今回は、「M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権とは?」について、解説します。
M&Aにおける独占交渉権とは、買い手が売り手とのM&A交渉を独占できる権利のことで、独占交渉期間中、売り手は他の買い手候補との交渉は禁止されます。
また、M&Aにおける優先交渉権とは、複数の買い手候補が存在する場合に、権利を付与された買い手が、他の買い手候補よりも優先してM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいいます。
まさに読んで字の如くではありますが、独占交渉権と優先交渉権ついては、M&A特有の部分もあり、売り手、買い手どちらにも深く理解いただきたいところです。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、「【売り手必見!】独占交渉権を付与する売り手のメリットとは!?」も解説していますので、是非、ご覧ください!
今回は、M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権についての、
①M&Aにおける独占交渉権とは?
②M&Aにおける優先交渉権とは?独占交渉権との違い
③独占交渉権の法的拘束力
④独占交渉権の期間
⑤独占交渉権を付与するタイミング
⑥独占交渉中に行われるM&Aプロセス
⑦独占交渉権における買い手・売り手の注意点
を中心に、「M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権とは?」を、解説していきます。
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
合同会社アジュール総合研究所の紹介ページ
【必見!】巻末に伊藤氏よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
M&Aにおける独占交渉権とは?
冒頭記載したとおり、M&Aにおける独占交渉権とは、買い手が売り手とのM&A交渉を独占できる権利のことで、独占交渉期間中、売り手は他の買い手候補との交渉は禁止されます。
売り手が買い手へ独占交渉権を付与したことにより、相互に集中し、本腰を入れた交渉が開始され、いよいよM&A交渉は佳境に入っていきます。
※ちなみに、M&Aマッチングサイトを利用している場合、独占交渉中にステータスを変更すると他の買い手からのマッチング(アプローチ)が不可となる仕様になっているので、覚えておきましょう。
M&Aにおける優先交渉権とは?独占交渉権との違い
こちらも冒頭記載したとおり、M&Aにおける優先交渉権とは、複数の買い手候補が存在する場合に、権利を付与された買い手が、他の買い手候補よりも優先してM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいいます。
ここで注意していただきたいのは、優先交渉権は、あくまで「優先」であり「独占」ではないと言うことです。
優先交渉権を付与された買い手は、権利のない買い手候補より優先的な交渉ができますが、売り手が複数先に権利を付与すれば、権利が与えられた買い手候補同士の中での優劣はありません。
つまり、売り手としては、優良な買い手候補を絞り込んだ形となりますが、買い手としては、優先交渉権が付与された買い手候補と競合する状態が継続し、まだまだ予断を許さない交渉が続くわけです。
しかし、小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)においては、優先交渉権は、めったに活用されることはありません。
交渉が具体的に進展すれば、売り手は買い手へ独占交渉権を付与し、条件調整が順調に進めばそのまま成約に至るのが通例となっています。
独占交渉権の法的拘束力
独占交渉権には、法的拘束力を持たせることが一般的です。
買い手としては、他の買い手候補と接触されることは避けたいと考えるので当然とも言えます。
小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)上は、独占交渉期間が短いため滅多に行われませんが、売り手が独占交渉を反故にした場合、一定の違約金を買い手に支払う取り決めにする場合があるので、注意が必要です。
独占交渉権の期間
独占交渉権の期間は、通常3~6か月間ですが、小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)場合は、1~2か月が一般的です。
期間の根拠は、独占交渉権付与からM&A成約までの工程に要する期間を逆算して決定しています。
独占交渉権付与以降の工程については、「独占交渉中に行われるM&Aプロセス」でご説明します。
独占交渉権を付与するタイミング
権利を付与するタイミングは、売り手と買い手が基本合意書に署名・捺印した時に付与されるのが一般的です。
M&Aにおける基本合意書とは、今までの交渉における合意事項の内容を書面にした合意書の事でLOI(Letter of Intent)と呼ばれることもあります。
売り手と買い手の合意事項を整理し書面にすることで、M&Aの成約に向けて双方の認識を整えるために締結されます。この書面に、独占交渉権を、売り手から買い手に付与する旨、記載がされます。
M&Aアドバイザーに業務委託している場合、ここで中間報酬が発生するのが一般的です。中間報酬については、成功報酬同様、各M&Aアドバイザーによって異なりますので、アドバイザリー契約(M&Aにおける業務委託契約)を締結する際にM&Aアドバイザーに必ず確認をして下さい。
独占交渉中に行われるM&Aプロセス
独占交渉中に行われる一般的なM&Aプロセスは、以下となります。
1.デューデリジェンス(DD・買収監査)
デューデリジェンスとは買収監査とも呼ばれ、売り手先から提供された資料に基づいて調査を行い、その会社の実態や問題点を監査することです。M&A界隈の人間は、略して「DD(ディーディー)」と呼んでいます。
小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)においては、期間は1~3週間程度です。
2.最終条件の調整
デューデリジェンスの結果を受け、売り手、買い手間で最終条件の調整を行います。
基本的には基本合意書に記載された内容で調整しますが、監査結果により微調整をする必要も出て来ます。調整期間は、小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)だと1~2週間ほどになります。
3.譲渡契約書の作成、リーガルチェック及び読み合わせ
最終条件の決定後、その内容を反映した譲渡契約書を作成し、弁護士によるリーガルチェック後、両者で読み合わせを行います。これで問題なければ後日、譲渡契約を締結し無事にM&Aの成約となります。
期間は1~2週間です。
前述した「独占交渉権の期間」の話しに遡りますが、上記M&Aプロセスを逆算し、独占交渉期間を決定しているわけです。
独占交渉権における買い手・売り手の注意点
独占交渉権を付与する事より、お互い集中した交渉ができる反面、その弊害も生じます。独占交渉における注意点を買い手側、売り手側に分けてご説明します。
独占交渉権における買い手の注意点
独占交渉状態に入り、いよいよデューデリジェンス(DD・買収監査)を実施しますが、この費用については買い手が負担します。
デューデリジェンスの結果により致命的な問題があった場合、M&A交渉は破断してしまいますが、デューデリジェンスにかかった費用は戻ってきません。
(ちなみに通常、譲渡契約書のリーガルチェック費用も買い手負担となります。)
また、M&Aアドバイザーに中間報酬を支払った場合、これも返金されないのが一般的です。さらにデューデリジェンスで問題がなかったとしても、最終条件の調整が整わない事や、譲渡契約書の条項に合意できない等の要因で、M&A交渉が破断する可能性もあります。
ここまで時間も労力も費やして進めてきたM&A交渉です。独占交渉権を付与されたからと言って、M&Aが無事に成約するまで油断は禁物です。
独占交渉権における売り手の注意点
独占交渉権を付与したことによる売り手の最大のリスクは、他の買い手候補との交渉が禁止される事以外に他なりません。なぜならば、独占交渉権を付与した買い手よりも好条件で交渉できる買い手が現れる可能性があるからです。
独占交渉期間が設定されているとはいえ、数ヶ月間はロックされた状態となりますし、譲渡契約が締結されず期間が満了したとしても、その後、好条件で交渉できる買い手が再度現れるかどうかは分かりません。
それだけに独占交渉権を付与する先は、慎重に吟味しなければなりません。
売り手側としては、
「基本合意書を取り交わす=譲渡契約を締結する」
そのくらいの覚悟で独占交渉権を付与しましょう。
まとめ
以上、「M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権とは?」を、ご説明しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①M&Aにおける独占交渉権とは?
M&Aにおける独占交渉権とは、買い手が売り手とのM&A交渉を独占できる権利のことで、独占交渉期間中、売り手は他の買い手候補との交渉は禁止される。
②M&Aにおける優先交渉権とは?独占交渉権との違い
M&Aにおける優先交渉権とは、複数の買い手候補が存在する場合に、権利を付与された買い手が、他の買い手候補よりも優先してM&Aの交渉を行うことができる権利のこと。
あくまで「優先」であり「独占」ではなく、優先交渉権を付与された買い手は、権利のない買い手候補より優先的な交渉が可能だが、売り手が複数先に権利を付与すれば、権利が与えられた買い手候補同士では優劣はない。
③独占交渉権の法的拘束力
独占交渉権には、法的拘束力を持たせることが一般的。
反故にした場合、違約金が発生する場合があるので、注意が必要。
④独占交渉権の期間
通常3~6か月間。小規模M&A(スモールM&AやマイクロM&A)場合は、1~2か月が一般的。
期間の根拠は、独占交渉権付与からM&A成約までの工程に要する期間を逆算して決定。
⑤独占交渉権を付与するタイミング
売り手と買い手が基本合意書に署名・捺印した時に付与されるのが一般的。
⑥独占交渉中に行われるM&Aプロセス
※上記M&Aプロセスを逆算し、独占交渉期間を決定。
⑦独占交渉における買い手・売り手の注意点
・独占交渉における買い手の注意点
デューデリジェンスの結果により致命的な問題があった場合、M&A交渉は破断するが、デューデリジェンスにかかった費用は戻ってこない。
独占交渉権を付与されたからと言って、M&Aが無事に成約するまで油断は禁物。
・独占交渉における売り手の注意点
独占交渉権を付与したことによる売り手の最大のリスクは、他の買い手候補との交渉が禁止される事以外に他ならない。
「基本合意書を取り交わす=譲渡契約を締結する」
そのくらいの覚悟で独占交渉権を付与する必要がある。
今回の記事で、M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権の理解を深めていただけましたら幸いです。
スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 伊藤氏からのワンポイントアドバイス!
こんにちは!スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤です!
みなさんこんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
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はいっ!
今回は、「M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権とは?」について解説しました。
前段で解説した通り、売り手より独占交渉権が付与されれば、単独交渉状態となり、買い手にとって大きなメリットとなることはご理解いただけたと思うわけなんですが。
じゃあ、売り手のメリットってなんなんでしょうね??
買い手にとっては、意中の相手と集中して交渉ができ、コストのかかるデューデリジェンスが心置きなくできるようになるわけなんですけど、売り手にとってはなんだか不公平な感じがしませんか??
独占交渉権を買い手に付与してしまえば、期間中は他の買い手候補との交渉はできなくなるので、より良い好条件が受けられる可能性が消滅してしまったかのようにも思えますよね。
なんだか売り手にとってはデメリット以外のナニモノでもないように感じませんか?
ですが、独占交渉権の付与って決してデメリットではないんですね。
実は売り手のメリットって結構あるんですよ。
では、売り手から買い手に独占交渉権を付与することによるメリットってなんなんでしょうかね??
ということで、今回のワンポイントアドバイスは「【売り手必見!】独占交渉権を付与する売り手のメリットとは!?」を解説していきます!
【売り手必見!】独占交渉権を付与する売り手のメリットとは!?
ではでは、独占交渉権を付与する売り手のメリットについて解説していきましょう!
メリットは以下の3つです!
①精神的な安心感が生まれる!
②独占交渉でシンプルな思考になれる!
③売り手としても本気度も示せる!
それでは順に、ご説明しましょう!
①精神的な安心感が生まれる!
売り手の心境の根本には、
「ウチの会社、本当に買ってくれる人いるのかな?」
というのがあるんですね。特に小規模M&Aの場合、会社や事業を売却したことのない方が圧倒的多数で、M&Aが成約するまで、心中穏やかじゃないんですね。数件、買収検討している先が出てきたとしても交渉や手続きが思うように進まなかったりで、心配事は絶えません。
ですが、独占交渉権を付与してほしい(つまり、基本合意書を締結したい)と買い手から要望をもらえるだけでも希望が見えてくるわけですね。
ここからデューデリジェンスの対応や最終条件交渉など大変なM&Aプロセスも控えているわけですが、交渉が前に進んでいることが実感できる瞬間でもあって、精神的な安心感が生まれるわけです。
売り手、買い手双方が、一旦ホットする場面でもあるので、結構大きなメリットですよ。
②独占交渉でシンプルな思考になれる!
唐突な話、M&Aを成約させるってやっぱり大変なんですね。
そろえなくてはいけない資料もありますし、交渉ではお互いの言い分もあるし、タイミングもあるし……
ただでさえ本業でも忙しいので、M&Aプロセスを進行させるってかなりのエネルギーを消耗するわけですよ。(精神的にもかなり疲弊します……)
一先だけでも大変なのに、多重交渉となると各買い手候補との条件を整理するだけで滅入ってくるんですね。これでは、正常な思考でM&A交渉できませんよね。そうなると、決断もどんどん先延ばしになりますよね。
結果どうなるかというと、どことも決定的な条件交渉が決まらず、買い手側も業を煮やして今回は、お見送りと言いう結末にもなってしまうんですね。
全ての交渉先が一斉に見送りとなったらどうしましょうか?
そうなった時点で、また新しく買い手候補の募集を再開しなければなりません。
振り出しに戻っちゃいましたね。これもう一回最初からやる気力はありますか?
やりたくないですよね。
ですが、独占交渉権を付与し、サシの交渉となると案外、M&A交渉もトントン拍子で進むことが多いんですね。なぜならば、交渉先が一先となることで、シンプル思考になり、最終条件交渉の時も良い判断ができるようになるからなんですね。
多重交渉となると好条件を引き出そうと欲もでてきますが、ある程度のところで腹をくくる覚悟が必要という事ですね。
③売り手としても本気度も示せる!
M&A交渉上、売り手側は本当に買ってくれるのか常に不安が付きまとうわけですが、買い手側も「本当に買収できるのかな?」って心配になっているんですね。
あまりにも基本合意の調整期間が長引いてしまうと、
「売り手は、本気で売却を考えているのかな?」
って、買い手の不安は積もっていくんですね。なぜならば、買収見込みが薄い先には、時間も労力も費やしたくないからなんですね。
これは双方に言える事ですが、「本気度」を示すって結構大事だったりするんですね。基本合意書を締結して独占交渉権を付与する事は、ある意味本気度を見せることでもあります。
逆もまたしかりで、これは買い手にも言えることです。
また、買い手もほかの案件のM&A交渉をしていることもあり、いつまでたっても交渉が進展しなければ、他の案件の買収交渉にエネルギーを割こうとするため、買収見送りを通達される可能性もあるんですね。
折角いいところまで交渉が進んだのに見送りを喰らうって、精神的なショックも大きいですよ。私自身、ここで売却を諦める売り手さんを何人も見てきました。
では、どうしても独占交渉権を付与する先を決められない時はどうしたらいいでしょうか?
その時は、複数の買い手候補に意向表明書を出してもらいましょう。その中から最も好条件を出した先を選定すればいいわけです。
期限を決めて、どこと基本合意を締結し、独占交渉権を付与するかを決定しましょう。
M&Aに限ったことではないですが、本気度を示すって大事ですよ!
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「M&Aにおける独占交渉権と優先交渉権とは?」をご紹介しました。
機械的に数字やビジネスモデル、シナジー効果を調査しただけではM&Aって成約しないんですね。
M&A成約の本質って、お互いの「相性、誠実さ、熱意・本気度」など心情的な要素が大半を占めていて、特に小規模M&A交渉の場合、初めからトップ同士の交渉なので、「お互いが気に入るかどうか」で、決まってしまうことがほとんどです。
独占交渉権の付与ってある意味、買い手に対してのアピールでもあるんですね。
「あなたに本気で売却を考えています。他の買い手先との交渉はもうしませんので、どうか宜しくお願いします。」
という、メッセージにもなるわけです。
そこまで言われれば、買い手側もより買収意欲に熱が入ってきます!それだけ、M&Aが成約する確率も爆上がりするわけですね。
独占交渉権の付与(基本合意書の締結)は、M&Aプロセス上、中盤の山場です!
これを乗り切れば、後はM&A成約に集中するだけです!
最後まで気を抜かず、頑張ってください!
今回のワンポイントアドバイスでは、「【売り手必見!】独占交渉権を付与する売り手のメリットとは!?」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!
最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!
それでは!
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