実査は、主に製造業の監査手続きの際によく行われ、現場での固定資産の状態や保管場所、現在使用している人を明らかにすることを目的としています。実査は財務デューデリジェンスとして考えられることもあります。財務デューデリジェンスとは、M&Aにおいて買い手企業が買収する企業の企業価値を図るために財務の面から調査することです。今回は、実査の概要、目的や流れ、注意点について解説します。
実査とは
実査とは監査手続きの1つで、資産の現物を実際に確かめるものです。ここでは実査の概要について詳しく解説します。
実査の概要
実査とは、資産の実在性を確かめるために、会計監査などを行う監査人が往査先の会社に出向き、現物が実際に存在するかを確かめる監査手続きです。監査人が実査を実施することで、当該資産の実在性に関して高い監査証拠を入手でき、対象資産の保全状況などに関する内部統制の信頼性を確かめられます。
原則として、実査は期末日および期末日直後に実施します。実査における監査対象は貸借対照表(BS)の勘定科目なので、決算日時点での実在性が重要です。3月決算であれば、3月31日の営業終了直前や4月1日の営業開始直後などの期末日の残高が確定している段階での実施が望ましいとされています。ただし、監査人が必要と認めた場合は予告なしに実査を行うことがあります。
監査対象は、現金や預金通帳、証書、受取手形、株券などの有価証券、有形固定資産、会員権、絵画、貴金属などです。このうち、現金や預金証書、受取手形、有価証券などの換金性の高い流動資産に関しては、時点が異なると流用や不正の恐れが高くなるため、可能な限り同時に実施されます。
一般的に税務調査というと、申告書や過去の帳簿、請求書などを調査するイメージが強いでしょう。しかし税務調査ではそれら以外にも、必ずこの実査が行われます。また、M&Aにおいて買い手が財務デューデリジェンスを行う際にも実査が必要です。
実査は帳簿の通りに実在するかを実際に監査人の目で見て、数を数えて確認する最も確実な方法です。監査論の観点からは、資産の実存性の確認のために行われます。
監査との違い
監査とは、経営状態が法律および会社規定に沿ったものであるかを監督・検査することです。具体的には、経営状況が把握できる財務諸表や各部門の業務実績の情報を収集し、業務が健全かつ合理的であるかを判断します。万が一問題があると判断された場合は忠告を受け早急に経営体制を見直すことが求められます。問題が大きい場合は、営業停止になる可能性もあるので、注意が必要です。
監査にはいくつかの種類があり、それぞれ担当する監査人の立場や監査の対象により分類され、種類は、外部監査・内部監査・会計監査・業務監査などがあります。そもそも実査は監査の間にある業務です。2つの言葉の意味に大きな違いはありませんが、実査が固定資産などの現物を確認することを指すのに対し、監査は監査人が実際に企業の数字を確認することを指します。
実査の目的
実査の目的は、M&Aの買い手が買収を考えている会社の企業価値を適切に判断できているかを「財務面」から調査することです。
その結果により企業価値や買収額など、M&A実行に関する意思決定を行うための情報を検討します。実査を行うことにより、帳簿上の数字が確かかどうか証明できます。監査人自らが現物を直接確認するので、当該資産の実在性に対する監査証明力の高い監査証拠を入手できるとともに、対象となっている資産の保全状況などに関する内部統制の実態を確かめられます。
実査の流れ
ここまで実査の概要について紹介してきました。では実査は具体的にどのような流れで行われるのでしょうか。企業の実査における、具体的な手順を解説します。
必要な資料と実査対象物を監査人に提出する
監査人が到着したら、当日の現金内訳表や現金補助元帳および実査を行う対象資産である現金、受取手形、有価証券、預金通帳、預金証書、株券、収入印紙、小切手帳などを提出します。現金内訳表などの資料だけではなく、実査対象物も必ず同時に提出します。預金通帳も経済的に価値があり担保にできるため提出が求められます。提出後、現金や現物が帳簿上の数字と一致しているかどうか、また不自然な資産の増減がないかどうかが確認されます。
なお、実査の際は必ず会社の経理担当者が立ち会います。現金などの現物を監査人が触ることになるので、万が一にも紛失や残高相違があってはならないためです。
会社の管理状況が検討される
続いて実査対象物をもとに会社の管理状況が検討されます。金庫の中を確認し、本来資産計上しなければならないものはないか、預かり資産はないか(ある場合は会社資産と区別しているか)、またその金庫の鍵は誰が所有しているかなどを確かめ、網羅的に管理状況を確認します。
もし、会社所有外の現金などを預かり保管している場合は、それらに関しても調査が必要で、預かり理由の合理性が監査人によって確認されます。
講評
実査では、すべての確認の完了後に監査人から講評という形で報告があることが多いです。管理状況に不適切なところがある場合には、この時に指摘があり、実査の調書にも記載されます。
実査が行われる際の注意点
実査を円滑に終わらせるためにも、事前準備は大切です。ここでは、実査が行われる際に注意すべき点について解説します。
現金や固定資産の状況を確認しておく
実査では会計上の残高と実際の現金残高が合致しているかを確認するため、事前に監査人が来る前に確認しておきましょう。数字が合致しないようであれば原因を突き止め、記帳漏れであれば、すぐに記帳しておきましょう。
実査の際に、会計上の残高が合致していないというのは稀なことであり、合致していないと大きな問題になる可能性があるため、予め余裕を持った確認が必要です。
固定資産台帳ではなく現物台帳を用意する
実査の際、固定資産に関しては固定資産台帳ではなく現物台帳を用意した方が良いでしょう。現物台帳とは、組織の資産物品の保管場所や利用状況、状態、数量などを把握するための管理表です。物品台帳や備品台帳などと呼ばれる場合もあります。
固定資産台帳は減価償却の計算や固定資産税の算出を目的としているため、実際に実査の際にチェックするような現物の情報を管理するための項目や機能はありません。現物台帳があればスムーズに実査を行うことが可能です。
用意する現物台帳には、現物を保管している位置や場所などの位置情報、持ち出しや返却の履歴の移動情報、使用者などの人に関する情報、管理部門、リース契約の有無や保証期間情報などの、現場での使用状況や状態を把握するための項目を設けておきましょう。
まとめ
実査は会社の財務状況や内部統制の状況を見直すために重要な作業です。
実査を行わないと社会的信用を失い、出資者からの協力を得られないなどの事態を招きます。
また、M&Aの際に買収を考えている会社の企業価値を適切に判断するのに欠かせない作業でもあります。これらの調査は専門家のもとで慎重かつ正確に行いましょう。
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