1941年に創業以降、80年にわたって機械工具の専門卸商社として経営を続けてきた「吉岡機工株式会社」が、同じく機械工具の販売を行う「株式会社利工堂」を引き継ぎされました。戦前から続く歴史ある会社が、これからの時代をどう見据えて、経営に取り組むのか。M&A実施の背景や今後の展望について、吉岡機工株式会社の代表取締役社長である吉岡様にお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 |
株式会社利工堂 |
業種 |
製造業(機械工具・販売) |
拠点 |
東京都 |
譲渡理由 |
後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 |
吉岡機工株式会社 |
業種 |
製造業(機械工具・販売) |
拠点 |
広島県 |
譲受理由 |
新規エリア参入・取引先拡大 |
自動車産業を中心に、戦前から続く地域密着の老舗企業
吉岡機工株式会社は、機械工具の専門卸商社として1941年に吉岡様のおじい様が個人で始められました。広島県はマツダ株式会社という大手自動車メーカーの拠点であることもあり、売り上げの8割が自動車関連の取引先。自動車製造に必要なツールの販売を主軸として、これまで事業を展開してきました。
30年以上続く会社は1%にも満たないと言われる中で、戦前から経営を続けてこられる企業は多くありません。今なお事業拡大を続ける老舗企業の社長として、経営するうえで大切にされていることについてお伺いすると、「商売をしている方なら当たり前の考えかもしれませんが、“近江商人の三方よし”の考え方は大事にしています。自分たちだけが良ければいい、というのは短期的には成り立つこともあるかもしれませんが、継続しようと思うと無理だと思っています。お客様が喜んでくれて、周りに“良い仕事してるよね、あの会社”と言ってもらえるような会社であるためにどうすればよいか、を考えて業務に取り組むことが重要だと思っています。」とのこと。
そんな吉岡様に、歴史ある会社ならではの難しさについてお伺いすると、「長く続く企業というのは、良くも悪くも過去の歴史に引っ張られるという部分はあります。引き継ぐものは、何も良い部分だけではありませんので。お客様から“昔お父さんとこういうことがあって大変だったんよ”という話をもらったり、財務面で傷んでいる部分があったり。そういった、これまでの経営を改善するところから始める必要があるという面は、2代目、3代目ならではかなと思います。」とのこと。一方で、「ただ、“今月の売り上げは大丈夫か?”といったような不安をもつ必要がないくらい、リソースの基盤ができている状態で経営をスタートできるという面は、社歴のある会社の強みだなと思っています。」とも。
自然災害が与えたインパクト。経営を見直すひとつのきっかけに
自動車関連の売り上げが8割を占める吉岡機工株式会社。地域密着の地場商社として安定した経営ができているものの、吉岡様はひとつの産業に依存している点について、懸念も感じておられました。
「数年前、広島県で洪水があった際に、自動車製造工場がストップしてしまったことがありました。前々から考えていたことではありましたが、売り上げの8割を自動車関連の取引先が占める中で、そこの稼働が落ちてしまったことはインパクトも大きく、もう少し多角的な経営をしていかなくてはいけないと実感しました。」
そんな中で吉岡様がまず取り組み始めたのは、新規の顧客獲得。ただ、産業自体が成熟してしまっている工業では、すでに長年取引している企業先がいる場合が多く、その中で新たに取引先を獲得していくことは簡単ではありませんでした。
「取引がただの価格競争になってしまうと、誰も幸せにならないじゃないですか。だからこそ、安さではなく私たちならではの価値提供ができるということを軸に、市場を拡大していきたいと思っていました。ただ、新たな顧客を作っていくことはどうしても時間を要します。そういった背景もあり、選択肢のひとつとしてM&Aを考えるようになりました。」
時代の変化もあり、取引先を多角化して安定した経営基盤を
火力発電が環境に与える影響について問題視される昨今、自動車のエンジンやトランスミッション関連の仕事を多く受け持つ吉岡機工株式会社は、エレクトロニクス関連の取引を行い、事業割合の変化を模索していました。
「2021年の5月に、エレクトロニクス関連の商社に仲間に入ってもらいました。社会全体でみたときに、今後の仕事の割合として、エレクトロニクス関係が増え、金属加工が減っていくことは確実です。地域密着でやっている以上、自動車関連から離れることは考えていませんが、需要が増える産業に対してリーチできるリソースを増やしていきたい、という考えがありました。」
自社が培ってきたものと社会の潮流、という両面をみたときに、グループとして解決していくことが現実的だと考えた吉岡様は、同業のエリア拡大やエレクトロニクス関連の事業拡大を目的として、M&Aを検討し始めました。
バトンズは、日経ビジネスやテレビなどを通じて数年前から認識があったという吉岡様。情報収集という名目で利用していたところから、同業もしくは近しい業種に絞って、本格的に事業を探し始めます。
「自動車関連の同業だとしても、エリアが違えば取引先も異なります。そういった意味で、同じようなものを取り扱っていても候補としていましたし、近しい業種であれば、販売の多角化という面でプラスになるので、少し幅をもって見ていました。」と語る吉岡様。交渉に進まれた株式会社利工堂は、機械工具を扱う同業の会社。偶然にも、仕入れ額の7割が自社とも取引がある会社で、調達のメリットがあることで、シナジー効果も得られるのではないかという部分がプラスに働いたそうです。また、小林様と実際にお会いして、人として信頼できると感じたとのこと。加えて、財務面がきちんとしており、自走できる状態であったことは、M&Aを進めるうえで大きな後押しとなりました。
そんな吉岡様に、交渉場面で気を使われた点についてお伺いすると、「譲り受けしてもらう立場なので、M&Aをする際には経営者の方に敬意を払うことは心がけています。事業規模でみると自分たちより小さな会社でも、これまで培ってこられたものや、お客様との信頼関係があります。そういった部分を理解し、敬意をもって接することが大切だと思います。」とお話いただきました。
また今回、譲渡先様のM&Aアドバイザーに、バトンズの辻本がサポーターとして入ったことについて、吉岡様は「非常にすばらしいと思いました。ここ最近色んなM&Aプラットフォームが出てきている中で、なかなか担当者と話が進まないこともあったんですが、辻本さんは受け答えが速く、コミュニケーションがスムーズだったことは好印象でした。M&Aセンターのグループ会社ということもあって、流石だなと。恐らく事前のヒアリングもしっかりしていらっしゃるんでしょうが、担当者の理解度が高く、安心感をもって進めることができました。」とお話いただきました。
「三方よし」のM&Aで、積極的な事業拡大を
M&Aを考えるようになったことで、吉岡様自身のM&Aに対する捉え方も変化があったそう。「日本企業のほとんどが中小企業であり、後継者が不足している中で、M&Aは社会課題の解決にもつながります。製造業の観点からみても、ひとつの会社が潰れることで、その会社と取引があった会社のサプライチェーンが切れてしまうということは、日本のモノづくりにとってもマイナスです。そんな中で、小さいながらでも一定の売り上げをあげてこられた私たちが、M&Aによって小さな企業を引き継ぐことは、社会的にも意義があることであると、M&Aに取り組み始めて感じるようになりました。」とのこと。
また、「前提として、中小企業のM&Aは、ほぼほぼ友好的M&Aだと思います。過去のお客様も、M&Aに対して喜んでくれていますし、“三方よし”という言葉に綺麗に当てはまるのが中小企業のM&Aだと思っているので、今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。」とも。
そんな吉岡様に、今後のビジョンについて最後にお伺いすると、「まずはお客様が儲かってくれるようなサプライヤーになっていく必要があると思います。我々のお客様は、8割がマツダ様とその関連の会社ですが、広島は、他地域と比べて1社1社の規模が小さいと思っています。お客様がグローバル競争で闘っている中では、我々サプライヤーもしっかりと力をつけていく必要があります。地元で殴り合っている時代でもないので、地場のためにも、規模拡大を図っていきたいと思います。そして、それを補完する意味合いで、県外の同業者や隣接業者をグループ化していくことで、会社全体としてバランスをとっていきたいです。」とお話いただきました。
常にお客様のことを考えながら、自社の経営力をつけていくことを目指す吉岡様。
吉岡機工株式会社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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