次世代の発酵食品の研究開発を行う、京都のスタートアップ企業「株式会社PEAKS」が、新潟県上越市に手作り味噌の工場を構える「合資会社山本味噌醸造場」を承継されました。山本味噌醸造場は、大正時代から続く、伝統ある老舗の味噌蔵元になります。
「1000年続く次世代の発酵食品をつくる」と語るPEAKSの創設者である金崎努様は、どのような背景でPEAKSを立ち上げ、今回のM&Aに至ったのか。スタートアップにかける想いと今後の展望について、お話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 山本味噌醸造場 |
業種 | 食品(味噌) |
拠点 | 新潟県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社PEAKS |
業種 | 食品事業 |
拠点 | 京都府 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
「自分の基礎研究が世の中に出て行くまでに100年はかかってしまう」バイオテクノロジーを活かしたスタートアップを意識するように
株式会社PEAKSは、次世代の発酵食品の研究開発を目指し、京都で設立されたスタートアップ企業です。代表を務める金崎様は、学生時代にバイオテクノロジーの研究に興味をもち、京都大学/同大学院の理学部で9年間にわたり、基礎的な生物学や分子生物学、免疫学の勉強に励んでいました。
しかし、ちょうど大学院を修了する頃、「自分がいま大学で取り組んでいる基礎研究は、世の中の役に立つまでには、50年〜100年はかかる」と、研究対象が社会浸透するまでのタイムラグについて考えるようになります。
「ちょうどその頃、重篤な病気に罹患する親類が何人か出まして。そこから、身体の健康維持に直接的に役立つ研究について意識するようになり、自分の研究がすぐに世の中の役に立たないことにもどかしさを感じるようになったんです。」
2000年当時、アメリカではバイオテクノロジーに関するスタートアップ企業のブームが起きていた時期。ヒトゲノムを解析して創薬に生かそうという流れが起きており、大学の研究成果と社会への還元が直結した形が生まれ始めていた頃でした。
「薬の開発のタネになる部分を担い、製薬会社に橋渡しをする。研究と社会の間を取り持っていたのが、今でいうスタートアップ企業だったんです。そんな社会的な仕組みがアメリカでは整ってきているというニュースを見て、大学で学んできたバイオテクノロジーの知見を社会に役立てられるような仕事がしたい、と思い立ちました。」
それまでは研究者としての道を考えていたという金崎様でしたが、これまで培ってきた知見を新たな方法で生かす道を模索し始めます。
ベンチャーキャピタルでの投資事業を経て、バイオテクノロジー関連のスタートアップに転職
バイオテクノロジーを生かしたスタートアップ企業を就職先として探し始めた金崎様でしたが、当時の日本ではまだそのような環境は整っておらず、代わりに出会ったのがベンチャーキャピタルでした。
「ベンチャーキャピタル(VC)とは、アーリー期の成長フェーズにいるスタートアップ企業に投資をして、会社を育てていくような投資会社です。当時、バイオテクノロジーのスタートアップ企業はまだ日本にはありませんでしたが、投資会社はいくつかあり、そのひとつに就職しました。」
大手ベンチャーキャピタルに就職を決めた金崎様。その会社は、ちょうどバイオテクノロジー関連の会社に投資をする、専門のファンドを立ち上げたばかりでした。金崎様はそのチームで約10年、バイオテクノロジーに関わるスタートアップ企業に投資をしていきます。
「多くのスタートアップ企業に触れ経験を積むうちに、自分も投資やサポートにとどまらず、そのような会社の立上げに主体的に参加したいとの当初の思いに立ち返るようになりました。そんなとき、『大阪大学医学部の先生がバイオテクノロジーの会社を立ち上げるからメンバーを探している』という話が舞い込んできまして。2010年頃に、そこに参加させていただきました。」
当時は従業員2〜3名ほどの会社でしたが、金崎様が会社に入ってから約12年の間に、研究開発も進展し、社員数は70名を超え、株式市場への上場も果たしました。
「この会社では、財務・管理部門の責任者から社長まで、色んなポジションを経験することができました。中でも私が特にやりがいを感じたのは、0や1のステージにある会社を10まで育てていくようなスタートアップフェーズでした。
会社が上場し優秀な人材が採用できるようになったのを一区切りに、10まできた会社を100に成長させるフェーズは、その才能を持った次の人たちに託し、自分はまたスタートアップの立ち上げに挑戦してみたいと考えたのが、いまの会社を起業したきっかけになります。」
「病気の治療ではなく、病気にならない仕組みづくりを」自身の経験をきっかけに、医薬品から食品開発へテーマを切り替えて起業
これまで医薬品関連に長らく携わっていた金崎様が、「食品」にテーマを切り替えて起業した理由は、バイオテクノロジー・スタートアップ企業での多忙な単身赴任時代に、食生活の乱れから自分自身が体調のバランスを崩したことも大きな要因だったそうです。
「やっぱり、食べるものって非常に大事で。忙しいからといい加減なものばかり食べていると、次の日に調子が悪くなるし、それが続くと身体が悪くなって健康を害する。
当時の会社では、病気になった人を元の健康な状態に戻すための薬を作っていたんですが、そもそも『まだ病気になってない人が病気にならないような環境を提供する』のも大事な仕事だなと。それを実現するためには、食に関わる事業が一番良いと思い、食の領域で起業することを決意しました。」
起業にあたり、金崎様は自宅にラボを開設。発酵食品の開発に取り組み始めました。しかし、実際に製品を市場に届けるには、食品を製品として整えて大量に製造し、販売ルートに乗せていく必要があります。そこを1から自分で立ち上げるとなると、かなりの時間を要すると考えた金崎様は、M&Aを検討し始めます。
食品製造〜販売ルートを確保するため、M&Aプラットフォームを利用して案件を探し始めた金崎様。複数のM&Aサイトに登録をする中で、バトンズは案件紹介ページの見やすさとニーズに合った紹介をもらえるところに魅力を感じたと言います。
「初めに、求めている企業の情報を登録しますよね。バトンズさんは、ちゃんとそれにピタッとハマった会社を紹介してくれました。もちろん、自分でも企業を探しにいくのですが、日々投げてくれる案件の方向性がすごくフィットしていたなという印象があります。」
自分で考えた発酵食品のコンセプトを製品化することを構想していた金崎様。製造施設やノウハウ、そしてある程度の業歴があり、販売ルートまで持っているかどうかなどを基準として、譲渡案件を見ていきました。
「私は新製品の開発と経営の舵取りに専念したかったので、既存事業については、ある程度自立的な運営ができる会社かどうかも一つの条件でした。あくまで既存事業が安定して動いていながら、そこに新しいものを乗っけていくことを受け入れてくださるような会社さんを探していました。」
雲を掴むような手探りの状態の中、交渉に進む決め手となったのは『相手の人柄』
会社の設立準備と並行しながら、約1年かけてM&Aの情報収集をしていた金崎様。10社ほど目星をつけてから会社の情報を調べ、実際に会って話をするに至ったのは2社でした。
そのうちの1社が、今回ご成約となった山本味噌醸造場。まず現地に行って先代の山本様と話をされた金崎様は、山本様の勤勉さと誠実さを感じ、「信頼できる人だ」という印象を持ったそうです。
「私自身、食品業界を深く知っている状態ではまだなくて、これから新しい業界に飛び込もうというフェーズでした。地の利もなく、食品業界での商売というのは、私にとっては雲を掴むような話。
そんな中で、先方の言っていることや説明してくださることがちゃんと信頼できる内容かどうかというのは、決断する上で本当に大きかったです。」
お互いの志を話し合った上で、これならやっていけそうだという未来が見えたという金崎様と山本様。双方の合意に至り、無事にM&Aが成立しました。
こうして、ネットを通じたM&Aで初のご成約を果たされた金崎様。ネットならではの難しさは特に感じることもなく、むしろたくさんのチャンスに巡り会えたと振り返ります。
「かつてベンチャーキャピタルで多くのスタートアップ企業に投資をした経験から、出会いの母数が増えれば、成功の確率が上がると実体験から確信しています。なるべくたくさんの案件に触れて、自分の求めているものと相手の求めているものが何なのかを研ぎ澄ませていく。そこからフィットするものを選び、いち早くアクセスして人間同士のすり合わせをする。
私がスタートアップ業界に入った当時に比べると、一連の作業が非常にやりやすい環境になっています。バトンズさんのようなM&Aプラットフォームをうまく活用すれば、良い機会に巡り会えると思います。」
「1000年先まで続く発酵食品の開発を目指す」発酵食品関連の会社のグループ化を構想
味噌の市場規模は、過去50年間で右肩下がり。人口減少に伴い、今後も味噌自体の売り上げは減少していくことが予想されます。しかし、味噌から派生した商品の中には、売り上げが伸びているものもあると話す金崎様。今後は、味噌を使用した新しい発酵食品の開発に力を入れていきたいと意気込みます。
「味噌などの発酵食品を、手に取りやすい形、食べやすい形にアレンジしていって、とにかくたくさんの人に食べてもらう。その事業を発展させていくのが、まず最初のステージです。全国にはまだまだ別の発酵食品の会社さんがあるので、そういった企業とうまく連携していきたいですね。」
味噌だけではなく、醤油、漬物、チーズ、ヨーグルト、納豆など、昔ながらの発酵食品を次世代型にバージョンアップする。そして、発酵食品の市場自体を広げ、世の中の健康増進に貢献することが今後のビジョンであると金崎様は語ります。
「皆さんが、より発酵食品に親しめるような社会環境を作っていくことを目標にしています。うちの会社を中心に、ユニークな発酵食品の企業グループを作って市場規模を拡大し、海外にも売り込んでいく予定です。
味噌は、飛鳥時代にできてから約1300年にわたって食べられているロングセラー商品です。自分も、1000年続くような新しいジャンルの発酵食品を作りたいと思っています。」
商品化に向けたアイデアは、すでに頭の中にあると話す金崎様。私たちの食卓をアップデートするべく、金崎様の挑戦は続きます。
金崎様と株式会社PEAKSの今後のますますのご発展を、バトンズ一同心より応援しております!
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