愛知県名古屋市に本社を置き、ガラス製品の製造を行う「MARUJOU株式会社」は、2024年9月、大阪府大阪市で自動車用バックミラーの製造等を手掛ける「株式会社尾崎鏡工業所」を譲り受けました。MARUJOUの代表取締役を務める中山豪様は、既存事業の継続だけではなく、事業を多角化していく必要性を考えM&Aを検討。尾崎鏡工業所と成約に至った背景や、既存事業とのシナジー効果などについてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社尾崎鏡工業所 |
業種 | 製造・加工業 (アルミミラーなど) |
拠点 | 大阪府 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | MARUJOU株式会社 |
業種 | 製造・加工業(ガラス製品) |
拠点 | 愛知県 |
譲受理由 | 技術力・開発ノウハウの強化 |
結婚を機に、75年以上続くガラス製造会社の代表に
MARUJOUは1949年の創業以来、75年以上にわたりガラス加工技術を活用したガラス製品の製造に携わっている会社です。ガスコンロ用ガラスや水道メーター、ガスメーターなど、生活を支えるインフラ面のガラス製品において日本国内シェア上位のメーカーとの取引があり、複数の製品分野で加工ガラスシェアNo.1を獲得しています。
日本家庭の数件に1件は、何らかの形でMARUJOUのガラス製品が社名は表に出ていませんが、密かに使用されているというほど、MARUJOUの製品は意外にも身近なところに存在しています。例えば、ご自宅の水道メーターやガスメーターの表示部のガラス、魚焼きのグリルやオーブンのガラス、スマートフォンの保護ガラスなど。現在同社の代表取締役を務める中山様は、もともと先代のご息女である奥様との結婚を機にMARUJOUに入社。その後、4代目として代表に就任されました。当時のお話について、中山様は以下のように話しています。
「結婚する以前の話ですが、先代が病気を患い、声が出せないような状態になってしまったので、これを機にM&Aで会社を売却するという話が出ていました。結婚して数カ月後に後継者として継いでくれないかという話をいただき引き受けることになりました。
私は、父方の方が長崎県島原市の豪商一族の本家として、母方も曾祖父および祖父がそれぞれの法人で工場を保有し、母も異なる業種の会社を経営しているという家庭環境で育ったので、いつかは自分も会社を経営したいと思っていました。先代からも、『 MARUJOUで自分の思うようにやりなさい』というお言葉をいただいていたので、快く引き受けました。」
年々右肩下がりの生産数、事業の多角化を目指しM&Aを決意
2018年に社長に就任された中山様は、事業拡大に向けてコロナ禍後からM&Aを検討し始めます。その背景には、日本の人口動態の変化とともに、既存事業の生産数減少による工場稼働率低下を想定した戦略がありました。
コロナ禍後以降のMARUJOUは、売上では横ばいが続いているものの、人口推移と共に生産数は年々微減。事業成長を図るには、新たな戦略に乗り出す必要がありました。そこで検討し始めたのが、M&Aによる事業の多角化。初のM&Aに取り組むにあたり、中山様はどのような企業を検討対象としていたのでしょうか。
「企業選定にあたり最も重視していたことは、既存事業と近しい事業内容であるかどうかです。M&Aは当社として初の取り組みだったので、シナジーが全く見込めない領域に参入するよりは、近しい領域の方が何かあった時の安全性が高いからです。
M&Aの失敗談で、『キーマンが辞めたことでモノづくりができなくなってしまい、会社が回らなくなってしまった』という話を聞いたことがあります。そうならないようにするのがベストではありますが、最悪そのような事態に陥ってしまっても、同業種であれば自社リソースでなんとかカバーできる可能性があります。そういったリスク面も考慮し、シナジー効果が見込める製造業に絞って探していました。」
「日本の良い技術を絶やしたくない」決断の最終的な決め手とは
今回譲り受けた尾崎鏡工業所は、創業時からアルミミラー加工に特化し、社内一貫でガラスの切断から研磨、アルミの成膜までを手掛けている会社です。板ガラスを使用する点においては、まさにMARUJOUとのシナジー効果が期待できる企業でした。加えて事業の魅力以外にも、大阪商工信用金庫が仲介をしている安心感が大きな決断理由だったと中山様は振り返ります。
「尾崎鏡工業所の事業内容は、この会社が廃業になってしまうと他に作れるところがないというくらい、ニッチな領域でした。製造業に長らく携わってきた身として、『日本の素晴らしいモノづくり技術を途絶えさせてはならない』という使命感がありましたし、尾崎鏡工業所がもつ長い歴史と技術力にとても魅力を感じました。
また、仲介に入っていたのが大阪商工信用金庫だったことは、決断する上で大きな後押しになったと思います。尾崎鏡工業所は財務状況があまり良い状態ではなかったため、懸念事項として『買収することでその分のリスクを背負う』がありました。
大阪商工信用金庫は、民間のM&A仲介会社のようにM&A成約後は全く関与しないということではなくその後の融資や伴走サポートなど、M&A後も責任をもって経営に対して支援いただける点が大きな安心材料でした。もし仲介に入っているのが民間のM&A仲介会社などだったら、このような決断に至らなかったかもしれません。」
人件費のコスト削減などを理由に、単価の安い海外生産の製品を調達する企業が多くある一方で、コロナ禍後から自然災害やテロ、システム障害などの可能性を考慮し、為替変動、BCP(事業継続計画)の観点から多少単価が高くても、安定した国内調達に戻す企業も増えていると話す中山様。
2000年ごろから生産ラインの一部を中国に移していたMARUJOUですが、日本の製造業を活性化するには、海外に依存するよりも国内生産拠点を大事にすべきだと中山様は語ります。
「一度国内の生産ラインを廃止してしまうと、それを復活させるのがいかに大変かということを、身に染みて感じていました。尾崎鏡工業所と同じような事業をやっている国内企業は3社しかないので、絶やしてしまうのは勿体無いと思いました。
単純にコスト面だけを考えると、海外に生産拠点を移すことも経営判断として理解できます。ただ、将来の日本経済全体を考えると『国内生産をいかに絶やさず残していくか、活性化させていくか』が大事であると思います。日本経済の発展に、製造業はなくてはならない存在であるというのが私の考えです。」
初めてのM&Aもスムーズに!信用金庫のサポートで安心
写真)左から大阪商工信用金庫の前川致恵巳様、白尾谷吉邦様、MARUJOUの高橋健一郎様、長谷川正博様、中山豪社長、
尾崎鏡工業所の尾崎浩三様、尾崎和枝様、大阪商工信用金庫の守山正太様
中山様が取り組まれた初のM&Aは、2024年9月に無事成約。バトンズを活用したM&Aプロセスを振り返り、苦労した点と良かった点についても伺いました。
「一番苦労したことは、デューデリジェンスで上がってきた内容の精査ですかね。また、契約書関係の対応や条件交渉なども、慣れているわけではなかったので大変でした。ただ、大阪商工信用金庫が間に入ってくれたので、M&A成約後のことも考慮したアドバイスをいただき、時間を掛けながら慎重に進められたのは非常によかったです。
バトンズを活用するメリットは、多くの譲渡案件が登録されているため、自分が探している条件ですぐに検索できることです。また、ネットだとM&Aの入口でのハードルが下がり、いつでも気軽にやり取りできるのは良いところだと感じました。」
M&A成約後、MARUJOUはすぐに勤怠やシステムなど事務的な部分を共有し、業務の簡素化に取り組みました。今後の事業計画やビジョンについて、中山様は以下のように語っています。
「今後は、引き続き事務作業の効率化を図り、製造においても材料の切断などの作業工程で一緒にできるところがあれば、そこも統一化していきたいと考えています。また、製造原価を下げられないかを模索すると共に、不良率改善および生産性向上を図りたいです。尾崎鏡工業所とMARUJOUでシナジー効果を発揮し、事業を成長させていきたいです。
次なるM&Aも、前向きに検討しています。今も継続的にM&Aの提案をいただいているので、会社として拡大していくべきタイミングで、また取り組めればと思います。自社でカバーできる範囲を、M&Aを通して少しずつ広げていきたいですね。」
中山様とMARUJOU株式会社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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