まず、両者にとっての秘密情報とは何かを定義します。譲渡に関連して開示されるすべての情報は、「公知情報(すでに公に知られていて保護する必要性が乏しい情報)」などの例外を設けたうえで、秘密情報と定義していきます。

次に、秘密保持義務が適用される期間についても定義すべきです。1年間~2年間程度が規定されることが多いですが、ここは売主としては決死の覚悟で情報を提供することになるので、特段の事情がない限りは提示された期間を受け入れるとよいかもしれません。

そして、最後に開示範囲を決めることも重要です。買主が事業会社として譲受する場合、その親会社の情報のみを開示範囲とするのか、あるいは、買主のグループ全体を開示範囲とするのかを決める必要があります。買うために専門家に相談したいという場合には、その専門家とも自社情報の開示範囲のNDAを取り決めておくとよいでしょう。

NDAを締結したあとはIMを開示

M&Aにおける売主の「詳細説明資料」をインフォメーション・メモランダム(Information Memorandum: 以下「IM」)といいます。一般的に「概要書」とも呼ばれているものですね。

IMは方式を問わず、売主から対象となる会社や事業の情報を適切に整理して、買主候補へ伝えるための書類です。売主とM&Aアドバイザーが共同して作成することが多いです。

入札方式やハイブリッド方式の場合、売主と買主候補が初期段階で接触しない場合が多いです。そのため、こういった文書を検討材料とすることが多いのです。ただし、IMは作成するのに時間もコストもかかります。小規模で、分かりやすいビジネスをしている会社であれば、決算書と従業員一覧、取引先一覧などといったそのままの資料が開示されることもありますので、買主候補が開示されるIMを見ても不足の情報がある場合は、しっかりと売主に質問するようにしましょう。

IMの構成

IMの目次例としては、以下のようなものが挙げられます。
1、 はじめに
2、 エグゼクティブ・サマリー
3、 市場
4、 会社情報
5、 組織
6、 事業内容
7、 財務

3~7の項目は項目名だけを見ると、有価証券報告書(みたいなもの)ですね。
このなかで、大事な部分を抜き出して説明します。

エグゼクティブ・サマリー

IMで説明するすべての事項を、およそ1ページにまとめられているのが「エグゼクティブ・サマリー」です。買主候補の経営層がIMを読む際に必ず目を通すよう、売主がもっとも強調しておきたいことをコンパクトにまとめています。経営層は、IMを隅から隅まで読み込んでから意思決定をする時間がない場合も考えられます。そのため、しばしば、このページのみで検討判断を行う場合もあります。

会社または事業を譲渡することで売主・買主の双方にシナジー(相乗効果)が生まれる。また、買主が投資する際、その相乗効果が経営の意思決定に重要な影響を及ぼすことが分かっている場合、サマリーにその旨を記載しておくことは、買主への効果的なアピールになるでしょう。

会社情報

会社概要、沿革等、会社の基本情報が、「会社情報」に記載されています。

例えば、役員についての簡単な経歴や社長との続柄なども記載したりします。買主候補は、会社または事業を譲受した後、今までいた役員の処遇を決める必要があり、その処遇の仕方により、M&A後の会社経営を大きく左右する可能性があります。

従業員数が数万人いる会社であっても、社長が変わるだけで大きく業績が変動していますよね。そのことを思えば、役員の処遇が重要であるということを理解頂けるかと思います。

また、 会社情報では勤めている従業員の平均年齢や平均給与も開示されていることが多いです。平均年齢が高い会社であれば、会社を成長させていくためにはM&A後に採用活動に積極的に努める必要があるかもしれません。人手不足が深刻な現代では、そういった情報は重要です。

また、人件費は会社にとって大きな固定費のため、買主候補が固定費を回収できるかどうかの判断のためにも、会社情報は重要な情報です。

事業内容

「事業内容」の項目では仕事の流れを図で示したビジネスフローが描かれます。ビジネスフローは、それを買主候補が見ることで、すぐに会社のビジネスモデルが理解できるようなものです。資金の流れと商品・サービスの流れ、決済方法、自社商品・サービスの仕入元、販売チャネル、自社の顧客の立ち位置などが記載されます。

事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための 取組について(参考資料)の3ページ目に「事業系統図」という図が通常開示されているので、そちらを参考にされるのもよいでしょう。

買主として、これまで会社の歴史を作って来た売主を想う姿勢を大切に

このように、安全にM&Aを活用した事業承継を進められるかどうかは、こうした順序を守ったり文書のやりとりをしっかりと行っているかにかかってきます。

インターネットで気軽にマッチングができるようになりましたが、当事者間だけでの口約束や契約書なしでの交渉は、思わぬリスクを招く可能性があります。これから会社を買いたいという方は、アドバイザーなどの専門家と十分に相談しながら交渉を進めるとよいでしょう。

また、売主にアドバイザーが付いている場合、そのアドバイザーの仲介でM&Aを進めることを提案されることもあります。アドバイザーに仲介を依頼することで、売主との認識齟齬が生まれるリスクを未然に防いでくれたり、交渉にあたっての売主の不安を取り除いてくれたり、さらには、会社や事業を引き継いだ後のリスクを低減してくれたりと、とても心強い存在になってくれます。費用は掛かっても、結果としてトラブルのない良い事業承継の実現につながります。

売主あってのM&A(翻れば買主あってのM&Aでもあります)、ということをお互いに理解していただき、双方が気持ちの良い取引ができるよう心がけましょう。