起業して経営者が初めに立ちはだかる大きな課題が、資金をどうやって工面するかでしょう。
この課題を克服するためには資金調達する必要があるのですが、起業したばかりでかつベンチャー企業となると、リスクも大きいため金融機関などは簡単に融資してくれません。また、公的機関による融資も制限があるため、簡単ではありません。
こうしたベンチャー企業が資金調達先として頼れる選択肢のひとつが、ベンチャーキャピタルです。この記事ではベンチャーキャピタルがどのように成り立っているのか、その仕組みやメリット・デメリットについて紹介します。
ベンチャーキャピタルの目的は?どうやって成り立っている?
ベンチャーキャピタルとは、ハイリターンを狙ったアグレッシブな投資を行う投資ファンドのことを言います。先ほども紹介した通り、ベンチャー企業はリスクが高いため、簡単に融資を受けることができません。しかし、資金調達することで今後さらに成長すると見込まれるベンチャー企業は世の中にたくさん存在します。
ベンチャーキャピタルはこのようなベンチャー企業に対して出資することで、そのリスクを負った分、イグジットした際に通常よりも多くのリターンを求めます。大規模な資金を運用しながら出資先を支援することを繰り返しているのがベンチャーキャピタルです。
ベンチャーキャピタルの仕組み
ベンチャーキャピタルはまず、投資事業有限責任組合(ファンド)を組織します。ファンドは金融機関や機関投資などの有限責任組合から出資を受けてベンチャー企業に投資します。出資を受けたベンチャー企業が、株式上場やM&Aにより出資した以上の資金を手に入れることで、ファンドは投資した分の資金を回収します。そして、回収した資金は出資した有限責任組合員に分配します。これがベンチャーキャピタルの仕組みです。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるために
次はベンチャーキャピタルから出資を受けるための方法について紹介します。
ベンチャーキャピタルの投資意思決定の基準
ベンチャーキャピタルは当然、すべてのベンチャー企業に投資するわけではなく、ベンチャーキャピタルが設けた審査基準をクリアしたベンチャー企業に対して投資を行います。
最終的な投資の意思決定は投資委員会と呼ばれる取締役会の決定に基づいて投資の可否が決められるのですが、その意思決定の方針や審査基準は各ベンチャーキャピタルによって異なります。そのため、審査を通るための事項について各ベンチャーキャピタルの案内書を確認したり、直接質問したりする必要があるでしょう。
ベンチャーキャピタルの投資意思決定のプロセス
次はベンチャーキャピタルが投資先を決定するまでのプロセスについて紹介します。
一般的には以下の4段階の過程を経て決定すると言われています。
①案件会議
②マネジメント・プレゼンテーション
③投資委員会
④会計および法務的デューデリジェンス
案件会議は、ベンチャーキャピタルの社内向けに行われ、ベンチャー企業に対する出資検討の可否が検討されます。
マネジメント・プレゼンテーションでは、ベンチャー企業の経営者が投資委員会に直接プレゼンテーションを行います。このプレゼンテーションでは投資委員会に自社の事業内容を印象付けることが最も重要であると言われています。
投資委員会で、ベンチャー企業の将来性、成長率、顧客獲得方法などについて精査されます。
会計および法務的デューデリジェンスを最後に行い、会計的および法的に問題がないかを確認します。
これら4段階を通過することでベンチャー企業はベンチャーキャピタルから出資を受けることができます。
ベンチャーキャピタルが好む企業の要素とは
マネジメント・プレゼンテーションや投資委員会を通過するためには、ベンチャーキャピタルが好む要素が必要です。どういうベンチャー企業を好むかは各ベンチャーキャピタルによって異なるため、対象とするベンチャーキャピタルの投資先企業や意思決定の仕方などの傾向を把握しておくと審査を有利に進められるでしょう。
しかし、ベンチャーキャピタルの情報を得るのは容易ではありません。出資を狙っているベンチャーキャピタルの傾向が掴めない場合、以下の3点を重視することをおすすめします。
- ベンチャー企業の経営者に明確なビジョンがあり、かつ経営者として経験が豊富など経営者としての資質があること
- 提供する製品やサービスに独自的な優位性があること
- 行っている事業が数年以内に急速に成長する市場であること
これらの要素がベンチャーキャピタルが共通して好む要素としてよく挙げられます。出資を受けやすくするために、上記の点を意識して事業の検討や、プレゼンテーションの準備を行いましょう。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるメリット
次はベンチャーキャピタルから出資を受けるメリットについて紹介します。
メリットはいくつかあるのですが、この記事では「①返済の義務がない」「②赤字でも出資を受けることができる」「③事業を急成長させられる」「④経営のコンサルティングを受けることができる」の4つについて紹介します。
返済義務がない
ベンチャー企業はベンチャーキャピタルからの出資分について返済の義務がありません。
通常の金融機関などからの融資の場合、融資された資金に対してその利息分も合わせて返済する義務があります。そのため、経営状態や返済の額次第では資金繰りの悪化など、経営に悪影響を与える可能性があります。
一方、ベンチャーキャピタルからの出資ですが、ベンチャーキャピタルは株式市場への上場後に得られた資金、もしくはM&Aにより得られた売却益など出資金以上のリターンを得ることが目的です。
そのため、金融機関からの融資とは異なり返済の義務はありません。出資された資金の返済義務がないということは、リスクの大きなベンチャー企業にとって大きなメリットであると考えられます。
赤字でも出資を受けることができる
ベンチャー企業が赤字でも、審査を通れば出資を受けられることが可能です。
通常、金融機関からの融資の場合、利息を合わせた融資資金を返済する義務があるため、融資する企業が赤字である場合、融資を受けることが厳しくなります。
一方、ベンチャーキャピタルからの出資の場合、出資資金に返済義務がないため、赤字や資金繰りが悪化していても、将来的な急成長が見込まれる場合、出資を受けることができます。実際に資金繰りに詰まっていたベンチャー企業に出資し、最悪の事態を回避したという事例もあります。
そのため、赤字のベンチャー企業でも将来高い確率で成長を見込めることや、独自性のある製品・サービスの提供ができることなどをベンチャーキャピタルにアピールすることができれば、出資を受けられる場合もあるということです。
事業を急成長させられる
独自性のある製品やサービスを提供することができると見込まれていたとしても、潤沢な資金がないために商品の生産が進まなかったり、営業活動に人員を割けないというケースが多いのが現状です。出資を受けることで、それらの問題を解消し、事業を急成長させることができると考えられます。
また、ベンチャーキャピタルの審査を通過し出資を受けることで、急成長する可能性が高いベンチャー企業であるという信用を得ることができます。この信用をもとにさらなる資金調達がしやすくなったり、金融機関などからも融資を受けやすくなります。
経営のコンサルティングを受けることができる
ベンチャーキャピタルは出資分を回収することが目的ではなく、上場後に得られる多額の資金もしくはM&Aによって得られる売却益からの資金回収が目的です。しかし、出資したが急成長せず、多額の資金回収ができないという可能性もあります。
これを回避するために、ベンチャーキャピタルは出資したベンチャー企業に対して経営のコンサルティングを行っています。特に専門性の高い事業に関しては積極的な経営コンサルティングを行い、成功確率を高めようとしています。
経営者の立場から見ても、経営コンサルティングを受けることで事業の成功確率を高めることができるだけでなく、経営者としての知識を増やしたり、経験値を高めることもできるでしょう。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるデメリット
ベンチャーキャピタルからの出資は経営者にとってメリットだけでなく、いくつかのデメリットもあります。
この記事では、「①必ず急成長しなければならない」「②経営の自由が少なくなる可能性があること」「③間接費用が掛かること」の3点について紹介します。
急成長がマスト
先ほども紹介した通り、ベンチャーキャピタルの目的は上場後の多額のリターン、もしくはM&Aによる売却後の資金の回収です。そのため、出資を受けるベンチャー企業は必ず急成長しなければいけません。
この要件があるために、ベンチャーキャピタルの審査は厳しいと言われています。また、ベンチャーキャピタルから出資を受けたとしても事業の急成長が見込めないとベンチャーキャピタルが判断した場合、早めに資金回収が行われる可能性があります。
つまり、出資を受けたベンチャー企業の経営者は必ず結果を出さないといけないというプレッシャーの中で経営を行っていかなければなりません。このことを理解した上でベンチャーキャピタルから出資を受けるようにしましょう。
経営の自由が少なくなる可能性がある
ベンチャーキャピタルは出資したベンチャー企業から資金を回収するために事業を成功させる必要があります。その成功確率を高め、必ず事業を成功させるために、経営コンサルタントを派遣したりして、経営者の意思とは異なる経営プランを提案することもあるでしょう。
外部から経営コンサルティングを受けることは、経営者にとって良い経験になり、事業の成功確率を高めることができるというメリットがあります。しかし、自分の思い通りにできない可能性があるというデメリットも理解しておく必要があります。
間接費用がかかる
出資を受けているベンチャー企業にとっての最初の目標は、ベンチャーキャピタルからの依存を脱却することであり、株式市場に上場することです。しかし、株式市場に上場すると上場するまでのコストや上場を維持するためのコストなど間接費用が掛かります。
早期に株式市場に上場してしまったことで資金繰りが悪化し、経営が悪化する場合もあります。そのため、ベンチャーキャピタルからの出資を、上場後の間接費用を賄うための資金にしないように注意が必要です。事業を軌道に乗せ、企業の体力がついてから株式市場への上場を検討するようにしましょう。
ベンチャーキャピタルと出会うには
ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、ベンチャーキャピタルに出会う必要があります。最後にベンチャーキャピタルに出会う方法について紹介します。
直接コンタクトを取る
1つ目の方法は直接コンタクトを取る方法です。
出資してもらいたいベンチャーキャピタルに連絡して直接コンタクトをとってみましょう。
ただし、事業計画書をもって飛び込みで行っても相手にされないと思われます。ビジネスプランコンテストで賞をとるなど、ベンチャー企業の経営者として目立つような行動を普段から意識して行うようにすると直接コンタクトが取れる可能性が高まります。
イベントやセミナーに参加する
2つ目の方法はイベントやセミナーに参加することです。
ベンチャーキャピタル主催のイベントやセミナー、もしくはベンチャー企業の経営者が多く参加するイベントやセミナーに参加して、できるだけ多くの人に顔と名前を覚えてもらうようにしましょう。こうすることでベンチャーキャピタルの出資についての審査が通りやすくなると考えられます。
知人や金融機関に紹介してもらう
3つ目の方法は知人や金融機関に紹介してもらう方法です。
第三者からの推薦という形で紹介してもらえるので、上記2つの方法に比べて審査に通る確率は高くなります。ただし、第三者の評価が落ちるような言動をすると今後出資してもらえる確率は低くなりますし、紹介してもらった人との関係が悪くなる可能性があります。言動には十分注意しましょう。
マッチングサービスを利用する
4つ目の方法はマッチングサービスを利用することです。
これはベンチャー企業と出資者となる大手・中堅企業をつなぐマッチングサービスです。将来有望なベンチャー企業と積極投資企業を繋ぐマッチングサービスの活用も有効でしょう。
例えば、Batonz Ventures(バトンズベンチャーズ)では、ベンチャー企業と投資家の両者の要望に沿ったマッチングの機会を提供し、Web上でコミュニケーションを行うことが可能です。また、マッチングコーディネーターが出資のための経営サポートなど、全面的な支援を行います。
ベンチャーキャピタルから出資してもらうために
ベンチャーキャピタルからの出資のメリットとポイントについて紹介してきました。ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、以下3つの段階を突破しなければいけません。
- 相性の良いベンチャーキャピタルに出会うこと
- ベンチャーキャピタルに顔と名前を覚えてもらい、自社の製品・サービスに独自性があることを認識してもらうこと
- 行う事業が数年以内に急成長する見込みがあるとベンチャーキャピタルに認めてもらうこと
たとえ、ベンチャーキャピタルから出資を受けたとしても、高いプレッシャーの中で事業を成功に導かなければならないため、強い意志と戦略をもって、資金調達の手段を検討していきましょう。
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