M&Aを活用して会社を成長させたいと思っていても、どのように活用すればよいかわからないという経営者の方も多いのではないでしょうか。M&Aを上手に活用するためには、近年、実際に行われたM&A事例を確認して、どのようにM&Aが役立てられているのかを理解する必要があります。
そこでこの記事では、最新の動向やM&Aの成功事例について解説していきます。大企業・有名企業のM&A事例、中小企業のM&A事例、スタートアップのM&A事例とそれぞれ解説するので、参考にしてみてください。
【2023年最新版】M&A事例の動向
まずは、2023年時点におけるM&A動向について、日本のM&A動向と海外のM&A動向に分けて解説していきます。
日本のM&Aの動向
日本における最近のM&A動向を理解するために、まず注目すべきはM&A件数の増加です。
「2023年版 中小企業白書」によれば、2022年に日本企業が関与したM&Aの公表件数は4,304件にのぼり、これは過去最多を記録しています。この件数は公表されている数字だけであり、未公表の取引も存在していると考えられるため、実際の取引件数はさらに多い可能性があります。このことから、日本のM&A市場は近年活性化していることがわかります。
また、新型コロナウイルスの影響を受けてM&Aの件数が落ち込むことがありましたが、現在は再び増加傾向にあることも重要なポイントです。これは企業が新たな投資や成長戦略を模索する際に、M&Aを有効な手段として見ている可能性を示しています。
さらに、これら約4,000件のM&Aの中でも、特に国内企業同士のM&A、すなわち「IN-INのM&A」が多く行われています。これは、国内の経済環境や市場状況を理解している企業同士の組み合わせであるため、事業のシナジー効果を生み出しやすく、統合後の経営効率化や市場シェアの拡大など、さまざまな目的に適していると考えられます。
一方で、M&Aは単に合併・買収を行うだけでなく、その後の統合作業(PMI: Post Merger Integration)が重要であるという認識も広まってきています。M&Aの効果を最大限に引き出すためには、組織文化やビジネスプロセスの統合、情報システムの整合性確保など、様々な課題を適切に管理し解決する必要があります。このため、M&Aの取組は単なる取引の成立前後だけでなく、その後の統合プロセスまで含めた全体的な戦略として考えるべきです。
以上のように、最近の日本のM&A動向は、件数の増加、コロナウイルスの影響からの回復、国内企業同士のM&Aの活発化、そしてPMIへの注目という4つのポイントに集約されると言えるでしょう。
世界のM&Aの動向
PwCの「世界のM&A 業界別動向:2023年見通し」によると、2021年の最高水準から見ると、2022年のM&Aの件数は17%減少し、取引金額も37%減少しました。
これは、特定の経済的・政治的環境の影響を受けて、一部の企業や投資家がM&Aの機会を見送ったり、より慎重な投資戦略を選んだ結果と考えられます。
ただし、これらの減少は一時的なもので、パンデミック前の水準を引き続き上回るなど、全体としてはM&A市場は堅調に推移しています。これは、M&Aが企業の成長戦略やビジネスモデルの変革にとって重要な手段であり続けていることを示しています。
また、M&Aの傾向は国や地域によって大きく異なり、特定の市場での機会や成長を追求する投資家が増えていることが示唆されています。これは、地域ごとの経済的な特性や政策環境、産業の成熟度などにより、M&Aの機会やリスクが異なるためです。
したがって、新型コロナウイルスの影響や特定の経済的な逆風があったものの、世界のM&A市場は堅調に推移しており、企業の成長戦略やビジネスモデルの変革を支えています。また、国や地域によって異なる市場環境が投資家のM&A戦略に影響を与え、市場のダイナミズムを増していると言えるでしょう。
大企業・有名企業のM&Aの成功事例
ここからは、経済産業省「対日M&A活用に関する事例集」を参考に、大企業・有名企業のM&Aの成功事例を紹介していきます。
パナソニックによるパナソニックヘルスケア(現PHCホールディングス)の売却
2023年9月、パナソニックは、子会社であったパナソニックヘルスケアをKKRに株式譲渡を通じて譲渡しました。
パナソニックヘルスケアは、1969年に松下寿電子工業として設立され、電子機器事業を展開してきた企業です。2005年にはパナソニック四国エレクトロニクスと名前を変え、その5年後にはパナソニックヘルスケアとなり、ヘルスケア事業に特化した事業を展開してきました。さらに、2012年には、三洋電機の医療ITとライフサイエンス機器事業を買収して、さらなる成長を目指していました。
当時、ヘルスケア事業は、成長の潜在力を持つ分野として注目されており、パナソニックヘルスケアはこの分野での収益を確実に増やしていました。しかし、さらなる成長に必要な新たな投資と医療業界の専門知識は単独で取得することが難しいことを背景に、パナソニックは資金と知見を持つパートナーとの協力を選びました。
その結果、KKRに株式を譲渡することを決定しました。これは、パナソニックヘルスケアの企業価値を高めるだけでなく、事業の資源を集中するという戦略にも適合するものであるとされています。
KKRは、2021年にパナソニックヘルスケア(現PHCホールディングス)を国内上場しました。その後、他の業界企業の事業を買収するなど、積極的なM&Aと投資を用いて急激な成長を遂げました。
また、事業の整理を進めて戦略的な事業ポートフォリオの再編も行ったことで、グローバル市場での成長が加速し、2021年には上場を果たしています。
日立製作所による日立国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC)の売却
2017年、日立製作所は、当時子会社であった日立国際電気をKKRに売却することに成功しました。
日立国際電気は、2000年に国際電気、日立電子、および八木アンテナの合併により誕生し、2009年には日立の子会社となりました。
主要事業は映像・通信ソリューションと半導体製造装置(成膜プロセスソリューション)で、社会基盤の構築に貢献しています。しかし、半導体製造装置の事業モデルは製品・システムの製造からソリューション提供へシフトしており、特にIoTや映像セキュリティなどの高成長領域への注力が求められていました。
半導体製造装置業界では、当時、競争が激化しており、研究開発や設備投資が必要とされていました。これらの事業環境の変化を考慮して、日立国際電気は各事業の最適化を進めることで企業価値を高めようと考え、日立国際電気を売却することを決めました。
売却後、成膜プロセスソリューション事業であるKOKUSAIは、日立国際電気から独立し半導体製造装置専業となったことでしたことで、競争優位を築くためのR&Dを強化することができました。、その後、経営指標に基づき企業価値を意識した経営を推進し、報酬制度の改定等を経て、売上は5年で約1.5倍となるなど、大きな飛躍を遂げています。
オムロンによるオムロン直方の売却
2018年10月、オムロン株式会社は、産業用コンピューター分野での世界トップクラスの企業、研華股份有限公司(アドバンテック社)へ、自社が保有しているオムロン直方株式会社の株式の80%を譲渡する契約を締結したと発表しました。
オムロン直方は、オムロンの完全子会社で、産業用電子機器の開発と製造を担当し、特に高速・高密度プリント基板の開発と製造技術に強みを持っています。
この会社は、高信頼性と長期供給が求められる産業用途電子機器の開発から製造までを扱うODM(Original Design Manufacturing)事業を中心とし、顧客付加価値の向上に貢献してきました。
オムロンの株式譲渡は各事業の価値最大化と事業ポートフォリオ管理の強化の一環です。
アドバンテック社の豊富なIoT製品と高度な生産管理ノウハウと、オムロン直方のODM事業でのカスタマイズ能力と対応力の統合により、日本国内での事業拡大や新規事業創出における大きなシナジーが期待されます。
アドバンテックへの売却後、受託生産専業であったオムロン直方は、事業ポートフォリオにアドバンテックの商材を取り込むことで自社製品の製造・販売ができるようになりました。
資生堂によるパーソナルケア事業(現ファイントゥデイ)の売却
2021年7月、資生堂は、CVCキャピタルパートナーズへ会社分割により譲渡することを発表しました。
競争環境が激化する中でどのようにパーソナルケアビジネスを伸ばしていくのか資生堂・CVCキャピタルの両社で徹底して議論し、買収後の計画や体制について最適解が出るまで繰り返し協議を行いました。重要な戦略策定を買収前にできていたことが、PMIの素早さにつながったこととなります。
M&A後は、研究開発を一括化・集中化させて、グローバルブランド化を推進しています。
エスエス製薬のベーリンガーインゲルハイムへの売却
ベーリンガーインゲルハイムグループの100%子会社であるベーリンガーインゲルハイム・ジャパン・インベストメントは、エスエス製薬の全株式を買い取り、完全子会社にするための公開買付け(TOB)を行うと2010年2月に発表しました。
日本のコンシューマーヘルスケア市場は、医薬品市場の規制緩和と消費者の健康志向の増加を背景に、新たなビジネスチャンスが期待されています。しかしながら、個人消費の停滞や市販薬市場での価格競争の激化も同時に進行している状態です。
2017年1月、フランスのサノフィとドイツのベーリンガーインゲルハイムがそれぞれの動物用医薬品事業とコンシューマーヘルスケア(CHC)事業を交換したことに伴い、エスエス製薬は同年1月1日からサノフィ・ジャパングループに参加しました。エスエス製薬はこの結果、サノフィの5つのグローバルビジネスユニットの一つであるコンシューマーヘルスケアの部門を担当し、日本でのコンシューマーヘルスケア分野のリーダーとしてさらなる前進を遂げました。
中小企業のM&Aの成功事例
次に、中小企業のM&A成功事例について確認していきましょう。
森塗装工業株式会社の三和建設株式会社への譲渡
三和建設株式会社は、2022年8月18日に塗装工事を専門とする森塗装工業株式会社の全ての株式を取得しました。
森塗装工業は1964年の創業以来、塗装工事を主軸に防水工事やシーリング工事などを手がけてきましたが、事業継承に問題を抱えていました。一方で、人口減少と市場競争の激化から新築事業への困難が予想される中、三和建設はその総合建設業が順調で、技術やサービスの向上による競争力強化が求められていました。
三和建設株式会社は自社の弱みを補うために、森塗装工業株式会社とのM&Aを決意しました。それにより、森塗装工業は三和建設の完全子会社となり、三和建設は建物の長期的な利用を促進する改修工事事業の強化を目指しています。
詳しくは下記をご覧下さい▼
株式会社利工堂の吉岡機工株式会社への会社譲渡
2022年1月、80年間機械工具の専門卸商社として事業を展開してきた吉岡機工株式会社は、同業者である株式会社利工堂を引き継ぎました。
創業から80年にわたって機械工具の専門卸商社として事業を展開してきた吉岡機工株式会社が、同業の株式会社利工堂を引き継いだ経緯としては、ほとんどが自動車関連からの売り上げという依存度の高さから事業の多角化を模索し、新規顧客獲得とM&Aを検討してきた経緯があります。
自動車エンジンの環境影響への認識からエレクトロニクス関連の取引へシフトしようと考えた吉岡機工株式会社は、業種や地域の拡大、そして同業他社とのシナジー効果を目指しM&Aを決定しました。
詳しくは下記をご覧下さい▼
山本味噌醸造場の株式会社PEAKSへの会社譲渡
フードテクノロジースタートアップで京都市に本社を置くPEAKSは新潟県上越市に拠点を置く伝統的な味噌メーカーである山本味噌醸造場を事業承継しました。
山本味噌醸造場は新潟県上越市の有名な味噌製造業者で、承継後も引き続き同社の名を保持しながら、製品ラインも継続されます。
もともと、山本味噌醸造場は大正5年(1916年)に設立され、現在では直江津地区で唯一の味噌製造業者となっています。山本味噌醸造場には後継者がいなかったため、その代表取締役である山本氏は、会社の将来を確保するため、事業をPEAKSに譲渡する決定をしました。
PEAKSは新しいビジネスモデルを模索する新進気鋭のスタートアップで、その代表取締役を務める金崎氏は、分子生物学や免疫学のバックグラウンドを持ち、京都大学院卒業後にはバイオテクノロジー企業の立ち上げと上場に関与してきました。
伝統と革新という2つの企業のシナジー効果で、これまでになかった新製品の開発を目指しています。
詳しくは下記をご覧下さい▼
スタートアップ企業のM&Aの成功事例
最後に、経済産業省「対日M&A活用に関する事例集」を参考にして、スタートアップ企業のM&Aの成功事例についても確認していきます。
AB&Companyの設立を通じたCLSAへの売却
AB&Companyは、業務委託サロン「Agu.」を手掛ける事業者で、2021年10月に上場を果たした企業です。
AB&Companyは3つの主要な事業を展開しています。一つ目は「直営美容室運営事業」は、直営店舗の管理を指します。二つ目の「フランチャイズ事業」では、フランチャイズ店舗の運営に関する支援を行います。最後に「インテリアデザイン事業」では、美容室をはじめとする店舗のデザイン、設計、施工に取り組んでいます。
AB&Companyは、2018年3月、CLSA Capital Partnersと資本提携を結び、自社株式を売却したことで、CLSAの支援を受けながら3年で5倍の売上規模まで成長させるとともに、上場を実現しました。
フロムスクラッチ(現データX)によるKKRからのマイノリティ出資受入
SaaSスタートアップ企業であるフロムスクラッチ(現データX)は、海外投資会社から40億円の出資を受けて、海外展開やバックオフィス機能を強化することに成功しました。
フロムスクラッチには、IPO前に一定規模に成長したいニーズがあり、100億円規模の資金を必要としていました。
結果として、海外投資会社からの大型資金支援により、IPOに向けた企業価値拡大を実現しました。具体的には、自社のブランド力を向上させることができ、採用増加にも繋がりました。
Spiberによるカーライルからのマイノリティ出資受入
Spiberは、新世代バイオ素材を開発しているメーカーです。
競争力のある独自技術を活かしてグローバルに事業展開していくことを目指していたものの、その資金を準備することができずにいました。
しかし、米国のプライベート・エクイティ・ファンドであるカーライルの支援を受けてマーケティング戦略・営業体制を整え、経営体制を整備することに成功しました。
まとめ
本記事では、大企業、中小企業、スタートアップといった各業種でのM&A事例を11選挙げ、それぞれの成功要因とポイントを分析しました。これまで紹介した事例は、M&Aを検討している方にとってのガイドラインになり得ます。自社に最適なM&A選択を事例から学ぶ際に参考にしてみてください。
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