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労務デューデリジェンスとは?流れやポイント、費用などを解説

2024年01月17日

監修者
社会保険労務士法人しろくまパートナーズ/代表
社会保険労務士/中小PMI研究会所属/中小PMI支援センター(株)パートナーコンサルタント
松田 茂樹 (まつだ しげき)
2010年開業。企業が抱えるお悩みに誠実に寄り添い、人事労務コンサルティング・アウトソーシングを請け負う。M&A後の「本業促進」を見据えたM&A支援策として、社会保険労務士の立場から人事労務DD、人事労務PMIに注力している。

デューデリジェンス(DD)は、M&Aを成功に導くために重要なプロセスです。調査すべき種類はさまざまありますが、中でも人事・労務デューデリジェンスは重要な論点になります。

ここでは、人事・労務デューデリジェンスについて解説していきます。

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M&Aにおける人事・労務DDとは

人事・労務デューデリジェンス(以下「人事・労務DD」といいます。)とは、M&Aの過程において、売り手企業の人事・労務に関する潜在リスクを、買い手企業が詳細に調査・分析するプロセスを指します。

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)というと、財務DDのイメージが強いかと思います。従来、人事・労務DDは大規模案件を中心に行われており、中小規模の案件では十分な人事・労務DDは行われて来ませんでした。主な理由としては、人事・労務面のリスクが、財務DDが明らかにするリスクに比べて、顕在化しづらいと考えられてきたためです。

どんなに詳細な調査をしてリスク額を算出したところで、顕在化(例:従業員の方から未払い賃金を請求される等)しないのであれば、そのリスク額は存在しないも同じと捉えられてきたのです。

しかし、度重なる労働法令の改正や働き方改革の浸透によって、行政の姿勢や働く方の意識は大きく変わってきました。企業の抱える人事・労務リスクが顕在化する可能性は年々高まっており、中小規模のM&A案件においても人事・労務DDの重要性が増しています

 

企業概要書があるから人事・労務DDはいらない?

基本合意の時点で、買い手企業の手元には当然ながら企業概要書があります。そこには、未払い賃金がないことや、助成金の不正受給がないことも記載されていることがあるため、「人事・労務DDは必要ないのでは?」と思う方もいるのではないでしょうか。

しかし、企業概要書には注意点があります。作成時点では、売り手企業の内部でも、M&Aの件は伏せられているので、作成に当たってのインタビューは、通常、売り手企業の代表に対してのみ行われるという点です。ある程度の規模の企業の場合、その代表は、人事・労務の実務には携わっていないことがほとんどです。つまり、事実を正確に把握しているとは言い切れないのです。

「社員がきちんと処理している筈だ」「当社に限ってそんなことはない」という思いから「未払い賃金がない」「助成金の不正受給はない」と回答しているだけ、「未払い賃金」と「賃金の支払い遅滞」を混同されている可能性さえあるのです。

企業概要書の内容は売り手企業側の自己申告です。「その内容が本当なのか?」と買い手企業側が確認することがDDなのです。

 

人事・労務DDの目的

リスクの把握

人事・労務DDの主な目的は、売り手企業の抱える人事・労務リスクを明らかにし、具体的なリスク額を算定することです。買い手企業は、リスク額や把握した状況を判断材料として、M&Aの実施可否を検討したり、買収額の交渉を行ったりすることが可能となります。

人事・労務面でのリスクというと、まず「未払い賃金」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ほかにも、業務災害に対する損害賠償金や、不正(故意にせよ、過失にせよ)に受給した助成金の返還、といった思いがけない大型のリスクも存在します。買収額を上回る債務額となることもあり、注意が必要です。

 

M&A後の本業への影響

リスクの把握以外にも、人事・労務DDには非常に有益な面があります。それは、M&A後の経営統合プロセス(以下「PMI」といいます。)に向けて、具体的な課題を把握できることです。

M&Aはスタート地点に過ぎません。M&A成立後の過程で、人事・労務は決して無視できない分野です。そのため、買い手企業が、売り手企業との人事・労務状況の差異を事前に把握しておくことは非常に重要になってきます。

たとえば、賞与の査定方法や支給時期が異なっていれば、資金繰りに影響が及びかねません。また、両社の労働条件の差異を、買収後に初めて把握することになれば、配置転換や出向といった人材配置がスムーズに進まなくなる恐れがあります。

人事・労務DDの実施によって、売り手企業の状況を事前把握しておくことで、M&A後のコア人材の流出といった事態を避け、スムーズな本業促進を目指すことができると言えます。

【PMIについての記事はこちら】

 

 

人事・労務DDの流れ

ここからは、人事・労務DDの流れを解説していきます。

人事・労務DDのプロセス

人事・労務DDの一般的なプロセスは以下のとおりです。

《人事・労務DDのプロセス》

①人事・労務DDについての方針決定(キックオフミーティング)
②資料調査
③インタビュー
④DDレポートの作成
⑤M&A成立へ
⑥M&A後の経営統合(PMI)

 

①人事・労務DDについての方針決定(キックオフミーティング)

買い手企業と人事・労務DDの受任者で認識の擦り合わせを行います。「重点的に調査してほしい内容」「心配している点」などを確認します。また、M&A成立後の経営統合(PMI)の方向性などもお伝えいただき、人事・労務DDの方針を決定します。

たとえば、メンタルヘルスの問題について懸念がある場合には、傷病手当金の申請状況や、休職や離職の推移について調査する必要があります。また、ハラスメント関係で係争中の案件がないかを知りたいといった要望があれば、ハラスメント窓口への相談状況についても調査が必要といえます。

人事・労務DDの受任者は、キックオフミーティングで定まった方針に沿って、開示してほしい資料のリストを作成し、売り手企業へ資料を要望します。

 

②資料調査

開示された資料をもとに人事・労務DDの受任者が検討を開始します。ここで調査の対象となるのは、簿外債務と偶発債務の有無です。簿外債務とは、現に発生している(にも関わらず帳簿に記帳されていない)債務のことです。一方、偶発債務とは、現に発生しておらず帳簿に記帳されていないが、将来的に発生する可能性が現に潜在している債務のことです。

過去に解雇した従業員の方が複数いて、そこに不当解雇の可能性が考えられるような場合や、労災の訴訟の可能性が考えられるような場合などもここに含まれます。いずれも、把握しないままM&Aが実行されてしまった場合、投資回収できないリスクが生じるため、把握しておく必要があります。

人事・労務DDの資料調査では、簿外債務を調査する資料だけでも、雇用契約書、出勤簿、賃金台帳、労働者名簿、就業規則・賃金規程等の諸規程等と多岐に渡ります。偶発債務の調査も含めると、対象となる資料は更に増えるため、案件の性質や、売り手企業の要望、求められているスケジュール感によって、どの資料をどの範囲まで要求するのかを適切に決定しておくことが重要となります。

 

【簿外債務についての記事はこちら】

 

③インタビュー

資料調査の内容を踏まえて、人事・労務DDの受任者によるインタビューが実施されます。インタビューは、売り手企業の経営陣や、人事・労務担当者を対象として実施されます。

関係者へのインタビューを通して、資料の不明点を確認したり、キックオフミーティングで買い手企業から特に要望のあった領域についての詳細なQ&Aを行ったりします。特に、人的資源の分析や評価制度、風土厚生部分については、資料調査だけでは見えてこない部分が大きく、インタビューに依るところが大きいといえます。人事・労務上の火種がありそうな場合、掘り下げてさらに専門的な質問を行うことで、問題点を明らかにします。

ただし、インタビュー対象者自身が、全てを正しく把握し切れていない場合もある点には注意が必要です。専門的な知識のある人事・労務DDの受任者が、多角的に確認することで、実際のところを把握することが可能となります。

 

④DDレポートの作成

資料調査とインタビューの結果を併せて更に検討し、人事・労務DDのレポートが作成されます。

報告の場では、従業員の方の働き方が法令に則っているか、未払いの残業代はないか、といったリスクの根拠の説明から、M&A後のコア人材流出の可能性はどの程度か、といった人事上の事柄まで必要に応じて説明を行います。

 

⑤M&A成立へ

各DDで判明したリスクの状況に応じて、スキームの変更、取引価格の再提示、条件の付与といった最終的な調整が検討され、M&A成立へと至ります。

 

⑥M&A後の経営統合(PMI)

人事・労務DDの実施には、M&A成立前のリスク把握という側面だけでなく、M&A後のPMIの過程にも、相乗的なメリットがあります。

たとえば、買い手企業(親会社)が売り手企業(子会社)の技術やノウハウなど「人」の絡んだ相乗効果を期待している場合です。出向や転籍といった人材配置をスムーズに行うためには、売り手企業(子会社)側の賃金体系や人事評価制度について把握しておく必要があります。残業代の体系も評価項目も異なる従業員の方同士が、同じ方向を向いて事業に当たる場合には、人事・労務面の違いを踏まえた指揮管理が必要となります。

M&Aを有意義なものにするためにも、PMIの局面まで見据えた人事・労務DDの実施は、リスクを気にするかどうかに留まらず、M&A成立後の本業促進を見据えた一手であるといえます。

 

人事・労務DDにかかる費用

人事・労務DDにかかる費用は、調査の範囲企業の規模(従業員の方の人数、事業場の数等)によって異なります。どの程度まで詳細な調査をするかは、買い手企業の考え方によります。

詳細な調査が要求される場合は、未払い賃金の時効に該当する36ヶ月前までのすべての出勤簿や賃金台帳を調査します。一方、速さがより要求される場合は、直近の数ケ月分を調査し、その平均から36ヶ月分のリスク額を推定する、といった手法もとられます。

ですので、人事・労務DDの費用については、費用額を単純に比較して高い・安いと捉えるのは適切ではなく、望んでいる質や速さと見合っているかどうかという観点が大事といえるかと思います。

 

まとめ

財務DDが調査する資産状況等は、いわば企業価値のハード面といえます。企業価値のソフト面である「人」に関する調査を行うのが人事・労務DDです。普段の企業経営において、人事・労務は必要不可欠な機能です。そのことはM&Aの前も後も変わりません。人事・労務面での検討は、必要不可欠なプロセスなのです。

人事・労務DDを通じて、買い手企業は、戦略的な意思決定を行え、M&A後の本業の促進を見据えることが可能になるといえるでしょう。

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