法務・労務
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2024/10/10

債務超過・赤字企業のM&Aの可能性と手法

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債務超過・赤字企業のM&A
 債務超過や赤字の企業であっても、取引先を含めた地域の産業や雇用を守るため、あるいは経営者が借入れの連帯保証債務の負担から可能な限り解放されるため、売り手として事業の引継ぎを試みることは珍しくありません。しかしながら、債務超過や赤字の企業だと、買い手からすれば、負債の返済が重い、あるいは利益が見込めないという理由で、M&A、特に株式譲渡は敬遠しがちです。  では、このような企業でもM&Aを実現するためには、どのような方法が考えられるでしょうか。
経営改善等との組み合わせ
 まず、売り手において経営改善・磨き上げを行い、財務状況を良くしてから買い手を探すことが考えられます。ただ、黒字化する、債務超過を解消する、というのは専門家の支援を得たとしてもそう簡単なこととは限らず、多くの場合には年単位の時間もかかります。また、債務超過や赤字の企業は、資金繰りが厳しいことも多いため、経営改善を行う時間的な余裕や専門家に支援を依頼する金銭的な余裕がないことも少なくありません。  次に、売り手単独では対策が難しくても、売り手と買い手との間でのM&A後の相乗効果・補完作用(いわゆるシナジー)を見出すことで、M&Aの動機づけとすることも考えられます。あるいは、例えば間接部門等を買い手と一本化することで、業務の効率化や経費の削減を目指すことも可能かもしれません。ただ、これは売り手と買い手との相性や買い手の力量にも左右され、そのような相手と出会えるとは限りません。
債務整理との組み合わせ
 そこで、株式譲渡の形ではなく、事業に関する資産・負債等のうち金融債務以外のもの、あるいは利益が見込める部分(いわゆるGOOD事業)を事業譲渡の形で譲渡し、残った金融債務に対してはその譲渡対価等で可能な限り弁済を行って、弁済しきれなかった金融債務は債務免除をしてもらうという、債務整理(私的整理)と組み合わせる手法が考えられます。①私的整理を行うことで、過剰な金融債務の負担を減らし、買い手が事業を譲り受けやすくするとともに、②債務免除となり得る金融機関とのみ交渉・調整を行うことで、取引先等への影響を最小限に抑え、事業の信用不安を回避することを目指すのがこの手法の特徴といえます(債務整理の局面で使われる「第二会社方式」はこの一種といえます)。  この場合、金融機関の積極的な同意を得ることは簡単ではありませんが、その交渉の一助として、私的整理を主宰する公的機関である中小企業活性化協議会による支援を受けたり、私的整理のルールについて定めた「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」、あるいは日本弁護士連合会が策定した「特定調停スキーム」を活用することで、金融機関と一定の信頼関係とコミュニケーションを保ちながら調整を行い、債務整理への理解を得ることが考えられます。  また、近時は金融債務に加えて公租公課の未納・滞納が大きく、金融機関との調整のみでは足りないために私的整理ができない事案もあります。そのような場合でも、事業譲渡を行い、残った法人格を、法的な債務整理手法である破産手続で処理する手法もあります。  いずれの場合も、金融機関をはじめとした、債務整理の対象となる債権者に対しては、適正な価格・適正な過程を経て事業が譲渡されたことを示すとともに、単純に破産してしまう場合以上の弁済を確保することで経済合理性が認められることが必要です(つまり、それを実現できるだけの事業譲渡対価が必要です)。その代わり、対象債権者の一定の協力のもとに、地域の産業と雇用を守ることができる可能性が出てきます。
経営者保証ガイドラインによる保証債務の私的整理
 債務整理を行う場合、前述のとおり、企業(主債務者)からは金融債務の全額までは弁済できないこともあります。  そうなると、不足分は連帯保証人に対して請求されますが、「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、金融機関との交渉・調整による私的整理によって保証債務を整理することで、保証人個人の破産を回避し、また自宅も売却せず手元に残せる可能性があります。
まとめ
 以上のように、経営改善、あるいは債務整理と組み合わせることで、債務超過や赤字の企業であってもM&Aの可能性が出てきます。  特に債務整理を行う場合、債権者から理解を得ることはそう簡単ではありませんが、債務超過や赤字だからといって、それだけでM&Aを諦め、ましてやむやみに破産を選択する必要はないということは、知っておいていただきたいと思います。 問い合わせ先:中小PMI支援センター株式会社 コンサルタント 弁護士 今井丈雄 e-mail:info@pmis.jp
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