M&A
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2021/10/08

事業譲渡の留意点①

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事業譲渡の留意点①
前回は、M&Aのスキーム選択時の留意点について触れさせていただきましたが、今回は、M&Aにおいて他の手続よりも比較的自由度が高くしばしば用いられる手法である事業譲渡の手続面でのメリットについて端的にご説明させていただきます。 1,事業譲渡とは 事業譲渡は、譲渡人が事業の全部又は一部を譲受人に対して譲渡する手続を言います。あくまで事業そのものの移転ですので、事業に関連する不動産や機械などの財産のみを移転するものではありません。 2,事業譲渡のメリット ①事業の一部を譲渡できること  会社の経営権そのものを譲渡してしまう株式譲渡などとは異なり、会社の事業の一部のみを譲渡対象とすることが可能です。それにより、売り手側において、複数の事業を行っている場合に不採算部門のみを切り離し他社に譲渡することが可能となります。 ②引き継がせたい・引き継ぎたい財産のみを選択できること。(DDの対象範囲も絞れる) 事業譲渡において、譲渡対象となる財産は、売り手と買い手双方の合意により定められます。売り手としても手放したくない従業員などの資産を残すことが出来ますし、買い手としても不要な機械設備やリスクの高い債務などを譲渡対象から除外することが出来ます。 また、譲渡対象を絞った上でデューディリジェンスを行うことが出来ますので、時間と費用の節約にもなります。 ③潜在的債務を遮断できること簿外債務を引き継がない  買い手にとって怖いのは売り主が故意に隠す債務や売り主が認識していない債務(賠償義務など)を引き継いでしまうことです。②で述べた通り、事業譲渡においては債務についても合意されたもののみが譲渡対象となりますので、買い手側は意図しない債務を負うことを回避することが出来ます。  また、この流れで、従業員の引継ぎに当たっても、事業譲渡の際に、引継ぎ対象となる従業員について一旦退職させ、買い手において再雇用することにより、未払い残業代等の労働債務についても引継ぎを遮断することが出来ます。 ④株式が分散している場合にも手続が可能であること  株式譲渡の場合には、株式が多数の株主に分散していると、各株主と交渉した上で契約を締結する必要があり、時間と手間を要することにもなります。場合によっては、M&Aの目的を達成できない事態にもなりかねません。  事業譲渡による場合には、たとえ株式が分散していても3分の2以上による特別決議を行うことができれば手続は可能です。また、事業の譲受けが完了した場合には、売り手側の株主と関わる必要も一切ありません。  このように、事業譲渡には様々なメリットはある反面、手続きの煩雑さなどデメリットもあります。事業譲渡のデメリットについては、次回紹介させていただきます。
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