M&A
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2020/11/30

デューディリジェンス(Due Diligence)の応用編

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デューディリジェンス(Due Diligence)の応用編
デューディリジェンス(Due Diligence;以下「DD」といいます。)は、前回コラムでも記載しましたように、問題点を把握すること(これは、M&Aを実行するか否かの判断や減額交渉等に使う要素となります。)・契約書の表明保証条項等に反映させること等を目的に行います。しかしながら、DDの目的はこれに留まるものではありません。今回は、DDの応用編を考えて行きます。  応用編の第一は、問題点の把握というマイナスの発見ではなく、利点の把握というプラスの発見です。買い手側で売り手自身すら気が付いていないM&A対象会社の利点を把握しようというものです。  具体的には、多店舗展開している郊外型レストランチェーンを買収する場合320店舗あったとします。10店舗が赤字・10店舗が黒字とします。この場合、売り手側は、赤字も黒字も10店舗ずつとだけ考えています。しかし、郊外型レストランチェーンにとって多額の支出となる経費は、①食材原価・②人件費・③家賃です。①と②を足して、FLコスト等といいます。この内、①の食材原価を下げれば、味が悪くなり客離れを起こしかねません。②の人件費を減らせば、スタッフの確保が難しくなります。しかし、③の家賃を減らしても賃貸人との関係が若干悪化するだけであり、店舗やチェーンを毀損するものではありません。そこで、売り手は気が付いていないとしても、M&A後に家賃の引き下げ交渉をすれば、どの程度家賃減額ができるかを想定し、想定通りにいけば黒字店舗が12店舗に増え、残り8店舗の赤字幅も減少するという見込みまでDDで発見してしまうのです。これにより、やや価格が高い場合でもM&Aを実行できるとの判断になる場合もあります。こうしたプラスの発見という作業は売り手側に分からないように進めることになります。上記の家賃減額以外の例としては、「繰越損失を用いることによる税務的なメリットの把握」・「仕入先の統合によるコストダウン」「M&Aによる譲受後の一部転売による資金回収」・「外注業務の内製化によるコストダウン」等幅広いものがあります。かかる売り手すら把握していない対象会社の利点をM&A実務では「ポケット」等と俗称する場合があります。DDに慣れている弁護士や公認会計士ならポケットの一つや二つは見つけてくると思います。  応用編の第二は、アフターM&A戦略の構築に役立てることです。DDの過程で、対象会社の長所短所やオペーレーション方法を把握し、誰を送り込み・現在の経営陣をどのように処遇すべきか・どの従業員を重視すべきかといったM&A実行後の経営上のポイントを掴むということです。M&A実行後は、俗に「100日プラン」等といわれますように、実行後100日間でアフターM&A後の経営体制を固めてしまうことになります。そのために必要な情報もDDで得ておくというものです。 こうした第一及び第二のDDの応用目的に応じるには、DDの経験とノウハウが必要です。そのため、顧問弁護士や顧問会計士又は税理士が存在する会社でもM&Aについては慣れた弁護士・公認会計士・税理士を使うことが少なくないのです。
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