事業再生
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2021/07/23

【事業再生事例】水産食品加工業

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【事業再生事例】水産食品加工業
■事業概要  当社は水産食品製造業であり、水産物(加工品・生鮮品)の製造・販売を行っている。  取り扱っている素材は、うに、あわび、いか、たこなどであり、製品の9割以上が加工品で、生鮮品は一部である。  主要商品は「いか塩辛」「うに甘塩」などで、この2製品は味が濃厚で、地元の大手Aスーパーで非常に人気があり、当社は地元でも知名度が高い。  しかしこれらの2商品は、Aスーパーにのみ卸しており、その他のスーパーには卸していない。  理由は、当社には営業部門がなく、他のスーパーに売り込みをしていないためである。  その他の加工品も、いか塩辛に負けないほどの濃厚さがあるが、スーパーに提案していないためあまり売れていない。  その他、近年国内漁獲量が減少し、仕入単価が増加しており、年によっては入手困難な状況に陥る魚介類も現れている。  しかし、これら加工品は長年価格改定していない。  また、社長は主に、商品開発と営業を担当していて、商品開発は、社内の人材ではなく外部と、長年に渡り様々な加工品の商品開発を実施してきたが、実際に売れている商品は非常に少ない。  しかし、これらの商品を製造中止にしていないため、少数の注文にも対応しており、工場の負荷が増加している。  また営業活動については、地元のスーパーに売り込むのではなく、展示会に自身で開発した商品を出展する活動を行っている。しかしその展示会は、地元ではなく都心部であるため、競合も多く、なかなか継続的な売上につながっていない。 ■財務状況  財務状況は、売上高が年々減少しており、営業利益がマイナスとなる年度も多くなっている。  財務基盤は債務超過が続いており、純資産のマイナス幅も増加している。 ■問題点  当社の問題点は以下である。 ①営業未実施  まずは、当社には営業部門がなく、日常の営業活動を実施していないことである。  社長が個人的に展示会で商品を出展しているが、対象商品は新商品が中心であり、既存商品をスーパーの棚に置いてもらうという本来の営業活動が行われていない。 ②加工品の価格改定未実施  次に、漁獲量の減少により材料の仕入は高騰しているにも関わらず、加工品の価格を改定していないことである。  実際に商品別に原価を計算すると、いか塩辛は売上高材料費比率が60%~70%になっていた。  原価はこの材料費以外に労務費や経費が追加されるため、ほぼ赤字の状態といえる。  また、うにについては、月によって歩留まり(投入した原料や素材の量に対して、実際に得ることができた出来高の割合)が大きく季節変動する。  10月~1月は歩留まりが4%~6%程度と低く、反対に6月~8月は9~12%と歩留まりが高い。  うにの仕入は殻付きが多いため、歩留まりで仕入単価が変わり、うにの「身」だけの仕入単価に換算すると、6~8月で6,000円程度に対し、10月~1月は15,000円と、2.5倍にもなる。  しかし当社は、歩留まりを考えずに毎月一定の仕入を行っている。  そのため、売上高材料費比率は、6~8月では30%程度であるに対し、10月~1月では100%を大きく上回っていた。 ③売れない商品の継続的販売  続いて、売れない商品を製造中止にしていないことである。  少数の販売により工場での負荷が高まり、高コスト体質になっている。 ■強み  当社の強みは、品質の高い濃厚な加工品、そして地元のブランド力である。  これら強みを活かした戦略の構築が必要になる。 ■改善策  まずは営業活動の見直しである。  当社が行うべき営業活動は大きく2つ。  1つは「既存顧客の横展開」で、Aスーパーに対していか塩辛や甘塩うに以外の加工品を提案し、Aスーパーの棚に自社の加工品を増やすことである。  いか塩辛や甘うにの実績が豊富なため、これら以外の商品もAスーパーで販売してもらうことはそれほど難しいことではない。  そしてもう1つは「新規開拓」で、地元のAスーパー以外のスーパーに営業を行い、棚に商品を置いてもらうことである。  当社は地元でも知名度があり、Aスーパーでいか塩辛と甘塩うには大いに実績がある人気商品であるため、容易に開拓できると想定される。  次に、加工品の価格を改定して、十分に利益が出る価格に値上げすることである。  近年漁獲量減少により仕入高が高騰しているため、当然他社も値上を実施していると思われる。  また、当社の製品は地元客に人気であるため、値上げ交渉は十分に可能と想定される。  各製品で原価を再度見直して、利益の取れる価格を設定することが重要である。  最後に、売れない商品は製造中止にして、工場の負荷を削減し、高コスト体質の脱却を図ることである。  前述のとおり、売れる商品に特化して地元スーパーに営業を強化することで、同じ製品をより多く販売することが可能になるため、売れていない商品、或いは営業しても売れる見込みのない商品については、販売を停止する。
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