「株式の持ち合い」とは、ある企業同士が任意で双方の株式を保有する関係を指します。近年、株式の持ち合いをしている会社は少なくなっています。
この記事では日本独特の慣行である株式の持ち合いの概要から、近年の動向、株式の持ち合いを解消する方法などについて解説します。
株式の持ち合いとは会社同士が互いの株式を持ち合うこと
株式の持ち合いは、戦後に始まった日本独特の慣行とされており、財閥解体後に外資系企業による買収を恐れた日本企業が買収防衛策として始めました。財閥内の安全株主に自社株を保有してもらうことで買収を防ぎ、経営の安定を目指したのが発端です。また、持ち合いの状況下にある株式は「政策保有株式」とも呼ばれます。
株式の持ち合いは、一般的に2つの企業で双方の株式を持ち合う場合を指しますが、3社間で循環的に株式を保有する「循環的相互保有」や「三角持ち合い」といった形態も見られます。
株式の持ち合いと資本参加・業務提携の違い
株式の持ち合いと混同されやすい用語に「資本参加」や「業務提携」があります。
資本参加は、ある企業を援助するために株式の買い取りを通じて資金援助することを意味します。株式の持ち合いが会社相互の関係性強化など対等な関係を前提とするのに対し、資本参加は資金援助を目的とするため、支援する企業と支援を受ける企業の間で上下関係が生まれることが特徴です。
一方、業務提携は複数の企業が資金やノウハウを出し合い、ある目的のために協力する関係を指します。業務提携では必ずしも株式のやりとりがあるわけではないため、その点が株式の持ち合いとの大きな違いです。
株式の持ち合いのメリットは主に3つ
買収防衛策として始まった株式の持ち合いですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、代表的な3つのメリットについて紹介します。
経営の安定化につながる
安定的な企業経営が期待できることは、株式の持ち合いがもたらす大きなメリットです。
本来、株式の保有は株式を発行した会社の経営権の一部を得ることを意味し、株式を保有することで株主総会では経営に関する意思決定に参加することができます。
しかし、持ち合い株主は経営に深く干渉しないという暗黙の了解があるため、持ち合い株式の比率が高ければ株主総会が紛糾する可能性は低くなります。つまり、株式の持ち合いを行うと、買収防衛策になるだけでなく、経営上の意思決定を安定した環境で実施することができるのです。
企業間の結束が強くなる
株式の持ち合いには、企業間の結束を強めるというメリットもあります。
会社の経営権の一部である株式を相互に保有するには、それ相応の信頼関係があることが前提となり、自ずと企業同士の結びつきは強くなっていくでしょう。
特に、提携や協力関係にある企業同士であれば、株式の持ち合いを通じて結束を強め、共にある領域でのプラットフォーム戦略を進める、双方の知見を持ち寄って新製品を開発するなどの施策が可能になります。さらに、緊密な関係を築くことによる円滑な資金調達を目的に、企業と金融機関の間で株式の持ち合いが実施されるケースもあります。
敵対的買収を防ぐことができる
先述の通り、株式の持ち合いは戦後から高度経済成長期にかけて、財閥解体後の企業や、競争力が弱まった企業が外資系企業からの買収を防ぐ目的で始まったものです。株式市場に上場している以上、投資ファンドや他社に過半数以上の株式を取得されて経営権を掌握されるリスクがあります。
たとえば、ある企業と過半数以上の株式の持ち合いを行えば、少なくとも株式の過半数を取得されて経営権を奪われる可能性は無くなるため買収からの防衛策となります。経営権を奪われる心配のない安定株主の割合が高くなれば、中長期的に安定した経営を続けることができるでしょう。
株式の持ち合いにはデメリットも3つ
ここまで株式の持ち合いのメリットについて解説しましたが、株式の持ち合いにはデメリットもあります。近年は株式の持ち合いを解消する動きがあり、デメリットについてもよく知っておく必要があるでしょう。ここでは、代表的な3つについて解説します。
株主総会が形骸化しやすい
株式の持ち合いが行われている場合、双方の関係悪化を防ぐため持ち合い関係にある企業が株主総会で反対意見を表明することは少ないでしょう。そのため、持ち合い株主が株主全体に占める比率が高い場合、裁量権が大きい株主が意見を表明せず、本来は広く意見を募る場である株主総会の意義が失われてしまいかねません。
また、株主総会は株主から経営陣に対する監視機能を持っていますが、持ち合いによってこの役割も形骸化してしまうでしょう。
資本効率が低下する
本来、株式は事業拡大や設備投資など会社の成長につなげるための資金を確保するために発行されるものです。しかし、株式の持ち合いが行われると、持ち合い株に相当する資金を有効に活用できず、企業としての資本効率が低下します。
持ち合いに関係しない株主は、自らが投資した資金が会社の利益に貢献することを期待しています。しかし、株式の持ち合いによってこのような期待を裏切ることになるため、近年は株式の持ち合いに批判的な投資家が増えています。
共倒れのリスクがある
株式の持ち合いを行うことで、持ち合い関係にある企業が共倒れしてしまうリスクがあります。たとえば、ある企業同士で株式の持ち合いをしている場合、一方の企業の業績が落ちて株価が下落すると、もう片方の企業にも株式の評価損が発生し、企業価値を損なうことになります。実際にバブル崩壊後には持ち合い関係に企業の時価総額が下がり、損失につながるケースが多く見られました。
また、経営面での悪影響が出ない場合でも近年は株式の持ち合いそのものに良いイメージが持たれないことが多いため、持ち合い関係にある企業双方の社会的評価が下がるというリスクも存在します。
持ち合い株式が25%以上で議決権に制限がかかる
会社法308条には株式の持ち合いを行っている場合において、株主総会での議決権を制限する規定があります。会社法では、株主総会において1つの株式に1つの議決権を有することが規定されていますが、議決権の4分の1に相当する株式の持ち合いがある場合、この規定は適用されません。
基本的に、持ち合いの関係にある企業は株主総会で反対意見を提起することはないと考えられるため、このような株主の比率が増えると株主総会が形骸化する恐れがあります。そのため、会社法で持ち合い株式の議決権が制限されているのです。
株式の持ち合いを解消する方法は2パターン
近年解消が進みつつある株式の持ち合いですが、実際に解消する手段は主に2つです。ただし、いずれの手段においても持ち合い関係にある企業同士の合意が前提となることに注意が必要です。
相手企業の株式を第三者へ売却する
1つ目の方法は、持ち合いの相手方に当たる企業の株式を第三者に売却することです。上場企業であれば、比較的短期間で株式の売却を行うことができるため、株式の持ち合い解消を早期に完了させることができるでしょう。
第三者に持ち合い株を売却する場合は、持ち合いを開始した際の譲渡価格など双方で合意した金額に基づいて売却します。短期間で実行可能ではありますが、持ち合い株式の売却価格については、相手方の企業と入念な合意形成が必要になるでしょう。
相手が保有する自社の株式を購入する
持ち合いの相手企業が保有する自社株式を買い戻すことでも、株式の持ち合いを解消することができます。しかし、株式市場を介さずに買い戻す場合は、株主総会において特別決議の承認を得る必要があります。
特別決議は、経営上重要な意思決定を行う際に求められる決議であり、議決権の過半数を有する株主の出席と出席した株主の2/3以上の賛成が要件となるため、実行のハードルは高いでしょう。
株式の持ち合い解消が進む理由5つ
日本企業では一般的であった株式の持ち合いですが、先述の通り、近年は多くの企業で解消の動きが進んでいます。ここでは、株式の持ち合いが解消されている5つの理由を解説します。
バブル崩壊により資本の見方が変わった
株式の持ち合いのデメリットの1つとして資本の流動性低下を紹介しました。バブル崩壊後、経営難を乗り切るために資金が必要だったため、持ち合い株式に相当する資金は活用できないことが問題視されました。
また、あくまで企業同士の関係強化や外資からの買収防衛策の一環として持ち合いが行われていたこともあり、持ち合い株式の収益性が低かったことも事実です。そのため、バブル崩壊後の不景気を乗り切るべく、自由に使える資金を増やすために株式持ち合いの解消を選ぶ企業が増えていきました。
海外を中心とした投資家からの批判
株式の持ち合いは日本独特の慣行であったことと、持ち合い株の株主以外の意見が反映されにくくなるという性質があることから、1990年代以降に増えた海外投資家から批判され始めました。さらに2008年のリーマンショック時には持ち合い株式を中心に評価損が発生し、株価低下や減配につながるケースもあったのです。
当初は海外投資家を中心に起こっていた株式持ち合いへの批判ですが、株式の持ち合いが株主総会の公平性のみならず、投資家の利益も損なう慣行だとみなす動きが国内でも強くなり、企業側も無視できなくなっていきました。
日本3大銀行の消極的な姿勢
株式の持ち合いは、金融機関と緊密な関係を築くことで円滑な資金調達を可能にするために行う場合があると解説しました。しかし、金融業界再編の末に誕生した3大メガバンク(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行)は、株式の持ち合いに消極的な姿勢を見せており、このことも株式の持ち合いを解消する動きを加速させているといわれています。
実際、3大メガバンクでは2024年度から2025年度にかけて、持ち合い株を4割削減する動きを進めています。
金融ビッグバンにともなう制度の変更
1990年代後半に、日本の金融市場をグローバル基準に発展させるべく、日本版金融ビッグバンという金融改革が実施されました。この中で、日本企業の会計制度も世界標準のものに改訂され、自己資本比率という考え方が生まれました。
もし持ち合い株が損失を出していれば、自己資本比率に悪影響を与える一方で、持ち合い株が利益を出していれば他の株主の利益を損なうことになり、いずれの場合も一般の株主に対しては不利益を生みます。
このように、株式の持ち合いは自己資本比率の考え方にそぐわないため、金融ビッグバン以降に株式の持ち合いが解消されてきたといえるでしょう。
持ち合い株式の開示ルールが厳格化
株式の持ち合い解消の流れをさらに加速させるかのように、2018年には東京証券取引所が持ち合い株式に対する開示ルールをより厳しいものに改訂しました。
具体的には、株式の持ち合いに関する方針や議決権行使の基準などを第三者にも開示することが求められるようになりました。従来は、持ち合い関係にある企業同士でいわば密室でやりとりされていた情報についても公表する必要が出てきたのです。
そのため、株式の持ち合いに対して外部に説明を求められるケースが増え、より持ち合いが敬遠されるようになっています。
株式の持ち合い解消を進める企業の事例
近年は、大手企業を中心に株式の持ち合いを解消する動きが活発になっています。
直近では、2021年にトヨタ自動車が全体の1割に相当する持ち合い株式を解消しました。完全に株式の持ち合いをやめるわけではないものの、事業面でのシナジーがあるか、費用対効果に見合うかなどを総合的に判断したうえで戦略的に実施することを明らかにしています。
また、大手IT企業である富士通は2019年に約500億円相当の持ち合い株式を売却しました。この中にはメガバンクの一角であるみずほ銀行や大手キャリアのKDDIの株式も含まれています。この時、富士通の最高財務責任者(CFO)は、「株式の持ち合いに意味はない」と言い切っており、今後も持ち合いを解消する方針であることを明らかにしました。
株式の持ち合いは今後も解消が続く
昨今まで続いている株式持ち合いを解消する動きですが、今後もこの流れが続いていくと予想されます。近年は経済全体がグローバル化しており、日本独特の慣行である株式の持ち合いが海外投資家に受け入れられる可能性は低いといえるでしょう。また、経営悪化のリスクや自己資本比率への悪影響など、株式の持ち合いによって生じるデメリットも広く理解されるようになってきました。
さらに、メガバンクや日本を代表する大手企業においても、株式の持ち合いを中長期的に解消していく方針を明確に掲げているケースが多いため、あらゆる業界で解消が進んでいくものと考えられます。
まとめ
この記事では株式の持ち合いの基本的な概要からそのメリットやデメリット、解消する方法や、近年はなぜ解消されつつあるのかという背景についても解説しました。
株式の持ち合いが少なくなる一方で、近年は事業拡大や後継者の確保を目的としたM&Aが活発になっています。M&Aにおいては、専門家による支援のもとで買い手企業と売り手企業をつなぐサービスであるバトンズの利用がおすすめです。今後、M&Aを検討される際にはぜひバトンズに登録された豊富なM&A案件を覗かれてみてはいかがでしょうか。
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