M&Aとは、企業の合併と買収という意味があります。Mは「Merger(合併)」、Aは「Acquisitions(買収)」の略です。簡単には、企業の売買・買収と、別々の企業同士が合併するための手法のことを言います。2000年を皮切りにM&Aの手法が多く知れ渡り、現在はM&Aの仲介会社も増えてきました。
企業がM&Aで自社を売りに出す動機の1つとして、事業継承の問題が挙げられます。事業継承は多くの企業で課題となっており、2020年に帝国データバンクが行った調査では、事業継承を「経営上の問題」と認識している企業が67%にのぼることが分かっています。
そこで今回は、多くの経営者にとっての関心ごとであるM&Aについて、メリットやデメリットを、買い手・売り手それぞれの目線から整理します。また、実際の成功事例もご紹介します。
M&Aのメリット
企業がM&Aを行う理由はさまざまです。買い手にとっては事業の拡大を加速する機会になり、売り手にとっても持っている課題を解決する手段になります。それぞれにとってどのようなメリットがあるのかを詳しくご紹介します。
買い手にとってのメリット
- 取り引き先とのネットワークや設備の拡大
持続的な成長を続けることは企業にとって宿命です。しかし国内市場が縮小する中で、同じことを続けて生き残っていくのは難しい時代となりました。そんな時代だからこそ、M&Aを活用する手段が有効な時があります。例えば、顧客との関係がゼロの状態から取引先に交渉し、開拓するのは容易なことではありません。
しかし、M&Aを実施すれば、売り手企業がこれまで行なっていた取引先をそのまま取り込むことができます。このことで交渉にかかる時間も削減でき、単純に取引先の数が増えるため事業拡大に繋がります。事業の規模が大きくなれば自ずと取引量も多くなり、仕入れコストを大幅に下げられるようになります。売り手の設備を活用したり、削減したコストを投資に充てることで設備の拡大もできるようになります。
さらに、グローバル化が進む中、外国市場に参入する企業も増えています。上記と同様、海外市場でもビジネスの基盤を0から作り上げるとなると、膨大なコストがかかってしまいます。そこで海外企業を買収することで、時間的コストをかけずに海外での事業を始めることができます。ライバル企業を差し置いて一気にグローバルな土俵で戦うことができるので、今後も日本企業が外国企業を買うという事例は増えていくものと思われます。
- 競合企業を取り込むことができる
業界が一定の水準まで成熟すると、競合企業とのシェアの取り合いになることがあります。その段階では、シェアを獲得するために商品やサービスの質を上げながらも、同時に値下げをしなくてはならないケースがほとんどです。業界全体が徐々に疲弊していく状況です。
このような場合、競合企業を買収することで業界内の立ち位置が揺るぎないものになり、価格競争からの解放を実現することができます。
- 事業の多角化
市場の変化が早い中で、事業の多角化を図ることも重要な戦略です。一から新規事業に参入するにはそれなりの費用や時間がかかりますが、他社が積み上げてきた技術を継承することで、買い手側は更なる事業の拡大に繋げることができます。このようにして、スピーディーに事業を多角化させるにもM&Aが有効です。
- ノウハウ、技術獲得
自社にないノウハウや技術を取り入れる目的でM&Aを行う企業もあります。これによって、自社の不得意な部分を強化することができます。例えば、商品開発が弱みであるA社が、研究所を持つB社に対しM&Aを行った場合。B社の研究所機能を活かした商品開発が、A社の中でできるようになります。このようにM&Aを使って弱みを解消し、より強固な企業に成長することができます。
- コストや時間の削減
顧客やノウハウの獲得、従業員の育成など、円滑に事業を運営するためには多額の資金が必要となるうえ、相当な時間や労力がかかるものです。企業を買収するとなると当然多額の費用がかかりますが、その半面、すでにサービスが完成されている企業を選んで買えば、事業や従業員を育てるのに本来かかるはずの時間や労力を削減することができるのです。
- 節税対策
節税対策としてM&Aを検討するというケースも考えられます。税務上の赤字を繰り越した「繰越欠損金」を抱えている企業を買収することで、節税の効果を期待するというものです。繰越欠損金は翌年度の利益と相殺することができるので、課税所得額を減らすことができ節税につながるのです。
ただし一定の条件を満たすことが必要なので、節税狙いの買収の場合は、専門家に依頼し、条件に適合するかを事前に確認をしてもらうのが望ましいでしょう。また、繰越欠損金を抱えている企業を買うということそのもののリスクについても考える必要があります。欠損金を抱える企業には、事業が理想的に回っていない何らかの理由があると考えるのが自然であるためです。節税対策として買収しても、思うように事業を立て直せずむしろ大きな損失が発生するという可能性も考えられるので注意が必要です。
売り手にとってのメリット
M&Aは買い手・売り手の双方にメリットがある時に成り立ちます。ここでは売り手にとってどのようなメリットがあるかご紹介します。
- 後継者問題の解決
中小企業では後継者不足が謳われています。相応しい後継者が現れなければ、コツコツ積み上げてきた独自の技術やノウハウを継承できなくなってしまいます。せっかく積み上げてきた会社のリソースを失わず、従業員の雇用を守るためには後継者を見つける必要があります。少子化社会によって身内への承継が難しくなっており、また社内の人材から適任の後継者が見つかるとも限りません。このように後継者問題に悩んでいる場合には、M&Aを活用した事業承継が有効です。
- 廃業コストがかからない
後継者が見つからない場合、廃業の検討も視野に入れなければなりません。しかしこれには大きな負担が伴います。現在働いている従業員のことを考えると心情的に苦しい思いをしますし、取引先にも迷惑がかかってしまいます。なにより、廃業コストは事業を続けるよりも資金がかかります。自社の技術を託せる企業に任せることで、廃業コストを削減することができます。
- 創業者利益
M&Aによって事業を売却することにより、創業者利益を確定し現金を手に入れることができます。創業者が高齢である場合は、M&Aによって事業を売却することで潤沢な老後資金を獲得し、悠々自適に暮らすことも叶うでしょう。家族と過ごすなどの余暇を、十分な資金のもとで楽しむことができる「ハッピーリタイア」を実現することができるのです。
- 従業員を守ることができる
財務状況や後継者問題によって会社の存続が難しいという場合、そのまま経営を途絶え頓挫させてしまっては多くの従業員が路頭に迷うことになりかねません。
家族同様に大切に思っている従業員たちを守るという意味で、M&Aに踏み切る企業も多くあります。
M&Aのデメリット
これまでM&Aのメリットをお伝えしてきましたが、メリットだけでなく、いくつかあるデメリットも把握しておかなければいけません。両方を知った上で、適切な判断を行いましょう。
買い手にとってのデメリット
- 企業文化が融合しない
企業それぞれには社風があり、待遇面も完全に一致することはありません。M&Aによって合併や買収されることで、従業員は新しい社風や待遇に慣れるまで時間がかかったり、馴染めずに反発が起きる可能性もあります。
そのため、元々は健全に運営できていたはずの企業でも、買収された側と買い手側で派閥ができてしまったり、険悪な雰囲気になってしまったりというリスクが考えられます。職場の環境が悪化してしまうと、従業員のモチベーションが大きく低下してしまうものです。
そうならないためにも、売り手側と買い手側の従業員の双方から信頼が厚く、歓迎されるリーダーを置くことが重要でしょう。
- 人材流出
企業文化の違いにより、これまでの労働条件や立場が変わってしまうこともあります。これに不満を覚えた優秀な人材が流出する可能性があります。そのため、これまでエースとして活躍していた優秀な人材には、事前に買収後の待遇や将来的なポジションなどについて話し合いの場を設けるなど、ソフト面でのフォローが必要です。
- 債務で揉めるケースも
買収が決まったあとに新たな債務が発覚し、揉めることもあります。例えば、近年ではシャープ株式会社がホンハイ精密工業を買収しようした時に「偶発債務」の行方が問題となりました。そのため、M&Aを行う場合には事前に買収予定の企業の財務状況を把握しておかなければなりません。このように、買収予定の企業の財務状況を把握するうえで行う審査のことを「デューデリジェンス」と言います。デューデリジェンスについては以下の記事に詳しく記載しておりますので、詳しい解説はこちらをご覧ください。
- 「のれん代」の減損
M&Aに関する報道の中で、「のれん代」という言葉を耳にすることがあります。「のれん代」とは、その企業が培ってきた信用やブランド力、顧客との関係を表す言葉です。会計上の専門用語として使われている言葉で、端的には買収額と純資産額の差分を指します。知名度やノウハウなどによって総資産以外にも価値があるとみなされる場合に金額が純資産額より高くなるのです。
身近なところで、株式会社東芝の例を挙げます。東芝は、2015年の11月に、子会社のウエスチングハウス社による、数千億もの「のれん」の減損が報じられました。ウエスチングハウス社はアメリカで原子力事業を行っており、買収当時は期待度がかなり高かったのですが、東日本大震災やリーマン・ショックなどが影響し原発事業は軌道に乗りませんでした。その結果、東芝の巨額損失へと繋がりました。
M&Aによって、資産規模に対して多額の「のれん」を抱えている企業も増えています。この事例のように「のれん」による大きな損失が発生する可能性もあることに留意しましょう。
売り手にとってのデメリット
- 経営者としての肩書きがなくなる
M&Aで会社を売るとなった場合、その会社の経営者は経営から退くことになるケースもよくあります。そのような場合、「社長」などと親しまれてきた自分の肩書きを手放すことに喪失感を覚えるかも知れません。
ただし、売却後の数年間は、事業の安定のために経営者として継続して在籍するということもありますし、買い手側の経営判断次第では、売り手側の経営者のポストを残したまま事業を譲り渡せるケースもあります。ケースバイケースですので、要望があれば交渉条件として提示するようにしましょう。
- 高い価格では売れない
M &Aの市場において、一番大事な点は買収先の企業を買収したことにより「将来的にどれだけの収益を見込めるか」です。現在は順調な事業でも、今後の将来性を考えた時に高値で売却するのが難しい場合もあり、売り手が想定していた価格では売れないケースもあります。売り手側も売却を考えているのであれば、今後の成長に繋がる提案や設備投資を進めるのも一つの手です。また、そもそも買い手がつかないというケースも当然あります。
売り手側は、自社の売却が最良の条件で成功するように今後の成長に繋がる提案や設備投資を進めることが重要です。組織として今後も売上を作れる状況にあるのか、経営者が変わってもある程度の水準まで機能できるようになっているのかなど、買い手目線に立って「売れる会社」であることを示していく必要があるのです。
- 従業員の反発
買収や合併が起きた場合、売り手側は買い手側の条件に従うのが一般的です。そのため、これまでの労働条件が変わることで、従業員が反発したり、社内に派閥ができ争いが起きたりすることも少なくありません。M&Aを行う場合に従業員の退職や反発が起きないよう、統合プロセスには気を配る必要があります。
- 取引先との関係悪化
買収によって担当者が変わった場合、これまでの関係に溝が入り取引先の機嫌を損ねてしまい契約を打ち切られてしまうケースも少なくありません。これからM&Aを行う場合には事前に取引先とも今後のことをきちんと話し合い、会社が合併や統合されたあとも円滑に取引が行えるようにしておくことが必須です。
ここまで、M&Aのメリットとデメリットをお伝えしてきました。最後に、M&Aをうまく成功させた事例をご紹介します。
M&Aの成功事例
【買い手】メイトク株式会社
メイトク株式会社は、愛知県で製造業を営む企業です。パイプ・プレス等の溶接を行う金属事業と、ワイヤーハーネスを製造する電気事業部の2つの事業を中心としています。
2019年5月、メイトクは類似事業を営む東京の企業、株式会社シー・エス・シーを買収しました。メイトクは、かねてより東京との物理的な距離に課題意識を持っており、事業を伸ばすためには関東進出が不可欠であると考えていたからです。
M&Aの交渉中は、互いの会社を訪問し面談を行いました。その中で、メイトクの経営者が、シー・エス・シーの社長の実直さに信頼を寄せ、契約締結に至りました。買収後は、シー・エス・シーの社長に顧問として業務に当たってもらっているとのことです。
M&Aによって関東への商圏拡大に向けて大きく前進し、企業としての強みを増強。まずは兄弟会社としてスタートを切りましたが、ゆくゆくは完全合併も視野に入れているそうです。
【売り手】かつお茶屋
2020年4月に熊本でオープンした「かつお茶屋」。鹿児島県指宿のかつお節にこだわった出汁茶漬け店として、独自のメニューでファンの獲得をした飲食店です。
コロナ禍でもテイクアウトのお弁当の販売で順調に売り上げを伸ばすなど、独自の強みを活かして、着実な経営ができていました。しかし、運営者が他の事業も運営している兼ね合いで、「かつお茶屋」はオープンから10か月の2021年2月、事業譲渡をする決断を下しました。
売りに出したところ早いタイミングで買い手の候補があがり、すぐにお店の見学まで進みました。その買い手は、いくつかの事業を運営している企業だったので、大きな不安もなく順調に交渉は進み、締結に至りました。
在籍していた従業員に事業譲渡のことを伝えるのは締結後となりましたが、経営者が変わっても働き続けたいという前向きな申し出があったそうです。
M&Aのメリットをしっかり把握して、有効的に活用しよう
M&Aを行うことによって生じるメリット・デメリットを売り手と買い手側の両面から解説し、実際の成功事例もご紹介しました。
買い手側には「今後の事業拡大の将来性」や「経営拡大までの時間や労力を大幅にカットできる」というメリット。そして売り手側には「後継者問題の解決」や「今後の資金確保」などのメリットがあります。
その反面、双方にデメリットもあります。リスクもあることをあらかじめ把握したうえで適切な企業とM&Aを行うことが双方にとっても重要なことです。そのため、M&Aの仲介会社を活用し、プロのアドバイスを受けた上で慎重に検討することを推奨します。
こういった仲介会社はM&Aの成功例やこれまでの経験に基づいたアドバイスをしてくれます。是非、活用を検討してみてはいかがでしょうか?
こんなお悩みありませんか?
つなぐマッチングプラットフォームです。
累計5,000件以上の売買を成立させています。
またM&Aを進めるためのノウハウ共有や
マッチングのための様々なサポートを
行わせていただいておりますので、
まずはお気軽にご相談ください。
編集部ピックアップ
- M&Aとは?流れや注意点、スキームなどを専門家がわかりやすく解説
- 事業譲渡とは?メリット・手続き・税金などについて専門家が解説
- 中小M&Aガイドラインとは? 概要や目的を詳しく解説
- 企業買収とは?M&Aとの違いは何?メリットや手続きの流れをわかりやすく解説
- 会社売却とは?M&Aのポイントや成功事例、IPOとの違いも解説
- 【完全攻略】事業承継とは?
- スモールM&AとマイクロM&Aとは?両者の違いとメリット・デメリットを解説
- 合併とは?会社合併の種類やメリットデメリット・手続きの流れ・必要書類を解説
- 後継者のいない会社を買うことで得られる多くの利点とは?
- カフェって実際のところ儲かるの?カフェ経営の魅力と開業方法
その他のオススメ記事
-
2024年12月11日
人の命を守るバックミラーの製造。父から受け継いだ誇りある仕事を、熱意ある会社へ事業承継
大阪府を拠点にアルミミラーを中心とした製造・加工業を営む「株式会社尾崎鏡工業所」は、2024年9月、愛知県でガラス製品の製造加工等を手掛ける「...
-
2024年09月17日
トラック・運送業のM&A動向 | メリットや事例について解説【2024年版】
運送業界は、 M&Aの需要が高まっている業界のひとつです。その背景には、後継者不足や2024年問題などさまざまな理由があり、事業規模の大小問...
-
2024年09月05日
未来への想いを共有できる会社とM&Aで手を組みたい。バディネットは、すべてのモノが繋がる社会を支えるインフラパートナーへ
2012年に電気・電気通信工事業界で通信建設TECH企業として創業したバディネット。2024年現在、5社の買収に成功して業容を拡大させています。今回は...