「無事に調印が終わるまで、毎日仏壇に手を合わせて、神社にもお参りに行っていました」と話すのは、都内23区に本社を構え、創業60年を迎える森塗装工業株式会社の代表 森 敬様。初代社長であるお父様より事業を引き継いでから30年、大切に磨き上げてきた会社を譲渡するにあたり、どんな想いを持ってそれを成し遂げたのか。
良き相談役・アドバイザーとして、森様が絶大な信頼を寄せる株式会社カレンシアの代表 柿本 美沙様にもご同席いただき、これまでの軌跡を詳しくお伺いしてまいりました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 森塗装工業株式会社 |
業種 | 塗装業 |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 三和建設株式会社 |
業種 | 総合建設業 |
拠点 | 大阪府 |
譲受理由 | 資本獲得による事業拡大 |
後を継ぐか悩んだ青春時代。父の急逝により、若くして2代目社長へ
初めて森様が建築塗装の世界に足を踏み入れたのは、大学3年生の終わり頃。同級生たちが就活を始める中、そのまま家業である森塗装工業株式会社に就職を決めたのは、それまで散々考え悩み切ってきたからだったそうで、「高校時代は、レールを敷かれたキャリアに抵抗しようと医者になるため理系クラスへ入ったのですが、後になって父にバレてひどく怒られ、結局文系クラスへ編入することになりました。(笑)
父はどうしても私に継いでもらいたかったようで、大学2〜3年の時にかなりの話し合いを重ねた結果、後を継ぐ決心をしたんです。そしてもともと身体が弱かった父は、私が30歳の時に他界しました。そこから、2代目として会社経営をすることになったんです」とのこと。
「最初の頃は、従業員も職人も全員が歳上でやりにくい部分もあったのですが、だんだんと世代交代も進んでいって、自分自身も社長業に慣れていったように思います。
自分に指示を与えてくれて、褒めてくれて、叱ってくれる人を早々に失ってしまったのは非常に寂しかったですが、それにも時間と共に慣れていきました」とも。
親子2代で、60年に渡って会社を存続させてきた森様。その偉業についてお伺いすると「創業期に盤石な販路の基盤を作ってくれた、父の功績が大きいと思います。事実、私たちは父が開拓した取引先である大手鉄道グループの事業拡大に乗っかる形で事業成長を遂げてきました。また、大手企業である取引先に永く愛顧を頂けてきたのは、常にお客様に対して誠実に仕事を進めなさいという、父から学んだ姿勢が浸透していたからだと思っています。
特に、従業員たちは “そこまでしなくてもいいのに”と思ってしまうほどお客様に寄り添い、仕様も打ち合わせも粘り強くやっていて、職人への指示も厳しくできるような素晴らしい仕事人ばかりです」とのこと。
お父様が大切にされてきた経営方針もあってか、顧客からの高い評価を受け続けてきた森塗装工業株式会社は、順調に業績を伸ばしていったのでした。
自分の限界を感じ、会社譲渡を決断。背景には、大切な社員の人生を守るため
これまで経営を続けてこられましたが、時代の変化に伴い、森塗装工業株式会社も例外なく変革を求められました。
ネット通販が隆盛し、多くの流通業者や小売業者においてオンラインショップでの売上が実店舗の売上を超えるケースが増える中、昨今では取引先の大型商業施設も多数閉店を余儀なくされるようになっていました。
そこにコロナ禍が重なったこともあり、世の中の大きな変化のうねりが押し寄せてくるのをひしひしと感じるようになったと話す森様。
「これまで30年間、自分なりに販路を切り拓いてきましたが、1年半くらい前から行き詰まりを感じていました。これまでのやり方が通用しなくなり、自分が社長のままでは会社は変われないと思ったんです。自分ができないのであれば、誰かの手を借りてでも変わらないと、会社は生き残れない。従業員たちの生活を守ってあげられないと思いました。
当社に入社して仕事を覚え、結婚し、家族を持ち、家を持った従業員たちの姿を私はずっと見てきました。そして、そんな従業員たちの生活を少しでも豊かにしてあげたいと、できる限り利益を彼らに還元してきました。だからこそ、自分が会社にしがみついていることで、減給や肩たたき、早期希望退職などを募るようなことは、絶対に出来ないと思ったのです。
実は私には後継をやろうという息子もいるのですが、まだ社会人二年生で、会社を継承する時期までに会社が疲弊してしまい苦労だけを負わせてしまうようになることは忍びなく思えました。そして迷惑を掛けた息子の方向転換も今なら、との思いもあり、今回会社譲渡という形で活路を見出そうとしたんです」とのこと。こうして、森様の継承先探しがスタートしたのでした。
「こんなに志の高い会社があるのか」と衝撃を受けた会社と、御縁つながるM&A
そんな森様が最終的に選ばれ「最高の御縁だった」と絶賛される譲渡先は、年商100億を超えるゼネコン企業の三和建設株式会社。初めて彼らのホームページを見た時に「こんな志の高い会社があるのか」と衝撃を受けられたのだそうです。
「彼らは“つくるひとをつくる”という理念を掲げており、従業員を大切にする価値観が我々と同じだと感じましたし、うちの従業員にも誇りを持って会社譲渡のことを話せる気がしたので、是非にと思いました。でも、彼らのような素晴らしい会社が、うちに振り向いてくれるのかは正直不安でした」とおっしゃる森様を、陰日向でサポートしながら今回の御縁を見事に形にされたのが、アドバイザーである柿本様でした。
森様の一言一言に終始温かい笑顔で相槌を打たれる柿本様に、交渉を進めるに際して配慮されたポイントをお伺いすると「今回は、両者がお互いをリスペクトされていたので、交渉自体は順調に進み、譲渡条件の中身よりも成約後のイメージを擦り合わせることがメインの仕事でした。私自身は、単なる法務や財務のアドバイスに終わらないように、森様の想いを汲んだ内容を自分の言葉に咀嚼して伝えられるように意識していました。
最後の最後に成約を結ぶ理由は、法務や財務の条件ではなく人間的な部分だと思っていますので。だからこそ、一次情報からコアな部分を掴み取って温度感が失われないように努めました」とのこと。
こうして無事に調印が終わり、「きっと社員も喜んでもらえるだろう」と思って臨んだ社員説明会でしたが、思いの外厳しい彼らの反応に、森様は戸惑うことになりました。
「今になって振り返ると、かなり緊張していたので自分の気持ちを伝えきれていなかったんだろうと思います。翌日、一人ずつ呼んで面談をして不安を払拭したり、森本専務を含め三者面談をすることで、彼らの雇用が守られることや将来の業績にもプラスになることを説明していきました。今では、従業員たちの発言も前向きで、心から納得してくれていると感じています」と安堵する森様からは、最初から最後まで、従業員の皆様の人生や気持ちを最優先にして経営の意思決定をしてこられのだということが伝わってまいりました。
「自分が心から尊敬できると思えた企業への譲渡が叶い、これまで積み上げてきたことが評価されたようで本当に嬉しい」とおっしゃる森様は、第二の人生へ舵を切り、これからは新体制の中、並走、補佐を務めながら新生森塗装の成長を楽しみに許される限り会社に関わって行きたいと笑っておられました。
森様と森塗装工業株式会社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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