惜しまれながら休業した茨城の蕎麦屋、事業承継で再出発
2026年10月13日
2026年10月13日
茨城県水戸市で約30年にわたり地域に愛されてきた手打ちそばのお店「与三郎庵」。自家栽培の常陸秋そばを使った「十割蕎麦」や季節限定の「けんちんそば」を看板メニューとして営業してきましたが、年齢に伴う気力と体力の衰えを理由に、2025年12月に一時休業。その後、創業者の森田様は「お客様のためにお店を残したい」という想いから、バトンズを通じて事業承継を実施しました。譲渡を決断した森田様に、引継ぎへの想いや譲渡先検討の経緯についてお話を伺いました。
| 譲渡企業 | |
|---|---|
| 社名 | 与三郎庵 |
| 業種 | 飲食店(そば) |
| 拠点 | 茨城県 |
| 譲渡理由 | 後継者不在 |


| 譲受企業 | |
|---|---|
| 社名 | 一般社団法人Arrow Step |
| 業種 | 建設・土木業、福祉業等 |
| 拠点 | 茨城県 |
| 譲受理由 | 新規事業参入 |

—— 蕎麦屋を始められたきっかけを教えてください。
「与三郎庵」を始めたのは1998年、私が59歳のときです。料理の経験はなかったため、まずは1年間、親族の蕎麦屋へ通わせてもらい、蕎麦打ちの修行を重ねました。開業にあたっては周囲から猛反対されましたが、どうしても自分の手でお店をやりたいという情熱が勝っていたのです。
最初は私と妻の2人と、近所の方々にも手伝ってもらいながらお店を運営しました。運営しながら徐々に形になっていき、数年後には蕎麦栽培を開始。提供する蕎麦の約8割が自家製の「常陸秋そば」を使い、天ぷらに使う野菜も自家製や近隣農家から仕入れた新鮮な地場産野菜を使うといった「地産地消」にこだわってきました。
—— 経営の中でこだわっていたことはありますか?
開業時からセルフサービスで自由に飲んでいただける無料のホットコーヒーを提供するなど、人が集まる場所としての工夫をしていました。
商品を高く売るよりも、まずは多くのお客様に来ていただくことが大切です。そして、一度来てくださったお客様を逃さないのは、料理の味だけでなく「おもてなしの心」や「丁寧な接客サービス」というのが、私の商売の信条です。
「とにかくお客様が足を運んでくだされば、利益は後からついてくる」という方針のもと、広告宣伝にはほとんどお金をかけず、日々のコミュニケーションを通じて信頼関係を築いてきました。
—— これまでお店を運営する中でとくに大変だったことは何でしたか?
実はこのお店は、一度火災で全焼したことがあります。創業から10年目の2007年、私が70歳を迎えようとしていた頃でした。このままお店を畳むことも考えましたが、常連のお客様から温かい応援の声をいただき、お店を立て直す決意をしました。
期間が空くと私の気力ももたないと感じていたので、建築業者さんに急ぎで対応してもらい、約2ヶ月で復旧。再開後はお席を待つお客様が外に溢れるほどの大繁盛となり、私はその後も厨房に立ち続けました。

—— 事業承継を本格的に考え始めたきっかけを教えてください。
一番の理由は、陰ながらお店を支えてくれていた妻が亡くなったことです。また、お店がどれほど繁盛していてもずっとは続けられないので、最後にはどなたかに店舗を任せて継続してもらいたいと10年ほど前から考えていました。自分が心血を注いで築いた場所ですから、自分の代で終わらせるのはもったいないと思っていました。
そこで事業承継・引継ぎ支援センターへ相談しました。その後、支援センターから「いばらき未来マッチング※」を提案いただきました。自分だけで事業承継の交渉や契約を進めるのは難しいですから、信頼できる第三者機関が間に入ってサポートしてくださったのは、本当に心強かったです。
—— 事業承継に向けて一時休業をされた際、お客様の反応はいかがでしたか?
休業が近づくにつれて、多くのお客様が連日並んでくださいました。「本当にやめてしまうのか」「何とか再開してほしい」との言葉もたくさんいただき、涙が出るほど嬉しかったです。これほど愛していただいたお店を廃業という形で終わらせてしまうのは、あまりにももったいないと強く感じました。
—— 今回、「いばらき未来マッチング」に掲載して後継者を募集されましたが、どのくらいの問い合わせがありましたか?
公募を始めてから、15〜16件ほど問い合わせをいただきました。譲渡先の選定では、当店の規模で営業できるかどうかを見ていました。当店は敷地が約500坪、店内は50〜60名が入り、週末には1日100名以上のお客様が来られます。少人数での切り盛りは不可能なので、この規模の営業ができる人材がいることが重要なポイントでした。
—— 最終的に、Arrow Step様に決められた理由を教えてください。
最終的にご縁があったArrow Step様は、最初の面談から非常に誠実でした。そしてM&Aの最終契約を結んだ調印式で、代表者の方とがっちりと握手を交わしたときに「この人であれば、私のすべてを任せられる」と直感的に確信しました。
Arrow Step様は、これまで経験されてきた苦労話や想いなども本気で語ってくださいました。お互いが疑うことなく本気で向き合えたからこそ、素晴らしい信頼関係が生まれたのだと思います。良い引継ぎ相手に出会えて、今では心から安堵しています。
—— お店の「味」はどのように引き継がれるのでしょうか?
Arrow Step様側から「引退後も森田さんが作った蕎麦の実をお店で買い取らせてほしい」という非常にありがたいご提案をいただきました。
私はお店の営業からは退きますが、蕎麦の栽培は今後も続けていきます。私が丹精込めて育てた「常陸秋そば」をお店で使ってもらうことで、これまでと同じ品質のお蕎麦を提供できます。
そして、私が責任を持って蕎麦打ちの技術や出汁の取り方を指導していきます。「休業前と味が変わった」と思われないよう、同じ材料と製法をしっかりと引き継いでもらう予定です。

写真)右から3番目:譲渡側 森田様、4番目:譲受側 手塚社長、5番目:譲受側 髙﨑専務
—— お店を引き継ぐにあたり、どのようなアドバイスをされていますか?
当店は細かいものまで含めると60種類以上のメニューを提供していました。しかし、最初からそのすべてをこなすのは難しいです。そのため、開店当初は人気メニューを厳選してスタートし、オペレーションをシンプルにしていただくようアドバイスしています。
まずはお店を回すことに集中し、慣れてきてからお客様の要望に応じて少しずつメニューを増やしていけば良いと思います。無理のないスタートを切ることが、安定した経営の第一歩です。
—— 地域貢献活動であるチャリティーイベントも引き継がれるそうですね。
これまでに水戸市と城里町で計24回のチャリティー活動を実施してきました。もりそばや当店の名物「けんちんそば」を1食500円で提供し、売上金を社会福祉協議会に寄付するという取り組みです。毎年地元メディアにも取り上げられる名物行事となっており、お店の宣伝やファンづくりにも繋がっていました。
Arrow Step様にこのお話をしたところ、この取り組みも継続していただけると言っていただきました。地域との絆をそのまま大切にしてくれるその姿勢に、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
—— 最後に、事業承継に悩む全国の経営者へメッセージをお願いします。
事業承継を進めるにあたって、「本当に上手くできるだろうか」と不安を感じるのは当然です。しかし、自分一人で抱え込む必要は全くありません。事業承継・引継ぎ支援センターやバトンズのようなプロの第三者機関に相談し、信頼して任せることが大切です。
そして何より、ご自身が心血を注いで築き上げてきたお店を、自分の代で終わりにしてしまうのは本当にもったいないことです。世の中には、皆さんが培ってきた味やお店を引き継ぎたいと思っている後継者が必ずいると思います。
一歩を踏み出すのは勇気がいりますが、待ってくれているお客様や地域のためにも、ぜひ「事業承継」という選択肢に目を向けてみてください。
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