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第三者割当増資とは?手続きや決め方などを詳しく解説

2023年08月12日

第三者割当増資は、会社経営を行う上で、知っておくべき資金調達のひとつです。本記事では、第三者割当増資の目的や流れ、メリットなどを解説していきます。


【監修者プロフィール】


いかづち株式会社 / 代表取締役
M&A支援機関 / 認定経営革新等支援機関
佐藤達也(さとうたつや)

上場企業5社及びIPO準備会社3社の財務経理分野で、資金調達・決算等を幅広く経験し、IPO準備会社のCFOを経て、M&A・補助金・資金調達・IPOを軸にしたアドバイザリー・サービスを行う当社を設立。M&A支援機関、 認定経営革新等支援機関として、M&A、補助金、エクイティとデットの資金調達、IPOの支援をBtoBサービスとして提供。事業再構築補助金ではクライアントの採択率は驚異の約90%を誇る。
いかづち株式会社」の紹介ページ

 

第三者割当増資とは

中小企業がM&Aを行う場合、資金調達として借入を検討されると思います。資金調達には、借入以外に株式発行(増資)によるものがあります。

株式発行による資金調達の一つに「第三者割当増資」がありますが、ニュース等で接したことがあると思います。第三者割当増資とは、新たに発行する株式を特定の第三者に割り当てて資金を調達する方法です。

 

a.第三者割当増資の目的

第三者割当増資は、新規事業の立ち上げ、既存事業の拡大、財務基盤の強化等、様々な目的で活用できます。新規株主の導入という観点からも利用され、新たな視点やノウハウを取り入れることで、企業の成長を促進することができます。

 

b.その他の資金調達の方法

株式による調達は、第三者割当増資以外に、公募増資株主割当増資があり、公募増資は一般投資家向け、株主割当増資は既存株主向けに株式を発行します。

借入による資金調達は、金融機関等からの借入以外には、債権があります。

方法 引受人
公募増資 一般投資家
株主割当増資 既存株主
第三者割当増資 特定の企業等

上表:株式発行による資金調達

 

第三者割当増資の手続き・流れ

第三者割当増資の手続き・流れは次のとおりです。

①取締役会決議

第三者割当増資の手続きは、まず取締役会で株数、払込金額、払込期日等の募集事項を決め、募集事項を決議するための株主総会の招集を決議します。多くの場合、事前に引受人が決まっているかと思います。

株主総会の招集通知は、原則、株主総会開催日の2週間前までに行います。(招集通知を発送は、公開会社および書面や電磁的方法による議決権行使の定めがある非公開会社の場合、2週間前まで。書面や電磁的方法による議決権行使の定めがない非公開会社の場合は、1週間前まで。書面や電磁的方法による議決権行使の定めがない非公開会社かつ取締役会非設置会社の場合は、定款で定めることで、招集通知期間を1週間より短縮することが可能となっています。)

【募集要項】

  1. 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数)
  2. 募集株式の払込金額又はその算定方法
  3. 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
  4. 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は 3.の財産の給付の期日又はその期間
  5. 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

 

 

②株主総会決議

株主総会を招集し、株主総会で募集事項を決議します。非公開会社では株式の譲渡制限があるため、株主総会の特別決議が必要です。

ただし、株主総会の特別決議で募集株式の数の上限及び払込金額の下限を決定すれば、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することができます。

 

③募集株式を受けようとする者への通知

株主総会で決議した募集事項に従って、募集株式を受けようとする者に通知をします。

 

④株式申込

引受人が株式申込を行います。

 

⑤株式割当決定

株式申込をした引受人に株式の割当を次の機関で決定し、引受人に通知をします。

取締役会設置会社 取締役会非設置会社
取締役会 株主総会

上表:株式割当の決定を行う機関

 

⑥引受人による出資

引受人が出資金の振込をします。
株券不発行会社が原則ですので、株券の発行はありません。

 

⑦増資登記

資本金や発行株式数の増加についての登記変更を、払込期日または払込期間の末日から2週間以内に行います。

手続きに必要な書類は、次のとおりです。

取締役会設置会社 取締役会非設置会社
取締役会議事録
株主総会議事録
株主リスト
募集株式の引き受けの申し込みを証する書面又は総数引受契約書(総数引受契約の場合)
払込みがあったことを証する書面(通帳の写し)
資本金の額の計上に関する証明書

株主総会議事録
株主リスト
募集株式の引き受けの申し込みを証する書面又は総数引受契約書(総数引受契約の場合)
払込みがあったことを証する書面(通帳の写し)
資本金の額の計上に関する証明書

上表:増資登記に必要な書類

 

実務では関係者や取引先へ株式を付与するケースが多く、発行される新株が全て引き受けられることが決まっている場合に、総数引受契約により、発行した株式を1人または複数の人間に全て付与する契約を、募集株式を受けようとする者と締結します。

これにより、次の手続きの省略が可能となります。

③募集株式を受けようとする者への募集事項等の通知

④引受人からの申し込み

⑤株式割当の機関決定を行い、割当の通知

 

 

第三者割当増資を行う際の株価の決め方

第三者割当増資の募集事項2.では、募集株式の払込金額又はその算定方法を決めることになっており、株価を決める必要があります。株価の決め方には様々ありますが、代表的な方法として、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチの3つがあります。

M&Aにおいては、大企業ではマーケットアプローチ、インカムアプローチを採用しますが、中小企業ではマーケットアプローチを採用すると、中小企業と同じビジネスモデルで同規模の上場企業を探し出すことが難しく、インカムアプローチを採用すると、評価の基礎となる将来収益の予測を中小企業が行うことが困難なため、コストアプローチが採用されます。

 

a. マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、株式市場や対象企業と同業他社の株価を比較したり、M&A市場における類似の取引価額等を基準に企業の価値を算定する評価方法です。

一般的に、上場企業の場合は株価を基にして評価しますが、非上場企業の場合、直接的な市場価格は存在しないため、同業他社や類似企業の株価、業績等を参考にします。同類の上場企業を選定し、税引後利益等の財務諸表値を比較し倍率を計算した後、選定した上場企業の株価にそれを掛け合わせて算出した対象企業の株価を評価します。

また、過去の取引事例や業界のM&A事例等も参考にすることで、市場の動向を反映した評価が可能となります。マーケットアプローチにの代表的な手法としては、市場株価平均法、類似取引比較法、類似企業比較法が挙げられます。

マーケットアプローチは、客観性や市場での取引環境の反映の点では優れていますが、他の企業とは事業コンセプト、ビジネスモデル、成長ステージが異なるケース、類似の上場企業がないケース等においては、評価対象となっている会社固有の性質の反映が困難です。

 

b. インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来期待される経済的利益(利益、キャッシュフロー、配当)を、その利益実現に見込まれるリスク等を考慮した割引率で現在価値に割引くことにより企業の価値を算定する評価方法です。

この方法は、企業の成長性や将来の収益性を企業価値に反映するため、成長企業や高収益企業の評価に適しています。ただし、将来の収益予測には恣意性、不確実性があるため、適切に評価することが重要です。

インカムアプローチの代表的手な手法としては、DCF(Discounted Cash Flow)法、収益還元法、配当還元法が挙げられます。

 

c. コストアプローチ

コストアプローチとは、企業の純資産の時価評価額等を基準に企業の価値を算定する評価方法です。

純資産を基にしているため客観性に優れた評価を行うことができ、ストックアプローチ、ネットアセットアプローチとも呼ばれます。

この方法は、資産重視の企業や安定した収益を上げている企業の評価に適していますが、企業の将来性や戦略的価値を反映しきれないため、他のアプローチと組み合わせて使用することが一般的です。

コストアプローチの代表的手な手法としては、簿価純資産法、時価純資産法、清算価値法が挙げられます。

 

第三者割当増資のメリット・デメリット

株式での資金調達のメリットは、返済義務のない長期的に安定した資金を獲得することで、株主資本が増加し、株主資本比率の向上、負債比率の低下により、財務状況の安定に寄与します。また、事業会社等の新規株主の新たな視点やノウハウを取り入れることができます。

一方、株式での資金調達のデメリットは、既存株主の所有比率が希薄化し、企業価値が低下する可能性があることです。また、新規株主の導入は経営の方針を巡る摩擦を生む可能性もあります。

これらを踏まえ、自社の状況に合った最適な資金調達方法を選択しましょう。

 

第三者割当増資の注意点

割当先の選定株価の設定が重要です。割当先は、資金提供だけでなく、経営に対する理解や協力的な姿勢も重要な要素です。また、株価の設定は、公正な価格設定を行うことで、株主からの信頼を得るためにも重要です。

不適切な価格設定は、株主からの信頼を失うだけでなく、法律に違反する可能性もあります。そのため、価格設定は専門家の意見を取り入れるなど、慎重に行うべきです。

 

第三者割当増資の事例

最近の第三者割当増資の事例としては、2023年5月に楽天グループ㈱が、連結子会社の楽天モバイル㈱への投融資とコマーシャル・ペーパーの償還資金として、公募増資と会長兼社長の資産管理会社等へ第三者割当増資により約3,000億円を調達しました。

資産管理会社以外にサイバーエージェントと東急にも株式割当を行っており、この事例からは、第三者割当増資が資金調達だけでなく、戦略的なパートナーシップの強化にも活用できることを学ぶことができます。

 

まとめ

第三者割当増資は、中小企業の経営者がM&Aを成功させるための有効な資金調達手段の一つです。

適切な株価の設定や割当先の選定、そして株主とのコミュニケーションが重要となります。他の資金調達方法も考慮に入れ、自社の成長に資する最適な戦略を選択しましょう。

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